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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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ユルテと宗教

 大聖堂を出てからずっと、ユルテが不満気な顔をしていた。

 だいたい理由がわかるので、あえて聞いたりはしない。


 官府にむけて、黙々と足早に歩く。

 だが人通りが少なくなったところで、ユルテが立ち止まった。


「もしかして、姫様のかわりに領地を治めるつもりですか? すぐに戦争になるかもしれないというのに」


「むこうの世界に戻る方法がないからには、仕方ないじゃろ」


 逃げ出すという選択肢を、あえて無視して返事をしてみた。

 ユルテは一つため息をついてから、オレの肩にふれた。


「領地を捨てて逃げましょう。ここはあなたとは、何の関係もない世界なんですから。すでに私の配下の者に話を通してあるので、何も心配はいりませんよ」


「配下の者?」


「これでも私は、小さいながらも領地をもつ貴族なんです。もっとも、何百年か代官に任せきりなので、どうなっているか不安ですけど」


 そう言ってユルテは笑ったが、言うほど不安をもってはいないようだ。

 なにか自信を感じる。家来と連絡も取れているようだし、確かなつながりがあるのだろう。


 ……ここに残る場合も、彼女の領地からの援助を期待できないだろうか。

 そうしてもらえれば、ありがたいのだが。


「ほう。その領地はどのあたりにあるんじゃ?」


 じゃっかんの下心をこめたオレの質問に、ユルテは天を指差した。


「空に浮かぶ島に。お望みなら、明日にでも天馬の馬車でお連れしますよ?」


 浮遊都市!

 ちょっと惹かれるものがあるな。いつか行ってみたい。

 けれど、それは今じゃない。


「面白そうじゃが、いまは領地経営に専念するつもりじゃ」


「どうして無用の苦労を背負い込もうとするのですか? もしも王様ごっこがしたいのなら、私の領地を差し上げてもかまいませんよ。あの島なら安全ですから」


 ……王様ごっこか。

 耳が痛いな。経験もない若造がよけいなことをしても、事態を悪化させるだけかもしれない。


 それでもオレは、なにかせずにいられない。

 あの人たちの、縋るような目を見てしまったからには。


「ユルテは教会でなにも感じなかったのか? オ、いや、わらわはあやつらを見捨てたくないのじゃ」


「ルオフィキシラル教徒ですか。私は逆です。あのような者たちは嫌いです」


 強い口調で断言されて驚いた。

 見た目が天使のユルテが、宗教を否定するというのも奇妙なものだ。

 愛する姫様に、ちょっかいをかける存在として嫌っているのだろうか?


「私も故郷では神の一人として崇められていました。長く留守にしているので今はどうかわかりませんけど。ですが崇拝されたからといって、その者たちを愛してやらなければいけないのですか。勝手な想いを、都合の良い願いを寄せる者達を?」


「……。」


「だいたい、神にすがる暇があれば、自分でなんとかすればよいのです。自らあがいてそれでも駄目なら、ただ死ねばいい」


 オレも無宗教者ではあるけれど、ここまでは言い切れないな。

 正月のお参りでお願いもするし、辛い時に神頼みをすることもある。

 ユルテの意見は、強者ならではのものだと感じた。


「ふふ、それに愛してくれた人すべてを愛さなければならないなら、私など身が持ちませんよ? なにせ美人ですから」


「ああ、ユルテはモテそうじゃからな」


 ユルテは深刻な雰囲気を、冗談でまぎらわせようとした。

 だがオレの気分は、あまり軽くならなかった。


「……残って戦争に備えるとしたら、ユルテは邪魔するのかの?」


「いえ、先に迷惑をかけたのは私の姫様ですから。できる限りは協力しますよ。ただし本当に姫様の命が危なくなったら、力ずくでさらっていきますから」


 積極的な支援は望めそうもない。

 ユルテの領地からの援助も難しいだろう。

 彼女は、その領地にディニッサと引きこもりたいようだから。


 まあ、ディニッサを溺愛しているユルテが、邪魔をしないだけでも十分だと喜ぶべきだろう。風呂場の惨劇を思えば、強制的に攫われていてもおかしくなかった。


 フィアとファロンはどうだろう?

 ……無理っぽいな。


 なかなか上手くいかないものだ。

 この苛立は、まとめてケネフェトにぶつけてやろう。

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