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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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悪徳領主

 信徒たちを見て、オレはルオフィキシラル領に残ることを決めた。

 そうと決まれば、二ヶ月後の戦いに備えなければならない。


「ゲノレの領主について聞きたい。どんなヤツじゃ?」


「かの地の領主は、ケンタウロスを起源にもつ武人です。その猛々しい戦いぶりが認められて、ゲノレの街一帯を東の魔王に与えられました」


「そやつが、集めた税を何に使っておるかわかるか?」

「その多くを軍事費に費やしている、と聞いております」


 なるほど、戦備優先タイプか。

 贅沢三昧で、散財してくれるようなヤツだと楽だったんだけどな。

 これは、ほぼ確実に攻めてくるぞ。


「民のほとんどがルオフィキシラル教徒だということは、各村々に教会が在るという理解であっておるか?」


「はい。基本的に村は、教会を中心として作られています」


 ふつうに考えると、宗教と政治が癒着するのは弊害が多いのだろう。


 ──だが知るか。

 オレは、ルオフィキシラル教会をひいきしまくってやる。

 そうしないと、おそらくこの国は生き残れない。


 何十年か経ったあと、教会が腐敗したとしても、その尻ぬぐいはディニッサにやってもらおう。アイツは、ちょっと苦労したほうがいい。


「先に言っておく。父上はともかく、わらわはそなたらを頼りにしておる。ともに歩み、繁栄していきたいと思っているのじゃ」


「ディニッサ様……! われらに出来ることあらば、なんなりと仰せ付けくださいませ!」


 リヴァナラフが深々と頭をさげる。

 テーブルに水滴が幾つか落ちるのが見えた。


 こんな純真で、組織のトップが務まるのかな。

 多少不安もあるが、欲深なクズよりはましだと考えよう。


「リヴァナラフ、各教会に情報を集めさせよ。商人や旅人の噂話なども残らず収集するのじゃ。どんな情報を重点的に集めるかは、おって連絡する」


「かしこまりました。ただちに」


 とはいえ、国の運営に必要な情報ってなんだ?

 各地の軍備、物価、民情、治安、橋や道路の整備状況──あとなんだろう。

 ケネフェトと相談してみるか。


「さらにゲノレの民が重税で苦しんでいることも、みなに伝わるようにせよ」


 戦いになったとき、こちらの味方になってもらうための措置だ。

 信者が多数のため、もとから友好的ではあるだろうが、念のためだ。

 ……しかし、リヴァナラフは微妙な顔をしていた。


「どうしたのじゃ?」

「い、いえ、なんでもありません。すぐに仰せのとおりにいたします」


 どういうことだ。むこうの悪評を広めるのに、なんの問題がある?

 いや、もしかして違うのか、まさか──


「わらわの領地の民は、なにか不満をいだいておるのか」

「ま、まさか、ディニッサ様に不満など!」


「ふむ。では質問を変える。ゲノレの税率はどれほどじゃ」

「収穫の5割と聞きます」


 これは相当に厳しい。

 半分残ればなんとか、と思えるかもしれない。

 だが実際は違う。来年に蒔く分の種籾が必要だからだ。


 ここが中世ヨーロッパ程度の農業水準だと仮定すると、3分の1は次の年のためにとっておかなくてはならない。これで67%。ここから、さらに50%も取られてしまうわけだ。


 残り17%弱。もうどうやって生活するんだってレベルだ。

 ……もちろん魔法の力で、効率的な農業が営まれている可能性もなくもない。

 が、それは期待薄だ。


 ここに来る途中、第一区画内には、光る魔法の宝石が設置されていた。

 しかし一般市民が住む、この第二区画には一つもなかった。設置すれば、さまざまな役に立つだろうに。


 つまり、民のために魔法が使われている可能性はごく低いということだ。


 ──さて、あんまり聞きたくなかったんだが、聞かないわけにはいかない。


「それで、わらわの領内ではどれほどの税をとっておるのじゃ」

「それは、その……。収穫の7割でございます」


 赤字じゃねーか!

 働いて収入が毎年マイナス3%ってどういうことだよっ。


「その税率は、父上の代より変わっておらぬのか?」

「……いえ、トゥーヌル様の時代は、4割でございました」


 敵よりこっちの方が、よっぽど悪政をしいてたよ!


 あの角つきの小僧、かわいい顔して無茶苦茶やってやがる。

 ディニッサが指示したわけないからな。ケネフェトのしわざとしか考えられん。


「それはひどいな。それほど取られて、民はどうやって暮らしておるのじゃ」


「このあたりには豊かな森の恵みがありますので。森で狩りをしたり、木の実を拾ったり、十分に生活はなりたっております」


 ──オレに例えると、こうか。

 会社で働いた給料は全額没収され、さらに3%取られます。

 仕事の後にバイトをして、その稼ぎでなんとか生活します。


 地獄だな!


 どうやって、この国9年間も持ちこたえていたんだよ。

 滅んでたほうが世のため人のためだぞ。宗教か? 宗教パワーなのか? すごいな宗教!


「ディニッサ様。そうやって森にいけるようになったのも、ディニッサ様が賦役を免除してくださっているおかげです。誰が文句を言うでしょうか」


 いや文句言ってこ?

 民の苦労も知らず、豪奢な服を着ているオレたちを罵ってもいいんだぜ。


 ……それに免除っていうか、何もやってないだけだからね!

 きっと交通網とか、メッチャクチャになってんぞ。


 ふと、斜め後ろに立っているユルテを振り返った。

 彼女は今の話を聞いてどう思っただろう。

 後悔しただろうか。憐憫の情を抱いただろうか。


 ……ユルテは、目をつぶって寝ていた。


 あー、そうねー、退屈な話だったかもね。道理で静かなはずだ。

 最初に椅子に座るときに、抱っこを拒否ったからスネたのかもな。

 とはいえ、侍女の膝の上に座って会談なんてできないだろうに。


「税についてはなんとかしよう。民がこれ以上苦しまぬようにするつもりじゃ」


「ありがとうございます。ディニッサ様のお優しい心遣いを知れば、みな感涙にむせぶことでしょう!」


 それからさらに、税を収めない北、西、南の街の代官の話などを聞いて、総大司教との会談を終えた。



 * * * * *



 大聖堂から出るさい、さっきの女の子と目があった。

 女の子は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 オレは、彼女の頭をなでてやりながら、言い放った。


「先ほどの問いに答える」


 またあたりが静かになり、人々の注目が集まる。


「この国で勝手なことをさせるつもりはない。わらわの全身全霊でもって、そなたらの未来を守ろう」



 ──いつか、後悔する日がくるだろうか……?

 ディニッサのかわりに戦う決意をしたことに。

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