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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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魔術理論

 突然、体が壊れそうなほどの痛みが襲ってきた。

 これは、治癒魔法切れだ! ユルテの言った通り、持続時間が切れたのだ。


 必死に治療魔法を使った。

 治れ、治れっ。フィアは他人の治療ができないんだぞ、失敗したら死んじまう!


 はじめて使う魔法だが、うまくいってくれた。瞬く間に傷が完治する。

 ついでに魔力固定で治療を永続化させた。もうあんな痛みはゴメンだ。


「大丈夫?」

「……うむ。平気じゃ」


「なにが、あったの?」

「いや、たいしたことではないのじゃ。治療を固定したゆえ、心配はいらぬ」


 ユルテのせいでこうなったと言ったら、彼女たちが仲違いしてしまうかもしれない。オレは適当にごまかして、フィアに書庫への案内をうながした。



 * * * * *



 書庫につくと、フィアが魔術に関する本をもってきてくれた。

 フカフカのソファに座ってページを開く。


「読めるの?」

「ん? そんなのもちろん──」


 言いかけて気づいた。

 そういえば、異世界なのに会話もふつうに出来るのはどうしてだろう。

 こっちでは日本語が標準語なのか?


「フィア、ゆっくりとひめさまって言ってくれぬか」

「……? わかった。ひ、め、さ、ま」


 姫様の、「め」と「ま」はマ行。

 マ行は唇を閉じないと発音できない両唇りょうしん音だ。

 だから口元を見れば、同じ発音をしているかどうか分かるはず。


 結果。彼女が喋っているのは日本語ではないとわかった。

 ためしに自分の口に指を入れて「ひめさま」と言ってみる。


「ひ、め、さ、ま」

「姫様、赤ちゃんみたい。かわいい」


 指に唇が触れずに発音できた。どうやら、聞くときも喋るときも脳内で言語が自動変換されているらしい。便利な能力だが、ある意味おそろしい。


 なぜならばそれは、この体の影響力が強いということだから。

 オレが精神を歪まされて、ディニッサのようなダメ人間になるという未来が、なおさら真実味を帯びてきやがった……。



 * * * * *



 夕飯の時間まで二人で本を読みふけった。


 魔術は魔法と違って、ひどく厳密な技術だとわかった。距離、時間、温度など、あらゆる要素を、呪文と魔法陣で記述し尽くさないと効果を発揮しない。


 なんとなく、コンピュータープログラムに似ている。途中の構文が一つでも間違っていると、なにも起きないか、とんでもない事故がおきる。


 さらに同じ効果──たとえば水を出す──でも、その場所と術者の状態、時刻など、さまざまなファクターによって必要な呪文が変わってしまう。


 これでは、とっさに使うのは無理だ。

 ただし、勉強が無駄になったわけじゃない。十分な時間があって、他の者に邪魔されない場所があれば、有効に使えるはずだった。


 ディニッサと魂を入れ替える魔法の、補助的役目をになえるだろう。もしかしたらディニッサの抵抗を無視して、強制使用する事すらできるかもしれない。


「フィア、時間があるときに、異世界との魂入れ替えを補助する魔術の研究をしておいてほしいのじゃ」


「わかった。やってみる」


 ちなみに魔術単体では、あまり大きな事はできない。

 魔術は、魔族が魔法を使った後の残りカスである、マナを再利用しているだけだからだ。空気中のマナは微量で、すぐに枯渇する。


「フィア、魔術はたぶん魔力固定と相性がいいはずじゃ。肉体強化を固定するときに使ったかの?」


「魔術と魔法を合わせる? その発想は、なかった。明日から、それも研究してみる」


「晩ごはんを食べたら、すぐにやればよいじゃろ?」

「今日は姫様当番だから、せっかく──」


「ああはい、そうじゃったな。うまくいったら教えてくれ」



 * * * * *



 その後、またしても大量の料理を──驚くことに、オレも普通に食べられるようになっていた──食べ、目隠しされながらフィアと風呂に入った。


 寝る前に、残った魔力をすべて使って強化魔法を固定する。

 同じ魔法を重ねがけしても、効果が強い方が優先されるだけらしい。

 だから一種類に限定して強化魔法をかける。


 今日は無難なところで「魔力回復力増加」をかけることにした。

 魔法を使うと、意識が遠くなってきた。どうやら、魔力を使い過ぎると意識を失ってしまうようだ。


 せっかくフィアが添い寝してくれてるのに、ちょっともったいなかったかな……。

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