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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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突然瀕死

 魔力固定を習得したことにより、オレは万物を創造する能力を得た。

 その力は神に匹敵するだろう。


 ……と言いたいところだが、魔力固定はそれほど便利でもなさそうだった。

 仮に、1リットルの水を1秒間出す魔法が、消費魔力1だとしよう。この水を固定した場合、魔力を1万くらい使っている感覚がある。


 貴金属などを作り出せば、小遣い稼ぎはできるだろうが、国家の運営に影響を及ぼすほどの利益をあげるのは難しそうだ。


 また、元素魔法が本当に「元素」の魔法だということも判明した。


 こっちの人たちは地水火風の四元素の魔法と認識している。

 けれど、たぶんそれは間違っている。魔力をあらゆる元素──H(水素) Fe(鉄)など──に変化させるのが元素魔法の本質のはずだ。


 なぜそう考えるのか。それは同じ大きさでも、石より鉄や金のほうが、はるかに少ない魔力で作成できたからだ。すなわち、石などのように多数の元素からなる化合物は作りづらいということだ。


 たとえば水を出すときには、魔力を水素と酸素に変化させ結合するというプロセスが無意識のうちに行われているのだと思われる。だから水系を使えるフィアは本来、風系も使えるはずなんだが……。


 説明してもダメだった。「空気から水ができるのは、おかしい」と言われ、フィアには納得してもらえなかった。


 たしかに元素理論を知っていないと理解は難しいだろうな。ただ、少なくともオレは、こっち人より効率的に魔法を使えるようになったわけだ。


 中学生のころは、元素周期表とか覚えて意味あんの?

 人生で使うことなくない?


 などとほざいていました。スミマセン、使う機会は立派にありました。

 義務教育バンザイ。


 ただし、あまり馴染みのない元素の作成は困難だった。

 銅や銀は簡単に作れるが、番号の大きい元素は難しい。


 その元素を見たことがあるかどうかは関係ないようだ。

 無色であるヘリウムの作成に成功し、あやうく酸欠で死にかけたから。

 これは純粋にイメージの問題らしい。



 * * * * *



「フィア、この塔の残骸はどうすればいいじゃろう? それから塔の修理は」

「好きにすればいい」


 ……フィアがやさぐれてる。

 オレが固定魔法を、あっさり習得してしまったせいだ。


「そもそも『わらわ』は魔力固定を使えたはずじゃろ。だから、もともと出来たことが、また出来るようになっただけじゃ。機嫌を直してほしいのじゃ」


 ディニッサが魔力固定を使えなければ、もう入れ替えが解けてるはずだからな。

 どうして神様は、あんなダメな子に強大な力を与えてしまったのか。


「……うん、ごめん。でもどうすればいいかわからないのは、本当。私は姫様のお世話と、庭の手入れくらいしかやったこと、ない」


「そうか。ならあとでユルテにでも報告しておくのじゃ。ここは足の踏み場もないから違うところにいくかの」


「どこに?」


 いちおう簡単にやられない程度の自信はできた。

 だから、街を見にいく手もあるけど……。


 朝起きるのが遅かったせいで、そろそろ夕方なんだよな。

 うん。今日は訓練に専念しよう。


「魔法について書かれた本を読みたい。たしか、書庫にあるってユルテが言っていたのじゃ」


「ない」


「え?」

「魔法について書かれた本はない」


「ユルテが嘘ついた?」

「違う。勘違い。魔法、じゃなくて『魔術』の本だったら、いっぱい、ある」


「どう違うんじゃ」


「魔法は、魔族の先天的能力。魔術はそれを真似しようと作られた技術。触媒の使用、呪文の詠唱、魔法陣の作成、3つを合わせて、魔力がない人でも、魔法と似たことが、できる」


 そんなものがあったのか。なんとなく、そっちのほうがゲームに出てくる魔法使いのイメージに近いな。魔族の魔法は、超能力っぽいから。


「よく知っておるな」


「たいしたこと、ない。私は、魔法の才能がないから、調べた、だけ。普通の魔族は、そんな本、読まない」


 謙遜しながらも、フィアは嬉しさを隠せない様子だ。

 この子、わりと不憫な人生を送ってきたんじゃないだろうか……?


「じゃあ、書庫──グフォッ」

「姫様!?」


 フィアが目を見開く。

 突然オレの口から血があふれだしたのだ。


 肋骨が折れた。

 肺が潰れた。

 内蔵の一部が破裂する。


 一瞬にして、オレは瀕死の重傷を負ってしまったのだった。

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