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シスコンリーマン、魔王の娘になる  作者: 石田ゆうき
第2章 お城の外へ。常識を知る
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魔法の盾

 魔法特訓を始めて、驚いた。

 魔力が大きく増しているのだ。昨日ディニッサが使った分の魔力が、寝ている間に回復したのかもしれない。


 魔力を石に変化させ、縦横2m、幅10cmほどの石壁を作成してみる。

 余裕で成功した。この石壁なら、矢が飛んでこようが火の玉が飛んでこようが防ぎきれるだろう。これで防御は完璧だな!


 喜んでいるオレの横で、フィアが首をかしげていた。


「姫様、これ、何に使うの?」


「見てわからぬか? これで身を守るんじゃ。これさえあれば──」


 最後まで言いきることはできなかった。


 ドゴッ。

 小気味良い音とともに、石壁が崩壊したからだ。

 オレの自信作は、フィアのジャブ一発で葬り去られたのだった。


「意味、ない、と思う」

「……その攻撃力は、こっちの世界では標準的なものなのかの?」


「魔族なら、この程度、誰でもできる。肉体強化できない魔族は、いないから」


 この華奢な腕で、10cm厚の石壁をワンパンかよ。

 むこうの世界の常識が一切通用しないぞ。


「ま、魔族以外ならどうじゃ?」

「平民になら、通用すると思う」


 この世界だと、魔法を使えるヤツは強さが飛び抜けているみたいだな。

 しかし、どうすれば魔族の攻撃を防げる? 材質を変えてみるか。


 再び精神を集中する。今度は石じゃなく鉄を作り出す。

 形も変えよう。さっきみたいに横一直線じゃなく、半円形の壁にする。さらに厚さも増やす。幅50cmでどうだ。


 一秒、二秒……。

 さっきよりも時間がかかったが、目の前に、分厚い鉄の壁ができた。

 これでどうだ。戦艦の装甲並の厚さの鉄塊だ。これなら──


 ギシギシッ。床が嫌な音を立てた。

 すぐにフィアがオレを抱えて、塔の横壁の上にジャンプする。


 と、同時に床が抜けてオレの自慢の鉄壁ごと落下した。

 さらに下の階もぶち抜く。三枚目の床にぶつかる直前に、ようやく時間切れで鉄の壁は消えたのだった。


 ……。


 計算、してみよう。たしか、鉄の比重は10くらいだったか?

 2m×2m×0.5m×10=20t

 2万kgか! そりゃあ、床も抜けるよねっ。


「……なに、してるの」


 フィアが呆れた顔をした。


「ごめんなさい……。でもっ、あの壁なら魔族相手でもいけるじゃろ!?」

「いくらか効果ある、と思う。でも意味ない」


「な、なんでじゃ」

「第一に遅すぎる。作るまえに殴られる」


「練習すれば、もっと早く作れるようになるじゃろ」


「それは確かに。言ってなかったけど、魔法に名前をつけるのが有効。練習を繰り返して、名前と魔法を連動させれば、イメージする時間を短縮でき、発動速度が上昇する」


「なら──」


「それでも、意味、ない。あんなに大量の魔力を無駄遣いするなら、肉体操作で自分の体を硬くしたほうがいい」


「……。」


 そういえば、フィアは石壁を軽々と壊していたな。

 つまり反作用で、彼女の拳にも相当な衝撃があったはず。なのに無傷。

 

「フィア、魔力で手を硬くしてみてほしいのじゃ」

「わかった」


 試しに触ってみると、フィアの手はすべすべで柔らかかった。


「本当に、今硬くなっておるのか?」

「うん。さっきの鉄くらいなら、切り裂ける」


 ……物理的におかしいだろ。

 でも、魔法は思い込みが大切なようだ。頑張って慣れよう。

 よく漫画で出てくる、気とかオーラとかそんな感じをイメージするんだ。


 さっそく全身がオーラで硬くなるイメージで魔法をかけた。

 塔の中をみる。崩れ落ちた階までは7mくらいあるだろうか。

 少し怖かったが、気合を入れて塔の横壁から飛び降りた。


 着地した時に、足元で石が幾つか砕けた。

 しかしこちらは無傷。痛みすら一切なかった。


 さらに大きめの石を上にほうり投げ、落ちてきたところにアッパーカット。

 石は簡単に砕け散った。


 すごいなこれ。まるでスーパーヒーローにでもなった気分だ。


 フィアが塔の内壁を伝って降りてきた。

 横壁に対して垂直に歩いている。


「すごいの。それどうやっているんじゃ?」


「靴と壁を一瞬凍らせて固めているだけ。ぜんぜん、すごくない」


 彼女は、オレの賞賛に首をふった。


「私は、水の元素と魔力固定しか使えない。落ちこぼれ」


 オレの横に立ったフィアは、うつむきながらそう言った。


「え、固定できるのか!? それたしか上級魔法じゃろ。よし、わらわが石で床を創りだすから、さっそく塔の修理を──」


「無理。固定できるのは自分の魔力だけ。だから、役立たず」


 ……フィアがやけにネガティブになってしまった。どうフォローしよう?


「じゃあ、フィアが氷の床を作って固定したらどうじゃろう。上に絨毯でもしけば十分使えるじゃろ」


「無理。とける。固定は、魔法で作り出したものを、本物にできるだけ。それに、固定には、ものすごい魔力が必要。私には、この部屋の広さの氷は固定できない」


 ついにフィアは、しゃがんでいじけだした。


「ほ、本物の水をいつでも出せるというのは貴重じゃろ!」

「効率が悪すぎる。井戸でくめばいいだけ」


 ……たしかに水系だけだと、あんまり使い道がなさそうだ。魔力コストが安いなら、まだいろいろ使いみちがありそうなんだが。現状、砂漠にいっても安心なくらいか。


 これが土系統の使い手なら、金なり宝石なり作ってウハウハなんだけどなー。


「私、ダメな子……」


 フィアはしゃがんだままイジイジしてる。


 ……だがフィアは、いじけながらもオレをチラチラ見ている。どうやら否定しながらも、オレが彼女のいいところを探しだすのを期待しているもようだ。


 この子もけっこうめんどくさいな!

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