魔法の盾
魔法特訓を始めて、驚いた。
魔力が大きく増しているのだ。昨日ディニッサが使った分の魔力が、寝ている間に回復したのかもしれない。
魔力を石に変化させ、縦横2m、幅10cmほどの石壁を作成してみる。
余裕で成功した。この石壁なら、矢が飛んでこようが火の玉が飛んでこようが防ぎきれるだろう。これで防御は完璧だな!
喜んでいるオレの横で、フィアが首をかしげていた。
「姫様、これ、何に使うの?」
「見てわからぬか? これで身を守るんじゃ。これさえあれば──」
最後まで言いきることはできなかった。
ドゴッ。
小気味良い音とともに、石壁が崩壊したからだ。
オレの自信作は、フィアのジャブ一発で葬り去られたのだった。
「意味、ない、と思う」
「……その攻撃力は、こっちの世界では標準的なものなのかの?」
「魔族なら、この程度、誰でもできる。肉体強化できない魔族は、いないから」
この華奢な腕で、10cm厚の石壁をワンパンかよ。
むこうの世界の常識が一切通用しないぞ。
「ま、魔族以外ならどうじゃ?」
「平民になら、通用すると思う」
この世界だと、魔法を使えるヤツは強さが飛び抜けているみたいだな。
しかし、どうすれば魔族の攻撃を防げる? 材質を変えてみるか。
再び精神を集中する。今度は石じゃなく鉄を作り出す。
形も変えよう。さっきみたいに横一直線じゃなく、半円形の壁にする。さらに厚さも増やす。幅50cmでどうだ。
一秒、二秒……。
さっきよりも時間がかかったが、目の前に、分厚い鉄の壁ができた。
これでどうだ。戦艦の装甲並の厚さの鉄塊だ。これなら──
ギシギシッ。床が嫌な音を立てた。
すぐにフィアがオレを抱えて、塔の横壁の上にジャンプする。
と、同時に床が抜けてオレの自慢の鉄壁ごと落下した。
さらに下の階もぶち抜く。三枚目の床にぶつかる直前に、ようやく時間切れで鉄の壁は消えたのだった。
……。
計算、してみよう。たしか、鉄の比重は10くらいだったか?
2m×2m×0.5m×10=20t
2万kgか! そりゃあ、床も抜けるよねっ。
「……なに、してるの」
フィアが呆れた顔をした。
「ごめんなさい……。でもっ、あの壁なら魔族相手でもいけるじゃろ!?」
「いくらか効果ある、と思う。でも意味ない」
「な、なんでじゃ」
「第一に遅すぎる。作るまえに殴られる」
「練習すれば、もっと早く作れるようになるじゃろ」
「それは確かに。言ってなかったけど、魔法に名前をつけるのが有効。練習を繰り返して、名前と魔法を連動させれば、イメージする時間を短縮でき、発動速度が上昇する」
「なら──」
「それでも、意味、ない。あんなに大量の魔力を無駄遣いするなら、肉体操作で自分の体を硬くしたほうがいい」
「……。」
そういえば、フィアは石壁を軽々と壊していたな。
つまり反作用で、彼女の拳にも相当な衝撃があったはず。なのに無傷。
「フィア、魔力で手を硬くしてみてほしいのじゃ」
「わかった」
試しに触ってみると、フィアの手はすべすべで柔らかかった。
「本当に、今硬くなっておるのか?」
「うん。さっきの鉄くらいなら、切り裂ける」
……物理的におかしいだろ。
でも、魔法は思い込みが大切なようだ。頑張って慣れよう。
よく漫画で出てくる、気とかオーラとかそんな感じをイメージするんだ。
さっそく全身がオーラで硬くなるイメージで魔法をかけた。
塔の中をみる。崩れ落ちた階までは7mくらいあるだろうか。
少し怖かったが、気合を入れて塔の横壁から飛び降りた。
着地した時に、足元で石が幾つか砕けた。
しかしこちらは無傷。痛みすら一切なかった。
さらに大きめの石を上にほうり投げ、落ちてきたところにアッパーカット。
石は簡単に砕け散った。
すごいなこれ。まるでスーパーヒーローにでもなった気分だ。
フィアが塔の内壁を伝って降りてきた。
横壁に対して垂直に歩いている。
「すごいの。それどうやっているんじゃ?」
「靴と壁を一瞬凍らせて固めているだけ。ぜんぜん、すごくない」
彼女は、オレの賞賛に首をふった。
「私は、水の元素と魔力固定しか使えない。落ちこぼれ」
オレの横に立ったフィアは、うつむきながらそう言った。
「え、固定できるのか!? それたしか上級魔法じゃろ。よし、わらわが石で床を創りだすから、さっそく塔の修理を──」
「無理。固定できるのは自分の魔力だけ。だから、役立たず」
……フィアがやけにネガティブになってしまった。どうフォローしよう?
「じゃあ、フィアが氷の床を作って固定したらどうじゃろう。上に絨毯でもしけば十分使えるじゃろ」
「無理。とける。固定は、魔法で作り出したものを、本物にできるだけ。それに、固定には、ものすごい魔力が必要。私には、この部屋の広さの氷は固定できない」
ついにフィアは、しゃがんでいじけだした。
「ほ、本物の水をいつでも出せるというのは貴重じゃろ!」
「効率が悪すぎる。井戸でくめばいいだけ」
……たしかに水系だけだと、あんまり使い道がなさそうだ。魔力コストが安いなら、まだいろいろ使いみちがありそうなんだが。現状、砂漠にいっても安心なくらいか。
これが土系統の使い手なら、金なり宝石なり作ってウハウハなんだけどなー。
「私、ダメな子……」
フィアはしゃがんだままイジイジしてる。
……だがフィアは、いじけながらもオレをチラチラ見ている。どうやら否定しながらも、オレが彼女のいいところを探しだすのを期待しているもようだ。
この子もけっこうめんどくさいな!




