第28話「二人のクオンの受難?」
「ーーさて、着きましたよ。」
「ありがとうございました。」
クオンは馬車から降り、ギルドの前へ降り立った。馬車はそのまま帰っていく。
「さてっと、もうこんな時間か。やべぇやべぇ。」
時刻を確認すると、もうすぐ昼時、一番忙しくなるときである。クレアからお叱りをもらうことは確定だが、まずは一刻も早く仕事に入らねば。そう思いつつクオンはギルドに入っていった。
「すいません!ただいま帰りまし…は?」
しかし、ギルドに入ると目を疑うような光景が広がっていた。
「あ、いらっしゃいま…せ?」
クオンがもう一人いたのだ。そしてそのクオン?に応対されたクオンはなにが何だかわからず固まってしまう。クオン?も同様だ。
「あれ?クオンさんどうしたんですか?お客さんなら席に案内…を…。」
そのようすに気づいたリナが寄ってきた。そして、向かい合っているクオンたちをみて、
「く、クオンさんが二人いる!?」
そう叫ぶのだった。
「…なにがどうなってんのこれ?」
クオンはおそらく働いているのは王子であると察したが、それ以外、つまりなぜ王子がここにいるのか、なぜ働いているのかということに対して、疑問をぶつけるのだった。
「ーーなるほどつまりこういうことか。」
まとめるとこうだ。クオンが間違われて城に連れていかれる→エリーが王子を発見→ギルドへ連行→リナが別人と判断→しかし予期せず大量の来客→クレアの一喝「とりあえず働け」→いまに至る。
小さなこと?は気にしないクレアにクオンはすごいと思いつつ、王子と向き合っていた。(ちなみに昼のラッシュだが、これもクレアの一喝でそのままクオンが加わり捌くことになった。)
「とりあえず、ご迷惑をお掛けしました。」
「いえ、よい経験になりました。それにこちらも城の者が迷惑をかけたようで…」
「いえいえ、気にしないでください。謝礼ももらっていますし。」
…二人は真面目に謝罪をしているが、顔も声も一緒なので、まるで一人でやっているように見えてしまい、周囲の笑いを誘ってしまっていた。(現にエリーは耐えきれず笑っている。)
謝罪の後、クオンは王子に事情を聞くことにした。
「それで、なぜ城を出たんですか?」
「…私は」
王子は話し出した。
「私は、町を見てみたかった。いずれ王位は私に譲られるだろう。その時、町のことをなにも知らないではダメなのだ。しかし、外に出ようとすると必ず護衛の騎士がついてくる、それではなにも聞けない。だから抜け出したんだ。」
「なるほど…しかし王様は心配していましたよ?」
「…わかっている」
「ふむ、それではこれからどうするつもりで?」
「…できれば今日一日このままここで働かせてほしい。ここはよく人が集まる、だからいろいろな話が聞けるんだ。」
「…わかりました。では、仕事が終わり次第城までお送りします。」
「すまない」
基本進んでこういうことはやらないクオンだが、今回はやらなければならないと感じている。なぜなら、
(100万もらっちまった手前、放り出すとかできねぇ…)
金の力は偉大である。
そうして王子はそのまま仕事に戻ることになった。しかし…
「クオンさん!そこのテーブルにこれ持って行ってください!」
「わかった」
「あぁ…王子のほうです…」
「あ、クオンくん!ちょっといい?」
「なんですか?」
「あぁ…ごめん、王子じゃないほう」
名前が一緒なだけあって、呼ばれるたびに混乱が起こる。仕方ないので王子とクオンと呼びを分けたのだが。
「あ、王子!ちょっといいですか?」
「…俺はクオンだ。」
混乱が収まることはなかった…。




