第十六話「現実は非情ではなかった」
「……」
「…うーむ。」
夜、ギルドにはウェイターの制服に身を包んで書類を見ている俺と、ずーんという効果音が付きそうな、テーブルに突っ伏しているエリーの姿があった。
「本屋『本の整理でバラバラに置くので不採用』道具屋『商品の整理で商品を傷つけるため不採用』清掃『掃除なのに汚すから不採用』…ここまで行くと見事といえるな。」
「うぅ…わざとじゃないんですよぉ…」
「そこが性質が悪いな」
まさにドジっこというやつだな。さて、この分じゃほかの仕事もダメだよなぁ…。どうしたもんか。冒険者家業は…だめだ、たまにやる分はセーフだが、それで固定するのはあまりにも危険だ。ケガして依頼がこなせなくなるのが怖い…。うぅむ、
「…あれ?クオンさん、その手、どうしたんですか?」
「ん?あぁこれか?ちょっと包丁でスパッと…」
エリーの目に入った俺の手の指には絆創膏が貼られていた。(これまでこの世界にあるとは…。)
仕事中にちょっとした不注意で付けたケガである。
「ちょっと見せてください」
「え、いたぁ!?ちょ、おま…もうちょっと優しく剥がせや!」
いきなり手を取られて絆創膏を剥がされた。そして傷ついている指を手で包み、
「”光よ癒せ”」
「うおっ!?」
そうつぶやいたエリーの手がうっすらと光に包まれた。そしてその光が消えて、手をどけると、傷はどこにも見当たらなかった。
「…なんぞこれ?」
「治癒魔法です。」
「そんなこともできたのか…」
エリーの説明によると、魔法属性の光と闇は、それぞれ、特殊な魔法が使えるとのこと。
便利だなぁ…ってん?これ使えるくね?
「なぁエリー」
「はい?」
「この魔法って魔力?とかってめちゃくちゃ使ったりする?」
「いいえ?いたって普通ですね、ていうかそこまで疲れるんだったらこんなけがでは使いませんよ。」
「さいで…」
ふむ、ならいけるかな。
よし、思い立ったが吉日だ。
「コレットさーん、ちょっといいですか?」
「はいはい?なんですか?」
受付で暇そうにしていたコレットさんに話しかけた。うまくいけばこれで仕事になるかも…
…次の日、ギルドの一角に『怪我直します!一回銀貨5枚』と書かれた看板を備え付けたテーブルがあり、そこにエリーが座っていた。
俺が考えたのは治癒魔法を使って有料で傷を治すことだ、値段はコレットさんに傷薬の相場を聞いてその半額を目安にした。だいたいポーションとやらが金貨1枚(10万)傷薬でさえ、大銀貨1枚(1万)だそうだ。
これがうまくいってくれれば、仕事にできるんだがなぁ…やはり怪しいのか、誰も寄ってこない。まぁ気長に待とう。
…しばらくして、一人の男性が寄ってきた。どうやら腕を骨折しているらしく、ギプスを付けている。彼がエリーと少し話し、エリーが何やらうなずいて治癒魔法を行使した。
行使が終わり、男がギプスを外し、腕を動かした。
「おぉっ!こりゃぁすげぇ!」
治ったことを確認した男は、うれしそうに腕を振り回す。その様子を見て、あれが治るなら俺のもっ、という人らが群がってきた…あれなら大丈夫そうだな。これであいつの仕事も決まったか。
「ちょ、みなさん!?落ち着いて、押さないでくださーい!」
…大丈夫かね?あれ…




