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新たな仲間 そして死雲斎の暗躍

 京の町を悠々と歩いていると、京史朗は矢をくらいそうになる。

 襲撃者を警戒しつつ、人気の無い方に駆けるとその影は消えた。

 とりあえず近くの鬼風屋という旅籠に行く。

 最近、時世が混沌としているので知り合いのいる場所は通るたびに顔を出すようにしていた。


「香織。どうやら最近、繁盛してるようだな」


「えぇ、京史朗さんのおかげで」


 この鬼風旅籠は最近出来た旅籠で、京史朗の口利きで町人の信用を得て繁盛していた。

 香織はかつて京都に住んでいたが、とある理由で大阪の方に行っていた。

 伏見奉行になりたての頃、香織の父親を強盗で捕らえていたのである。

 そんな話も風化し、今はせっせと働く香織に言う。


「それはお前自身の努力だぜ香織」


 そして茶を飲みながら自分に言い聞かせるように言う。


「死雲斎の事が気にかかる。俺自身の事だから一週間でけりをつけるようにするぜ」


 すると香織が言う。


夜行よぎょう。おつかいをお願いね」


「夜行? 誰だ?」


「最近戻ってきた弟です。お忘れですか?」


「確かにいたな……」


 会釈をする夜行は言う。


「あっしは仕事があるのでこれにて……」


 そして鬼風旅籠からの帰りの途中で、文がある矢をくらいそうになる。


「脱獄した奴の中で、俺に直接関わり合いのある奴はいる。だが、これは俺自身の過去からの復讐のようだな」


 矢に括り付けられていた半紙を握り潰した。





 それから一週間。

 その間も幾度か襲撃を受け、次は殺すとの文が書かれていた。


「さて、いい月が出てやがる。ここいらで終わらせるとするかね」


 京史朗は過去に香織の父の裏金作りを何気無く親父に密告する形になり、父が盗賊もしていた香織の一家は罪に問われた。

 香織はいつの間にか京に戻り、京史朗の口利きも有り旅籠の女将になった。

 そして、浪士をとめる宿屋の女将として働いて行く事になる。

 京史朗は怪しいと思いつつも、今日も香織とは何気無く話すだけで終わる。

 京史朗から依頼を受けた摩訶衛門は単独で医者として侵入し香織の身辺を探る。

 そこで、京史朗と女将の関係を知り、仏と鬼の奉行を思い浮かべる。

 父は仏と呼ばれ、息子は鬼――。

 その二人の実態は間逆であった。


「京史朗も甘いものだ。だが、それが彼の人間味かな。父上とは違う、鬼奉行としてのね」


「親父のやり方は人格まで矯正するやり方だ。それは人の心を壊すだけで仏とは言わねーよ。俺は俺のやり方で行く」


「ならば、過去の借りがあるからと言って始末しないのは間違っているだろう?」


「始末はするさ……幕府の役人としてな」


 夜はふける――。






「こんな薄汚ねー小屋の中から何を覗いてやがる? 女湯はここにはねーぜ?」


 森に近い草むらの中にある古い小屋の中で、無音で現れた京史朗は言う。

 矢を持つ相手の男は驚き立ち上がる。

 その相手は鬼風旅籠の夜行だった。

 二人は話す。


「攻撃を受け出したのはあの旅籠に行ってからだ。お前が最近戻ったことも怪しいと思ってたぜ」


「それだけであっしを下手人だと?」


「俺の行動をこの一週間それぞれの旅籠でそれとなく言って試してたのさ。そしたら、香織の旅籠での話の場所で襲撃を受けた。そして、最近雇われたお前さんに不快なものを感じたって事さね。三下」


「!」


「おいおい、焦るなよ。まだ話は終わってねーぜ? 盗賊夜談とうぞくよだん


 六角獄舎から脱獄した盗賊夜談だった。

 その夜行である夜談は、


「話などは無い。話す事もな」


 姉の旅籠に舞い戻る夜談。

 女将の香織は父親の件で京史朗の事は恨んでいない。

 恨んでいたのは夜談だった。


「夜談という盗賊が生活苦の町人に人知れず金を渡してたのは聞いている。お前はさほどの悪でもねーさ」


「俺は貴様への恨みがある。それが俺の悪だ」


「つまりは、俺への恨みがある程度どうにかなれば、お前は伏見奉行所の監察方かんさつがただって事だな」


 夜談はこの伏見奉行に動揺した。

 自分の事を殺そうとした者を仲間に引き入れるなどあり得ない。

 そしてその夜談は冷静さを取り戻し言う。


「こっちも貴様がぺらぺらとよく喋るから不意に怪しく思ってな。貴様に化けて鬼京屋の女将に言付けして貴様の女を呼び出してもらっていたのさ。椿と言ったな? 今はあの崖の辺りにいる」


「やってくれるじゃねーか夜談。益々欲しくなって来たぜ。お前は使える。俺の為に働け」


「伏見奉行は血迷っているのではなく、狂っているな。幕府の役人とは思えぬ発言ですぜ」


「あぁ、俺は狂ってるぜ」


 伏見奉行の寒気のする殺気に夜談は驚く。


「……」


「狂気が無けりゃ、この正義と悪が入り乱れた世界で節義を通すのは不可能だからな」


 夜の戦いになった。

 夜談によって椿はこの草むらにおびき出され捕まっていた。

 京史朗は夜なのに正確に矢で狙い撃ちにされる。

 何故なら、羽織に特殊な塗料を塗られていた。


「この夜中に何で弓矢がこんな正確に狙ってきやがる!?」


 そして崖に落ちる椿を助け、手を矢で刺された。

 京史朗は崖に落ちる前に椿を助けるが、落ちる。

 その最中、叫ぶ。


「椿! 尻を触られるぞ!」


「えっ!? いやっ!」


 夜談は椿の平手打ちをくらい、京史朗の後を追い崖を落ちた。

 茫然とする椿は口を開けたまま立ち尽くしていたが、崖の下が気になり自分も落ちそうになったのは余談。

 そして落下した衝撃で肩の骨が外れる京史朗は言う。


「余談だが、星降る時がお前の終わる時だ」


「空の星に願いでもするつもりか? 意外な所があるな伏見奉行」


 落下してきた石と椿に潰される夜談。


「……ぐっ! 貴様の女はとんでもないお転婆のようだ」


「夜談。もう諦めろ。運はもうお前さんにはありゃしねーよ」


 香織が現れ、夜談は観念する。


「余談は、お前の元でするとするか」


 そして盗賊・夜談は伏見奉行所の密偵になった。





 再度死雲斎が島原で事件を起こしていた。

 暗躍する死雲斎により、薬で死ぬ遊女達。

 摩訶衛門は憤り、通っている遊女の雪絵に言う。


「熱じゃないね。あれは阿片を飲まされたのさ。僕にはわかる。医者だからね」


「阿片……」」


「何も、殺す事は無いじゃないか。薬物で殺す事は……」


 そしてまた一人の遊女が薬物中毒になるが、摩訶衛門は違う座敷にいた大名が腹痛を起こしそこに向かう。


「すぐに戻るよ……すぐに」


 しかし、大名の所から戻った時にはもう手遅れだった。

 その遊女はまだ治療が間に合うはずだったが、幕府により殺された。

 遊女よりも優先するべきは大名。

 そして摩訶衛門は京史朗に言う。


「僕にはわかった事があるよ……」


「それは何だ?」


「この国は滅びた方がいい」


 渇いた笑いの顔が京史朗の網膜に焼きついた。

 そして死雲斎の足取りがつかめないまま時が過ぎた。





「他の店が病人で客が取れないから、ここは繁盛してるようだな」


 働ける遊女の少ない店を吸収合併し、柊屋は島原最大の店になっていた。

 雪絵も、大名が相手にするほどの遊女になっていた。

 死雲斎の暗躍により、この島原も三カ月あまりで様変わりしてしまっていた。


「いつの間にか島原でも最大の店になっちまったか柊屋も。いい事なのか悪い事なのか」


 芸も教養もあるから問題無いとは京史朗も思うが、どうも腑に落ちない所があった。

 そして阿片を見つめ言う。


「一体、この薬の出所はどこなんだろうな? そして、この閉鎖されながらも、情報が行き交う島原でどう誰もにも気付かれずに行動してやがる……ここで働く女としてはどう思う?」


「……どうなんでしょう?」


「まぁ、見かけたら情報頼むぜ。見ればすぐわかる悪人だからな。死雲斎はよぅ」


 最近、白髪が増え別人のようになる摩訶衛門に言った。

 島原の池で恋が死んでるのを発見し、京史朗は夜談に探らせる。

 地下水脈が有り、そこからの影響のようだった。


「また、地下水脈かい」


 そしてふらりと現れた摩訶衛門は、死雲斎に奇襲を受けた話をしつつ言った。


「島原にも死雲斎が現れたよ。あの男……本当に神出鬼没だ……」


「島原には幕府の役人が堂々と入るわけにはいかん。遊びついでに目を光らせるしかねーな」


 夜は島原に摩訶衛門の助手としてとどまる事になった。


「寝れねぇ日々の始まりか」




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