クロスグレイブ
夕方――京史朗は島原へ来ていた。
友人の摩訶衛門は医者として島原に来ており、雪絵という遊女の座敷にて話している。
大根の漬物で数を誤魔化す輩について京史朗は話していた。
「……大根や人参を持って帰りやすくさせるって言いその一切れを店の漬け物にして利益を出してる所もあって商売人ってのは頭が回る連中だと思ったぜ」
「それが武士の世の中で武士ではない人間が尊敬される手段だからね。躍起にもなるさ。特に今の時世ではね」
「下手な商売をする奴もいて困るぜ」
「今の時世では何が起きてもおかしくはないさ」
「巨根が根拠のない事を言うなよ」
雪絵はくすくすと笑う。
摩訶衛門は雪絵が好きな為に狼狽する。
そして話を変えた。
「それよりも椿さんの相手はいいのかい? 嫁にするのだろう?」
「俺に嫁は持てんよ。いつ死ぬかもわからんしな」
「鬼が死ぬのかい?」
それに答えない京史朗は、
「梅毒を異人が持ち込んだもんだろ? 奴等は完全な疫病神だぜ」
島原にも客として異人が現れだしていた。
異人を相手にする遊郭が増えている。
「病気まで異人が運んでやがるか……やってられんな」
「なら斬るかい?」
「異人は簡単に斬れねぇ。幕府との国際問題になるからな。ここは我慢しろ摩訶衛門」
「奴等は英国に属しているが、英国を無視して活動している連中だよ。生かしておく道理は無いはずさ」
「奴等が徒党を組んで何かをしてる可能性もあるからな。先日の黒須商会とも異人と繋がってやがったから、睨みをきかせる必要はある」
そして雪絵は言う。
「島原も物騒になったよ。幕府の威光が落ちてるのかな?」
「京史朗の前でそれは禁句だよ」
へっと笑う京史朗は、
「外交問題には出来ないさ。彼等も闇の人間。死んだ方が土に還るだけだよ」
※
雪絵を嬲られた怒りで異人を斬りかかる摩訶衛門の行動で英国人の外道に捕まる京史朗。
異人組織クロスグレイブ。
「我々はクロスグレイブ。意味は十字架の墓ダヨ」
「用はお前さん達の墓だろ?」
京史朗は湖の奥に連れ去られる。
自分のせいで連れ去られた摩訶衛門は小舟を見つけるが京史朗はいない。
地下水脈にいた。
そこに死雲斎という最近、京の町を騒がせている人斬りが現れる。
「お前さんが、最近巷で噂の人斬り死雲斎。出会えて嬉しいぜ」
「嬉しくは無いね。こちらも仕事がある」
人斬りとクロスグレイブの繋がりを見た京史朗は死雲斎の餌食になった。
ばらばら死体が転がる地下水脈に摩訶衛門が現れた。
そのどれかが京史朗かな……? と思い笑う。
背後にはクロスグレイブの連中が現れていた。
『浪人の仲間カ? お前もシネ』
「死体の数が違う……という事だね。島原で話した大根の話か京史朗」
相手を無視し、いつもの月光の輝きのような優しい笑みを見せる摩訶衛門は言う。
「そうさ。医者のお前さんなら気付くと思ったぜ。これで、黒幕との対面だ」
死んだはずの鬼瓦京史朗は現れた。
「この洞窟は元々、俺が子供の頃に遊んでた場所だ。そこを元に作ってる砦なら抜け道なんざ、俺の方が知ってる。伏見奉行は案外、地理に詳しいんだぜ?」
クロスグレイブの地下水脈を探索していた京史朗は全て調べた。
この組織の現状と、その資金源の阿片に関しても。
クロスグレイブは黒須商会と繋がっていた。
黒須商会が取り潰され焦っていた。
次の取引先は英国。
英国が日本に介入する裏の組織として。
仏国に悟られないように。
「幕府もお前さん達は手に余るだろう。闇にいる奴は闇に消えるしかあるめぇよ。確かに摩訶の言う通り、お前さん達は英国に疎まれている存在のようだ。ここいらで消えてもらうぜ。三下共」
ここで阿片を手に入れる摩訶衛門は、
「梅毒もどうにかしないといけないねぇ。ここの人間を使ってみようかな?」
冗談だが、実際には使うそぶりをする。
クロスグレイブとの戦いになった。
二対二十人。
クロスグレイブは日本の情報を流すから自国に罪を許してもらう事で日本での活動をしやすくしようとしていた。それに京史朗は、
「……よくやるぜ全く。この京の町をまずどうしたいんだ?」
「上海のように宗教や麻薬でじわじわと落とす。ついでにこの島原という閉鎖された町ならば人体実験にもってこいナノサ」
「マッドサイエンスと英国では言うね。我々は最上位の医者なのだよ。人の未来を見据えてるのダカラ」
それに京史朗は、
「どうなんだ摩訶衛門? 同じ医者としてはよ?」
「反吐が出るね……消えてもらおうか」
怒る摩訶衛門にクロスグレイブのリーダーは言う。
「犠牲無くして医療は進マヌ。この島原の犠牲により、日本だけでなく世界が救わレル。そんな事もわからんのかコノ島国のネズミは!」
「島原の人間は人じゃねーのか?」
「だからこそ、こんな隔離された場所で男相手に情事にふけてるのダロウ? 幕府が人で無いと言っているんダヨ! 公式的ニネ! 君達はナンセンスだ!」
「刀で遊ぶのはいい。けどもふざけるのはナンセンスってやつだぜ」
そして圧倒的な強さで二人はクロスグレイブを倒す。
摩訶衛門は阿片をその一人に飲ませた。
「自分で飲むといい。そう、溺死するぐらい飲むといいよ」
すると、そこに火の手が上がる。
我に返る摩訶衛門は言う。
「どうやら、誰かがここに火を放ったようだね。脱出するよ京史朗」
「死雲斎の野郎かもな……恐らく証拠隠滅を図りやがった」
※
そして罪人が捕らえられる六角獄舎に闇の人斬りが現れた。
人斬り死雲斎。
赤雲が書かれた黒い着物に三度笠。
巷を騒がせる魔性の人斬り。
特に女を斬る事が趣味。
すでに内部を混乱させる工作をし終わった死雲斎に出会う京史朗。
「お前、どうやって門番を手なずけた?」
「門番などは簡単に手なづけたさ。男というのは容易く手なづけられるからな」
「わかるように言え、殺人趣向者」
「血は若い女に限る。かつて島原の太夫の血を吸ったこの刀は久しく遊女の血を吸って無い。そろそろ町娘の血にも飽きたようだから吸わせようかね……」
「黙ってろ三下!」
役人達で捕まえるが、阿片の力で魔油という薬物を生み出していた。
魔油の使用時は筋肉が肥大化する。
そこで、死雲斎は逃亡し悪人を解放してしまう。
黒須商会の黒須雅樹も逃げる。
剃り跡の青い月代に触れる京史朗は言う。
「死雲斎の野郎はこれを狙ってやがったのか……自分がこの京都・大阪で活動しやすくする為に罪人を世に放った……この黒船来航以来、攘夷志士や不逞浪士で混沌としてるこの千年王城の都にな……だが、奴も脱出の際に深手を負ったはずだ。すぐには事を起こせねーだろ。その間に、とっ捕まえて今度は始末する。闇の中にな」
脱獄した者で黒須以外に問題のある者は以下の通り。
盗賊・夜談
遊び人・金之助
カラクリ技師・外院