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Target:1  ♯02

 ひしめき合う住居や人々。

 薄暗く怪しい市場。

 電球の切れたネオンの看板。

 そんなスラムを高台から見下ろすピースとエスティー。


「いたわ」

 双眼鏡を覗き込むエスティーがそう呟く。


「貸してくれ」

 エスティーから双眼鏡を受け取ると、それを覗き込むピース。

 いくら彼といえど、双眼鏡を覗くことくらいはできる。


 その双眼鏡を覗いた先、高倍率でもくっきりと対象物を捕らえる高性能な双眼鏡がうつし出すのは、一人の男。

 眼鏡をかけたその男は大きなアタッシュケースを胸に抱え、キョロキョロと挙動不審に人ごみの中を歩いて行く。

 彼こそが今回のターゲットである。


「あれか、にしてもスラムに何の用だ? やっぱり裏でコソコソと取引でもするんじゃないだろうな」

「犯人の目的が何であれ、私たちはターゲットを捕まえて警察に突き出すだけ。行くわよ」

 エスティーはそれ以上は何も言わず、無言のままでスラムへと降りてゆく。


「ちょ、おい……はぁ、りょーかい」

 やれやれと言った風のピースだったがしかし、その顔は少し楽しそうでもあった。





 人ごみの中をかき分け突き進む男と少女。

 その男ピースは相変わらずやる気なさげに、ポケットに手を突っ込み歩いている。

 隣の白い少女も相変わらず、不思議な雰囲気を醸し出しながら無言で歩く。


 2人の目が捕らえているのは今回のターゲット。

 眼鏡の男はアタッシュケースを胸に抱え、しきりに辺りを気にしながら歩いている。

 ピースとエスティーは気付かれないように、かつ逃げられないように彼を追跡する。

 しかし目視でもはっきりとターゲットが確認できる位置にまで2人が追いついたと思った瞬間。


「おっと……」

「まずいわね」

 ターゲットの男とバッチリ目が合ってしまった。

 このままやり過ごそうとした2人だったがしかし、スラムの人間とは明らかに雰囲気の違う彼ら。

 そんな彼らを見てターゲットは一目散に走り出した。


「ちっばれたか、待ちやがれ!」

 ピースとエスティーも咄嗟に走り出す。

 しかし狭い道に、たくさんの人が溢れかえっているのだ、そう簡単には前に進めない。

 たくさんの人にぶつかりながら無理やり突き進む。


「悪いなご老人!」

 そうこうしている間にターゲットが視界から消える。

 裏路地に入っていったのだ。


「あの中に入って行かれちゃ面倒だ、エスティー先に行け!」

「言われなくても!」

 エスティーは深く脚を曲げると、人間の限界を超えた跳躍で一回転しながら、人々の上を飛び越えてゆく。

 そして彼女も路地裏へと消えていった。






「遅いわよ」

 ピースがエスティーに追いついたとき、彼女は一人で立っていた。


「悪いな。で、奴は?」

「この中に入って行ったわ」

 彼女が指さしたのは工場のような建物。

 その建物は使われている様子は無く、壁は穴だらけで全体的に錆び付いている。


「よし、表からは俺が行くエスティーは裏に回ってくれ」

「わかったわ」

 エスティー背中を見送り、ピースも工場の中へ慎重に入っていく。



 工場の中は非常に静かでひんやりとしていた。

 もう使われなくなって埃をかぶり、クモの巣が張り付いた機械がいくつも並んでいる。

 ジャリ、ジャリとピースの足音が建物内に響き渡る。

 ピースは念のため銃を一丁その手に握っていた。


「さあどこへ行った子猫ちゃん」

 そう呟き、機械の陰から出た瞬間だった。

 一発の爆発音と共に、弾丸がピースの方へ。


 彼は咄嗟に地面を転がり避けつつ、弾が放たれたであろう方へと弾丸を撃ち込み反撃。

 立ち上がり機械の陰に隠れて慎重に敵の居場所を探ると、逃げてゆく人影が目に入る。


「くそっ! 金庫泥棒がなんで銃なんて持ってやがるんだ!」

 そんな文句を言いつつ、彼はターゲットのものであろう人影を追う。

 人影を追って行くと短い廊下に行き着いた。

 その廊下には、突き当たりにドアひとつあるだけ。

 かつての事務所か物置かといった感じだ。


「さあもう逃げられねえぜ」

 ピースは慎重にドアノブを捻ると、素早く扉を開け中に入り、銃を構えた。


「なっ……!?」

 6畳ほどの小さな部屋。

 しかしその中に、ターゲットの姿は無かった。

 代わりに部屋にあったのは開け放たれたマンホール。


「こんなところに……」

 どうやら下水道に繋がっているらしい。

 ピースはもう一度部屋の中を確認すると、マンホールへと飛び込んだ。






 薄暗くジメジメとしている下水道。

 マンホールに飛び込みしばらく走ると、ピースはターゲットの背中を捕らえた。


「来るなっ!」

 そう叫びながら逃げ惑うターゲットの男は、焦りすぎて自分の足に引っかかり豪快にこける。


「ぅがはっ」

「もう観念しろ」

 慎重にターゲットに歩み寄るピース。


「やめろ! 来るな!」

 狂ったように叫びつつ振り返った男は、ピースに向かって銃を構え引き金を引こうとした。


 しかしそれよりも遥かに早いスピードで引き金が引かれたピースの銃から、弾丸が放たれる。

 そして放たれた弾丸は、男の銃に命中し、その銃は撃鉄を振り上げることなく宙を舞い、後方へと吹き飛ばされた。


「ひぃっ……な、なんなんだお前!? ド、ドッグか?」

 ドッグ。

 それは犯罪者たちが、賞金稼ぎは警察の犬だとそう皮肉を込めて、賞金稼ぎのことをそう呼んだのが始まり。

 今ではそれが一般にも定着しているのである。


「いいえ、ドッグズよ」

 ターゲットの質問に答えたのはしかし、ピースでは無かった。


 ピースの反対側、ターゲットを挟むように現れた白い少女。

 エスティーだ。


「ちくしょぉ!! ぅうぅううあぁぁぁぁ!!」

 退路を立たれた男は、うろたえ、奇声を上げてエスティーへと突進し、持っていたアタッシュケースを彼女目がけて振り回した。


 しかしエスティーは体勢を低くして軽々とかわすと、低姿勢のままひるむことなくターゲットの懐へ飛び込む。

 そして飛び上がりながら腕を突き上げ、男の顎に掌底。


「うぐっ――」

 更に、すかさず無防備になった腹へと蹴りを一発叩き込んだ。


「がはっ!!」

 男は銃と同じように宙に浮き、ピースの足元まで吹き飛ばされた。


「うぅぅ……」

「かわいそうに相手を間違えたな」

 男を見下ろしながらピースが言う。


「さ、おとなしく捕まりな」

「ま、待ってくれ! お願いだ見逃してくれよ!」

 男は泣きながら懇願する。


「娘のためなんだ……これで娘が助かるんだよ!」

 そんな男をピースは無言で見下ろしていた。


「この間事故で入院して、サイボーグ化手術を受けないと娘はもう助からないって……でもそんな金家にはない。だがこのお金があれば地方の小さな病院なんかじゃなくって、もっと大きなしっかりとした病院で、サイボーグ化手術が出来る、娘は助かるんだ……」

 男はエスティーの方を一瞥し更に続ける。


「アンタにだってこの気持ち分かるだろう!?」

 ピースは無言のままゴソゴソとポケットからタバコとライターを取り出す。

 そしてライターの軽快な開閉音を地下に響かせ、タバコに火を付けた。


「フー、……悪いがあいつは俺の娘じゃない、だからアンタの気持ちは分かってやれそうにない」

 そう言いながらターゲットを捕獲するピースの声は、少し憂いを帯びていたようにも聞こえた。



 ◆◇◆



「ご協力ありがとうございました~」

 ターゲットの警察への引渡しが完了し手続きなどのもろもろを済ましたピースは、建物から出て、エスティーの待つ車へ向かう。


「待たせたな」

 車のドアを開けながら、軽くそう言うピース。


「いつもよりえらく時間がかかったわね」

「ん? ああ、ちょっとな」

 彼は勢いよくドアを閉めると、ポンポンと自分の体を叩き車の鍵を探す。


「私の言ったとおりだったでしょ?」

「何が」

「この仕事のことよ。あなたの女神様が言ったようなろくな仕事じゃない、なんてことはなかったでしょ?」

 鍵ならつけっぱなしよ、とエスティーに言われるピース。


「お、サンキュ。……ま、それはどうかな」

 しかしそのピースの声はエンジンのいななきにかき消され、エスティーに届く事はなかった。

「え? 何か言った?」

「いいや何も、さあ帰ってうまいもんでも食いに行くか」

 ピースの愛車、2人を乗せたタイヤ付きのガソリン車は、砂埃を巻き上げその場を後にした。



 ◆◇◆




「うっそでしょ!?」

 白い少女エスティーが叫びをあげたのは、ターゲットを捕まえてから2日後の朝のことだった。

 その声にソファーで睡眠をしていたピースが飛び起きる。


「おいおいお嬢さん、朝から大声でどうしたんだ」

 まだ眠たそうに頭をかきながら大あくびをするピース。


「どうしたもこうしたもないわよ! これ! どういうこと!?」

 エスティーがピースに突きつけたのは、小型端末、空中にはいくつかの数字が映し出されている。


「どういうことって、どういうことだよ」

「借金返済、武器や衣類・食品の購入、その他もろもろを引いてもまだ2500万Gゴールド以上はあったでしょう!?」

 どうやらそれは銀行の預金残高を示す数字みたいだ。


 しかし端末が映し出すのは114と0が4つ。

 つまり114万G、エスティーの言う2500万Gには程遠い額だった。


「い、いやぁそれなぁ……」

 ピースは気まずそうに人差し指で頬を掻く。


「なに!?」

「昨日ギャンブルで使っちまってよ」

 あはは、とそっぽを向いてピース。


「んなっ……なんですって!?」

「わりぃわりぃ、昨日は女神様が微笑んでくれなくてな」

「昨日は、じゃなくて昨日も、でしょ!?」

「そうかもな」

 ピースはエスティーの顔をじっと見つめそう言った。


「なによ?」

「いいやなんでも」

 彼は再びソファーの上に寝転がる。


「本当に信じられない、どうやったら一晩で2500万Gも負けられるのかしら」

 そんな彼女の小言を子守唄に、もう一眠り。



 この日、余命数日だったとある少女のもとに匿名で多額の寄付があり、そのおかげでサイボーグ化手術を受けることができた少女が一命をとりとめたというニュースは、ちょっとした話題になったのであった。











「ピース仕事よ」

「はいよ」

 やる気のない男ピースと、白い少女エスティー。

 賞金稼ぎのコンビ”DOGS”は今日も町を駆け抜ける!


 BANG!!


この作品は作者が頭を切り替えるために書き始めたものなので、いつ更新されるのか、果たして更新されるのかは全く分かりません。

ひとまずあと数話は投稿します。

読んでくださりありがとうございます。

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