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Target:1  ♯01

以前に投稿した作品の連載版です。

この作品はSFの皮をかぶった何かです、タグを見ていただければ分かるようにSFモドキ、SFチック、つまりSFサイエンスのフリです。

難しい理論を立てて語られるハードなSFではありません。

 パパンッ! パパパパパパパンッ!!


 銃声が鳴り響き、粉塵が舞い上がり、そして狂気と血の匂いが充満する。

 そんな普通の世界からはかけ離れた、薄暗くじめじめした場所で男は、壁にもたれタバコに火をつける。


「フー」

 どこかやる気なさげに白い煙を吐き出す長身の男。

 寝癖でボサボサの頭が、余計男のやる気の無さを引き立てている。


 そんな男の姿を見て、反対側の壁にもたれかかっている白い少女が顔をしかめた。

 こんなわけの分からない路地裏で銃撃戦などといシュチュエーションには似つかわしくない、まだ幼い少女。

 腰まで伸ばされた髪は真っ白で、目も真っ白、そして真っ白なワンピースを着、その袖口からのびた細く真っ白な腕の先には、真っ黒な銃が握られている。


「こんなときにのん気ににタバコ?」

 少女の纏う雰囲気はとても独特のものだった。

 とても曖昧で、まるで幽霊のような煙のような、そんな目を話したら消えてしまいそうな不思議な雰囲気をその身に纏っている。


「こんなときだからこそさ」

 と男は再び気だるそうにフーッと煙を吐き出す。


「やめなさいよ、タバコなんて百害あって一利無しよ」

「バカ言え、吸って気持ちよくなってるんだ利はあるだろ。それにこの白い煙は俺の幸運の女神様なのさ」

 男は目の前に漂う、自分の吐き出したタバコの煙を見つめた。


「道理で運が悪いわけね」

 そんな少女の言葉に、男は肩をすくめる。


「そんなに吸いたいなら、あなたも私みたいに全身サイボーグ化すれば? そうすれば有害物質のニコチンやタールなんて簡単に分解できて、体に害はなくなるわよ」

 それにこんな稼業なんだしと少女。


「それだけはごめんだね、人生何事もリスクを犯すからいいのさ。危険が伴わないモノなんてただの子供の遊びだ」

「あっそ、ならこの子供の遊びもさっさと終わらせて帰りましょう」

 少女はそう言うと、腰に巻いてあったポーチから手榴弾を取り出す。

 そしてピンを引っこ抜くと、弾丸が飛来する方へと投擲した。


「へいへい」

 手榴弾の爆発音を合図に、男と少女は一斉に走り出した。



 ◆◇◆



「ピースご飯できたわよ」

 古いアパートの一室で、ソファーに寝そべりタバコを吸う男に少女が声をかける。

 ピースと呼ばれるその男はめんどうくさそうに頭をかきながら起き上がると、吸殻で山のようになった灰皿に新たな吸殻を突き刺した。


「おいおいエスティーまたこれかよ」

 エスティーと呼ばれる白い少女が持ってきたのは、もやし炒めただひとつ。


「文句ならこの間の自分に言いなさい、あなたが失敗したせいで今月の生活費ギリギリなんだから」

 ピースは少し苦笑いして、もやし炒めに手をつけ始めた。


「それと仕事よ」

 そう言ってエスティーが差し出したのはのは、ひとつの小型端末。

 手のひらサイズほどの端末の上部から光が放たれ、空中に文字を写し出している。

 しかし差し出されているにも関わらず、ピースはその端末を受け取らない。


「情報は紙にしてくれっていつも言ってるだろう?」

「もう一度言った方がいいかしら? あなたが失敗したせいで生活費がギリギリなの、紙を買ってる余裕なんてないの」

 それを聞いてピースはやれやれと言った風に端末を受け取るが、数秒その機械とにらめっこすると脇へと放り投げた。


「本当に仕方の無い人ね、いいわ」

 こんな事はいつものことなのか、エスティーは顔色をほとんど変えずに話し始める。


「今回のターゲットは金庫泥棒よ、なんでもホワイト製薬の金庫からお金を盗み出したらしわ」

「ホワイト製薬って、一昔有名だったあのか?」

「ええそうよ、まあ製薬会社と言ってもサイボーグ化が進んでからは、サイボーグ関係の研究に路線変更したみたいだけど」

 多くの製薬会社は、体のサイボーグ化技術が進むにつれ薬の需要が減り、そのせいで痛手を負っている。


「で? 犯人の特定は」

「情報が上がってるわ、ホワイト製薬の警備員の男よ」

 エスティーはピースが投げ捨てた端末を拾い上げると、それを手馴れた手つきで操作した。

 すると眼鏡をかけた一人の男の写真が写し出される。


「ルイス・アラン、35歳。2年前から警備員としてホワイト製薬に勤務。過去に犯罪歴ナシのいたって普通の一般人、勤務態度にも特に異常は見られなかったそうよ」

 写真の男は一見犯罪など犯しそうではないやさしい顔立ちをしており、警備員としてはいまいち信用しきれない体系をしている。


「そんな男が犯罪をねえ」

 ピースは話を聴きながら、ボーっともやしを食べる。


「事件の発覚は今日の朝、別の社員が出社すると金庫が開け放たれてて、中身とルイス・アランは仲良く一緒に行方不明。ちなみにセキュリティシステムにはハッキングの跡ありよ」

「おいおい、その金庫のセキュリティシステムはそんなにザルなのか?」

「いいえ、システム自体は最先端のものよ。でも調べてみるとその男、警備員をする前はセキュリティシステムの開発会社に勤めていたのが分かったわ」

 エスティーからの回答にピースはフッと笑った。


「これだからコンピューターって奴は嫌なんだ、やっぱり大事なもんにはしっかり鍵を掛けとかないとな」

 ピースはもやし炒めを食べ終えると、物足りねぇとつぶやきソファーに寝転がった。


「で? いくらだ?」

 金、つまり報奨金は警察から受け取ることとなる。

 まず警察が犯罪者の手配書を発行、懸賞金額、依頼条件、ターゲットについての情報などをネットにて配信。

 その手配書を見た賞金稼ぎがターゲットを捕まえ、警察に連れて行けば依頼達成となり、報奨金が支払われるのだ。

 依頼内容にも条件があり、無傷での生け捕りから生死問わずなどと、その内容は様々だ。


「生け捕りで3000万Gゴールド

「さっ、さんぜんまん!?」

 ピースは飛び起きた。 


「コンピューターいじりがお得意な、ヒョロ長警備員を捕まえて3000万G。やらない手はないと思うんだけど、どうする?」

「ちょっと待て、ただの金庫泥棒に3000万Gはちょいと高すぎやしないか? きな臭いのはごめんだぜ」

「私もそう思って一応警察とホワイト製薬にハッキングしたら色々と分かったわ」

 少女が警察にハッキングを仕掛けたなどといった大それた事を言ってるにもかかわらず、ピースが全く気にしないというところを見ると、これは日常茶飯事なのなどろう。


「どうやらこの懸賞金、警察が懸けたものじゃなくて、ホワイト製薬の社長が懸けたものね」

 犯罪者の懸賞金は主に警察が設定するものだが今回のように例外もあり、一般人が支払うという形で金額を上げることが出来るのだ。


 これは犯罪の被害者などが、どうしても犯人を捕まえて欲しい、早急に捕まえて欲しいときによくある事だ。

 金額が上がればピースたちのようにお金に困ってるものや、お金に目が無い賞金稼ぎがたくさん飛びつくのである。

 そのおかげで、犯罪者が捕まるスピード・確立等の向上傾向が見られるのだ。


「どうもお金といっしょに、金庫に隠してあった機密データも盗まれたみたい」

「機密データ?」

「何のデータかは分からないけど、大方違法な研究の実験データか何かでしょう。それで焦って報奨金の金額を跳ね上げたのよ」

 ピースはその話を聞いて少し思案顔になる。

 そしてポケットからおもむろにタバコとライターを取り出すと、ライターのフタを軽快な金属音と共に跳ね上げタバコに火をつける。


「フーっ、てことはもし犯人が狙ったのが金じゃなく、そのデータだったとしたら……」

「そうね、どこかの組織とつながってる可能性もあるわ。でもこうも考えられる、犯人はデータじゃなくてお金が目的だった、データはただ紛れてしまっただけで、どこかの組織とは何の関係も無い」

「……ダメだダメだそんなめんどくさそうな仕事、もっと安くて安全なのにしろ」

 ピースは片手でひらひらと手を振って却下の意を示す。


「その安くて安全な仕事でへまして、赤字を出したのはどこの誰だったかしら?」

 と、腕を組みエスティー。

 しかし彼女のそんな言葉など気にも留めず、タバコの灰が床に落ちるのもそのままで、ボーッと宙を眺めるピース。


「どうしたのピース? あなたらしくないわ、もっと楽に考えましょうよ」

「俺の女神様が言うのさ、この仕事はろくなもんじゃないって」

「また女神様!? なら私もあなたに言ってあげるわ、この仕事はちょろい金庫泥棒を捕まえて3000万Gも貰える、楽で簡単な仕事。こんないい仕事滅多にないわ」

 ピースの顔をじっと覗き込むエスティー。

 やる気のない彼に火をつけるのは、いつも彼女の仕事なのだ。


「…………わかったわかった、やろう」

 ピースは目を瞑り数回小刻みに頷くとしぶしぶといった風にソファーから立ち上がり、壁にかかったジャケットを手にとった。

 そして足早に愛車の待つガレージへと向かう。


「ま、これでしばらくはうまいもん食って、遊んで、ゆっくりできる」

 そんなピースの背中をあきれたと言った風な顔で追いかけるエスティー。

「そういうことは借金の返済が済んでからにしてちょうだい」



 ◆◇◆



 車に乗り込みイグニッッションに鍵を突き刺し捻る。

 すると紺色の平べったい車は、苦しそうに泣きながらエンジンを始動させた。

「で、犯人の居場所は分かってるのか?」

「ええ、大体は。町中の監視カメラにハッキングをして調査済みよ」

 助手席のエスティーは薄いノートパソコンのようなものをしきりにいじっている。


「さすがだねぇ」

 ひゅ~と鳴りもしない口笛を吹くピース。


「ちょうど15分前にC地区に入って行くのを確認、それ以上は追えなかったけど、C地区から出ていないのは確かだわ」

 C地区とは数あるスラム街のひとつ、そんな場所に監視カメラはないのである。


「スラムか……よし」

 ピースはそう言うと手馴れた手つきでギアを入れ替え、車を発進させた。






 行きかう車は全てタイヤの無い電気自動車。

 まだ空高く舞う事は出来ないが、それでも地面から数十センチほど浮いている。


 対するピースの車はタイヤ付きのガソリン車。

 環境問題や資源の減少のせいで高騰してゆくガソリンの値段に伴い、エネルギーは電気に代わり、技術が発達するにつれてタイヤまで無くなった。


 タイヤ付きのガソリン車なんて今では展示品か、スラムで山積みになったスクラップを見るくらいである。

 そのせいで世間ではピースの車は、非常に目立っていた。

 まあミッション車でないことが唯一の救いかもしれない。


 車内ではカーラジオからノイズの酷い声が流れる。

 ――――((政府はzz日、ガソリンの値上げをzzz表しましzz))


「またガソリンの値上かよ……」

 ピースは少し開けられた窓から入ってくる風にボサボサの髪をなびかせながら、参ったと頭をかく。


「これで余計生活が苦しくなるわね、まさしく火の車だわ。どう、この機会に新しい車に買い換えたら?」 高速でキーボードを叩きながらエスティー。


「だめだ、あんなのは車じゃねえよ」

 その言葉にエスティーは作業の手を止める。


「どうしてそこまでこの車にこだわるの?」

「男のロマンって奴さ」

「私には全く分からないわ」

 と、小さく首を振る彼女。


「エスティーも大人になったら少しは分かるかもな」

「……」

 彼女はしばらく黙ってそっぽを向くとポツリと呟く。


「ピースは大人の女性の方が好きなのかしら」

「え? あったりまえだろ、こう色気ムンムンで」

 ピースがしゃべるたびにエスティーの顔はだんだん険しくなっていく。


「ボン、キュ、ボンの大人な――」

 そしてついにはガンッ!

 エスティーはピースの脚をおもいっきり踏みつけた。


「っ!? いってえな、何しやがるあぶねぇだろ」

読んでいただきありがとうございました。

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