焼入れ×武器
ざっとですが、焼入れについての雑記をば。
私は鉄が好きです、そして焼けた鉄はもっと好きです。
フェチですね、焼けた鉄や鋼が薄暗い作業部屋でオレンジに光る、その輝き、匂い、たまりません。
融点に達した時のパチパチとまるで線香花火の様に爆ぜる姿は可愛いとすら思います。
焼けた鋼を焼き入れするのに油や水に漬ける訳ですが、この時にジュッ!と漬け込んだ後、ピキピキと鋼の性質が変わって行く手応えというものがあり、まるで生きた海老を捌く時の様な何とも言えない動きをします(そんなに動く訳では無いですが)
焼き入れの下手な私は、この時が一番緊張しました、特に温度変化の大きな水焼入れの場合、その場でヒビが入ることも多々あり、薄い刃物を打つ時は半分失敗を覚悟して「えいやっ!」と漬けたものです。
ただし、水焼入れに成功すると、温度差の分非常に硬い性質の鋼となるため、上手く行くと切れ味鋭い刃物を作る事が出来ます。
一度、刀匠の鍛造を見学させて頂いた事がありますが、刀の焼入れはそれは感動的でした。
まず、長い刀を均一な温度に熱するだけでも驚くべき技術を要するのですが、そこから一気に漬け込まれた日本刀はギューッと独特の剃りを生み出します。
その様は本当に生き物の様で、焼きの入った刀身が湯気を上げながら出てくる様はまるで一つの生命の誕生を思わせるものでした。
ちょっと大袈裟ですが、その時その場の雰囲気はとても神聖で本当にそう思ったのです(単に鉄フェチなだけかも知れませんが)
ですが、焼入れとはそんな大掛かりなものばかりでは有りません、彫金師などは、自分のタガネを作る時、ロウソクやバーナーの火で焼入れしますし、折れた金ノコの刃をナナメに切って、刃付けしたものをこれまたロウソクやバーナーの火で炙って水焼入れしたペーパーナイフを使っている人もいます。
また、鉄フェチの私は夏場にギラリと輝くレールが好きなのですが、あれも炭素鋼から作られています。
レールの頭の部分に焼入れ焼戻しがしてあるとの事で、それを聞いた時には『知らずに心惹かれるとは、私は心底鋼好きなんだな』と変に感心してしまいました。
西洋の焼入れは殆どオイル焼入れです、これは温度変化が水に比べてユックリな為、硬さは出ないのですが、粘りのある鋼になります。
アメリカのナイフ学校ではこればかりやってましたが、ボウイナイフの様な叩きつける刃物には非常に適したやり方だと思います。
硬さが出ないと言っても、炭素鋼を鍛造している段階で充分な硬さは保証されているので、 下手な水焼入れの脆弱な刃物よりも、信頼性は高く、自分で作る上ではオイル焼入れの方が好きでした。
ですが、日本の打ち刃物、しかも最高級品の包丁などは皆、本焼きと呼ばれる水焼入れです。
私は日本の鍛治修行をした事が無いので、刃物産地での体験鍛治でしか経験が無いのですが、横目に見る職人さん達の技術に圧倒されました。
何気無く打って焼入れした刃物が、同じ様に作った私達の刃物と雲泥の差を生み出すのです。
その切れ味は粘りを伴う絶妙な仕上がりで、料理人が数十年愛用するに足る、最高品質の鋼の刃です。
その分お値段も丸が一つ付くんですけどね。