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誰が殺した

作者: 鷹公
掲載日:2013/06/22

「貸した金を返せ」

それが私の仕事。

融資をして、返済が滞っている人に督促をする。

なるべく穏便に返済してくれると助かるんだけど、理由をつけては返さない、延期する人には、どうしたって強硬手段に出ざるを得ない時もある。

すごく胸が痛む。

きっとその人だって、悪気があって返済しないわけじゃないと思うんだ。

でも返してもらわなければいけない。

それが苦痛だった。


帰宅すると、家事をする夫と目が合う。

仕事をしない夫は、適度に家事をするが、結局後片付けをするのは私だ。

「俺のしたことにケチをつける気か」

夫は暴力をふるうようになった。

家にいても苦痛だった。


私には持病がある。

精神科に通っているが、通う度に薬が変わり、ある時は量が増え、飲むことさえ鬱陶しくなる。

そのうち、飲み物すら喉を通らなくなり、薬も飲めなくなった。

体調は更に悪化した。


休みの日。

夫は浮気相手に会いに出かけて行った。

子供たちは学校へ行っている。

私はひとり居間に寝転がって、見てもいないテレビをつけたまま、真っ白になった頭を床に転がしていた。

「久しぶりに薬を飲もうかな」

手に取った薬の袋には、大量の飲み損ねた薬が入っていた。

どの薬を何錠飲むのかも、すっかり忘れてしまっている。

説明書が同封されているが、読んでも頭に入ってこない。

適当な薬を取り出し、適当な数だけ口に放り込む。

水が喉を通らない。

無理矢理飲み込むと、喉でひっかかった薬にむせてしまった。

別の薬を取り出して飲み、またむせる。

何度もそれを繰り返しているうちに、水が喉を通るようになった。

薬を楽に飲める。

それだけで少し体が楽になった気がした。

私は残りの薬を飲み続けた。

何種類もある薬を、適当な数だけ飲んで、床に散らばった薬を見ては次に飲む薬に悩んで、とりあえず手元にある薬から飲んだ。

どれを飲んだかわからない。全種類を飲まなければ意味がない。だから飲む。これも。これも。


デートから帰ってきた俺を待っていたのは、つけっ放しのテレビと、床に寝転がった妻の姿だった。

「洗濯くらいしろよ」

俺はそう怒鳴りつけ、妻の背中を蹴った。

妻の体はそのままうつぶせに倒れたが、起きる気配がない。

「おい」

たたき起こそうとして、床が濡れていることに気付いた。

妻が失禁している。

「おい…」

足元に投げ捨てられた袋が目に入った。

その中には、薬の袋が入っていて、逆さにして取り出すと、すべての薬が無くなっていた。

確かこの中には、飲み忘れた薬が百錠以上残っていたはず。

「まさか…」

嫌な予感がした。

「おい」

妻の体を揺すって叫び、その冷たさに思わず手を引く。

「誰か…誰か!」

誰もいないとわかっていながら、虚空に向かって助けを呼ぶ。


「誰か…!」

誰かに助けを求める勇気も必要だと思うんだ。少なくとも私は、助けを求められる人になりたいと思っているんだ。

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