情け容赦なく疾走するホース
レイ帝国外との戦争です。オクサは、どんな策略を巡らしているのか?
「何度も言わせるな! 勝手に変な兵器をつけるな!」
「ごめんなさい」
「そん位、良いじゃないか! 兵器のパワーアップするんだから」
「まあまあ、うちもお金がありませんから」
「はあ、お茶が美味しい」
テンダが怒鳴り、マンカが逃げて、オリが文句を言い、ヒャクリが窘め、オクサがお茶を啜る。
珍しく辰騎士団では、平和な時が流れていた。
しかし、残念ながらその平和は長く続く事は、無かった。
部屋の扉が開き、竜の翼を持った中年の竜人が入って来る。
「アテナス辰騎士団長殿は、こちらで宜しいのでしょうか?」
その言葉に、オクサが軽い調子で答える。
「はい、僕ですが」
その竜人が頭を下げる。
「シングー午騎士団長からの連絡を承って来ました」
ヒャクリがすぐに反応する。
「詳細な話は、アテナス辰騎士団長の執務室で。案内させて頂きます」
そして、ヒャクリとオクサは、その竜人を連れて、オクサの執務室に移動する。
「午の副団長、サテル=ヘルメーが帝都を離れるなんて大事だぞ」
テンダの言葉にマンカが首を傾げる。
「でも騎士団長の伝令だったら、普通じゃない? この前も寅騎士団の副団長が、来てたと思うよ」
テンダが首を横に振る。
「午は、特別なんだよ。午は、あるいみ一番実戦に近い騎士団だ。レイ帝国に属してない国に対して、牽制を行う関係上、騎士団長は、常に最前線に立っている。その為、帝都で騎士団長が行う業務全般を行っているのが、あのヘルメー副団長だ。その関係上、あいつが帝都を離れる事は、殆ど無いはず。厄介な事になるな」
部屋に緊張が走る。
「すいませんが、もう一度言って頂けませんか?」
オクサの執務室では、冷静なヒャクリが戸惑った表情でサテルに問い返した。
本来なら失礼に当る事だが、相手も聞き返される事を解っていたのか、もう一度、話し始める。
「シングー午騎士団長から、ヤマタノオロチに装備された、アメノムラクモの使用要請です」
沈黙の後、ヒャクリが慌てて告げる。
「アメノムラクモを使用するための撃竜モードの移行には、陛下の承認が必要です。とても騎士団長レベルでの判断で、どうにか成る事では、ありません」
サテルは、承認装置を取り出す。
「陛下の承認は、もう下りています」
信じられない顔をするヒャクリ。
「詰り、レイ帝国外部で、恒星破壊兵器を使用した、殲滅作戦を行うと言う事ですか?」
オクサの言葉に、サテルが自分でも、建前だと理解している表情で、答える。
「あくまで、脅しの予定です。今、騎士団長が出向いているゴールドクロー王国では、危険度が高い兵器の開発が成されています。その開発の停止を条件に、我々も様々な妥協案を提示しましたが、応じられませんでした。最終通告として、恒星破壊兵器に因る、相手、都がある星の恒星破壊を通達しました。それが実行できると言う事を示す為です」
「兵器の開発を停止させる為のはったり、という建前ですか?」
オクサの鋭い言葉に、サテルがあっさり頷く。
「相手開発兵器に関しては、陛下も早急な対応を求められています。これ以上、対応が遅れるのならば、強引な方法をとらざるえない状況なのです」
ヒャクリが強い眼差しで言う。
「その為に、相手を皆殺しにしても良いというのですか? 到底、陛下の御心に沿う対応とは、思えません!」
「レイ帝国の安定、それこそが、陛下の御心に答える、方法だと思っております」
サテルも強い眼差しで答える。
午と辰の副団長同士が睨み合う中、オクサは、もう一度、承認装置を確認して言う。
「了解しました。早急に、ヤマタノオロチの出発準備を始めます。そちらからの同行者は、居ますか?」
サテルが即答する。
「事が事だけに、私が同行させて頂きます。最終的な、発射承認は、私が行い、その責任は、午騎士団が負う物とします」
「了解しました。出発は、三日後。それまでに準備を済ませて、おこし下さい」
オクサが淡々と告げると、サテルが頷き、退室した。
それと同時にヒャクリが詰め寄る。
「本当に宜しいのですか!」
オクサが立ち上がり、歩き出す。
「詳細を相談役と打ち合わせます。すいませんが、それが済むまでこの件は、極秘にしてください」
そして、振り返らず、オクサは、部屋を出て行った。
「本当に撃つつもりなの?」
「失礼します」
そう言って、エースの部屋に入ったオクサを待っていたのは、エースだけでは、無かった。
「オクサさん、顔が怖いですね」
少し驚いた顔をすると同時に、何かを納得するオクサ。
「今回の件も異界の技術が関っていると言う事ですか?」
エースが深い溜息を吐いて言う。
『そんなレベルの話しでは、ない。状況としては、最悪と言って良い。あの連中は、終末の獣の兵器化を行っているのだ』
初めて聞く単語にオクサが眉を顰める。
「それが、恒星破壊兵器の使用すら、承認される理由ですか?」
『そうだ、終末の獣とは、世界そのものを歪ませる化物の名。それを兵器として転用された場合、この世界そのものが滅びる可能性がある』
エースの言葉に唾を飲むオクサにマンカが告げる。
「確か、幾つかの上位世界で、制御できると過信して、世界のバランスを失い、崩壊したって話を聞いた事がある。それが原因で異空門閉鎖大戦が起こったって話だから、キリナガレの本家にも伝わってたよ」
「そんな危険な物がどうして、この世界にあるのですか?」
オクサの当然の質問にエースが苦々しい顔をして言う。
『ゴールドクロー王国の主な国民の事を知っているか?』
頷くオクサ。
「狼の能力を強く持つ人間、狼人でしたね。それがどうしたのですか?」
『そのもの達は、本来この世界の住人では、ないのだ』
エースの苦しそうに告げる。
その一言に、オクサがある可能性に気付く。
「まさか、狼人は、終末の獣で、自分の世界を崩壊させた世界からの、移住者なのですか!」
エースは、無言で辛そうに頷くとマンカが何かを思い出した顔をする。
「確か、この世界に宇宙開発技術を持ち込む代償として、崩壊が進んで済めなくなった世界の住人を移住させたんですよね?」
その一言に吹っ切ったのかエースが重々しく告げる。
『今回の事は、我々の負の遺産なのだ。ワンが早急に対応しようとするのも、今回の事が大事になれば、神々の直接干渉が行われる。そうなれば、いままでの我々が行ってきた融和対策は無意味になるからだ』
マンカが顔を引き攣らせて言う。
「無茶苦茶、大事ですね」
重苦しい雰囲気の中、オクサが告げる。
「我々の手で、その終末の獣兵器を完全に廃棄します。そうすれば、恒星破壊兵器の使用する必要もありません」
『解っているのか? 上位世界者としての誇りを受け継ぐゴールドクロー王国にとっては、終末の獣兵器こそ、レイ帝国への最後の切り札。簡単に行くことでは、無いぞ』
エースの言葉に、オクサがマンカを一瞥してから告げる。
「その為の、ヤマタノオロチです。ヤマタノオロチを旗艦として採用したのは、こういった非常事態を想定した為です」
エースもマンカを一瞥してから言う。
『諸刃の剣だがな。我々の失敗の償いをお前達に背負わせる事になってしまったな。我々がもっと上手く、狼人と融和が行えていれば、この様な事態になる事は、なかったのだ』
オクサは、はっきりと答える。
「まだ途中です。これからもチャンスがあります。そのチャンスを必ず作って見せます」
そしてオクサは、マンカを連れてエースの部屋を出る。
残ったエースが少し誇らしげに呟く。
『我々は、幾つもの失敗を犯したが、あの者達が居る、今のこの世界は、誇りに思う事が出来る』
深夜のオクサの私室で、テンダが頭を抱えていた。
「聞かなければ良かった」
オクサが笑顔で言う。
「諦めが肝心です。突入班にも、詳しい事情を知る人間が一人は、居ないといけ無かったのです。その役目をお願いします」
テンダは、グラスの酒を飲み干してから言う。
「簡単に言いやがって! どうしたら、ヤマタノオロチを含む、少数で敵主力を釘付けにして、その間に、突入班がその終末の獣兵器開発に関するものを廃棄するなんて、無茶苦茶な作戦を思いつけるんだ!」
オクサも溜息を吐いて言う。
「仕方ない。そうしなければ、アメノムラクモを使わないといけなくなるんだからね」
テンダは、グラスに酒を乱暴に注ぎながら。
「それでどれだけの協力が得られるんだ?」
オクサは、遠い目をして言う。
「事情が事情だけに、詳細が説明できないので、力を借りられたのは、相手国の情報を子騎士団から貰うのと、潜入手引きをしてくれる巳騎士団くらいです。午騎士団とは、交渉中ですが、現在の防衛ラインから動くのは、難しいですね」
口に含んだ酒を噴出すテンダ。
「大丈夫ですか?」
テンダは、咳き込みながら怒鳴る。
「大丈夫な訳あるか! なんだ、それは、寅や戌や亥に協力要請を出せないのか! 酉だったら喜んで手柄を横取りに来るだろう!」
オクサが、テンダの肩に手を置き言う。
「今回の事情は、レイ帝国の暗部だぞ、そうそう広げられる内容じゃないのです。万が一にもこの事実が公表されれば、レイ帝国の屋台骨が揺らぎます。事情を説明せずに動かせる戦力は、辰騎士団だけ」
思いっきり嫌そうな顔をしてテンダが呻く。
「絶対、貧乏くじを引いてるぜ」
酒を瓶のまま、飲み干してからテンダが、言う。
「勝算は、あるんだろうな!」
はっきりと頷くオクサであった。
「正直、今回の作戦には、賛成出来ません。危険が高すぎます。我々としては、貴方達には、後方に居て、要求が受け入れられないと判断した後、突入し、恒星を破壊して頂きたいのですが」
ヤマタノオロチに乗り込んできたサテルの言葉に、オクサが告げる。
「何度も申しました様に、アメノムラクモの発射要請がありましたら、こちらが責任を持って遂行します。しかし、それまでは、辰騎士団は独自の動きをさせて頂きます」
サテルが不服そうな顔をしながら、命令権が無い事も承知している為、引き下がり、自分の為に割り付けられた部屋に戻っていく。
「しかし、本気でやるんですか? 幾らヤマタノオロチとは、言え、一国の軍隊を相手にする事は、不可能な筈です」
ヒャクリの言葉にオクサが頷く。
「ですから、色々と下準備をしました。これだけは、信じて下さい、僕は、絶対にあなた達を無駄死にさせません」
その一言に騎士団のメンバーが頷いた。
その時、ミリオがイレブを引き連れてやってきた。
「どうして俺達を置いて行くんですか!」
不満げなミリオの言葉に、オクサが即答する。
「これは、レイ帝国の命運を懸けた仕事です。見習いを参加させる訳には、いきません」
ミリオが前に出る。
「俺達も、陛下の為に命を懸ける覚悟は、あります」
オリが無言で近付き、ミリオを殴り飛ばす。
「半人前が偉そうな口を叩くんじゃない! あたし達は、死なない覚悟もあるのよ! 一生懸命やれば良いなんて甘い考えの半人前についてこられたら迷惑なのよ!」
ヒャクリも冷たい目で告げる。
「私達の後ろには、多くの帝国国民が居るわ。簡単に死ぬわけには、行かない。それが実感できない貴方達は、一緒に戦う資格は、ない」
数人の騎士団員によって放り出されるミリオとイレブであった。
『全ての準備が終了しました』
クシナダの報告にオクサが頷く。
「辰騎士団、旗艦、ヤマタノオロチ出撃」
そして、首が巨大なアームになっている運竜モードのヤマタノオロチが、発進するのであった。
『ゴールドクロー王国軍の戦艦団を確認しました』
クシナダの報告に、ヒャクリが言う。
「ほぼ予測通りのタイミングですね」
オクサが頷き、告げる。
「当初の予定通り、秘密兵器を放出し、闘竜モードに移行、ドラゴンブレスで牽制して下さい」
抱えていた秘密兵器を放出し、闘竜モードに移行する。
「了解、ドラゴンブレスの照準密、出力五十パーセントまで絞り込み、武装及び推進機関を正確に。直撃は、不許可です」
『あっちは、本気に狙ってくるのに、きついですね』
クシナダの言葉が騎士団員総意だろう。
「相手に大量な死傷者を出したら、相手も引けなくなります。私達の目的は、あくまで、敵兵器開発の停止です。時間を稼げればそれで言いのです」
次々に放たれる、ドラゴンブレスが、敵の武装、推進機関を打ち抜いていく。
『敵第一陣の八十パーセントが戦闘不能になったと思われます』
クシナダの報告に、歓声をあげる騎士達を、ヒャクリがいさめる。
「残り二十パーセントが来ます。ドラゴンブレス照準急ぎなさい! 同時に第二陣に対して、攻撃開始。どれだけ、相手の有効射程に近づけさせないかで、勝負が決まります」
必死に照準を合わせていくブリッジクルー達。
『敵砲撃が、ヤマタノオロチのエネルギーシールドに直撃』
クシナダの報告を受けて、ヒャクリがオクサに視線で確認を求める。
「スケルシールド作戦を、開始して下さい」
オクサの言葉に頷き、ヒャクリが指示を開始する。
「ドラゴンエッグオープン。至急、防衛陣を敷いてください」
先程、ヤマタノオロチから放出された秘密兵器が、爆散して、その中から、特殊装備の辰騎士団の戦闘機部隊、カラーズドラゴンが出てくる。
『何人たりとも、ヤマタノオロチには、攻撃させない。体を張って防げよ』
特殊装備していないレッドドラゴンに乗ったオリが怒鳴ると、騎士達も声を上げる。
『俺達の盾は、抜けねえぜ』
そう言って、自分から敵の射線に入り込む。
次々と撃つ込まれる砲撃、その直撃を食らうカラーズドラゴン。
しかし、どの機体も無事である。
「成功みたいです」
ヒャクリの言葉にオクサが小さく安堵の息を吐いて、小さな声で呟く。
「ヤマタノオロチの特殊装甲、ドラゴンスケルを何重にも装備させて、ヤマタノオロチの盾にする。理論上は、大丈夫でしたが、それを実行できるのは、頼もしい部下が居るからですね」
ヒャクリが微笑み言う。
「全ては、アテナス騎士団長の作戦なら必ず生き残れると、信じているからですよ」
「アレロス副団長も必ずやってくれます。それまでの時間、お願いします」
ヤマタノオロチの圧倒的な数の差での、無謀とも思える戦いが続く。
「おまえがどうしているんだ?」
偽装したランドドラゴンスリーのブリッチでテンダが言う。
「それは、秘密です」
唇に指を当てて答えるマンカ。
テンダが眉間を引き攣らせると、マンカを持ち上げて、ブリッチを出る。
「つまらないざれごとは、止めて、本当の事を話せ。お前が強いことくらい知っているが、オクサが戦闘要員に入れるとは、思えない」
マンカがあっさり頷く。
「あちきは、いざって時の避難経路。いざとなったら異界経由で避難する為だけど……」
頭を掻きながらテンダが言う。
「本気で非常手段だな、下手したら、騎士達を異界に移住させる破目になる」
「そうだけど、命には、代えられないよ」
マンカの言葉に、テンダが遠い目をして言う。
「生きてれば良いって訳でもない。とにかくお前の出番は、最後の最後まで無しだ。最悪、一部の人間が死んでも、動くな」
「そんな事が出来るわけ無いじゃん!」
マンカが反論するが、テンダは、冷たい目で答える。
「俺の指示前に異界に連れて行ったやつは、この世界に戻っても日の目を見させる気は、無い」
「酷い!」
マンカが怒鳴るが、テンダは、相手にしない。
「アレロス副団長! 目的地に着きました!」
団員の一人が報告に来た。
「解った、突入班に準備を始めさせろ」
「了解しました」
テンダの命令に、即答し、動き始める団員。
不服そうな顔をしながらマンカが言う。
「よく、秘密兵器の開発場所が解ったね?」
テンダが肩を竦めて言う。
「そんなのが解るかよ。こちらが破壊工作を行おうとしてる事ぐらい気付いてる。万全な体制をとっているだろうな」
眉を顰めるマンカ。
「それじゃあ何処に向かってたの?」
テンダが笑みを浮かべて言う。
「だから、向うから来て貰う事にした。いま俺達が居るところは、相手が普段使っていないが、ヤマタノオロチの進行方向の正反対な所で、巳騎士団が流した操作情報では、偽目標には、かすりもしない所だ」
「詰り、相手が万が一の可能性を考慮して、こっちに問題の兵器開発の重要な物を移送する所を狙うわけ?」
マンカが驚いた顔をして言うと、テンダが深く頷き言う。
「こちらの諜報員を想定したダミー情報を逆利用して、妖しそうな所全てを襲う計画を漏らし、誘導するなんて、とんでもない作戦を思いつく、あいつは、本気で性格悪い」
苦笑しながらテンダが呟く。
「味方をするのも大変だが、絶対に敵にしたくないな」
そして、ランドドラゴンスリーの監視範囲をゴールドクロー王国の高度なステルス機能が装備された船が進んでいく。
「アレロス副団長から暗号通信。開発資料搭載艦の襲撃を完了」
ヒャクリの報告にブリッチに安堵の息が漏れたが、報告には続きがあった。
「研究素材自体は、ヤマタノオロチの進行方向の衛星の地下に封印されているとの事です」
「座標を急いで!」
オクサの言葉にヒャクリが操作し、マップに問題の衛星が表示される。
「ランドドラゴンスリーでは、無理ですね。アレロス副団長には、即時撤退の指示を」
ヒャクリが頷いて、通信が行われている間に、オクサが目を瞑り検討を開始していた。
「あの星、誰も居ないからクサナギの連射で破壊する?」
その言葉に、ヒャクリが驚く。
「マンカさんがどうやってここに?」
いつの間にかにブリッジに居たマンカが、唇に指を当てて答える。
「竜の秘術だよ」
オクサが苦笑しながら言う。
「態々くるという事は、何かあったのですか?」
マンカが困った顔をして言う。
「テンダさんが、あの衛星に少数での潜入爆破を企んでるの。止めさせて」
オクサが難しい顔をして黙ってしまう。
「それが最善かもしれません。こちらは、もう限界です」
ヒャクリがマップに映し出された状況を見て辛そうに告げた。
そこには、カラーズドラゴンの大半が特殊装備を失い、盾が皆無なうえ、敵による、包囲網が完成しようとしていた様子が映っていた。
「すいません、例の計画で救助をお願いします」
本当にすまなそうに、マンカに頭を下げるオクサ。
その時、マンカが少し呆然とした後、怒鳴る。
「クシナダ、時空間レーダー、チャック。答えは、不二子不二夫で!」
クシナダが、珍しく立体映像を弄らず、即答する。
『怪物くん、それもドラえもんです』
ブリッジクルーが首を傾げた時、問題の衛星の画像が白く輝く。
そして、衛星に望遠映像でも見える大穴が出来ていた。
意外すぎる光景に、誰も言葉が出ない時、クシナダが伝える。
『帝都からの特殊通信です。問題の兵器の開発は、不可能になった。これ以上の干渉は、せず、即時撤退をせよとの事です』
「どういうこと、現場の私達も状況がわかっていないのに、どうして帝都からそんな連絡がくるのですか?」
ヒャクリの極々当然の質問にオクサは、マンカを見る。
「詰り、怪物くんでドラえもんと言う事ですか?」
マンカも視線を逸らしながら言う。
「誰かまでは、知らないですけど、多分そういう事」
意味不明な会話にブリッジが困惑する中、オクサが指示を出す。
「カラーズドラゴンを収納後、即時撤退して下さい」
ヒャクリは、複雑な顔をしたが即時実行に移す。
「了解、カラーズドラゴンの収納を開始します」
そして、オクサが席を立つ。
「少し、お願いします」
ブリッジを出たオクサ、廊下の壁を叩く。
「これだけの危険を冒したのに、全てが失敗だと言うのか?」
「半分は、成功だと思うよ、今回の件は、神じゃない。八刃、キリナガレの本家筋が動いてるからね」
マンカの回答に、オクサが振り返る。
「半分という事は、残り半分は、失敗という事ですね」
マンカはあっさり頷く。
「あの光は、神の使徒の力を使ったもの。間違いなくその使徒を通じて、神々に終末の獣の情報が流れた筈。でも始末が終ってるから、それにどんな反応が来るかまでは、解らないよ」
オクサが、大きく深呼吸をして言う。
「まだ終わりでは、無いのですね。それでしたら出来るだけの事をするだけです。その為にも、ここは、逃げ切らないといけませんね」
その言葉に、マンカが首を傾げる。
「でもどうやって逃げ切るの? あそこまで包囲されていたら、逃げ切れないと思うけど?」
オクサがブリッジに戻りながら言う。
「今戦っているのは、辰騎士団だけじゃないという事です」
午騎士団旗艦、ブラッドホースのブリッジでは、人の姿をした竜の騎士団長、シングーが口から炎を吹きながら言う。
「辰騎士団のボケどもは!」
「団長、どうしますか?」
団員の言葉にシングーが忌々しげに答える。
「あいつ等が、こちらが用意した恒星破壊兵器の位置を敵に流した以上、それを警護して、撤退するしかない。陛下からのお言葉もある、レイ帝国の版図まで下がるぞ!」
そして、慌しく動き出す午騎士団であった。
「アテナス騎士団長殿、これは、どういうことですか?」
さっきまでゲストルームに居たサテルがブリッジに乗り込んできた。
オクサが困った顔をして言う。
「何のことでしょうか?」
サテルが激怒した表情で、広域マップを広げさせる。
「我々午騎士団が用意した、恒星破壊兵器の位置を、どうして敵国に通知したのですか?」
ブリッジのメンバーがざわめく。
「午騎士団は、目立つ我々を囮にして、自分達が保有する恒星破壊兵器を、持ち込もうとして居たのですか?」
ヒャクリが笑顔のまま聞くが、ブリッジの騎士団員の視線が冷たく、サテルに突き刺さる。
「とにかく、これは、明確な利敵行為です!」
ブリッジの視線を無理やり無視して、いきり立つサテルに、オクサが表情を変えず答える。
「すいません、まさか隠蔽しているとは、思いませんでした。当初の筋書き通り、恒星破壊兵器で脅すと言う話の為に、持ってきた兵器だと考えて、より効率の良い様に、相手側に恒星破壊兵器の存在のアピールをしたつもりだったのです」
サテルの顔が引き攣る。
「建前の言葉の意味を、知っていますか?」
オクサが頷き微笑み答える。
「ええ、しかし、建前でも我々辰騎士団だけを相手側に通知しているって事は、同じ騎士団の仲間としてありえないと、信じていました。そうでなければ、午騎士団が最初から辰騎士団を犠牲にして、目的を達成しようとしている事になりますから」
その一言が決定打だった。
これ以上、何かを言えば午騎士団が辰騎士団を捨て駒扱いしていた事になるのだから。
「お互い、誤解があったみたいで、後ほど正式に謝罪をさせて頂きます」
頭を下げるオクサ、そして騎士団長と言う自分より身分が高い相手に頭を下げられた時点で、これ以上の論争が出来なくなったサテルも頭を下げて、ブリッジを去る。
入れ違いに入ってきたオリが言う。
「あの様子じゃ、タイミングを見て、午騎士団の恒星破壊兵器の場所を密告して、こっちへ、向かっていた戦力を減らす作戦は、上手くいったみたいだな」
ヒャクリが苦笑しながら言う。
「ゴールドクローも、恒星破壊兵器を搭載したヤマタノオロチがあくまで進軍してくるならともかく、後退している中、他の恒星破壊兵器を無視するわけいかないのでしょう。こちらが再進軍してこないように牽制の兵力以外は、急いで他の恒星破壊兵器の牽制に向かった様ですよ」
騎士団達の尊敬の眼差しがオクサに集まる。
「全ては、アテナス騎士団長の筋書き通りです。無謀とも思える作戦を成功させる団長を持った我々に、怖いものなどありません」
ヒャクリの賞賛は、騎士団全員の賞賛であった。
しかし、オクサが顔の筋肉で無理やり笑顔を作るだけであった。
「今回の事は、迷惑かけました」
シャイニングドラゴン、ワンの自室で、一人の童顔の女性が頭を下げた。
『気にしないで下さい。こちらのこの時代にあれが流出したのは、こちらからの召喚が原因だったと、後の調査で解っている事ですよ』
ワンが答え、少しの話し合いの後、その女性の隣の立って居る年齢が全く解らない女性が言う。
「来たついでに一華ちゃんに会っていきたいけど、駄目よね?」
ワンが申し訳なさそうな顔をして答える。
『すいません養祖母様。一華には、私につき合わせる事になってしまって、申し訳ないと思っています』
年齢不詳の女性が言う。
「しょうがないわね、でも一人寝が寂しいからって万華ちゃんに手を出しちゃ駄目よ。近親相姦は、犯罪よ」
ワンがこけて大きな振動が起こった。
「もしかして、もう手を出してるの? 幾ら万華ちゃんが一華ちゃんに似てるからって、そんな背徳的な事は、いけないと思うわ」
その女性の言葉にワンが即座に立ち上がり怒鳴る。
『そんな事は、しません! 本当にどうしてそんな想像できるのか、養母様も不思議に思っていましたよ』
そんな下らない会話の後、二人の女性は、元の世界に戻っていった。
そして、奥の部屋からエースが現れる。
『相変わらず、竜を圧倒する存在感だな』
ワンも遠い目をして言う。
『あの二人に勝とうなんて、馬鹿げた妄想は、小学校の時に捨てたよ。化物揃いの八刃の中でも規格外と言われたお二人だからな』
『それでもあの二人より強い人が居たんだろう?』
エースが本気で信じられないという顔をするが、ワンが強く頷く。
『上には、上がいる。それより、これからの問題の話だ』
エースが憂鬱そうに頷く。
『また面倒な事になるな』