手が勝手に動くモンキー
今回は、殆どヤマタノオロチの出番無しです
「いまの我々の状態を君達は、理解しているかね?」
数少ない人間の十二支騎士団の幹部、申騎士団騎士団長、シック=ヘラクスの質問に副団長の一人、竜眼と尻尾を持つ竜人の女性、エイテ=アエロスが答える。
「辰騎士団が新しい旗艦を得て、十二支騎士団の中での地位を高めている状況は、問題です」
シックは、机を叩く。
「違う! そんな事は、どうでも良い! 一番の問題は、我々申騎士団がドラゴンロードに対するテロ行為に対して辰騎士団に遅れをとったという事実だ!」
その言葉に、エイテの隣に立つ、角を持った竜人、もう一人の副団長、ナイク=ハーデが不服そうに言う。
「それこそどうでも良いでは、ないですか。実際にドラゴンロードに被害が無く、我等申騎士団にお咎めも無かったのですから」
シックがナイクの顔を見て言う。
「テロの残党狩りの件で戌騎士団に居るお主の叔父上、ワンワ副団長にあった」
複雑な顔をするナイクにシックが続ける。
「自分の甥が無能ですいませんでしたと謝罪された。申騎士団が無能だと遠まわしに言われた様なものだ!」
悔しそうな顔をするが何も言い返せないナイク。
シックは、大きく息を吐いて、冷静さを回復させて言う。
「我々にとって急務は、ドラゴンロードの防衛が完璧であり、それを護るのが我々申騎士団だと言う事を証明する事だ」
「しかし、どうやってですか? 我々は、防御側ですので、目立った成果があがるものでは、ありません」
エイテの回答に、シックが一つの作戦資料を提示する。
「前々から内偵を進めていた、ドラゴンロードに対するテロ行為を企む、組織の詳細が判明した。我々は、その基地を強襲して、一網打尽にする。その際に辰騎士団に後方支援を依頼し、その支援が不要な事を証明する。作戦開始は、二週間後、それまでに完全な計画を作成して提出しろ。万が一にも辰騎士団の手を借りるような状況を作るでは、ないぞ!」
「「了解」」
シックの執務室を出た後、ナイクが舌打ちする。
「人間の分際で、偉そうに。自分のプライドの為に俺達が内偵していた手柄を辰騎士団に切り売りしやがって!」
「ナイク、言葉が過ぎます! 今回の件は、完全に私達の落ち度です。辰騎士団に関しては、何かしらの対応が必要でしたのは、確かな事実です」
エイテが咎めるとナイクが反論する。
「だからといって手柄を分けてやる必要は無いだろう! 同じ人間同士、馴れ合ってやがるんだ!」
「申騎士団にとっては、手柄よりもドラゴンロードの守護者としての立場の確保が重要です。団長がおっしゃるとおり、それが無ければ申騎士団の存在意味が失われます!」
エイテとナイクが睨み合うのであった。
「誰か、こいつの監視をしてろ」
テンダがマンカの襟首を掴んでオクサの執務室に入ってきた。
「どうかしたのですか?」
オクサが普通に聞き返すとテンダがマンカを指差して怒鳴る。
「こいつは、整備班と結託して、ランドドラゴンにおかしな装置をつけようとしていたんだ!」
マンカは、慌てて言う。
「おかしな装置では、ありません。小竜機関を応用した、ランドドラゴンで生み出したエネルギーをヤマタノオロチの龍神機関で増幅して返還する中竜機関をつけようとしただけです」
「だから、そーゆー非常識装備を勝手につけるなって言ってるんだ!」
テンダが怒鳴るとマンカが涙目になる。
「まあまあ、頭ごなしに言っては、駄目です。本人も悪気があったわけでは、ないのですから」
笑顔で仲裁に入るオクサにテンダが言う。
「勝手に変な装置をつけられたら苦労が増えるんだぞ」
オクサは、それに頷きながらもマンカに近付き言う。
「お気持ちは、感謝しますが、うちの経済状況はあまりよろしくありません。新しい装備をつけてもらってもその費用を払えるかどうか難しい所です」
丁度会計資料を持っていたヒャクリが断言する。
「絶対無理です。ヤマタノオロチは、特注部品が多く、どうしてもコストがかかってしまいます。この間のネックツーからファイブの修理にかなりの予算がかかり、ランドドラゴンの予備備品の発注も制限かけているくらいです。新装備を追加する前に、買わないといけないものが一杯あります」
オクサが苦笑いをしながら言う。
「このような状況なので、すいませんが、新装備は、もう少し余裕が出来てからにして頂けませんか?」
マンカは、涙を拭いながらも頷いた。
そして、ヒャクリが言う。
「ところで申騎士団との共同作戦の件は、お受けいたしますか?」
「申からそんな話しが来ているのか?」
テンダが聞き返すとオクサが頷く。
「ドラゴンロードに対して破壊行動を起こそうとしているテロ組織の情報を掴んだので、その壊滅作戦を行う上で後方支援をお願いしたいと」 マンカが申し訳なさそうな顔をして言う。
「また、ヤマタノオロチ狙いですか?」
テンダが手を横に振る。
「違う違う。申の奴等は、俺達にドラゴンロードの件で出し抜かれた事を逆恨みしてるだけだ。俺達の助けなんか要らなかったと証明したいんだろ」
「今回は、相手の顔を立てて後方で大人しくしていましょう」
頷きあう幹部連中にレッドドラゴンの改造案を蹴られたオリが溜息混じりに言う。
「そんなんだから、予算がないじゃないの?」
『どうしてお金の事を出したのだ?』
報告に来たオクサに対してエースが質問するとオクサが答える。
「彼女は、自分の持つ技術の価値を知りません。黙って居るのも、他人に言われたからであり、本人に自分の技術がこの世界に激震を起こすものだという認識は、皆無です。その状態で、技術隠蔽の事を言っても本人は、本当の意味で理解できません。逆にお金の事でしたら、本人も苦労しているので理解してくれる。それだけの事です」
エースが納得した顔をして言う。
『本当にお前が居てくれて助かる。それより、今度の申の件だが、申騎士団の相談役の竜から内密な要請があった』
オクサの顔を引き締まる。
「トラブルが発生しましたか?」
『直接関係は、無いが、申騎士団のドラゴンロードの職員との間に、不正なつながりがあり、内部監査を行っている戌騎士団にも目を付けられているらしい。今度の作戦を利用して、その膿を表に出して欲しいとの事だ。当然、最終的には、申騎士団内部で終るように』
エースのかなり無理がある要請にオクサは、あっさり頷く。
「了解しました」
エースが頭を下げる。
『お前には、苦労ばかりかけて、見返りは、殆ど与えられて居ない。申し訳なく思っている』
オクサは、首を横に振る。
「僕が今の地位に居られるのは、全てエース様の推薦があったからこそ。そうでなければ、人で、それも一般的には、無名な家の出身である僕は、いまだ騎士団の下端でした。しかし、騎士団長として陛下のお役にたっている。その見返りとしては、この程度の事は、不十分なくらいです」
そしてオクサは立ち上がり部屋を出て行くのを見送ってからエースが呟く。
『己を捨て、主君の為に泥を自ら被る。まさに騎士の鏡。レイン殿、貴方の高潔な思いは、彼に確かに受け継がれています』
『万が一、テロリストが我等申騎士団の包囲網を抜けた時は、よろしくお願いします』
申騎士団の旗艦、クレイジーモンキーのブリッチから騎士団長のシックがそう告げて、直ぐに通信をきってしまう。
「万が一にもこっちに敵を回すつもりは、無いだろうな」
テンダが呆れた顔をして呟くとオクサが苦笑して答える。
「相手にも威信がありますから。それより、準備は、良いですか?」
ヒャクリが頷く。
「はい。ドラゴンロードの職員の一人の抱きこみに成功しました。協力して下さった巳騎士団には、こちらの出番を作らせる工作の為と思わせられている筈です」
テンダが巳騎士団と取り交わした情報を見て言う。
「いっそのこと、本当にやっちまうか? ヤマタノオロチの性能があれば、一度騒動を広げた後の収束ぐらい可能だろう?」
同意の声が少し上がるが、オクサは何時もどおりの顔で答える。
「もし成功しても、巳騎士団に大きな貸しを作る事になりますよ」
そんなやり取りを見ながらマンカがオリに尋ねる。
「ねえねえ、さっきから話に出ている巳騎士団ってどんな騎士団なの? 他の騎士団の噂は、よく聞くけど、巳騎士団の噂って余り聞かないよ?」
オリは、汚いものを語るように答える。
「犯罪者騎士団だよ。何人もの犯罪者を抱える、十二支騎士団の暗部よ!」
眉を顰めるマンカ。
「どうして、そんな騎士団が存在するんですか?」
「魚は、清水には、住めない。やつらが、世界の裏の部分に顔を利かせているんだ。今回の件だって奴等の裏のコネを使った」
テンダがあっさりそういいながら立ち上がる。
「それじゃあ、野心家の副団長の役を演じてくる」
「頑張って!」
マンカが手を振って送り出す。
密かに、ドラゴンロード管理施設に入るテンダ。
「よくいらっしゃいました、アレロス副団長様」
手を擦り合わせる、ドラゴンロード管理施設職員。
竜人用の流動型椅子に座ってテンダが言う。
「こちらの要求は、解っていると思っているのだが如何かな?」
職員が頷く。
「了解しています。このドラゴンロードは、一度言った事がある場所だったら瞬時に移動できる魔法を習得した高位の竜が死に際に、その身を触媒として生み出す、瞬間移動ゲート郡です。この広域のレイ帝国にとっては、生命線と言っても他言では、ありません」
強く頷くテンダ。
「だからこそ、十二支騎士団の一つ、申騎士団が専属で警護している。しかし、奴等には、過ぎた任務だ。それは、前回のテロでも証明されている。ドラゴンロードを護る役目は、この辰騎士団こそ相応しいと思わないか?」
職員は、強く同意する。
「当然です。最新の戦艦を持ち、アレロス家とアポロス家の人間が副官を勤める辰騎士団こそ、ドラゴンロードの警護には、相応しいです」
「それでは、テロ組織の誘い込みは、頼んだぞ」
テンダの言葉に職員は卑しい笑みを浮かべて頷く。
「約束の物さえ頂ければ」
テンダは、希少鉱石が詰まったケースを見せる。
「成功したら、お前の物だ」
唾を飲み、その職員は、頷く。
「お任せ下さい」
職員が退室した後、対監視装置を確認してからテンダがケースを見ながら呟く。
「見せ金用にあの姫さんの研究材料借りてきたが、これ売れば、予備パーツの補充が出来るな」
大きく溜息を吐きテンダが言う。
「年がら年中、火の車の辰騎士団がこんな大金用意できるなんて本気で思ってる所で、甘い奴だな。問題は、繋がってる申騎士団の人間が確定出来るかどうかだな」
『辰騎士団のアレロス副団長からテロ組織をこのドラゴンロード施設に誘い込みの依頼が来ました』
テンダと会っていたドラゴンロード管理施設職員からの通信にナイクが邪悪な笑みを浮かべる。
「次の騎士団長に成る為の資金作りが出来るって事だな」
職員は、多少戸惑った顔をして言う。
『しかし、本当に宜しいのですか? これが成功してしまっては、申騎士団の汚点になりますが?』
ナイクは、余裕たっぷりな態度で言う。
「勘違いするな、この失敗は、全て、人間の癖に騎士団長をやってる愚か者の責任であり、申騎士団の汚点では、無い。資金調達と、騎士団長の汚点追加。まさに一石二鳥だな」
『なるほど。さすがは、ハーデ様。貴方こそ、申騎士団の騎士団長には、相応しいです』
ゴマすり職員の言葉に気を良くするナイクであった。
「申騎士団の包囲網に抜け道が出来ています」
ヤマタノオロチのブリッチで、ヒャクリが報告するとオクサが言う
「クシナダさん、全体図と申騎士団から提出された作戦スケジュールを表示して下さい」
『了解しました』
クシナダの立体映像が、地図を広げるとブリッチに作戦空域の全体図と各戦艦のスケジュールが表示される。
それを見て、ヒャクリが沈痛な表情になる。
「全体的に少しずつスケジュールの変更がされ、解りづらくされています。担当区域から判断してハーデ副団長がドラゴンロード管理施設職員と繋がっていると思われます」
オリが思わず立ち上がる。
「冗談だろう! 副団長がなんで、こんな真似をしないといけないんだ!」
「そうだよね、下端だったらともかく、副団長クラスだったら自分の汚点になると思うけど?」
マンカの言葉にオクサが普通に答える。
「ハーデ副団長殿は、全ての責任をヘラクス団長殿にとってもらうつもりなのでしょう。前回の失敗を含めて申騎士団としての弱体化は、間違いなく、騎士団長の更迭も十分に考えられます。もしかしたらそれが狙いなのかもしれません」
目の前の台を思いっきり叩くオリ。
「竜人としての埃も忘れた最低な奴! あたしが、行って成敗してやる!」
席を立つオリを苦笑して止めるオクサ。
「今回の作戦は、あくまで申騎士団が内部から問題点を発見させる必要があるので、すいませんが遠慮して下さい」
オリが不服そうな顔をする中、ヒャクリが全体図を見ながら言う。
「しかし、これは、あると思って探したから見つかったもの。そうでなければ、単なる連絡ミスや作業の遅れで済まされるレベルです。内部から発覚するとは、思えません。こちらから何かしら連絡する必要があります」
オクサは、あっさり頷く。
「確か、申騎士団のアエロス副団長とは、個人的にも知り合いでしたね?」
「はい。それでは、プライベートラインを使って忠告を入れます」
ヒャクリの答えに首を横に振るオクサ。
「違います。相談して貰いたいのです。アレロス副団長が独断でドラゴンロード管理施設職員と交渉して暗躍していると」
溜息を吐くヒャクリ。
「こちらの弱みを見せるのですね?」
オクサが笑顔で頷く。
「はい。それですから個人的にお願いします」
マンカがスリーナに小声で言う。
「オクサさんって実は、物凄く性格悪くない?」
スリーナが首を傾げる。
「そう? 何時も優しいよ」
『アエロス副団長、辰騎士団のアポロス副団長から個人回線で至急の連絡が入っています』
分離合体機能を持つ、クレイジーモンキーの分離機の一つを指揮していたエイテに戦艦の人工知能が報告する。
「こんな状況で何を? 一応は、聞いておいた方が得策ですね」
エイテが通信を繋げるように指示すると個人回線にヒャクリの顔が浮かぶ。
『この様な状況にすいません。しかし事は、緊急を要する事だったのです』
エイテが真面目な顔をして言う。
「本当に問題でしたら、この様な個人回線を使わず、旗艦同士の直接交信を行うのが筋では、ありませんか?」
ヒャクリは、困った顔をして言う。
『内密に処理をしたい事なのです。この会話も、ここだけの物にしていただけませんか?』
エイテは、即答する。
「内容によります。ヘラクス団長の判断が必要だと判断したら、ご報告します」
困惑した表情を見せるヒャクリ。
『しかし、この事実が明るみに出る事は、辰騎士団の問題になりまして。アポロス家との関係を考えていただけませんか?』
嫌悪の表情を浮かべるエイテ。
「家名を持ち出すとは、恥を知らないのですか?」
ヒャクリは苦笑をしながら言う。
『私は、今の辰騎士団が、アテナス団長の下で働きたいのです』
その一言が、エイテの琴線に触れた。
「報告をしないと約束が出来ないが、出来るだけ考慮させてもらう」
ヒャクリが嬉しそうに微笑む。
『ありがとうございます。実は、アレロス副団長が、ドラゴンロード管理施設に独断で入り、何か企んでいるようなのです。細かい動きまでは解りませんが、手柄を立てるための裏工作をしてる可能性が高いのです。人の団長の地位を奪い取ろうと申騎士団の一部の人間と内通して、何かを行おうとしているのかもしれません。そちらで妖しい動きが無いか調べてもらえませんか?』
机を叩くエイテ。
「ふざけないで! 申騎士団にそんな不心得物は、居ない!」
ヒャクリがそれでも引かない。
『アレロス副団長は、竜人の名家。家の威光を使えば、逆らえなくなる者も居る筈です。どうか内密に調査をお願いします』
そのまま通信が終る。
舌打ちして、暫く考えた後、小さく溜息を吐き、エイテが言う。
「アレロス家の名前を出されたら、従わないといけなくなる竜人は、大勢居ますね。至急、内部調査を」
エイテの指示に答え、人口知能が作業に取り掛かる。
結果は、あっさり返ってきた。
エイテは、信じられない物を見た顔になる。
「まさか、これでは、ハーデ副団長が協力している事に」
躊躇したのは、一瞬だった。
「アポロス副団長には、悪いが、報告しないわけには、行かない。ヘラクス団長に通信を繋げて」
直ぐに、シックとの通信が繋がる。
『どうした?』
エイテは、挨拶を簡単に済ませると状況を報告する。
シックは、明らかに不機嫌そうな顔をする。
『内容は、解った。ハーデ副団長の指揮権を現時刻もって一時凍結。その指揮権は、全てアテロス副団長に一任する。当初の作戦スケジュールに至急回復させろ』
エイテが敬礼する。
「了解しました」
『期待している』
シックの言葉にエイテの士気があがる。
「お任せ下さい」
通信が切れると同時に、席を立ち上がる。
「総員、至急、ハーデ副団長側のスケジュールの解析。スケジュール変更内容を通常スケジュールに移行する新スケジュールを作成しろ。時間は、無い。この穴からテロリストが抜け出たら我々申騎士団の面目は、丸つぶれだ! 申騎士団の威信にかけてテロリストは、壊滅させる」
「「「了解」」」
慌しく動き出す、エイテ指揮下の団員達であった。
『言い訳はあるか?』
シックの冷たい言葉にナイクが怒鳴る。
「これは、罠だ! 俺を陥れる為の罠だ! そうだ、アレロス副団長が、こっちの奴等を操ってこんな穴を作ったんだ!」
シックは、蔑みきった顔で言う。
『どちらにしろお前の失態だ。こんな穴を作らせたのだからな。処分は、追って通達する。お前は、後方で見学していろ』
通信が切れて、周りの団員達がざわめく。
ナイクが歯軋りをする。
「もう少しだったのに。人間の分際で! 主砲用意! 目標、愚かな人間の団長とそれを従う堕落した竜人副団長の戦艦!」
その言葉には、さすがに反論する直属の部下。
「お止め下さい! そんな事をすれば我々もただでは、すみません!」
しかしナイクは、止まらない。
「うるさい! もうどちらにしてもお終いだ! それならば奴等を道連れにしてやる!」
『後方より強力なエネルギー反応。辰騎士団の旗艦、ヤマタノオロチの副砲と思われます』
人工頭脳の報告に団員が驚く中、エネルギー弾は、ナイクの乗るクレイジーモンキーの分離機の直ぐ横を通り抜けていく。
即座に通信が入る。
『そこの申騎士団の副団長騎乗艦を偽ってる船、今のは、威嚇よ! 次は、直撃させるわよ』
辰騎士団のオリが好戦的な顔で告げた。
「こちらは、正真正銘の申騎士団、ナイク=ハーデ副団長の乗る戦艦だ!」
すると、今度は、ヒャクリが通信に出て言う。
『それは、おかしいです。ハーデ副団長の船は、もう後方に移動している筈です。こんなクレイジーモンキーを狙えるところに居る筈はありません。サポートを頼まれた辰騎士団としては、不測な事態、申騎士団の旗艦を狙える位置に所属不明艦が居る事には、対処させてもらっています』
睨み殺す表情をするナイクだったが、怒りを噛殺して言う。
「これから、後方に移動を開始する」
そして、ナイクの乗る分離機の主砲射程から旗艦が外れた。
申騎士団の作戦は、成功した。
完全にテロリストを壊滅し、成功を祝して、両騎士団の団長が会食を行っていた。
「余計な事をしてくれたな」
シックの不機嫌そうな言葉にオクサが困った表情をする。
「何の事ですか?」
シックは、忌々しげに言う。
「ナイク=ハーデは、元々内偵をしていた。こんな事をしなくても、近々免職する予定だった」
「すいませんが、言っている意味が解りません」
オクサは、普通に答えると舌打ちしてシックが言う。
「押し売りだが、買わされた以上は、代金を払ってやる。だが、次は、無いぞ」
シックは、一枚の紙を置いて席を立つ。
少し離れた位置で待機していたテンダがやってきて言う。
「さすがは、古参騎士団長殿、バレバレだったって事だな」
オクサは、紙を見る。
「正直、これで予備パーツが買えますよ」
そこに書かれていた金額を見てテンダが苦笑する。
「他の騎士団長殿もこのくらい気をきかせてくれればいいんだがな」
肩を竦めるオクサであった。