生まれを望まれるラム
遂にその姿を現す敵戦艦と辰騎士団の新旗艦。その力は?
反レイ帝国同盟との最終決戦が行われる直前、辰騎士団は、新しい旗艦になる新型戦艦の受け取りにロンに来ていた。
ロンに到着したテンダを迎えたのは、未騎士団副団長で、テンダとオクサの士官学校時の同級生、ファイ=ビーロスだった。
「随分とお疲れのようね?」
テンダが答える。
「ああ、やっぱり俺には、団長なんて向いてない事が解ったよ」
その言葉にファイが辛そうに言う。
「オクサさんの事は、悲しいことだったかも知れないけど、十二支騎士団に入ったときから死ぬ覚悟は、あった筈よ」
テンダが遠い目をして言う。
「まあな。しかし、あいつが自信たっぷり生き残るって言ったんだ、どうしても死んだとは、思えないんだよ」
ファイも遠い目をして答える。
「確かに、テンダが言った事は、何時も護っていたものね」
そこにマンカから通信が入る。
『遊んでないで、カラーズドラゴンの人達は、新しい艦載機を用意してあるから、慣熟訓練してて。他のメンバーも新型戦艦の変更点とかまとめてあるから、熟読しておいて』
淡々と言って通信を切るマンカに、オリが言う。
「所詮、マンカは、単なる研究者でしかなかったんだな。あれだけ仲が良かったスリーナが死んだって言うのに、平然と新型戦艦の製造を続けているんだからな」
オリの拗ねた態度にファイがきつい視線を向けて言う。
「言い過ぎよ。マンカ様だって、スリーナさんがヤマタノオロチと一緒に消えた事を聞いた時には、悲しそうな顔をして居たわ。それでも、自分は、新型戦艦を一刻も早く完成させる責任があるからって、作業を続けていたのよ」
オリが怒鳴る。
「結局間に合わなかったじゃないか! このまま奴等のとの戦いに間に合わなかったら、一生後悔し続ける!」
テンダが頭をかきながら言う。
「今は、信じるしか無いだろう、新型戦艦の完成が奴等の襲撃より先のことを」
帝都ゼロ周辺に配置された十二支騎士団の戦艦。
酉騎士団の旗艦、レッドフェニックスのブリッジでは、団長サーギが笑みを浮かべていた。
「作戦成功だな。辰騎士団の新旗艦は、どう頑張っても七十時間かかるという話で、反レイ帝国同盟の戦艦が来るのは、五十五時間後。その時点で十五時間タイムラグがある上、ロンは、ドラゴンロードから離れた場所にある。移動の時間を考えても、とうてい戦いが終わる前には、こちらに着く事は、不可能」
副団長ミミッツが頷く。
「それにもし間に合ったとしても、アテナス団長がいない辰騎士団は、恐れるに値しません」
高笑いをあげるサーギ。
「その通り。あの切れ者の若造が、散々こちらの策をすり抜けてきたが、最後の最後でこちらに命を預ける失策を犯した。所詮は、甘ちゃんだったな」
配置を確認して、サーギが言う。
「序盤は、寅と戌に任せて、敵が消耗した所で、我等がうってでる」
ミミッツが頷く。
「必ずや、敵の指令の首を我等酉騎士団が刈り取ります」
満身の笑みを浮かべサーギが言う。
「その首を陛下に献上する時が今から楽しみだな!」
更なる高笑いをあげるサーギであった。
そして運命の時が来た。
未騎士団が予測した地点に、巳騎士団が調べ出したタイミングで一隻の巨大戦艦が現れる。
同時に、その戦艦の周りには、今までとは、異なる形状をした戦艦が複数在った。
反レイ帝国同盟と十二支騎士団の最終決戦が始まった。
寅騎士団旗艦、ファイアータイガーのブリッジ。
「敵に準備をさせるな! 先手必勝だ!」
団長トリプの言葉に、騎士達が動き、得意の主砲タイガーファングの連射が行われた。
トリプもそれで決まるとは、思っていないが、相手の気勢をそぐ事が出来ると思っていた。
しかし、現実は、異なっていた。
「大変です、タイガーファングが全弾、弾き返され、味方に直撃しています!」
副団長、ルテットの報告に誰もが驚愕した。
「信じられません、敵の戦艦は、こちらの攻撃を全て、威力を減退させずに弾き返しています」
同じく副団長、カルテの言葉にトリプが叫ぶ。
「全艦緊急回避!」
反レイ帝国同盟、旗艦、グレードペガサスのブリッジ。
「ようやく再現できた、エネルギー弾反射装置、ミラーシールド搭載艦、ミラーウイングス、いい働きをしてくれるな」
マグレの言葉にイラターが頷く。
「このグレートユニコーンも含めて、あのドラゴンホーン基地の設備が優れていたからだよ。厄介なヤマタノオロチが自爆衛星と一緒に消えてくれた事は、本当に助かった」
マグレも少しつまらなそうに言う。
「本来は、こちらの技術を流出させないようにあの基地を破壊したかったんだが、ここで、敵の首根っこを押さえてしまえば同じ事だな」
管制官が報告する。
「敵、損耗率は、五%。しかしながら、大きくこちらと距離をとってきました」
マグレが口笛を吹く。
「いきなりの反射攻撃で、たった五%しか被害が出ないなんて、相手も中々やるね」
イラターが頷くが余裕を持って言う。
「しかし、ここで距離をとったのは、致命的だ。唯一の勝つチャンスを無くしたのだから。ペガサスウイング連続発射!」
イラターの声にこたえて、グレートペガサスの両翼に付けられた複数の砲門でのチャージ砲による連続射撃が、十二支騎士団の陣形に直撃していった。
「ミラーシールドに戸惑い、相手は、決定力が無くなった。そうなったら、接近戦で押し切るのが最善だったのに、いったん距離を開いた。その時点でこちらに攻撃の余裕を与えた。今の一撃で、こちらを押し切るだけの戦力も気迫も無くなったな。この戦争貰った」
戌騎士団の旗艦、ポリスドッグのブリッジ。
「被害状況を報告しろ!」
団長、ツーダの言葉に管制官が答える。
「大型艦の半数以上に着弾。うち一割が撃沈し、三割が戦闘不能、残りも攻撃力が半減しています」
ツーダが机を叩く。
「まさか、あれ程の攻撃力がある戦艦が来るとは……」
副団長、ワンワが言う。
「ここは、接近戦に持ち込むしかありません」
ツーダが首を横に振る。
「駄目だ、あの主砲を撃たれる前ならば、数で押し切れたが、こちらの主戦力の大型艦が削られた今、接近する前に撃沈される」
ワンワが舌打ちする。
「せめて、あのエネルギー反射する戦艦さえなければまだ、勝ち目があった筈」
ロンのドッグ内の施設で戦いの状況を見ていたテンダが立ち上がる。
「なんて兵器を隠してやがったんだ。こんな時に戦えないのかよ!」
オリが出口に向おうとするのを丁度来たファイが止める。
「何処に行くのですか?」
オリが強い意志を込めた目で答える。
「あたしの戦闘機であんな戦艦落としてやるんだよ!」
溜息を吐くファイ。
「少し考えてください。戦闘機だけで行ってもしかたないでしょう。それに今から言っても行った頃には、全て終わっています」
オリが睨む。
「だからって黙って待ってるなんて事が出来るかよ!」
テンダがファイの方を向いて言う。
「新型戦艦は、動かせないのか? ヤマタノオロチクラスのスピードがあれば間に合うかもしれない」
ファイが首を横に振る。
「全体的な調整に入っているから駄目なの。それが終わる時間は、五時間後の予定よ」
『残念だけど、どうやってもあと十時間は、ここから出発できないよ』
いきなりマンカの通信が割り込んできた。
「どういうことだ?」
テンダの質問にマンカがあっさり答える。
『だって乗組員が足りないもん。十時間後に不足分の乗組員も補充出来て、出港可能。本当だったら、移動したばっかりの人達の休憩時間が欲しかったんだけどね』
肩をすくめるマンカにオリが怒鳴る。
「休憩なんて言ってないで、そいつ等を急がせなさいよ!」
マンカが手を横に振る。
『無理だって、物理法則って物があって、移動には、それ相当の時間が掛かるの。根性等でどうにかなる物ではないよ』
正論であるがオリは、納得できない顔をする。
テンダも同じ様で新たな提案をする。
「その乗組員を無視して、ロンの住人から人数だけ集めるわけには、いかないのか?」
マンカが呆れた顔をする。
『民間の観光船じゃないんだよ。そんな事が出来る訳ない。第一、オクサさんが居ない今、あいつ等に勝てるの?』
その一言は、重くテンダとオリに突き刺ささり沈黙させた。
『とにかく、あと十時間我慢して、移動してきた人には、悪いけど、直ぐに出港出来る様にしておくから。それまでにちゃんと新型戦艦の担当箇所のマニュアルを読んでおいてね』
言う事だけ言って、通信を切るマンカ。
オリが、マニュアルを投げ捨てて言う。
「どうせオクサさんが居ない今、あたし達には、勝機が無いんだよ!」
テンダも重い溜息を吐き、マニュアルに目を通す。
「せめて自分の担当箇所を覚えておけ。万が一にも間に合う可能性があるからな」
そう言いながらもテンダは、信じていなかった。
この状況で十時間、そこから更に移動時間を考えたら、あの戦力差では、全滅するには、十分すぎる時間だったからだ。
十二支騎士団は、奮戦した。
通じないエネルギー弾の代わりに実態弾を大量投入して、ミラーシールド艦、ミラーウイングの破壊に挑戦するが、イラターもそれを読んで、射程が短い実態弾を撃つ為に接近した艦にペガサスウイングを打ち込み確実に戦力を減らしていった。
十二支騎士団は、同時に戦闘機を前面にだし、ミラーウイングへの接近戦を目論む。
その障害になったのは、マグレの駆るユニコーンであった。
数で圧倒的に不利な反レイ帝国同盟は、マグレが奇襲を続ける事で戦線を維持し続けさせたのだ。
その間にも、十二支騎士団の戦力は、減り続けるが、誰も諦めず、必死な抵抗が続けていた。
丑騎士団の旗艦ビックバファローのブリッジ。
「戦闘開始からおよそ十時間が経過した、このビックバッファローは、高い防御力ゆえに目に見えた被害は、無い。しかし、戦闘機の被害は、甚大だな」
団長クードの言葉に、一時的に戻ってきていた、戦闘隊長ミートが言う。
「はい。あのユニコーンの奇襲に、主だったメンバーが打ち落とされました。残った者で少しでも対抗できるのは、俺一人です。その俺も、落とされないで居るのがやっとです」
悔しそうな顔をし、ミートが続ける。
「せめて、辰騎士団のアポロス戦闘隊長が居れば、撃墜も可能かと思われますが……」
「居ないものの事を言っても仕方ない。今は、居る戦力でこの場を乗り切らねばならないのだ」
クードが重い口調で言う。
そして、戦況図を見て小さく呟く。
「こんな時、憎たらしい辰の小僧なら、逆転の一手を打てるのだろうな」
首を大きく振り苦笑する。
「死んだ者に頼るとは、弱気になったものだ」
気を切り替えるとクードが告げる。
「臆するな! 我等の後ろには、我等が護ってきた帝都がある。帝都に指一本触れさせない、それが我等丑騎士団の誇り。旗艦ビックバッファローをぶつけてでも、奴等をこれ以上先には、行かせないぞ!」
騎士達も奮起し、新たな戦いの闘志を燃やすのであった。
ロンで出港を待つ、新型戦艦のブリッジ。
「もう直ぐ十時間が経つが、補充の乗組員は、まだなのか?」
テンダの言葉にブリッジで最終調整していたマンカが首を傾げる。
「今、変なことを言わなかった?」
オリがマンカを睨み言う。
「補充の乗組員がもう直ぐ到着するって言ったのは、お前だろうが!」
マンカが手を横に振る。
「あちきが言ったのは、乗組員の補充が出来る。補充の乗組員なんて言ってないよ」
オリがマンカに掴みかかり言う。
「下らない事を言ってないで、どうなってるか答えろ!」
涙目になるマンカ。
「何を怒ってるの?」
ファイが慌てて間に入る。
「マンカ様に当たるのは、止めなさい」
暴れだしそうなオリをテンダが押さえつけ、代わりに質問する。
「とにかく、乗組員は、どうなっている。到着次第、直ぐに出たいんだ」
マンカが涙を拭いながら言う。
「後、十秒だよ」
そして指折りカウントダウンして、最後の人差し指でブリッジの奥を指差す。
「到着!」
大きな振動が起こり、そこのドアが開いて、乗組員たちが降りてくる。
「マンカ、あれ乗り心地が最低だよ」
そう文句を言うのは、スリーナであった。
そして、ヒャクリがマンカに一つの装置を渡す。
「はい、クシナダのメインコアです」
「待ってました。本当は、別の人工頭脳を載せる予定だったんだけど、状況が状況だからクシナダに頑張ってもらいますね」
マンカが受け取り中央の装置に接続を開始する。
オクサがテンダの前に立ち、頭を下げる。
「僕の不在の間の団長代行、ありがとうございました」
自分の席に着いていく後から来た乗組員達。
テンダが心のそこから怒鳴る。
「どうなってるのか、事情を説明しやがれ!」
オクサが首を傾げながらマンカに質問する。
「マンカさん、もしかして、グラビトンマスターの力を利用した、異世界経由する脱出装置の事を話していないのですか? 出口がこの新型戦艦のブリッジしかなく、移動スピードも遅く、時間が掛かるので、説明をお願いしていた筈ですが?」
マンカも思い出しながら、テンダの方を向く。
「あの時は、緊急でヤマタノオロチにしか秘匿通信出来なかったから、オクサに話した後、辰騎士団基地に居たエースさんに伝言お願いしといたよ。テンダさん達は、エースさんから何も聞いていないの?」
タイミングを合わせた様にエースから通信が入る。
『敵を騙すには、まず味方からって言うだろう。有能過ぎるオクサを嫌悪する勢力は、十二支騎士団には、多いからな。死んだと誤解させて、この非常事態に備えていたのだ』
テンダとオリ達、騙された辰騎士団メンバーの突き刺さるような視線を受けて慌ててエースが言う。
『状況は、切羽詰っている。すまないと思うが直ぐにも救援に来てくれ』
オクサが頷く。
「解りました。全員、急いで出港準備をお願いします」
「えー、少し休ませてくださいよ、あれ本気で乗り心地悪かったんだからさ!」
クレームを言うスリーナの頭をオリがはたく。
「緊急脱出装置に乗り心地なんてもんが考えられてるわけ無いだろう。命があっただけでも良かったと考えて働け!」
すっかりいつもの調子に戻ったオリ。
オクサの隣に立ち、テンダが言う。
「ここ数日ではっきり解った事がある」
「何ですか?」
オクサの言葉にテンダが笑みを浮かべて言う。
「俺には、団長の仕事なんて出来ない。退役するまでお前の下で副団長をする事に決めたよ」
その中、真剣な顔でファイが言う。
「しかし間に合いますか? これから帝都までの移動時間を考えると、かなり難しいと思われますが?」
それを聞いてオクサが難しい顔をする。
「そこまで切羽詰っているのですか?」
テンダが頷く。
「ああ、敵側の新兵器、エネルギー弾を弾き返すシールドを持つ戦艦に決定力を奪われて、完全に負けている」
重い空気の中、マンカが笑顔で言う。
「実験中の新装備使ってみる?」
複雑な顔をするブリッジメンバー。
オクサが嫌そうな表情を無理やり隠した顔で質問する。
「どんな装備ですか?」
マンカが嬉しそうに説明を開始する。
「新型戦艦の一番の特徴は、龍武装にあるの。ヤマタノオロチは、多目的用に変形機能を搭載したけど、あれって変形にかなりのロスがあったから、それを補う為に、内蔵した使いきりの特殊装備セット、龍武玉を発射、装備する事で、モード変換するんだけど、その中の一つに、空間移動用の物があるの。一応、小型船での実験は、成功してるよ」
ブリッジの中が物凄い複雑な空気に支配されるが、オクサが覚悟を決める。
「すいませんが、それをお願いします」
「了解。直ぐに準備するね」
マンカが嬉しそうに準備を開始するのを見ながらオクサがファイを見る。
「すいませんが、出来るだけの安全性の確認をお願いします」
ファイも疲れた表情で言う。
「努力するわ」
そして、新型戦艦の初陣の時が来た。
「辰騎士団、旗艦、レインボードラゴン出撃!」
オクサの言葉に答え、各員が動き、レインボードラゴンがロンのドックから出港する。
『各種装置順調に稼働中、エネルギー数値にも問題ありません』
クシナダが報告する。
そのクシナダの立体映像を見てスリーナが言う。
「服変わったのは、船が変わったから?」
マンカが首を傾げる。
「さー、あちきは、弄っていないから、後で本人に聞いて」
「下らない事を言っていないで、急げ、一刻を争ってたんだ!」
オリが文句言うとオクサが言う。
「すいませんがお願いします」
マンカが言う。
「了解、空転玉発射!」
『空転玉を放出します』
クシナダが報告し、ロンのドックから一つの玉が放出され、レインボードラゴンの前方に展開されていく。
『ドラゴンゲート展開』
展開された装備が大きな輪を作る。
「それじゃ行ってみようか!」
マンカの言葉にヒャクリが耐え切れずファイに質問する。
「失敗する可能性は、あるのですか?」
何かに祈っていたファイが言う。
「今回の転移距離は、まだ実験例がありません。理屈上では、成功する筈ですが、保障がないのです」
ブリッジ内の空気が凍りつき、全員の視線がオクサに集まるとテンダが怒鳴る。
「諦めろ、ここが正念場なんだ!」
オクサが祈りのポーズをとって言う。
「信じましょう。神は、正しい者を救います」
悲鳴があがる中、クシナダが報告する。
『ドラゴンゲートを通過します』
ゲート通過と同時に、消えていくレインボードラゴンであった。




