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業火を纏うタイガー 

騎士団同士の仲が悪いのは、お約束でしょうか?

「調査は、完了したか?」

 竜と同じ瞳をした強い意志を持った男の言葉に、クールな雰囲気を纏った秘書風の女性が答える。

「はい。辰騎士団が購入した新旗艦、ヤマタノオロチに関する現在解る限りの調査は、完了しました」

 男が促すと女性は、いくつかの資料を展開する。

「ネット通販で公開されていたスペックを満たすには、現存の技術では、不可能です。これは、未騎士団が保障しています」

「ハッタリか?」

 男の言葉に女性が、新たにいくつかの資料を展開しながら答える。

「一部のスペックに関しては、実証されています。特に主砲とされるクサナギの威力は、卯騎士団の観測結果によれば、想定されたスペック以上の数値を出していました」

 男は、舌打ちをする。

「現存の技術では、不可能な装備がどうして実在するんだ!」

 女性は、その怒りを予測していたのか、動揺せず答える。

「いくつかの可能性が考えられますが、一番高いのは、辰騎士団が密かに研究を行っていた可能性が高いです。辰騎士団は、表立った行動が少なく、予算は、多くないといわれていますが、今回のヤマタノオロチの購入も考え、裏でかなりの資産を持っていると考えられます」

 男は、苛立ちながらも思考して言う。

「一番簡単なのは、その開発を行ったという娘を捕まえて、裏の事情を吐かせる事だな」

 女性は、首を横に振る。

「それも残念ながら避けたほうが宜しいかと思われます。その少女は、陛下の血族です。公式には、何の権力もありませんが、もし何かあった場合、陛下の心証を大きく損なうと思われます」

 男が机を叩く。

「そんな事は、解ってる。あの昼行灯も手段を選んで居ない。正直に答えろ! もし同条件の場合、俺の戦艦で同等な事が出来るか?」

 女性は、少し思案をした後に答える。

「同数の敵艦を撃沈するだけならば可能かと思われます。しかし、僚艦を救う為に、近距離に接近した場合、戦闘機の数の違いが致命的です。勝率は、二割を切ると考えられます」

 男は、女性を睨む。

「詰り、俺の戦艦が最強では、無いと言う事だな?」

 女性は、答えないが、男は、続ける。

「そんな事は、認められるか! 陛下の配下で最強の戦艦は、常に俺の戦艦でなければいけないんだ! 至急、奴等の戦艦の秘密を暴きだせ。手段は問わない、人手と費用は、好きに使え!」

 女性が敬礼をする。

「了解しました、寅騎士団トリプ=ウラロス騎士団長」



『撃竜モードに移行終了しました』

 クシナダの報告にオクサが、ヒャクリとテンダ、両副団長に確認の視線を送る。

 二人が了解のサインを出した後、オクサが命令する。

「恒星破壊兵器、アメノムラクモ発射して下さい」

 ヤマタノオロチの八つの首をドーム状に展開して、作り上げた場にエネルギーの収束が発生し、それが首の展開と同時に開放される。

 それは、普通のエネルギー弾とは、違い低速で進んでいく。

 本来ならば、緩みが発生してもおかしくない状況にも関らず、ブリッチには、物凄い緊張が高まっていた。

 数時間という長い時間をかけて恒星に到達したエネルギー弾は、一瞬で消滅した様に見えた。

「失敗か?」

 テンダの声には、失敗にも関らず喜びの感情が含まれていたが、ヒャクリがそれを否定する。

「恒星の連鎖崩壊を確認。恒星が爆発します」

「篭竜モード緊急移行!」

 オクサの言葉の返答すら行われず、ヤマタノオロチのモード移行が始められる。

 八つの首に当るパーツでボディーを覆ったその少し後、恒星爆発に伴う衝撃波がヤマタノオロチを襲った。



 凄まじい衝撃だったが、全員が対ショック装備をしていた為、負傷者は、居なかった。

「一つ聞いていいか?」

 陰険な目付きでテンダがマンカに問いかける。

「何でしょうか?」

 マンカが今さっきのテスト結果を確認しながら聞き返すとテンダが引き攣った笑顔で尋ねる。

「どうして恒星破壊兵器なんて装備させたんですか?」

 マンカは視線を泳がせ、助けを求めるが、誰も視線を合わせないので諦めた表情で言う。

「新式の恒星破壊兵器の理論が思いついちゃったから」

 高らかに笑うテンダ。

「そうか思いついたからか。それは、良い」

 ひとしきり笑った後、オクサの傍により真剣な表情で耳打ちする。

「やっぱり事故に見せかけてこの戦艦は、この宇宙から抹消しちまおう」

 オクサも苦笑いをする。

 その中、恒星を破壊すると言う大規模なテストの為に立会い役になった未騎士団の副団長の角だけを持つ竜人の女性、ファイ=ビーロスが言う。

「それにしても、今までは、巨大な専用艦でないと搭載出来ない恒星破壊兵器をこのサイズの戦艦に搭載されているのは、驚きです」

「新技術って凄いですね」

 オクサが朗らかな笑顔のまま答える。

 それに疑いの視線を向けるファイは、テンダの方に視線を向ける。

 テンダは、視線すら合わせないので、ファイが溜息を吐いて言う。

「仕官学校時代から変わりませんね。本当に大切な事は、その笑顔で覆い隠してしまう。どうせどんなに問い詰めても真実は、教えてくれないのですね」

 オクサは、申し訳ない顔をして言う。

「すいません、何分、ただ戦艦を買い取っただけで、それに使われている技術料まで手が回らなかったのです」

 ファイが強い視線で言う。

「費用でしたら、未騎士団の方で何とかしても構わないと言われています」

 必然的にマンカに視線が集まる。

「あの、色々と企業秘密な物で、公開出来ないんです」

 完全ないい訳だが、彼女の立場、皇帝陛下の血族と言う事を考えれば、十二支騎士団の幹部が無理強いは出来なかった。

 苦々しそうな顔をするファイにマンカが慌てて言う。

「小竜機関でしたら、送受装置両方のサンプルを提供します」

 その内容にファイが思案して答える。

「解りました。今回は、それで引き下がりますが、次に来る時にももう少し譲歩して頂きたいものです」

 その言葉にヤマタノオロチのブリッチ全体で安堵の息が漏れた。



『結局は、どうなった?』

 辰騎士団の基地の奥、相談役のエースの質問にオクサが答える。

「ヤマタノオロチのいくつかのモードに関しては、制限がかけられました。撃竜モードについては、皇帝陛下の許可書が無い限り、移行自体が禁止。闘竜モードもドラゴンロード近隣や、民間人が居る場所での主砲の使用には、他の騎士団の副団長以上の承認が必要という決定です」

 エースが頷き質問を続ける。

『妥当な所だな。それよりも提供した小竜機関だが、大丈夫なのか?』

 オクサが頷き、答える。

「はい。使われてる技術自体は、現存する技術のみです。ただ、発想が異世界の物なので、再現するには、時間が掛かると思います」

 エースは、渋い顔をして言う。

『解っていると思うが、同じ十二支騎士団相手でも異界の技術の存在と有効性が発覚する事は、危険だ。異界との交流は、大きく世界を変動する。あいつがそれでどれ程苦労したか。レイ帝国の安定の為にも頼んだぞ』

「この命に代えましても」

 頭を下げるオクサであった。



 オクサが執務室に戻るとその前で、テンダが待っていた。

「寅がもう動き出した」

 オクサは、頷き執務室に入るとそこには、トリプと話していた女性が居た。

「これは、寅騎士団のカルテ=ネプーチュ副団長殿。どの様なご用件ですか?」

 笑顔で質問するとカルテが答える。

「ご協力をお願いしたく来ました」

 その一言に何故か執務室に居たオリが噛みつかんばかりの表情で言う。

「十二支騎士団の中でも一番好戦的って言われている寅騎士団が他の騎士団に協力をお願いするなんて何の冗談?」

 オクサが視線でカルテの相手をしていたヒャクリにオリの抑制を指示する。

 ヒャクリも慣れた感じで頷いて、オリの口を塞ぎ、執務室を出て行く。

 代わりにテンダが入ってきたのを確認してから頭を下げるオクサ。

「すいません。お互いに色々誤解があるようで。それで協力とは、何でしょうか?」

 カルテは、全く気にした様子も見せず、一枚のスペースマップを広げて言う。

「今、我々は、大規模な海賊ギルド壊滅作戦を行っています。すいませんが、さすがに手数が足りない為、お手をお借り出来れば更なる成果が挙げられると考えられています」

「なるほど、海賊ギルドの撲滅は、確かに重要な任務。ご協力致します」

 カルテが頭を下げる。

「ありがとうございます。協力して頂く必要上、私が、そちらの艦に同乗させて頂きます」

「そんな態々副団長のお手を煩わせるわけには行きません。そちらの連絡員を数名派遣して頂くだけで結構です」

 笑顔で返すオクサに首を横に振るカルテ。

「ご協力を頂くのにそんな失礼な事は出来ません。どうぞよろしくお願いします」

 オクサは、テンダが少しだけ視線を合わせた後に言う。

「解りました。そこまで仰って下さるのでしたらお願いします」

 頭を下げるオクサ。

 その後細かい打ち合わせが終えて、カルテが一時的に寅騎士団の基地に戻っていく。

 そしてヒャクリとオリが執務室に入ってくる。

「何のつもりでしょうか?」

 ヒャクリの言葉にテンダが答える。

「間違いなくヤマタノオロチの性能調査だ。そうでなければあのトリプが他の騎士団に手柄を分けるか。下手をすると、罠を張ってヤマタノオロチを拿捕する可能性もあるな」

 ヒャクリが眉を顰める。

「幾らなんでも同じ十二支騎士団相手にそこまでしますか?」

 テンダは頷く。

「トリプの陛下への忠義心は、疑うところは、無い。だが、その忠義心の高さを証明する為に手柄を常に求めている。あいつにとっては、常に陛下の一の臣下で無いといけないんだろう。はなから設計思考が異なる旗艦の中で自分のファイアータイガーこそ最強と自慢しているのがその証拠だ」

「やけに詳しいわね?」

 オリの言葉に肩を竦めるテンダ。

「お前が疎いだけだ。それよりどうする。事が事だけに協力を引き受けたが、緊急の要件をでっち上げてボイコットした方が良いと思うぞ」

 オクサは少し考えた後答える。

「今逃げても、次の機会に移るだけです。ここは、素直に協力しましょう。騎士に召集をかけて下さい」

 その一言で全てが決まったらしく、次々に動いていく。



「それでは、今回の戦闘は、海賊退治がメインなんですか?」

 マンカの質問に頷くスリーナ。

「そうみたい。うちでも時々やるけど、ここまで大規模なのは、珍しいよ」

 仲が良い二人が話しているとテンダが割り込んでくる。

「相手の副団長が乗り込んでくるんだ、余計な事は、喋るなよ」

 睨んでくるテンダに萎縮するマンカをフォローする様にスリーナが言う。

「余計な事って何ですか?」

 テンダが視線をそらすとそこにオリとヒャクリが居た。

「そこよ、オクサもあんたも、何か隠してるでしょ?」

 オリの言葉にテンダがあっさり頷く。

「ああ。機密事項だから言えないがな」

 不満そうな顔をするオリに代わり、ヒャクリが続く。

「同じ副団長の役職に居る私にも秘密にしなければいけないことなのですか?」

 その返事は、予測されていたのか、テンダがあっさり答える。

「俺も最初から聞かされていた訳じゃない。問題に成る事が解っていたから、ストレートに聞いた。貧乏くじだったがな。機密は知るものが少ないほうが護りやすい。オクサの苦労を減らしたかったら余計な詮索は、するな」

 そのままテンダがその場を離れる。

「偉そうにして、何様のつもりよ!」

 オリが文句を言うとヒャクリが溜息を吐きながら言う。

「先任で、副団長ですから本当に偉いのですよ」

 オリは、ヒャクリの方を向いて言う。

「あいつが気付いたんだ、ヒャクリもある程度の予測は、出来るんじゃないの?」

 ヒャクリは、マンカを見て言う。

「彼女の秘密は、ある程度は、理解しています。そしてヤマタノオロチの技術の出所が探られる事を問題視しているのも。解らないのは、どうしてここまで秘密にしないといけないかです。彼女の秘密に関るものでしたら、外部は、ともかく十二支騎士団内でしたら殆ど公然の秘密になっている筈。それなのに今のところ、ヤマタノオロチの秘密を知る人間は、団長にアレロス副団長そして、彼女だけです」

 スリーナが普通に質問する。

「ヤマタノオロチに秘密があるの?」

 マンカは困った顔をする。

「うん。勉強した場所は、教えたらいけないって、向こうの人にも、こっちの人にも言われてる。それより、ご飯を食べに行こう」

「そうだね」

 マンカとスリーナが離れた後、オリが言う。

「あいつが言ってる場所って何処だと思う?」

 ヒャクリが難しい顔をして言う。

「もしかしたら、帝都の秘密研究機関か何かかもしれないわ。彼女は、そこでヤマタノオロチの技術を習得したとしたら、あのオーバースペックも納得できます」

 首を傾げるオリ。

「でもあいつがどうして、そんな研究機関の技術を習得できるんだ? 単なる田舎娘だろ?」

 その言葉にヒャクリが少し慌てて言う。

「そうか、オリは、知らないのね。そうね、別に知らなくてもいい事よね。正直、私も気付かなかった方が良いと思った事だから理由については、気にしないで」

 眉を顰めるオリ。

「お前まで秘密にするのか?」

 苦笑をしながらヒャクリが言う。

「オリの行動を考えると、とても真実を教える度胸はないの、ごめんなさい」

 辰騎士団の幹部なのに、事情を殆ど知らない、ある意味幸せなオリであった。



 海賊達が身を隠す、廃棄されたコロニー。

「一つ聞いていいか? 何で俺達にそんな情報を流す?」

 海賊ギルドの幹部である、片翼の竜人の男、イレブの言葉に、寅騎士団の基地で準備をしている筈のカルテが答える。

「我々寅騎士団は、辰騎士団の失敗が欲しいのです。今回の計画は、最初から成功するとは、考えていません。失敗の原因を辰騎士団に押し付ける事が目的です」

 少し思案するイレブ。

 海賊にとっては、どちらも敵の十二支騎士団だが、皇帝直属と言う特権による自由度故に、手柄の取り合いが激しいのも常識で、彼自身、同時に襲撃を受けた所を、足の引っ張り合いで難を逃れた経験があった。

「そっちのメリットは、解った。しかしこっちのメリットは無いと思うがな?」

 壊滅作戦の事前情報それ自体がメリットとも思われるが、あえてイレブが突っ込む。

「我々、寅騎士団が動いた以上、一隻も海賊艦を捉えられないなんて失態は、許されません。そう例えば貴方が次のギルドマスターになるのに邪魔な長尾のブレイを捉えれば、十分な功績でしょう」

 邪悪な笑みを浮かべてイレブが聞き返す。

「お互いに敵の敵は、味方って事で良いんだな?」

「その通です。深い洞察力に感銘いたしました」

 頷くカルテに馬鹿笑いをあげるイレブであった。



 数日が経ち、寅騎士団と辰騎士団の合同の海賊ギルド壊滅作戦の準備が終了していた。

「又、改造されてるな」

 テンダが、送られてきた寅騎士団の旗艦、ファイアータイガーの外見を見て言うと機密の維持の為とネットから独立した情報媒体で作戦内容を持ってきたカルテが答える。

「常に最善を尽くせるように、考えられる最高のスペックを満たしています」

「正直、うらやましいです。我が辰騎士団は、目立つ成果が少なく、予算が少ない為、その様な改造計画は通せません」

 ヒャクリが言うとカルテは苦笑をして言う。

「ご冗談を、このヤマタノオロチの様な最新鋭艦をお持ちの騎士団の予算が少ないなんて事は、ありません」

 それに対してオリが言う。

「マンカが世間知らずだったんだよ。普通に見積もってたら、どうやってもウチの予算じゃ買えなかったな」

 強く頷くヒャクリ。

「今も、成果実績支払いという事で追加支払いを行っていますが、次の支払いの予算繰りに苦労しているところです」

 オクサが笑顔で礼を言う。

「そこにこの協力依頼。渡りに船とは、この事です。感謝しています」

「そうですか、そう言っていただけるとこちらも助かります」

 微笑み返すカルテ。

 そんな風景を見てマンカが小声でオリに言う。

「騎士団同士の共同作戦って、何時もこんな腹の探りあいなの?」

 オリが詰まらなそうな顔をして答える。

「まーな。これでもうちは、良い方だ。一度、寅と戌との共同作戦をやったが、その時は、各団長と副団長が集まったブリッチは、完全に冷戦状態で、噂では、その時のブリッチ要員は、ミッション終了後、ストレスで入院したって話だぞ」

「団長、俺は、ランドドラゴンワンからスリーで後方待機に移るぞ」

 テンダの言葉にオクサが近付き頭を下げる。

「すいませんがお願いします」

「今回は、出番は、ないだろうがな」

 テンダが、そう言ってオクサの隣を通り過ぎる時、オクサのポケットから何かを抜き取った。

 それは、オクサの体が死角になり、他の誰にも気付かれる事は、無かった。

 唯一、その渡された物に入れられた情報を作ったヒャクリだけは、雰囲気からそれを察知していた。

 オクサは、艦長席に戻り告げる。

「全システム、帝都標準時に時間調整して下さい」

 クシナダが立体映像で柱時計の針を合わせる。

『全システム、帝都標準時に合わせました』

「これより送るタイムスケジュールに沿って、作戦行動に移ります。総員、第一種戦闘体勢に移って下さい」

 各自が、安全装置をつける。

 作戦開始時間を待った。



 寅騎士団、旗艦ファイアータイガーには、作戦開始時間を待ちきれない様子の男、トリプが艦長席に座っていた。

「さて、奴等は、どこまで使えると思う?」

 トリプの言葉にカルテの兄で、もう一人の寅騎士団の副団長、ルテット=ネプーチュが答える。

「相手は、人間の分際で騎士団長になったオクサです。多少は、ピンチを演出できましょうが、それまでです。最後は、我々が直接動く必要があるでしょう。奴等は、陛下にご報告する為の張子の役目をしてもらえれば十分でしょう」

 頷きトリプが言う。

「負け犬の報告には、意味が無く、死人は、何も語らないからな」

 その言葉に、ブリッジの騎士達は、鳥肌を立てた。



 闘いの口火を切ったのは、ファイアータイガーの主砲であった。

 海賊達が潜むコロニーの中心部に直撃、たった一撃で、そのコロニーに致命的なダメージを与えた。

 次々とコロニーから逃げ出していく海賊達を寅騎士団の戦艦が包囲し、砲撃を仕掛けていく。

 しかし、その包囲には、明らかな穴があった。

 コロニーが廃棄になった原因である大惨事で生み出されたスペースデブリ(宇宙に漂う残骸)が漂う空間には、寅騎士団の包囲が無かった。

 我が先へとその領域に逃げ出す海賊達であった。



「作戦は、上手く行っているようですね」

 ヤマタノオロチのブリッチでカルテが告げるとオクサが頷く。

「完全に包囲せず、故意的に穴を作ってそこに誘導する。有効な作戦です」

 大きな残骸に龍神機関を停止して、海賊達がスペースデブリに入り、回避行動が行えなくなるのを待った。

 そして、試算された時間通りに海賊の大半がスペースデブリに入り、オクサが龍神機関を始動させようとした時、それが起こった。

 ヤマタノオロチのブリッチが大きく揺れる。

『ネックスリー(八つある首みたいな所で、ワンからエイトがある)に着弾確認!』

 驚いた顔をしてクシナダが報告する。

 ヒャクリが信じられない顔をして周囲の地図を展開する。

「まさか、敵が居ない事は、調査済みだった筈です」

 ブリッチに緊張が走る中、クシナダの報告が続く。

『ネックツー・フォー・ファイブにも着弾確認。なおも敵の物と思われるエネルギー弾は迫ってきます』

「龍神機関、緊急始動、エネルギーシールド展開して下さい」

 オクサが冷静に告げると、クシナダとブリッチスタッフが、急ぎ対応して、新たな着弾が発生する前にエネルギーシールドの展開を終了した。

「母竜モードに移行後、戦闘機発進。優先目標は、隠れていた敵戦力の撃破です」

『母竜モードへの移行を始めます。しかし、先程の着弾で、発進設備が故障、ネックツーからファイブは、使用できません』

 クシナダの報告にヒャクリが戸惑う中、オクサは、すぐさま戦闘機に乗るオリの通信を繋げる。

「使える発進口は、四つです。判断は、任せます」

 その言葉にオリが真剣な顔をして頷く。

『了解。まかせろ』

 通信が切れると同時にオクサが言う。

「被害状況を急ぎ確認、急いでダメージ対応班を向かわせて下さい」

 ヒャクリが頷き、クシナダとやり取りして、明確なダメージを算出し、部下に指示を出していく。

 その中、困惑した表情でカルテが言う。

「どういうことでしょうか? 居ないはずの敵からの攻撃。もしかしたら自動防衛装置か何かの可能性は、ありませんか?」

 オクサは、首を横に振る。

「そんなものが生きていたら海賊達は、逃げてきません。間違いなく海賊の戦闘機もしくは、戦艦が隠れていたのです」

 カルテは、断言された事に驚き言わなくても良い事を口にする。

「こちらの警戒に気をつけて潜んでいるとしたら、海賊達がこっちの作戦を知っていた事に」

 何も答えないオクサにカルテは、自分の失言に気付く。

 そして確信した、攻撃が行われた時点でオクサは、自分達が作戦をリークしている事に気付いていると。



「ブルードラゴンの発進は、中止、火力が優先だ! 最初にイエロードラゴンワンからフォーを出して、周囲のデブリを物体弾で吹っ飛ばしてやれ! その後、レッドドラゴンワンからフォーが出る。グリーンドラゴンは、その後、全機体発進。これ以上ヤマタノオロチにダメージを追わせるな!」

 オリの指示にメカニックスタッフ・パイロットが、壊れた発進口から漏れる熱風に滝のような汗をかきながらも答えていった。



「ネックツーからファイブのダメージは、深刻です。作戦中の機能回復は不可能です」

 ヒャクリの言葉にブリッチが沈む中、オクサが言う。

「まだ、半分残っています、ネックツーからファイブは、諦めます。被害の拡散だけ抑えてください。戦闘機の発進が終了後、闘竜モードに移行して下さい」

「了解、ダメージコントロール班、機能修復は、放棄。損害が大きい場所に関しては、切り離しを許可します」

 その言葉を待っていたとばかりに、ヤマタノオロチの首のパーツが次々と強制切り離しされていく。

『戦闘機の発進が終了しました』

 クシナダの報告にヒャクリが言う。

「闘竜モードに移行します」

 闘竜モードに変形していくヤマタノオロチだったが、半分の首が動かず、そのままであった。

『海賊が射程距離に入りました』

 クシナダの報告にオクサが告げる。

「隠れた敵は、オリ戦闘隊長に任せています。我々は、こちらに向かって来る海賊艦を落します。ドラゴンブレスの照準を開始して下さい」

「了解」

 そして残った四つのドラゴンブレスで出来るだけ多くの海賊艦を捉える為、ヒャクリ達が急ぐ。



『戦闘隊長、敵戦力が多すぎます!』

 オリが操るレッドドラゴンワンにデブリに隠れていた三隻の海賊戦艦とそれに搭載されたかなりの数の戦闘機と交戦していた、イエロードラゴンから通信が入っていた。

「絶対、情報漏れてた! でなければこんなに大戦力をデブリに隠している訳ない!」

 オリが怒鳴りながらも、自分達の不利を悟っていた。

 戦闘機同士のやりとりだったら負けるつもりがないオリだが、戦艦が三隻となると使用可能エネルギーに差がありすぎるのだ。

『ヤマタノオロチに援護を頼むべきです!』

 部下の言葉に、オリは、首を横に振る。

「それは、駄目。ドラゴンブレスの数が半分になって海賊の接近までに蹴散らせる可能性は、低くなってる。この状態でこっちに援護をしたら間違いなく、相手の有効範囲まで接近される。そうなったら負けよ! ここは、あたし達に任されたの。あたし達で切り抜けなきゃいけないの!」

 その時、ヤマタノオロチから通信が入る。

『忙しいところすいません』

 マンカからの通信に眉を顰めるオリ。

「いま忙しいから後にしてくれない!」

 マンカは、少し怯んだが続ける。

『ドラゴンブレスが四門使えない状況なんで、ヤマタノオロチの出力にも余力があります。今だったら、こないだの技が使えると思いますが、どうしますか?』

 その一言に、目を輝かせるオリ。

「グットタイミング! いまこそあれの使い時よ! やっちゃって!」

『解りました。レッドドラゴンワンの小竜機関にピンポイントエネルギー供給を開始します』

 オリの乗るレッドドラゴンのエネルギー数値が異常に高くなる。

「行くよ! 食らえドラゴンホーンアタック!」

 エネルギーシールドを最大にしたオリのレッドドラゴンワンが海賊戦艦に体当たりをかましていく。



「カッコイイ!」

 レッドドラゴンワンの体当たり攻撃を見ていたスリーナが歓声を上げ、カルテが驚く。

「体当たりなんて、あれでは、パイロットが助かりません。辰騎士団では、そんな戦法をとるのですか?」

 ヒャクリが首を横に振る。

「平気です。高密度のエネルギーシールドを張ってありますので、機体には、ダメージはありません。過去に他の騎士団でも検討されていましたが、エネルギーがもたないので、採用されてなかったのを、小竜機関と言う、外部エネルギー供給システムを使うことで可能にしたものですから」

 息を呑むカルテ。

「あれが実戦導入可能ならば、どんな強固な戦艦でも落せます、とんでもない装置です!」

 苦笑するオクサ。

「残念ですが、実戦導入は、まだまだ先です」

「しかし、実際にいま使われているでは、ないですか!」

 カルテが二隻目に海賊戦艦に向かうレッドドラゴンワンを指差す。

「あれをやると、ヤマタノオロチのエネルギーが足らなくなるんです」

 マンカが溜息を共に言うと、ヒャクリが釘を刺す

「マンカさんは、実戦データの収集に集中して下さい」

 しかし、カルテが理解してしまう。

「なるほど、確かにあれだけのエネルギーを使用していては、この戦艦のエネルギーでも供給が追いつかないって事ですね?」

 オクサがあっさり頷き言う。

「今回は、副砲のドラゴンブレスが半分使用できない状態なので、そちらに回すエネルギーを送っています」

 そんな話をしている間にも、オリは、海賊戦艦を全て撃沈してしまう。

「後は、このまま海賊艦をここで足止め出来れば我々の勝利です」

 オクサの言葉にヒャクリ達、ブリッチクルーも安堵の息を吐いた。

 半分になったとは、いえ、強力なドラゴンブレスでの連続攻撃は、相手に接近を許さなかった。

『僚艦、ファイアータイガーが海賊艦を後方に移動を完了しました』

 ヒャクリが、寅騎士団の配置を確認しながら言う。

「色々トラブルがありましたが、作戦通り、完全に包囲は、完了しました。作戦は、成功です」

 歓声があがったその時、ブリッチに振動が襲う。

 ヒャクリが慌てて、攻撃元を調査し、信じられないという表情で報告する。

「攻撃元は、ファイアータイガーです」

 ブリッチに驚きの声があがり、一斉にカルテに視線が集まった。



『話しが違うぞ!』

 ファイアータイガーのブリッチのスクリーンに激怒したイレブの顔が映っていた。

「どう違うのですか?」

 ルテットが質問を返すとイレブが怒鳴る。

『お前達は、俺達に逃げて欲しかったのだろう! 何で攻撃してくるんだ!』

 トリプは、肩を竦めて言う。

「ああ、だが、お前等は、結局逃げられずそんな所に残ってる。残っている以上、撃墜するしかないだろう。本当に残念な事だ」

 その態度にイレブは、気付いた最初から予定だという事に。

『貴様嵌めたな! 絶対に復讐してやる!』

 尚も何か言おうとしていたが、通信は、切られる。

「主砲が制限ある以上、副砲さえ黙らせてしまえばあの数の海賊艦を止められないと思ったが、戦闘機の性能で切り抜けやがった」

 トリプの言葉に、ルテットが言う。

「潜んでいた海賊戦艦に対する反応が早かったです。最初から情報が漏らされる可能性も考慮していたのでしょう」

 トリプが舌打ちをする。

「前々から思って居たが食えないやつだ。しかし、この状況でファイアードラゴンの主砲を防ぐ術は無いだろう。動けなくした後、回収してじっくり調べさせて貰う」



「仕方ない事です。こちらの攻撃力が低下していて、海賊艦に逃げられる可能性がある以上、こちらに多少のダメージがあるとしてもファイアータイガーの主砲で海賊艦を確実に静めていくしかないと判断したのでしょう。安心して下さい。同じ十二支騎士団の戦艦を沈めるなんて事は絶対にありませんから。修理につきましても寅騎士団が保有するドックで新品同様にしてみせます」

 カルテの言葉に言葉を無くすヒャクリ。

『その修理で、こっちの戦艦の機能を盗み出すつもりなんだろうが!』

 オリがクシナダの協力でブリッチ一杯まで映像を広げて怒鳴るとカルテが苦笑して言う。

「おかしな物言いですね? 同じ騎士団の中でどうして秘密を持たないといけないのですか? それが有用な技術ならば共用すべきでは、ないでしょうか?」

 正論の為、オリもヒャクリも反論できない。

 カルテが勝利の笑みをオクサに向けたが、直ぐに困惑した。

「そうですね。確かに逃げられる可能性があるのでしたら、確実に沈めなければ帝国民に被害が出る恐れがありますね」

 オクサが何時もと同じ笑顔で答えた。

 カルテは、困惑の中、慌てて頭を下げる。

「ご理解、感謝致します」

 しかし、オクサは、言葉を続けた。

「逆を言えば、逃げられる可能性がなければこれ以上、戦闘を続ける必要はないと言う事です」



「どうしてお前達がここに居るんだ!」

 トリプの言葉に相手、隻眼の竜人、戌騎士団の副団長、ワンワ=ハーデが答える。

『予定外の事態が発生した為の辰騎士団騎士団長からの正式に救援依頼に、偶々傍に居た我々が答えただけの事です』

 提示された電子書類には、一箇所の不備も無かった。

 トリプは、歯軋りをして答える。

「了解した。救援に感謝する」

 そして通信を切って目の前のディスクを叩く。

「あんな完全な書類が直ぐに出来るわけ無い! 奴等は、最初からこちらが裏切る事をみこして、いつでも救援を呼べる状況を作ってやがったんだ!」

「攻撃を中止しますか?」

 ルテットの言葉にトリプが怒鳴る。

「イレブの奴の船だけは、確実に沈めておけ! その後、包囲を一気に縮め、海賊達を確保しろ! 戌の奴等に手柄を奪われるな!」

「了解しました」

 そして、ファイアータイガーの放った最後のエネルギー弾は、仲間を売り、のし上がろうとした哀れな海賊をこの宇宙から消滅させた。



「他の十騎士団宛に様々な状況の救援要請書を作りましたが、本当に使うとは、思いませんでした」

 ヤマタノオロチの修復作業の監視をしながらヒャクリが呟く。

「一応味方相手に下手な事が出来なかったからな、後方待機にかこつけて、周囲に他の騎士団が来てないか調べてたんだよ」

 テンダが、報告書を書きながら答える。

「それで、偶々通りかかった戌騎士団に救援頼んだの。いきあたりばったりな作戦だね」

 こっちも報告書を書きながらオリが言うとテンダが呆れた顔をして言う。

「本気で偶々通りかかったって思ってたのか? 寅が何か企んでいたのは、明らかだったからな、戌の奴等も隙あらばちょっかいかけようと狙ってたんだよ」

 そんな様子を修復データの纏めをしながらマンカが聞いて言う。

「十二支騎士団って本気で仲悪いんですか?」

 苦笑する報告書作成の監視役のオクサ。

「皆、偉大なる皇帝陛下に少しでも多く貢献したいと考えているのです。行き違いは、仕方ない事です」

「それで行き違いの結果がこの報告書の山な訳だね」

 マンカの言葉に、大きく溜息を吐くテンダとオリ。

「寅や戌の奴が嫌がらせとばかりに変な報告するから、こっちが山ほど報告書作成するはめになっちまったんだから仕方ないだろう!」

「ただ体当たりかましただけで、その時の状況報告書を何十枚も書かせるなんて、未の嫌がらせよ!」

 効率よく書類整理を終えたヒャクリとオクサは、今だ、先の見えない報告書と戦う二人を生暖かい目でみるのであった。

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