爪を振り上げるタイガース
最終防衛ラインを貫こうとする寅騎士団。そしてオリとマグレの再戦です
最初の防衛ラインを打ち破り、十二支騎士団は、敵の最終防衛ラインに迫っていた。
ヤマタノオロチのブリッジ。
「亥騎士団の働きで、反レイ帝国同盟が態勢を整え終わる前に第一防衛ラインを突破できたのが効いているのです。チャージ砲は、有利ですが、それは、チャージ時間があればの話。準備を整えていた第一防衛ラインと違い、それ以降の防衛ラインでは、第一防衛ラインでの敵の動きを見て、チャージ砲の準備を行う予定だった筈。その予定が崩れた以上、数で勝る十二支騎士団が有利なのは、必然です」
オクサの言葉にヒャクリが頷く。
「それに申騎士団が、ドラゴンロードを確保しているおかげで、被害艦の撤収と増援が滞りなく行えるのも大きいです」
テンダが戦況図を見ながら言う。
「しかし、最終防衛ラインは、流石に簡単に突破させてくれそうも無いぜ。特に面倒なのがこいつだ」
テンダがアップした画面に映るのは、マグレが操るユニコーンだった。
「あれが縦横無尽に戦場を駆け、連携に重要な戦艦を潰していく。本来なら、そんな戦闘機が近づく前に迎撃しなければいけないこっちの戦闘機がまるで相手になってないからな」
『安心して、今度こそあたしが撃墜するから』
オリからの通信にテンダが釘を刺す。
「勝算は、あるのか? 無いんだったら、あれを無視して、こっちの航路確保に動いて貰うぞ」
オリが拳を握り締めて答える。
『この熱い魂がある限り絶対に勝つ!』
ヒャクリが深い溜息を吐く。
その時、ミリオ達の同期で、整備方面に入った騎士、ツェンが割り込んできた。
『勝算は、あります。アポロス戦闘隊長が乗るレッドドラゴンは、ただのレッドドラゴンじゃないんですから』
「どういうことですか?」
オクサの質問にツェンが説明を開始する。
ドラゴンホーン完全制圧作戦の準備に騒がしい整備部にオリが来ていた。
「あたしのレッドドラゴンの修理は、間に合わないのか?」
「そんなレベルじゃない。フレーム自体に損傷があり、全改装する必要がある。はっきり言って、新しい機体に乗り換えた方が早いぜ」
整備班長の言葉に舌打ちをするオリ。
「解った、予備機をあたし用に改装するのは、間に合うな!」
整備班長は、頭をかきながら言う。
「正直、時間的に余裕が無いが、何とかしてみせるよ」
その時、マンカが顔を突っ込んでくる。
「どうせ新しい機体を使うのだったら、新型戦艦用の艦載機を使ってみる? 元々、新型戦艦の出港前にテストを済ませるつもりで、戦闘機自体は、ある程度完成しているの。これがレッドドラゴンの後継機、レッドドラゴンウイズブレイドだよ」
マンカが手を振ると、そこに一機の戦闘機が現れる。
周囲の驚きの声を無視してマンカが説明を開始する。
「基本コンセプトは、レッドドラゴンと一緒だけど、各種能力は、レッドドラゴンの戦闘データから格段アップしている筈。一番の特徴は、全ての防御を貫通する近距離用エネルギーナイフ、ドラゴンブレイドだけど、これは、テスト不足だから実戦で使うのは、止めた方が良い」
整備班長が機体を確認しながら言う。
「機械的な問題か?」
マンカが手を横に振り、細かいスペック表を見せる。
「機械的には、テストでも問題なし。ただ、エネルギー使用が激しすぎて、エネルギーシールドに使うエネルギーまで使っちゃうの。こればっかりは、テストを重ねてエネルギーバランスを調整しないと駄目なの。だから練度をあげるテスト中は、意識的に使ってくれると助かる」
スペック表を見ながら整備班長が言う。
「確かにな、そういうのは、出力をあげたりさげたりを機械的にしても意味が薄い。実際動かして必要なエネルギー量のデータを貯めるしかないな。しかし、これだけのスペック向上が出来てるんだったら、確かに予備機を使うより良いかも知れないな。アポロス戦闘隊長どうする?」
オリは、新型機、特にブレイド部分を見て答える。
「これが良い。直ぐにテスト出来る様にして、あいつとの再戦前に乗りこなしてやるから」
「今、アポロス戦闘隊長が乗ってるのは、レッドドラゴンより格段上の機体、レッドドラゴンウイズブレイドなんです。勝算は、十分にあります」
ツェンが説明を終えるとテンダがオリに怒鳴る。
「新型艦載機の情報が何でこっちに流れていないんだ!」
オリは、視線を逸らして答える。
『まだ、テスト中だったから報告するまでも無いと思ったのよ』
ヒャクリが真剣な目で言う。
「未完成のドラゴンブレイドを使うつもりですね。私達に報告したら、ドラゴンブレイドを使用できないようにブロックが掛かると踏んで報告しなかった。違いますか?」
双子の鋭い指摘に怯むオリにテンダが睨みつける。
「馬鹿が、雑魚相手にするんじゃないんだぞ! ユニコーンを相手に不安定な新兵器が通用すると思ってるのか!」
オリがテストデータを送り、主張する。
『テストでちゃんと証明されてる。ドラゴンブレイドだったらあいつのシールドを破れるって!』
テンダが素早くデータをチェックして返す。
「確かに、この数値が示すとおりなら破れるだろうな。しかし、テストと同じ数値が実戦で出せるかどうかは、別の話だ! それに、使用中のエネルギーシールドは、最終調整後でも一割以下、とても実戦で使えるレベルじゃない!」
『攻撃を食らわなければ良いんです! 団長、お願いします』
オリがオクサを見つめる。
短い沈黙の後オクサが答える。
「解りました。しかし、少しでも不調が発生したら即時帰艦してください」
オリが笑顔になる。
『了解しました』
オクサも笑顔で続ける。
「それと、報告の不徹底に対する処罰で、減俸二割を三ヶ月です」
オリの顔が引きつる。
『あたしこの間、新しいバイクをローンで買ったばっかりなんですけど、まかりませんか?』
ヒャクリも笑顔で答える。
「まかりません。新兵器の情報を隠蔽して、それだけで済んだのですから団長に感謝して下さい」
助けを求めるように他のメンバーを見るが誰も当然と言う顔をするのでオリが言う。
『良いもん、あいつを倒し、今回の撃墜王になって、ボーナスを貰うから!』
緊張したブリッジに僅かに微笑が戻ったが、クシナダが焦った顔で報告する。
『ユニコーンが来ます。狙いは、間違いなくこのヤマタノオロチです』
オリが闘志を剥き出しにして言う。
『今度こそ決着つけてやる!』
「ヤマタノオロチの運命を預けます。頑張って下さい」
オクサの言葉にオリが頷き、新しい愛機で宿敵の下に向うのであった。
ヤマタノオロチが誇る、カラーズドラゴン部隊もマグレが操るユニコーンの前では、足止めすら出来なかった。
「この程度か、あいつも出てこない。これで何度も邪魔してくれたあの戦艦を沈められる」
マグレがヤマタノオロチに照準を合わせようとした時、エネルギー弾が迫ってきた。
即座にかわし、発射方向を探査するすると、今までの機体と異なる機体が来た事に気付いた。
「新型機か。もしかしてあいつか?」
その言葉に答えるようにオリが通信を入れてくる。
『待たせたみたいね、これがあたしの新しい愛機、レッドドラゴンウイズブレイド。前回の借りは、きっちり返させてもらうからね!』
マグレは、笑みを浮かべて言う。
「望むところだ!」
こうして両者のドッグファイトが始まる。
二人の戦いは、単純であった。
ユニコーンのシールドが向いていない場所にオリが照準を合わせられるかどうかであった。
両者は、急旋回と加速減速を繰り返す。
「機体性能は、格段上がっているが、練度が低い。その機体の限界値を見切れていないな。それで勝てるつもりか?」
マグレの余裕の発言にオリが答える。
『こっちは、あんたみたいな成長しないおじさんと違ってこの戦闘中もレベルアップしてるのよ!』
ユニコーンにエネルギー弾がかすめる。
「単なる強がりじゃないみたいだな。しかし、成長を待ってやる程、甘く無いぞ!」
マグレは、一気に加速すると急旋回して、無理やり射線を合わせる。
『耐えろ!』
オリが叫び、レッドドラゴンウイズブレイドのエネルギーシールドで僅かに方向をずらされたユニコーンのエネルギー弾が機体を削る。
「パワーアップしたエネルギーシールドもあるが、咄嗟に最低限の回避運動を行ったか。流石にやるな」
マグレが笑みを浮かべてユニコーンのシールドを向けて機体を交差させて横を抜けようとした時、レッドドラゴンウイズブレイドの近距離用エネルギーナイフ、ドラゴンブレイドが発動する。
ユニコーンのシールドを切り裂きユニコーンの機体に大穴を空けた。
しかし、その時に発生した爆発の影響を受けてレッドドラゴンウイズブレイドもダメージを食らう。
両者が一度、大きく距離をとり、お互いの機体の状況をチェックする。
「ユニコーンのシールドを破るエネルギーナイフか。凄まじい装備だが、使用中は、エネルギーシールドが殆ど無効になるみたいだな」
『だから? そっちだってそのシールド部以外は、エネルギーシールド持って居ないじゃん。様は、当たらなければ良いだけの話よ!』
オリが強がり、マグレも高笑いをして言う。
「そうだ。そんな射程が短い兵器、二度と当たらないぞ」
『絶対に当ててみせる』
こうして二人の第二ランドが始まる。
寅騎士団帰艦、ファイアータイガーのブリッジ。
「チャンスだな」
寅騎士団長トリプ=ウラノスの言葉に副団長の一人、ルテット=ネプーチュが頷く。
「あの厄介な戦闘機を辰騎士団が相手をしている今なら最終防衛ラインを貫けます」
トリプが立ち上がり命令を下す。
「デスドッグシップをファイアータイガーの前に展開しろ!」
トリプの命令に答えて、騎士達が動き、今まで戦闘をせずにファイアータイガーの後方に居た船がファイアータイガーの前、敵戦艦の前に出る。
そして、反レイ帝国同盟の最終防衛ラインに正面から突入する。
当然、集中砲火、特に必殺のチャージ砲が迫る。
しかし、ファイアータイガーのブリッジは、落ち着いていた。
データを確認しながらもう一人の副団長、カルテ=ネプーチュが報告する。
「予定通りの効果が上がっています。このままいけば、こちらのタイガーファング有効範囲まで、犬死部隊が保ちます」
苦笑するトリプ。
「少しネーミングを間違えたな、陛下に逆らった屑でも、盾としては、役立ったのだ、有効な死だろう」
デスドックシップ、寅騎士団が今回の戦いの為に用意した一切の攻撃装備を持たない代わりに強力なエネルギーシールドを持った船。
しかし、それに乗るのは、十二支騎士団の騎士でも軍人でも無かった。
帝国に逆らったゲリラや海賊、寅騎士団が捕虜として捕らえていた人間で、船のコントロールは、全てファイアータイガーが握っていた。
実質上の捕虜を使った人間盾、それがデスドックシップである。
そして、デスドックシップが撃沈した時には、ファイアータイガーの射程距離であった。
「タイガーファングを連射しろ! ここを突き破って一番乗りだ!」
トリプの命令に答えて連射された主砲、タイガーファングは、反レイ帝国同盟の最終防衛ラインを崩壊していくのであった。
オリとマグレの戦いは、決定打のないまま続いていた。
高ぶるマグレの下に最終防衛ラインが破られたと報告が入る。
目の前に居るオリのレッドドラゴンウイズブレイドを見つめ、苛立ちを我慢しオリに通信する。
「お前にここまで時間を取られた所為で最終防衛ラインを破られた以上、俺の負けだ。これで一勝一敗一引き分け、次こそ勝負の時だ」
そして、シールドを後方に展開してマグレが一気に加速して戦線を離脱していった。
ヤマタノオロチのブリッジ。
「後一歩だったのに!」
オリが悔しそうに歩き回っていた。
テンダが呆れた顔をして言う。
「そういう台詞は、もう少し機体損害を少なくしてから言え、よく戻ってこれたな?」
ヒャクリも頷く。
「整備班長がぼやいていましたよ、折角の新型機のパーツが足らないからレッドドラゴンのパーツを流用するはめになったって」
オリが拗ねた顔で言う。
「あっちだって同じ様な状態だった」
オクサが笑みを浮かべて言う。
「とにかく、アポロス戦闘隊長がユニコーンを押さえていたお蔭で最終防衛ラインを突破出来ました。後は、ドラゴンホーン基地を制圧するだけです」
テンダが拳を握り締めて言う。
「こっからは、俺の出番だな。前回みたいな失敗は、しない。必ず敵の大将を捕まえて戻ってくるぞ」
オクサが頷く。
「信じています」
こうして、戦艦同士の宇宙戦は、終わり、ドラゴンホーン基地での白兵戦が始まろうとしていたのであった。




