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命を懸けるオックス

ヤマタノオロチ無し、懐かしの場所が登場です

「今回の一件の原因は、全部、辰騎士団の先行だな」

 寅騎士団長、トリプの言葉にオクサは、反論しない。

 しかし、奥に控えていた皇帝ワンが言う。

『原因究明等している時間があるのか?』

 辛辣な言葉にトリプが黙り、ワンが戌騎士団長、ツーダに視線を向ける。

『奴等から、一週間以内にドラゴンボーン基地を奪回する事は、可能か?』

 ツーダが拳を握り締め、血を垂らしながらも答える。

「不可能です。ドラゴンボーン基地は、周囲の天然の防壁があり、相手戦艦の修理も可能。時間をかければ幾つかの方法がありますが、一週間という短時間で落す方法は、ありません」

 ワンが他の騎士団長を見るが、誰も答えられない。

 ワンは諦めた顔で言う。

『私が動く。その間の帝都の護りを任せたぞ』

 亥騎士団長、ゴーノが頭を下げて言う。

「汚名返上のチャンスを下さい。必ずや、ドラゴンボーン基地を奪還して見せます」

 ワンが冷たい目線で言う。

『解っていると思うが、奴等の存在を長期間放置する訳には、行かない。間違っても長々と戦う等、許されない。戦うのなら、一戦で全ての決着をつけなければいけないのだ。お前等にそれが可能なのか?』

 誰も答えられなかった。

 騎士団長を務める人間には、誰もが今回の不利が手に取るように解った。

 短期決戦する為には、圧倒的な軍事力を展開する必要があるが、ブラックホールと彗星群が点在する天然の防壁を持つドラゴンボーン基地は、不向きなのである。

 そして、少数精鋭で攻め込むには、相手の戦艦の性能が高すぎる。

 天然の防壁か性能差をどうにかしない限り、短期決戦は、不可能なのだ。

 そして、ワンならば、そんな常識を覆す力を持つことも確かである。

 しかし、ワンを戦わせるという事は、十二支騎士団にとって自分達の存在意義を失うことに成るのだ。

 オクサが一歩前にでて言う。

「今すぐ方法を提示しろと言われても不可能です。それでも我々には、ワン様の代わりに、奴等を討つだけの力があります。三日だけ時間を下さい。その間にただ一度の戦いでドラゴンボーン基地を奪還する方法を生み出します!」

 他の騎士団長達も頷いた時、空間がゆがみ、マンカが現れる。

「ただいま、キリナガレの本家と話をしてきたよ。キリナガレダンジョンにある例の物の貸し出しだけど、こっちの世界の人間でアタックするなら良いってさ」

 その言葉にワンが安堵の息を吐く。

『そうか、本当に良かった』

 話しが解らない一同を代表して、子騎士団長、イムが言う。

「何のお話しをなさっているのですか?」

 マンカが笑顔で答える。

「キリナガレ本家から、ブラックホールを一時的に無効にするアイテムの貸し出しが許可されたの。これで、問題の基地に攻めるのがぐっと楽になるはずだよ」

 その一言に騎士団長達の顔に生気が戻る。

 そして、ワンが騎士団長達を見渡し告げる。

『お前達の態度を見させてもらった』

 再び暗くなる騎士団長達にワンが続ける。

『自分の分を理解し、そして進み行こうする意思は、見事だ。蛮勇を誇るな、自分の力にあった戦い方を見つけ、目的を達成する、それこそがお前達に必要とされるものだ』

 一斉に頭を下げる騎士団長達。

「丁度よく集まってるからお願いがあるんだけど、キリナガレダンジョンに行く時の荷物持ちを貸して欲しいの。荷物持ちって行っても、場所は、危険だから肉弾戦が可能な人限定だよ」

 申騎士団長、シックが質問する。

「どの様に危険な場所なのですか?」

 マンカが遠い目をして言う。

「モンスターが跋扈する、ゲームのダンジョンみたいな場所。戦闘要員は、あちきと後、二名だよ」

「お前は、戦力になるのか?」

 そう言って現れた人型の美青年に頭を押さえられながらマンカが言う。

「うーんと、本格的な戦闘は、エースさん達にお任せ」

「お前は、もう少し鍛錬を積んだ方が良いぞ」

 青年が答えるのを見て、午騎士団長、シングーが言う。

「まさか、エース様ですか?」

 青年、エースが頷く。

「まーな、キリナガレダンジョンは、狭いから、人の姿じゃないと不味いからな」

「最後の一人は、私ですよ」

 そう言って、エースの後ろから現れたのは、ほんわかした黒髪の女性だった。

 少し沈黙の後、丑騎士団長、クードが慌てて駆け寄る。

「いけません! そんな、皇后陛下、イチカ様にそのような真似をさせられません!」

 その女性、イチカが困った顔をする。

「しかし、キリナガレダンジョンのモンスターは、本当に強いの。竜でも突破は、難しいのよ?」

 クードは、それでも頭を下げて言う。

「それでは、どうか我等に先鋒を勤める名誉をお与え下さい」

 イチカが助けを求めるようにワンを見る。

『この為に眠りから覚めて貰ったが、彼等にもチャンスを与えてやってくれ』

 ワンの言葉にイチカが頷く。

「解りました。あなた達に先に戦う任務を与えます。しかし、危なくなったら直ぐに後退する事。それだけは、守って下さい」

 クードが頭を下げる。

「その使命、一命に代えましても全うさせて頂きます」

「命懸けじゃいけない気がする」

 マンカの突っ込みは、エースに適切な対応で黙殺される事になった。



 丑騎士団基地。

「万が一にも皇后陛下を戦わせる事は、許されんぞ!」

 クードの言葉に、丑騎士団の精鋭達が頷く。

 その様子を見ていたマンカが言う。

「意気込むのは、良いけど、シミュレーションをクリアしないと参加不可だよ」

「クリア出来る人いるかしら?」

 マンカと一緒にシミュレーション装置の改造を行った、未騎士団副団長、ファイの言葉に、マンカに一度会った事がある為、お世話役を任された、丑騎士団、戦闘隊長ミートが顔を引き攣らせて言う。

「そんなにハードなのですか?」

 ファイが頷く。

「掛け値なしで、竜でもクリアが不可能ね」

 冷や汗を垂らしながらミートが言う。

「死力を尽くします」

 結果、シミュレーションをクリア出来たのは、ミートを含む、若干十五名であった。



 帝都でも、最深部に属する場所にある、異界の門の前にマンカ達が居た。

 エースが、丑騎士団達のメンバーを数えて言う。

「よく十五名も残ったな」

 マンカが半ば呆れた表情で言う。

「ファーストアタックで突破したのは、一名だけ。後の面子は、観てる方が止めたくなるような死の連続チャレンジでクリアしてた」

「私は、三回目でクリアしました」

 ミートが大きな斧を背負いながら現れた。

 そして、イチカが現れると、丑騎士団の中から、角と尻尾を持つ竜人が出て頭を下げる。

「今回、皇后陛下の先鋒を預からせて頂く事になりました、丑騎士団副団長、ムート=アレタスと申します」

 イチカが微笑みを浮かべて答える。

「よろしくお願いします」

「我等の身命に代えましても、皇后陛下には、お手を煩わせる事は、しません!」

 ムートの答えに、苦笑するイチカ。

「貴女達は、皇帝陛下の大切な臣下、不要な犠牲を出すわけには、行きません。帝国の為にも生きて下さい」

 イチカの言葉にただただ頭を下げるムート。

「行くよ!」

 マンカの言葉に、イチカが頷く。

「マンカ、お願いね」

 そして、イチカを筆頭に、キリナガレダンジョンに向かうマンカ達であった。



『いらっしゃい! 当ダンジョンは、初心者大歓迎、ポイントカードも導入してますが、カードを作りますか?』

 空中に浮かび、のうてんきに話しかけてくる女性に人型のエースが頭を押さえながら言う。

「お久しぶりです、八子様」

『あら、久しぶりね、疾風のエースさん』

 女性の言葉にエースが顔を真っ赤にして言う。

「そういう若い時の失言をばらさないで下さい!」

 ミートが小声で質問する。

「何ですか、あれ?」

 マンカがポケットからポイントカードを出しながら言う。

「一華さんのお祖母さんの人格をコピーした人工知能で、このキリガクレダンジョンの管理をしているの。はいポイントカード」

 空中に浮かんだ八子モドキがそれを確認して答える。

万華マンカちゃん、ワンにいやらしい事されてない? 一華ちゃんが寝てるから、欲求不満で一華ちゃんに似た、万華ちゃんに手を出してないか、あたし心配なのよ』

 空気が凍る。

「お祖母ちゃん、ワンには、浮気しない様に釘をさして居るから大丈夫です。万が一にもそんな事をしていたら、ワンを殺して、私も死にます。そうですよね、ムートさん?」

 イチカの淡々とした質問に、ムートが頭を下げて即答する。

「はい、皇帝陛下は、皇后陛下以外の女性と関係を持つことは、ありませんでした」

 視線を泳がすミートを上手く、イチカの視線から隠す、エースを観察しながら八子モドキが言う。

『それより一華ちゃん、随分無理をしてるみたいね?』

 今度は、イチカが動揺する。

「何の事でしょうか?」

 八子モドキがため息を吐いて言う。

『気付かないと思ってるの? ワンに付き合うためだと言っても、永い眠りと短い覚醒の連続は、貴女の力を確実に削り取っていっているわ。はっきり言っておくわよ、もって百年。力の消耗次第では、もっと減る可能性があるわ。そして、それを行い続ける事は、貴女にとって多大な苦痛を伴うことよ。そろそろ覚悟をしなさい。お互いにね』

 辛そうな顔をしてイチカが答える。

「それでも、出来るだけ長く、ワンの傍に居たいのです」

 八子モドキも辛そうな顔をして言う。

『解った。キリナガレダンジョン、頑張ってね』

 八子モドキに見送られて進むイチカ達。

 先頭を行くミートとマンカが、不安げに後ろを見るとイチカが話し始める。

「先程の話しは、ここだけの事にして下さい。特に、この状態を続ける事が、私にとって苦痛を伴う事に関しては、皇帝陛下には、決して話さないで下さい」

 頭を下げるイチカに戸惑うムート達。

 エースが悔しげな顔をして言う。

「すまなかった。俺達は、気付くべきだった。本来の寿命と異なる生き方をして、苦痛が伴わない訳が無い。ワンだけには、本当の事を話すべきだと思うぞ?」

 イチカが首を横に振る。

「苦痛の事を知れば、ワンは、優しいから、自分は、独りで大丈夫だって言ってくれる。でも、そんな訳が無いの。帝国を支える苦痛は、私の感じる苦痛の何倍も苦しい筈。その苦痛を少しでも和らげる事が出来るのなら、こんな苦痛は、大した事は、無いの。私は、限界までワンの力になりたいの」

 エースが何も言えずに沈黙する。

 暫く進んだ所で、エースが手を叩き言う。

「ちょっとトイレだ、ムート、お前も付き合え」

 そして二人が一行から離れた。

 少しして戻ってくるとムートがイチカに告げる。

「危険を調べる為の調査隊を出そうと思います」

 イチカが少し考えてから頷く。

「許可します。ただし、マンカを連れて行って下さい。彼女は、何度もここにチャレンジしている熟練者です」

 ムートが頷き答える。

「それでは、エース様、五人程のこして置きますので、皇后陛下の警護をよろしくお願いします」

「了解した。危険を感じたら、戻らせろよ」

 エースの言葉にムートが頷く。



 マンカを含む、ムート達、丑騎士団十名がキリナガレダンジョンに出るモンスターを必死に倒しながら進む。

「そろそろ一度、戻りませんか?」

 マンカの言葉にムートが首を振る。

「エース様からの指示です。このまま目的の物を探索します」

 マンカとミートが驚いた顔をする。

「アレタス副団長、どうしてですか!」

 他の丑騎士団のメンバーが答える。

「解らないのか、先程のエース様と副団長の打合せでそうなったのだ。皇后陛下には、一切力を使わせない為に。万が一、我々が全滅しても、その時は、エース様がこれ以上の被害を出させない為に撤退を宣言する予定になっているのだろう」

 ムートが頷く。

「そして、今度は、皇后陛下を含まない決死隊を組む予定だ」

 マンカが慌てた様子で言う。

「あちきは、死にたく無いよ!」

 ムートが笑顔で答える。

「当然です。マンカ様は、危険が感じられましたら、我々を気にせず、本隊に合流してください。その時は、ミート戦闘隊長、お前が護衛を勤めるのだ」

 意外な展開に言葉を無くす、若い二人。

「どうしてそうなるの?」

 マンカの質問にムートが答える。

「皇后陛下は、皇帝陛下の支え、我々では、その代わりには、なれません。その皇后陛下の寿命を我々の為に減らす訳には、いきません。その為には、我々がどんなに犠牲になろうとも構わないのです」

 納得いかない顔をするマンカにムートが頭を下げる。

「全ては、帝国の為です。どうか、皇后陛下には、秘密にして下さい」

 マンカが渋々頷くのであった。



 待機して居たイチカが言う。

「あの人達に無理をさせていませんか?」

 エースがあっさり頷く。

「させてる。だが、お前の為では、ない。全ては、帝国の為だ」

 辛そうな顔をするイチカ。

「私とワンは、一緒にならなかった方が良かったのでしょうか?」

 エースが怖い顔をして怒鳴る。

「そんな事を二度と言うな! お前が居たからこそ、ワンは、あの苦しい戦いを続けられた。血統と慣習で歪みきった世界を正し、異界からの住人との超えられぬと思えた壁も越えて来た。全てがお前の支えが在ったからだ! お前には、それだけの価値があるんだ!」

 そして、奥から、マンカが帰ってきた、その隣には、傷だらけのミートが居た。

 慌てて駆け寄るイチカ。

 残った丑騎士団の人間が慌ててミートの治療を開始する。

「何があったの?」

 イチカの質問に目に涙を溜めたマンカが答える。

「問題の物があった部屋の前に番人が居たの。そいつは、強くって、あちきでも歯が立たなかった。そしたら、ムートさん達が自分から番人の体に張り付いて、自爆したの。ミートさんは、その時、あちきを庇って怪我したよ」

 言葉を無くすイチカ。

 そして、マンカは、特殊空間から、半死半生のムート達と大の男でも一人で持ち運べなさそうな問題の物を出す。

「この道具がブラックホールを一時的に無効化するマジックアイテム、グラビトンマスターだよ」

 エースが残った丑騎士団に命令する。

「お前達が運搬しろ。他の人間の治療は、後だ。入り口まで戻るが、皇后陛下の警護は、十分に気をつけろ」

 マンカが、イチカに縋りつく。

「ねえ、あちきじゃ駄目だけど、八刃の人にお願いしたら、助けられるよね!」

 イチカが複雑な顔をし、エースが切り捨てるように言う。

「そんな事をしたら、こっちの人間の力を借りた事になって、グラビトンマスターの所有権を捨てる事になる。諦めろ」

 マンカが激しく反論する。

「そんなのまたチャレンジすれば良いじゃん!」

 ミートもよれよれになりながら言う。

「お願いします。次こそは、我々の力だけでどうにかしますから」

 イチカが天井に向かって叫ぶ。

「お祖母ちゃん、グラビトンマスターを諦めるから実家に緊急避難させて」

 マンカが嬉しそうな顔をする。

「治るの!」

 イチカが頷く。

谷走タニバシリの人間の中には、回復に長けた能力者が居るわ。この程度の怪我ならその力を借りれば大丈夫な筈よ」

 そして、八子モドキが空中に現れる。

『本当に良いのかい?』

 イチカが頷こうとした時、動けるはずの無いムートの手が動き、イチカの服を掴む。

「それでは、駄目なのです。今は、一刻を争う時、我々が犠牲になっても、これが持ち帰れるのでしたら、それが正しい判断なのです」

「そういうことですので、さっきのイチカの言葉は、取り消しです。お前達、急げよ、もしかしたら何人か助けられる可能性がある」

 エースの言葉に丑騎士団の残りのメンバーが従おうとした時、八子モドキがマンカの傍に行く。

『ところで、ポイントが溜まってるけど使わない?』

 目を真っ赤にして泣いているマンカが答えられないで居るので、エースが言う。

「どんな特典があるんですか?」

 八子モドキが笑顔で言う。

『あたしが、パーティーの傷の治療を行います』

 驚いた顔をするイチカ。

「本当ですか? お祖母ちゃんだったら、こんな怪我、一発ですよね?」

 八子モドキが謙遜ぎみに言う。

『流石にオリジナルと違って、完全回復は、出来ないけど、命を取り留める事は、可能。その代わり、そっちの世界に居る万華ちゃんのポイントの特典だから、こっちの人間の力を借りたことには、ならないわ』

 マンカが慌ててポイントカードを出す。

「八子さんお願いします!」

『了解』

 マンカのポイントカードが消え、ムート達の傷が大きく癒されたのであった。



 辰騎士団基地では、マンカが持ち帰ったグラビトンマスター効果増幅器のヤマタノオロチ設置で騒がしくなっていたが、エースの部屋の空気は重かった。

『イチカがそこまで悪い状態だったとは、考えず失敗をした。最初から知っていれば、イチカを今回の作戦に加えるなんて事は、しなかった』

 エースの後悔を聞き、頭を下げるオクサ。

「全ては、僕達の失敗が原因です」

 エースが小さくため息を吐いていう。

『お互い、後悔しても始まらないな。それより、ドラゴンボーン奪還作戦の方は、どうなっている』

 オクサが頷き答える。

「グラビトンマスターの試射が済み次第、作戦の実行に移せるかと思います。そして、巳騎士団が、奪還の成功率を上げる為の作戦行動中です」

 エースとオクサの強い意志が篭った視線がかち合う。

『失敗は、許されないぞ』

「必ず、成功させます」

 そして、オクサは、エースの部屋を退出する。

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