身内を探るマウス
今回も、戦闘シーン無しで、スパイが潜入します
「辰騎士団に潜入ですか?」
純粋な人間の女性、フジ=タロスの言葉に、小さな角と竜眼を持つ竜人の男性、子騎士団団長イム=ミノロスが頷く。
「辰騎士団の表沙汰にされない行動が多い。特にヤマタノオロチの件に関しては、多くの隠蔽工作を行っている。現在、潜入させている諜報員達は、狡猾なオクサの手に落ちている今、新たなスパイを送る必要があるのだ」
フジが納得した顔をする。
「なるほど、それで、人であり、子騎士団との関係を隠蔽している私が選ばれたのですね?」
イムが頷き答える。
「今回の作戦で最優先されるのは、ヤマタノオロチの技術の出所だ。一説には、帝都ゼロの秘密研究所の物とされているが、正直、それも怪しい。しかし、辰騎士団が独自に開発した技術とは、とうてい思えない。万が一、辰騎士団が外部の国と繋がって居る場合、その証拠を掴め」
フジが頭を下げて言う。
「受諾いたしました」
「雑誌の取材?」
辰騎士団のオクサの部屋で問題の件を聞いたマンカが首を傾げる。
「そうです、ナイツメイツの記者だそうです」
オクサの答えに、スリーナが反応する。
「本当! あそこって、十二支騎士団を一般向けに情報発信する雑誌で、あそこで紹介された騎士は、有名人扱いされるって話だよ」
嬉しそうなスリーナを見て、マンカが言う。
「そんなに嬉しそうにするのは、なんで? 今までだって取材を受けてたんじゃないの?」
オリが肩を竦めて言う。
「うちの騎士団は、読者に受けそうな表立った事件と余り関らないから、まともな取材が来ないんだよ」
ヒャクリも疲れた顔をして頷く。
「何が楽しいのか、私達の婚約者候補についての取材なんて受けました」
テンダが嫌そうな顔をして呟く。
「まだましだ。俺が結婚してないのは、オクサと同性愛だからだ、なんて記事書かれた事あるぞ」
イレブが手を叩く。
「そういえば、お袋が、その記事を見て、兄貴に確認の電話を入れてたな」
大きく溜息を吐く一同を見てからマンカが言う。
「それがどうして、今更」
ミリオが答える。
「ヤマタノオロチですよ。今、帝国最強の戦艦と言えば、辰騎士団の旗艦、ヤマタノオロチであることには、間違いないです。その取材がメインでしょうね」
オクサが頷き言う。
「一応、機密事項は、口にしないように、気をつけて居てください」
その言葉に、全員が頷いた。
『怪しいな』
報告に来た、オクサとテンダに向かってエースが言うと、オクサがあっさり頷く。
「ええ、十中八九、子騎士団の手の人間でしょう」
大きく溜息を吐くテンダ。
「お前、また何か企んでるのか?」
オクサが笑顔で言う。
「はい。色々と、僕達が、コンダクターとそれが連れて来た者たちと戦う為の準備を」
エースとテンダが目を合わせる。
『確かに心強いのだが、底が見えないのー』
「コイツが敵だったと考えただけで、鳥肌が立ちますよ」
笑顔のまま、何も言わないオクサであった。
「ナイツメイツの記者のフジ=タロスです。どうかよろしくお願いします」
フジが名刺を見せて頭を下げると、オクサも頭を下げて言う。
「こちらこそ、帝国民に辰騎士団の良い所を伝えてください。内部の案内に、アポロス副団長をつけますので、何でも聞いてください」
ヒャクリが来て、頭を下げる。
「よろしくお願いします」
フジは、少し驚いた顔をした。
「そんな、態々副団長様をつけてくださらなくても、手暇な騎士様をつけて頂ければ」
オクサが残念そうに首を横に振る。
「それが、新しい作戦の為に、手暇な騎士が居ないのです。そこで、準備を終えて、丁度、手が空いたアポロス副団長にお願いしたのです」
フジは、引き攣りそうになる顔で無理に笑顔を作り答える。
「そうですか、忙しいところをすいません」
「こちらが、ヤマタノオロチのドッグです」
ヒャクリに案内されてフジがヤマタノオロチのドッグに入る。
そこでは、忙しそうに騎士や技術要員が働いている。
その外見を細かく観察してからフジが言う。
「他の騎士団の船とは、かなり違うようですが、どういった理由があるのですか?」
ヒャクリが苦笑する。
「すいませんが、これから言う事は、オフレコにして頂けますか?」
フジが頷くとヒャクリが言う。
「元々、このヤマタノオロチは、通販で売られていたのを、相談役のエース様が発見したのです。その製作者がエース様の知人で、下手な物を売って、トラブルになる前に辰騎士団で買い取ったというのが、実情なんですよ。もし使い物にならなかったらどうするのだと、アレロス副団長がアテナス団長に詰め寄っていましたよ」
フジが驚いた顔をする。
「本当の話ですか?」
ヒャクリが頷き言う。
「その知り合いの素性につきましては、あまり公にされると本当に困ります。間違っても調査をしたら、子騎士団か、巳騎士団に狙われますから気をつけてください」
びっくりした顔で頷くフジ。
その時、テンダの声が響く。
「お前は、何度同じ事をすれば気が済むんだ!」
フジが声のする方を向くと、マンカがテンダに首根っこ掴まれていた。
「これつければ、更にパワーアップするんだよ!」
「ファイのチェックが済んでない装備は、どんな物も装備させないと言ってあるだろうが」
テンダが駄々をこねるマンカを連れて引っ張っていく。
「気にしないで下さい、常駐しているヤマタノオロチの開発者が、自己判断で新装備をつけようとしたのを、副団長判断で、中止させただけで、よくある事です」
ヒャクリの言葉にフジが頷くしかなかった。
その後も、幾つかの施設を見て回るフジ。
「今夜は、ここでお休み下さい」
ヒャクリに案内されたゲストルームに入るとフジは、直ぐに盗聴器等のチェックを済ませて、溜息を吐く。
「副団長以外は、空いてないなんて、嘘八百を並べて、そこまでして、ヤマタノオロチの秘密を護りたいのね」
そして、一日の調査で解った事を並べる。
「少なくとも、辰騎士団の一般騎士達には、あの戦艦は、アポロス副団長が言った、流れで手に入れた物という事になっている。そして、マンカ様が、その開発に関っている事もほぼ間違いない。しかし、問題なのは、何故、未騎士団の副団長の許可がなければ、新装備が、使えないか? この流れは、かなり出来上がった物で、専用の船まで用意して、その情報のやり取りをしている。こうなると、未騎士団のビーロス副団長も一枚噛んでる可能性があるわね。とにかく、今は、ヤマタノオロチの技術の出所に関係する情報を集めないと」
シャワールームに入ると、シャワーを流して、天井に潜り込む。
暫く進むと、オクサの執務室の上に来る。
「それで、様子は、どうですか?」
オクサが質問する声が聞こえてくる。
「はい。ヤマタノオロチに関する質問がメインでしたが、情報の流れについてもチェックしていました」
さっきまでフジについていたヒャクリが答えると、オクサが続けて言う。
「ヤマタノオロチの技術、正確に言えば、マンカ様がどこでその技術を会得したのかは、間違っても探り当てられない様にして下さい」
「了解しました。マンカ様と、接触しないように最大限の努力をします」
ヒャクリが答える。
その答えを聞いて、フジが調査方向を決めて、自室に戻っていく。
オクサは、天井につけてある、監視カメラでその動きを確認してから言う。
「今ので、相手は、マンカ様の情報を探ろうとして来ます。それとなく、不確定情報として異界の技術である事が解る様にして下さい」
ヒャクリが小さく溜息を吐く。
「異界の技術である事は、他の騎士団にも流すのですね?」
頷くオクサ。
「コンダクターの件に対処するには、辰騎士団だけでは、不可能。これからは、他の騎士団にも協力してもらいます。その為の下準備です。普通に情報を流しても信用されない現状ですから、こうやって自分達で真実に近づいてもらいます」
「了解しました」
苦笑するヒャクリであった。
翌日、フジは、マンカに直接話を聞くような愚行は、しなかった。
「あたしの話を聞きたいの?」
スリーナの言葉に頷くフジ。
「はい。貴女は、ヤマタノオロチを開発した、マンカさんと親しいと聞きます。マンカさんは、どういった人なんですか?」
スリーナは、少し考えてから答える。
「少し変なところあるよね。時々、普通に知ってないといけない事を知らなかったりするし、今まで一度も聞いた事が無い言葉を使ったりする」
フジの目が光る。
「その言葉ってどんな感じの言葉? 帝国以外の国の言葉に近いとか?」
スリーナが首を横に振る。
「ううん、全く聞いた事が無い言葉。マンカに言うと、いつも自分が勉強して来た所の言葉だって言ってたよ」
首を傾げるフジ。
その後、何人かの技術要員に話しを聞く。
「時々、変な物を要求して来て、無い事を確認すると、こっちの世界には、無いんだって変な事を言うよな」
「そういえば、有名な科学者の名前をあげてる時に、俺達が全く知らない名前をあげて。アインシュタインって言ってた。何処の国の科学者なんだろうな」
それらの情報を元に、フジは、周辺の国で、マンカが勉強していたと思われる国を探した。
しかし結果は、思わしくなかった。
「幾ら調べても、マンカ様が時々話す単語や人名にヒットする国は、無い。どういうこと……」
ゲストルームの機械でネット調査していたフジだったが、苛立ち始めたいた。
そんな中、検索結果の中におかしな項目を見つける。
「何で、レイ帝国創世記の調査本がヒットするの?」
問題の項目を見てみると、その一説、ワンが異界に居た頃の記述に、マンカが発したのと同じ言葉を見つけたのだ。
「どういうこと? マンカ様と異界とどう繋がりがあると言うの?」
唾を飲み込み、異界に関する情報をメインに調査すると、マンカの不自然な行動と一致していった。
フジの顔に冷や汗が流れる。
「もしも、マンカ様が勉強していたのが異界としたら、大変な事よ。法律で、明確に禁じられている異界の技術の流用になるじゃない!」
翌日、フジは、予定していた、取材期間を終えて、辰騎士団を後にし、子騎士団の所に向かった。
調査結果を見たイムの顔が強張る。
「もしも、マンカ様の技術が異界の物だとしたら、明確な法律違反。許される物とは、思えない。それを辰騎士団が知っていたとしたら、辰騎士団の解体すら考えられる話だ」
フジも唾を飲む。
「これを公表しますか?」
イムは、複雑な顔で言う。
「マンカ様が関っているのだ、簡易に決められる事では、ない。公表するとしても、マンカ様、ひいては、皇帝陛下に被害がおよばない様にしなといけない。このことは、最重要機密とする」
頷くフジであった。
「どのくらいで、情報が流れると考えているんだ?」
テンダの言葉に、オクサが答える。
「一ヶ月しないうちに、この情報が、全騎士団に流れます。最初は、噂程度、それをこっちで加速させてやれば良いのです」
肩を竦めるテンダ。
「最重要機密が、どうして、こう簡単に漏れるんだろうな?」
苦笑するオクサ。
「子騎士団の情報は、確かですので、各騎士団が、常に目をつけています。そこに今一番興味がある情報が流れれば、各騎士団がいっきに暗躍します。それにこちらからの情報を紛れ込ませるだけで良いのです」
テンダが同情の念を籠めて言う。
「おまえに踊らされて、必死に動いている下端騎士達は、本当にえらい迷惑だぜ」




