聞こえない耳を変えるラビット
久しぶりのヤマタノオロチの全力戦です
「それでは、相互連絡会を始めます」
オクサの言葉にその場に参加した騎士団の幹部から反応は、無かった。
「何が楽しくて、こんな零下の会合をやるんだよ」
テンダがぼやく中、オクサがマンカを紹介する。
「こちらの少女が、ヤマタノオロチの製作者のマンカ=キリナガレさんです」
「よろしくお願いします」
頭を下げるマンカに、幹部達は、一斉に頭を垂れる。
最初に声をかけてきたのは、丑騎士団長クードであった。
「マンカ様、辰騎士団での生活に問題は、ありませんか? 少しでも不満がおありでしたら言ってください。この丑騎士団が最大限のサポートをさせて頂きます」
そこに寅騎士団長トリプが割り込んでくる。
「新型艦を作りませんか? 寅は、全費用を負担致します」
一斉に割り込んでくる各騎士団長達。
「結局、マンカがもみくちゃにされてお終いだったね」
スリーナの言葉に、疲れ果ててダウン中のマンカが頷く。
「新しい戦艦の開発は、もう始めてるから駄目だって言ったのに、全然聞いてくれないの」
「焼け石に水だ。そんな事を言えば、その船を自分の所にって騒ぎになるだけなのは、解るだろうが?」
テンダがあきれた顔をして言うと、ヒャクリが溜息混じりに言う。
「でも、余計な言い争いにまで発展しませんでした」
テンダがオクサを横目で見て言う。
「どうせ最初からそのつもりだったんだろう」
マンカが怨みの視線を向けると、オクサがそっぽを向いていう。
「エース様の所に行ってきます」
そそくさとその場を離れるオクサ。
「にげたね」
スリーナの言葉に頷く一同。
『今回は、顔合わせって所だな』
エースの言葉にオクサが頷く。
「そうですが、予想以上に難航しそうです」
エースがその大きな巨体で溜息を吐く。
『軍部内の権力抗争による、任務阻害対策として作った騎士団制度が、抗争原因になってしまっては、本末転倒だな』
オクサが困った顔で言う。
「領土が、加速的に拡大していた、あの時代、任務の種別による、管理体制にする以外に、権力争いを止める方法が無かったのも確かです」
エースが疲れた顔をして言う。
『不思議な話だが、現行の制度にしてから、私欲に駆られる人間は、減ったが、同時に名誉欲が人々を動かす』
オクサが諦めた顔をして告げる。
「現行の制度では、自分達の仕事分担がほとんど明確に分かれています。陛下承認による、団長選抜制度により、権力を維持するのが難しい以上、名誉欲で自分の欲を満たそうというのでしょう」
「質問、団長選抜制度ってなんですか?」
いつの間にかに現れたマンカが手をあげる。
『騎士団の団長の着任と継続には、ワンの承認が必要で、ワンは、権力の増大が顕著になると、選抜の指示を出して、権力が散るような者を団長に据える。まさにワンマン政治だが、ワンが暴走しない限りは、権力バランスが崩れる事は、無いはずだ』
エースの説明に首を傾げるマンカ。
「でも、長期に団長をやってる人も多いって聞いてるよ」
頷くオクサ。
「団長達も、クビになりたくないから、自分に権力が集中するのを避けています。結果、権力が分散されて、団長職を退いても残る、名誉や人脈が優先される形になっています」
『騎士団員の給料は、格安でな、下位組織である軍部の上層部の人間の給料が、団長の給料より上と言うのは、一般的だな』
エースが捕捉すると、マンカが不思議な顔をする。
「それなのに、何で騎士団に入りたがるの? スリーナに聞いたんだけど、騎士団に入る為には、高いハードルがあって、軍部の人間に凄く羨ましがれたって」
苦笑するオクサ。
「本来なら、士官学校を高い成績で卒業するのが最低条件です。元々、軍部を動かす、士官的役割を考えれば当然な話で、大半の人間が道半ばで諦めます」
マンカが疑問符を浮かべて言う。
「それって、スリーナが士官学校卒業生って事?」
エースが手を振って答える。
『違う違う、あれは、前の辰騎士団長が、テロ事件の時に救出した生き残りだ。身内が居ないので、ここで養っていたのだ』
「操縦の腕前が高いのが、正式の騎士になった理由です。残念ですが、幹部には、なれません」
オクサが申し訳なさそうに言うとエースが言う。
『仕方あるまい、騎士団の一員、特に幹部となれば、それは、英雄と同義語。退団した後も、職に困らない上、元居た騎士団にも多少の口出しも出来る。名家の人間が、自分の家から幹部、出来れば団長を輩出したいと考えている。後ろ盾の無い人間を幹部に据えた場合、暗殺される事が多いからな』
引き攣るマンカ。
「暗殺って、そんな事がまかり通るの?」
オクサが小さく頷く。
「騎士団の暗部だが、確かに有る事です。エース様が後ろ盾になって下さっているから、団長をやっていられるのが現状です」
マンカが嫌そうな顔で言う。
「ワンさんも大変なんだね」
頷くエースとオクサだったが、オクサが無理やり笑顔になって言う。
「ところで、何かの用があってきたのでは、無いのですか?」
マンカが手を叩く。
「そうだそうだ、ファイが、この世界では、無い筈の装置を見つけたの」
エースが大きく溜息を吐く。
『どこの世界の遺産だ?』
エースの態度に、オクサが大体の事情を推測する。
「今回は、ファイがそういった可能性がある事を知っていたからマンカの所に問合せただけで、今までもあったのですね?」
エースが頷く。
『移民の中には、元の世界の技術を復活させる人間も居るのだが、それが平和的な物ならいいのだが、大抵は、危険な物なのだ』
「良い例が、この間の終末の獣だよ。今回は、テンダさんが見つけた、龍神機関装備戦艦。あれに使われているステルス機能が、あちきの習った異界技術の一つだったの」
マンカの答えに、オクサが少し思案した後に質問を返す。
「それは、こちらで再現可能な物ですか?」
首を思いっきり横に振るマンカ。
「一からは、無理。こっちの世界では、まだ作れない物質を装置の一部に使用しているから。ファイさんの話だと、製造元も移民当時の遺跡から発見された物を使ってたよ。調べてみると、有限だけど、普通に流通してたよ」
エースが舌打ちする。
『またか! 移民達は、生活用品のつもりで持ってきたのが、大変な物だったのは、これで何度目か解らんぞ』
オクサも溜息を吐いて言う。
「問題は、これかもそれが流通するとなると、こちらの監視網に穴が出来ると言う事です」
マンカが胸を張る。
「安心して、あちきが、対抗装置の設計図を、未に送っといたから」
固まるエースとオクサを尻目に、腕を組むマンカ。
「でも、ファイさんが捕まらなかったから、問題のステレスの対抗装置の設計図って言って、未の団員さんに渡しておいたけど、ちゃんと、見てもらえたかな?」
エースが頭を抱えて言う。
『すまないが、急いで動いてくれ』
オクサが駆け出す。
「はい、至急対応します」
「お前、馬鹿だろう」
テンダの容赦ない一言にマンカが反論する。
「そんな事無いもん! 戦闘センスが無い代わりに、頭は、良い方だって言われてたんだから!」
テンダが、睨みつけて言う。
「だったら、少しは、学習しろ。何で俺達が、兎の衛星に向かわなければ行けないんだ? 俺達が、お前が不用意に流出させた技術を拡散させない様に、因果含みにいかないと行けないからだろうが!」
「だって、早急な対応が必要だと思ったんだもん」
涙目で反論するマンカにオリが同意する。
「レーダーに映らない敵が居るなんて、大問題なのは、確かだよ。大体、どうしてそんなにマンカの技術を隠蔽してるの?」
ヒャクリも頷く。
「同じ十二支騎士団に対してなら、多少の技術流出は、許容範囲の筈です」
テンダがオクサに援護を求める視線を向けると、オクサが言う。
「今回の技術は、正規のルートの物では、無いので、信用性がありません。それを含めて、兎騎士団と不要なトラブルを起こらない様にする為です」
一応の正論にオリが黙るが、ヒャクリは、それに虚偽が混ざっている事に気付いていた。
しかし、それを告発する時では、無いと考え黙る。
「ここで、お待ち下さい」
応接間に通されるオクサ達。
「お茶も出ないね?」
マンカの言葉に、オリが頷く。
「客への対応が出来てないね」
テンダが気にした様子もない顔で言う。
「最初から、客だと思われてないからだろう」
そこに角を持つ竜人、兎騎士団団長、ナーミ=テペロスが現れる。
「お待たせしました。態々、辰騎士団の幹部の皆様にいらっしゃってもらって申し訳ありませんね」
嫌味をかなり含んだ言葉に、苦笑をしながらオクサが頭を下げる。
「大勢でお邪魔してすいませんでした」
因みに、このメンバーになったのは、かなり特殊な事情がある。
元々は、オクサとテンダ、そしてマンカの三人だけで来る予定であったが、マンカが単独行動をとる可能性が出た為、護衛の為にオリがつくことになり、問題の性質上、マンカとオリだけにしてトラブルになるのを避ける為に、ヒャクリも同伴したという状態である。
戦闘でもないのに幹部がここまで揃って動くのは、異例の事態である。
「余計な前置きは、抜きにしましょう。問題のステレス装置の技術公開にストップをかけたのが、辰騎士団だという話に、兎騎士団は、正式に抗議しています。レイ帝国の監視は、兎騎士団としては、最重要問題。それを辰騎士団に妨害されるのは、容認出来ません」
オクサが笑顔で反論する。
「今回の技術に関しては、公開しないと言うわけでは、なく。未騎士団のビーロス副団長の確認が完了するまで、お待ちいただくのが筋かと思われますが」
ナーミが机を叩く。
「この一刻を争う事態に、そんな悠長な事を言っていられると考えているのですか!」
「その様な事態だからこそ、ちゃんとした確認を行うべきでは、ないのですか? マンカさんに確認しましたが、例の技術は、レイ帝国の正式な研究機関で開発された物では、無い不確実な物。直ぐに実際に使うのには、大きな問題があると考えますが?」
オクサの返し、ナーミが鋭く返す。
「我々を甘く見ないで頂きたい。そんな事は、重々承知の上です。しかしながら、現行の監視網の確実な穴がある以上、それを塞ぐ可能性があるのならば、最大限の努力を行わなければいけない。多少の信用度が落ちることになっても」
そこからは、オクサとナーミの激しい討論になった。
「あっちの方が、正論なんだよ」
議論の途中、マンカが空腹による、無理やり退室に同行した、テンダ(オリと役目を代わってもらった)が言う。
「でしたら、どうして容認されないのですか?」
一緒に来たヒャクリの言葉に、テンダが言う。
「技術の出所に色々問題があるんだ。万が一にも技術の出所が発覚すれば、レイ帝国に大きな問題が発生する」
ヒャクリが食事を食べるマンカに視線に入れながら言う。
「そろそろ教えてください、マンカ様の技術は、レイ帝国の秘匿技術なのですよね」
テンダが少し躊躇した後に答える。
「それ以上にヤバイ技術だ。前の査察を覚えてるか?」
ヒャクリが頷く。
「あの後、調べましたが、査察官の素性は、全く掴めていません。何者なのですか?」
テンダが肩を竦めて言う。
「神様の使いさ」
ヒャクリの目が怖くなる。
「冗談は、止めて下さい」
テンダも真剣な目で答える。
「本当だ。陛下が幼き頃、異界で暮らしていたと言う話は、知ってるな?」
ヒャクリが頷き答える。
「現在ある技術の多くは、その世界からの物だと聞いています」
喋ってから、ヒャクリの顔が青褪める。
「まさか、マンカ様の技術は……」
「口にするなよ、万が一にも口外されたら問題な事項だ」
テンダの言葉にヒャクリが頷くしかなかった。
「マンカの技術の出所を探り出されると様々な問題が噴出する。俺達は、それを隠蔽しながらも、その技術を使わなければいけないって矛盾した対応を求められている。今回の技術だって、もう少しちゃんとした手順を踏んで、トラブルにならないように技術公開するべきケースだったんだが、あの馬鹿が、勝手な事をしたから、段取りが狂いまくった」
頭に手を当てるヒャクリに同情しながらテンダが続ける。
「事情を探り当てた自分を恨みたくなるほど大事にもなった。あの査察の時は、ヤマタノオロチを自沈させる案すらあがってたよ」
ヒャクリが慎重に言う。
「そうなりますと、今回の技術公開には、もう少し時間が必要ですね」
頷くテンダ。
「最低でも、ファイがこちらの技術の延長線にあるものだと、無理やりの解釈を付けられる解答を作るまでは、待ってもらいたいんだが、事態は、それを悠長に待ってられないのも本当なんだよ」
ヒャクリが真剣な顔で周りを見る。
「疲労感が出ていますね。監視網に穴がある事が判明してから、その穴に対する対応として、偵察任務が増えているのでしょうね」
テンダが頷く。
「軍を動かしているが、どうやったって漏れが出来る。万が一にももう一度敵勢力を帝都付近に近づけ、内外に大きな波紋が起こる事を考えれば、一刻も早い、技術公開が求められるのは、俺達も解ってるんだけどな」
テンダとヒャクリが深い溜息を吐く。
「現状は、まるで貴重な骨董品を乗せたシーソーに猫を遊ばせている気分です」
「見事な例えだな。俺としては、猫を縛り付けときたい気分だよ」
テンダの言葉に、ヒャクリが遠い目をして言う。
「その猫には、物凄い血統書がついています」
テンダが頬を掻きながら言う。
「そうだったな」
そこにオリがやってくる。
「話しがついたから帰るよ」
「どうなったんだ?」
帰りの船の中で、テンダが質問すると、オクサが困った顔をして答える。
「問題の技術に対しては、兎騎士団のみに事情を説明、軍にも機密扱いにして、正式な手続きが終了するまでは、整備を行う事すら禁じると言う事で話しを取り付けました」
「よく納得したな。あっちも専門家だ、未騎士団に全部任せるなんて、プライドに関る事だろう」
テンダが聞き返すとオクサが幾つかの資料を見せる。
「問題のステレス装置搭載艦が、もう三隻も発見されています。あちらも一刻を争う状況だったのですよ。そして、その後始末を任されてきました」
テンダが不敵に笑う。
「ドンパチの方が、俺向きだ」
「あたしも、こんな会談よりそっち!」
オリも手をあげるのをみて、ヒャクリが溜息を吐く。
「何でうちの騎士団は、好戦的な人が多いのでしょうか?」
苦笑するオクサであった。
「ヤマタノオロチって問題の装置ってついてるの?」
基地で出航をまつヤマタノオロチブリッチでのスリーナの言葉にマンカが首を横ふる。
「ついてないよ」
ブリッチに沈黙が走る。
テンダが引き攣った笑みで尋ねる。
「どういうことだ?」
マンカは、当然の様な顔で言う。
「だって、ある筈の無いステレスの対応装備なんてつけてないよ」
「確かにそうですね。その装置をつけるのには、どのくらい掛かりますか?」
オクサの前向きな意見にマンカが答える。
「運竜モードのトラクタービームを最低出力で、周囲に張り詰めれば、どんなステルスも無効化できるよ。因みに有効範囲は、対抗装置の数倍。元々は、敵船や、謎の巨大生物輸送用だから、出力だけは、高いからね」
「敵船は、ともかく謎の巨大生物ってなに?」
オリの当然の突っ込みにマンカが答えようとしたが、オクサが慌てて言う。
「捜索を開始します」
ヤマタノオロチのトラクタービームによる検索は、順調に進み、二隻の撃破を終了した。
「最後の一隻だが、これって間違いなく龍神機関搭載艦だな」
テンダの言葉に、資料をチェックしていたヒャクリが頷く。
「間違いないでしょう。しかし、異界のステレスと良い、こんな高性能艦を製造出来る組織って何者でしょうか?」
「確かに気になるな」
テンダの言葉に、オクサが答える。
「それは、相手を捕まえてから、じっくり調査しましょう。今は、目の前の敵に集中して下さい」
テンダ達が頷き、中央で、何故かあやとりをやってる映像を写していたクシナダが糸の一本を引っ張り言う。
『最後の一隻の詳細な場所が判明しましたよ』
グラフィックスイメージで映し出された敵艦が、大きく展開して、その中心にエネルギーを溜め込んでいるのを見て、眉を顰めるマンカ。
「もしかしたら、アメノムラクモの通常攻撃版かも」
アメノムラクモの威力を知る、メンバーが青褪めて、代表してテンダが怒鳴る。
「冗談は、止めろ! 恒星を破壊する兵器が普通にあってたまるか!」
「あれだと恒星は、破壊できないよ。アメノムラクモが恒星兵器として使えるのは、破壊する恒星の性質などに合わせた、共鳴現象を起こせるから。普通に使った場合、同じ条件で撃つとしたらドラゴンブレスより上回る事は、無いと思う」
マンカの説明に安堵の息が漏れるが、マンカの説明は、終ってなかった。
「ただし、アメノムラクモの最大能力、エネルギー蓄積収束現象が観測出来てるから、相手の戦艦が保つって仮定なら無限に破壊力を上昇できるよ」
「回避高度、至急、相手の射線軸から離れてください」
オクサの叫びに、ブリッジスタッフが死に物狂いに動く。
『こっちの回避行動に気付いたみたい、砲撃、来ます』
クシナダの言葉にオクサが怒鳴る。
「船長、優先コード、モード緊急変更、篭竜モードに移行!」
敵戦艦のブリッジ。
「直撃は、避けられました」
敵戦艦の観測艦の報告に、呆れた顔をして船長が言う。
「全くどうなっているんだ? 奴等の誘いにのってこんな下位世界に逃げてきたと言うのに、こっちにも龍神機関が存在する。こちらが誇るステレスも、既に看過され始めた。話しが違う」
隣の副船長が言う。
「しかし、こちらのエネルギー蓄積型特殊砲撃の相手では、ないでしょう。相手もまさか、ほぼ無限大に威力が挙げられる砲撃があるとは、考えてないでしょうから」
船長が舌打ちする。
「だったらいいが、俺には、それに気付いて回避行動をとった様に見えたぞ。もしそうなら、次を撃ち込む前に、攻めて来るぞ」
副船長が微笑を浮かべて言う。
「それは、心配しすぎです。今までの戦闘データから考えて、この世界の戦艦では、直撃でなくても致命傷の筈ですよ」
船長は、難しい顔をして言う。
「その予想が合ってる事を祈ろう」
ヤマタノオロチのブリッジ。
「被害状況の報告を頼みます」
オクサの言葉に、目をぐるぐるさせているクシナダが答える。
『篭竜モードの移行で、対振動設備が動き、艦内に死亡者は、ありませんが、ネックシックスとセブンが使用不能。緊急モード移行の影響で各部にトラブルが発生しています』
「アポロス副団長、艦内のトラブルの方は、任せます。アレロス副団長、相手を確実に押さえる為に突入準備をお願いします。アポロス戦闘隊長、こちらの混乱が収まるまで、相手の牽制をお願いします」
オクサの指示に、すぐさま動くヒャクリにテンダ。
『このまま、母竜モードに移行して宜しいのですか?』
クシナダの質問にオクサは、マンカを見る。
「どうでしょうか?」
マンカは、諦めた顔をして言う。
「正式な手順を通さない緊急モード移行の影響は、大きいけど、今更ですよ。少なくとも設計上は、問題ないはずです」
オクサが許可を出すと、即座に母竜モードへの移行が開始される。
「出れるんだな?」
レッドドラゴンワンに乗るオリの言葉に、クシナダが頷く。
『ネックシックスとセブンが使えませんが、他の発射口は、無事です』
オリが頷き、指示を出す。
「ブルードラゴンワンからファイブ先行して発進。次にレッドドラゴンワンからファイブが出る。イエロードラゴンワンからファイブは、その後だ。最後にグリーンドラゴンワンからシックスを出せ。グリーンドラゴン以外は、全て、敵艦及び、戦闘機に一撃離脱を掛け、注意をカラーズドラゴンに向けさせろ。間違っても二発目を発射させるなよ」
そして、出て行くブルードラゴンに続き、自分も出撃するオリであった。
敵戦艦のブリッチ。
「敵艦は、健在みたいだな」
落胆した表情で船長が言うと、副船長が驚いた様子で言う。
「あの特殊防御機構は、この世界には、まだ無いはず……」
ブリッチにもざわめきが起こる中、船長が言う。
「騙されたかもしれないな。しかし、俺達には、帰る場所は、無い。やるぞ」
船長の揺ぎ無い言葉に、落ち着きを取り戻し、作業に戻るクルー。
その中、船長が、副船長に小声で問う。
「あちらも母艦が動かないところをみて、次の砲撃を決められたら、こちらの勝ちだが、どうみる?」
副船長が、悔しそうに言う。
「そうですが、大半をこちらの資材で作ったこの船では、十分な砲撃になるまでには、かなりの時間が掛かります。相手の戦闘機の性能次第ですが……」
副船長が濁した言葉に船長が頷く。
「あの船が、この世界の標準を大きく越える性能を持ってる事を考えれば、その搭載戦闘機が並みの戦闘能力とは、思えないな。出れるか?」
副船長が頷く。
「次弾を撃つ時間を稼いで来ます」
ブリッジを離れる副船長を見て、クルー達が頷きあう。
「ドッグファイトやらせたら、うちの副船長に敵う奴なんて居ないさ」
「ああ、こんな世界の奴等なんて、直ぐに全滅さ」
敵戦艦周囲で、オリ達、カラーズドラゴンは、苦戦を強いられていた。
『アポロス戦闘隊長、奴等も小竜機関搭載しています』
部下の言葉に、舌打ちするオリ。
「そうみたいだね。だから何? 同じ戦闘能力の戦闘機には、勝てないなんて甘い台詞を吐くつもり?」
黙る部下にオリが宣言する。
「あたし達、カラーズドラゴンは、戦闘機の性能に頼ったへっぽこなんて言わせない。訓練の成果みせてみなさい!」
部下達を奮い立たせている間にも、オリは、敵戦闘機の一機を撃墜する。
その時、他の戦闘機と明らかに異なる外装の戦闘機が、オリの前に出て来た。
『腕前を見せてもらった。貴様が隊長か? 俺があの船の副船長兼戦闘機隊の隊長のマグレだ』
敵からの通信にオリが不敵な笑みを浮かべる。
「なるほど、大物ね。あたしは、辰騎士団、戦闘隊長、オリ=アポロスよ!」
『小娘?』
その一言が、オリの琴線に触れる。
「小娘で悪い! 今からその小娘の実力を見せてあげる」
そして二人の凄まじい、ドッグファイトが始まる。
テンダが、突入準備をしながら前線の状況を見て驚いた顔をする。
「おいおい、オリと互角にやりあってるぞ。あいつは、本能だけで動いてるから、戦闘機での戦闘なら、十二支騎士団でも指折りなんだぞ」
他のメンバーも信じられないって顔をしている。
『相手が、只者では、ないという事です。突入班も十分に注意して下さい』
オクサからの通信にテンダが頷く。
「解ってる。緊急避難用装備も持たせる」
テンダは、一度言葉を切ると小声で言う。
「最悪は、こちらにも死人が出るぞ」
少しだけ躊躇した後、オクサは、頷くしか無かった。
ヤマタノオロチのブリッチ。
「各種機能のチェック、終了しました。ドラゴンブレス及び、クサナギの使用準備が出来ました」
ヒャクリの言葉に、オクサが言う。
「ドラゴンブレスを単発ずつ発射後、クサナギ発射。タイミングをずらして、ドラゴンブレスを連射して下さい」
ヒャクリが頷き、部下達に細かい指示を出す。
「これで相手を黙らせられれば、後は、突入班次第ですね」
その後ろで、スリーナが言う。
「マンカ、何処行くの?」
マンカが面倒そうに言う。
「ちょっと野暮用に」
敵戦艦のブリッチ。
「相手からの砲撃が来ます」
観測官の報告に船長が言う。
「出力は? こちらのエネルギーシールドは、保つか?」
観測官達が詳細をチェックして答える。
「問題ありません。このクラスでしたら、十分防御、可能範囲です」
その時、別の観測官が叫ぶ。
「敵、更に強力な砲撃を仕掛けてきました! これは、こちらのエネルギーシールドの限界ギリギリです」
船長が即座に反応する。
「本命は、後から来た奴だ。その砲身に注意しろ、エネルギー配分は、そちらを優先させろ!」
ドラゴンブレスを弾いた後、次に来るクサナギの一撃を受け止めた後、船長が言う。
「こちらの次は、まだか!」
「先ほどと同じ威力を放つとしても後十分は、必要です」
クルーの言葉に、船長が舌打ちした時、ドラゴンブレスの連弾が、クサナギの砲撃に集中していたエネルギーシールドを貫き、船体に直接ダメージを与えた。
「外装にダメージ。龍神機関出力が五割を切ります」
机を叩く船長。
「嵌められた。最初の副砲の単発と主砲は、今の連射を直撃させる囮だったんだ」
ブリッチに沈黙が走る。
艦対戦の敗北は、明白であった。
船長は、相手の追撃が無い事に気付き、大きく息を吸って宣言する。
「突入班が来る。返り討ちにしてやれ。そいつらを人質に、逃げるぞ」
『この勝負は、預けた』
オリの目の前からマグレが操縦する戦闘機が逃げていく。
「待て!」
追撃しようとするオリだったが、テンダから通信が入る。
『これから、突入して、相手の頭を捕獲する。バックアップ頼んだぞ』
「あいつとの決着つけさせて!」
オリの言葉にテンダが睨み言う。
『気持ちは、解る。だが、今度は、普通じゃない。確保して裏を調べなければいけないんだ』
オリが頭を掻いて言う。
「了解、イエロードラゴンに探査ロボットミサイル撃ちこませて、先行させる」
『頼んだ』
テンダがそう言って、通信を切ると、オリが拳を握り締めて言う。
「この決着は、捕虜にした後、シミレーションでしてやるんだから!」
怒りの無駄弾を放つオリであった。
敵戦艦に突入して、ブリッチに急ぐテンダ。
そして、ブリッチに入ると、敵船船長が居た。
「早いな。この世界の人間にしては、やるようだな。だが、この閃光のイラターに勝てるかな?」
殴りかかってくる敵船船長、イラターの攻撃をテンダが腕でガードする。
「少しは、やるな」
「俺は、辰騎士団副団長、テンダ=アレロス。自分を倒す男の名前くらい、覚えて置けよ」
殴り返すテンダ。
二人の肉弾戦が始まろうとしたが、マンカの手刀がイラターの首に決まった。
「盛り上がってるところすいませんけど、流石に今回は、想定外だから」
テンダが脱力した瞬間、マンカが大きく弾き飛ばされる。
それは、想定されてない事態であった。
慌てて駆け寄るテンダ。
「大丈夫か!」
マンカが壁に手を付きながらも立ち上がる。
「やっぱ、あちきは、戦闘センスないよ」
「そうですね、数多の世界で武名を誇る八刃の眷族とは、思えません」
その男は、イラターを抱えていた。
そこにマグレがやってくる。
「貴様、話が違うぞ!」
その言葉に、男が肩を竦める。
「すいません、こちらもあんな違法を侵している船があるとは、知りませんでしたから。私達が言うのもなんですが、あれは、完全な違法ですね」
マンカが怒鳴り返す。
「ヤマタノオロチは、合法だもん!」
肩を竦める男。
「その名前からして問題です。ヤマタノオロチなんてこの世界には、居ない筈ですよ」
テンダが眉を顰める。
「どういうことだ? ヤマタノオロチって言うのは、マンカがつけた適当な名前の筈だぞ」
男が苦笑する。
「ヤマタノオロチとは、八つの首を持つ竜の名です」
「そんな事は、どうでも良い! この状況をどうするつもりだ!」
マグレの言葉に、男が困った顔をして言う。
「すいませんが、新たに別の世界に行くのは、無理です」
睨むマグレに男は、溜息を吐いて言う。
「お詫びとして、この世界内で、別の拠点と資金を供給させて頂きます」
舌打ちするマグレ。
「今回は、それで手をうつしかないな」
「イラター様との契約は、安全な所に移動してから」
男が指を鳴らすと、ブリッチスタッフが消えていく。
「待て!」
テンダが叫ぶとマグレが言う。
「お前のところの戦闘隊長に言っておけ、預けた勝負は、必ず回収に行くと」
そして、マグレも消えていき、最後に男が頭を下げて消えていく。
「それでは、私達も失礼します」
テンダが床を叩き言う。
「どうなってやがるんだ!」
帝都、ワンの玉座の前に十二支騎士団の後見である相談役の竜達が並ぶ。
そして、報告を終えた、オクサとテンダが、その重苦しい空気に寿命をすり減らす。
『その男を、マンカは、なんと言っていた?』
オクサが正規の報告に載せられなかった言葉を返す。
「コンダクターの人間の可能性が高いと言っていました」
ざわめきが起こるが、ワンが睨むと、静まる。
『この件に関しては、最重要機密とし、この場に居る者以外には、漏れては、ならない。解ったな』
オクサ達は、もちろん相談役の竜達も頷く。
オクサ達がエースと共にヤマタノオロチのエースの私室に戻ると、そこには、マンカが居た。
「ワンさん、困ってたよね?」
エースが頷く。
『まさか、この世界がコンダクターに狙われるとは、思わなかったからな』
オクサが意を決し、尋ねる。
「コンダクターとは、何なのですか?」
マンカが端的に答える。
「ツアコンだよ。元の世界で居場所が無くなった奴等に、威張れて且つ、満足できる世界に連れて行くね」
眉を顰めるテンダ。
「意味が解らないな」
しかし、オクサが問題点を指摘する。
「それは、神々が作った下位の世界への過剰干渉にあたるのでは、ないのですか?」
エースが頷く。
『だから、神々の監視網を掻い潜ってやっているのだ。ワンとマンカが育った世界では、そいつ等の活動が活発だったと聞く』
マンカが頷く。
「相手が、下手すれば神様とかと同列の奴等だから、散々大事になってたよ。一番性質が悪いのは、そいつ等は、主義主張でなく、純粋な利益で動いてるから、当事者達を幾ら潰しても、システムだけは、生き残るって事だよ」
テンダが嫌そうな顔をする。
「つまり、そいつらは、相手の国の事情を考えず、危険な奴等を亡命させる裏組織って事かよ?」
頷くエース。
『今までは、この世界は、亡命対象と選ばれることは、少なかった。簡単に言えば、未開すぎて、亡命する価値も無かったというところだ』
オクサが唾を飲み込み言う。
「しかし、状況が変わったって事ですか?」
エースが頷き答える。
『正直、今の我々で、コンダクターが連れてくる者達の対処が出来るとは、思えない。最悪は、八刃の助力を得なければいけないが、それが、神々に知れれば、こちらが違法行為と言われかねない』
重苦しい空気が流れる中、オクサが宣言する。
「やってみせます。その為の我等、十二支騎士団です」
『何を根拠にそんな大言を吐く』
エースが厳しい目で告げるとオクサがマンカを目で示し言う。
「その為に、ヤマタノオロチを確保し、その技術を十二支騎士団に供給してきました」
エースが難しい顔をして言う。
『更なる困難が続くぞ?』
「覚悟の上です」
オクサが堂々と返す後ろで、大きく溜息を吐くテンダ。
「きっとこうなると思ったぜ」




