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八つの姿を持つドラゴン

新シリーズは、竜が出てくる宇宙戦艦物です

「あのハゲタカ騎士団が!」

 その叫んだのは、竜の尻尾と角を持つ、竜と人とのハーフ、竜人の子孫の美少女であった。

「オリ、はしたないですよ」

 そうたしなめるのは、その少女と良く似ているが、健康的な体を晒している少女、オリ=アポロスと反対に、ローブで尻尾も隠して居る、オリの双子の姉、ヒャクリ=アポロスである。

 オリは、不服そうに言う。

「だってあいつ等は、後から来たのにさも自分達の手柄の様に報告してるんだよ!」

 それに対して、その前で異界からもたされたといわれる緑茶を啜る人畜無害そうな眼鏡の男性、オクサ=アテナスが答える。

「仕方ないよ、首謀者を捕らえたのは、彼等、トリ騎士団なのだから」

 オリは、机を叩き割り言う。

「それが気に入らないって言うんだ! こっちは、旗艦、スカイワイバーンを犠牲にしたんだ。そうしなければ、広大なレイ帝国の生命線、空間跳躍通路、ドラゴンロードに甚大な被害が出る所だったんだぞ!」

 机が割れた拍子に飛んだ緑茶を頭からかぶったオクサが、苦笑しながら言う。

「そうかも知れないけど、問題の装置を破壊した時点でこちらには、余力が無くなっていた。酉騎士団が来てなかったら、僕等、タツ騎士団は、全滅していたよ」

 苦々しそうにオリが言う。

「そうかもしれないけど、手柄が全て酉騎士団の物なんて言うのは、おかしいよ!」

 いきり立つオリにヒャクリは、オクサから緑茶を拭いながら言う。

「皇帝陛下も私達の働きを理解して下さっています。その証拠に新しい旗艦の購入予算が特別に組まれました」

「それよ! どうしてうちの騎士団だけ、旗艦が、龍神機関搭載じゃなかったのよ。他の騎士団の旗艦は、全部、龍神機関実用化と同時に切り替えられたって聞いたよ!」

 オリの主張にオクサが笑顔で答える。

「簡単さ、予算がないからだよ。今回の予算も、借金の返済でかなり持っていかれて、到底、龍神機関搭載の戦艦を作れる予算は、無いよ。それに長期間、旗艦無しの状態は、続けられないから、お買い得な戦艦を買う予定だよ」

 大きな溜息を吐くオリであった。



 オクサは、旗艦を失って活動が出来ない為の休暇で、実家に帰るオリとヒャクリと分かれて、帝都であるシャイニングドラゴンの生まれた星、ゼロの十二ある衛星の五番目衛星、タツにある辰騎士団の基地に戻り、その最奥で眠る数千年生きる、竜、エースに話しかける。

「ただいま戻りました。偉大なしり、エースの名を引継ぐ竜よ」

 その言葉に、その竜、エースが苦笑する。

『今の時代に、エースの名の意味を知る者等、お前くらいだろうな、偉大なりし、竜の巫女、レインの直系よ』

 朗らかにオクサが答える。

「お互いに、ゼロの大地に縛られていた時代の話をしても無意味ですね」

 頷きエースが話しを今に戻す。

『今回は、大変な任務ご苦労だった。お前が旗艦を失わなければいけない程、切羽詰まった状況になるまで、問題の計画が隠蔽されて居たのは、痛恨の極みだ』

 オクサは、肩を竦めて言う。

「仕方ありません、幾らドラゴンロードの警備を専門にやっているサル騎士団とて、膨大なドラゴンロード全てに完全な監視を行う事は、出来ません。それより、ドラゴンロードに損害を出さずに済んだ幸運を感謝しましょう」

 エースはオクサを見つめて言う。

『辰騎士団の団長である、お前のその高き能力あっての結果だ。それは、ワンにも伝えてある。今回の件の追加予算も何とか工面できるように働きかけよう』

 オクサが指を口に当てる。

「エース様、その名は、禁じ名です。皇帝陛下は、唯一無二のシャイニングドラゴン、個別名で呼ぶのは、古き竜のお偉方に反感をよびます」

 エースは、不満げに言う。

『今だ、黴の生えた古いしきたりを気にする老害が残っているのは、本当に忌々しい事だ』

 オクサが悟りきった顔で言う。

「古いしきたり全てを切り捨てるのは、過去を切り捨てる事。それは、皇帝陛下の望む道では、無い筈です」

 エースが嘆息してから言う。

『今だ、あれも苦労が終らないと言う事だな。しかし、次の旗艦は、どうする。今までは、万が一にも龍神機関に問題があった時、十二支騎士団の旗艦が全て動かない事態を避ける為に、龍神機関搭載艦を外していたが、継続するのか?』

 それには、オクサも難しい顔をする。

「正直、悩んでいます。稼動から一定期間が過ぎ、技術部門でもある、ヒツ騎士団でも改良が成されている為、一度に機能不全を起こす可能性は、低いと考えられます。切り替え時だと思いますが、これから新たに龍神機関搭載艦を製造した場合のタイムロスは、大き過ぎます。取敢えずは、格安の戦艦を一時的な旗艦として、龍神機関搭載艦は、じっくりと検討して導入しようかと思います」

 するとエースは、専用の精神波インターフェイスで情報端末を弄りながら言う。

『それだが、面白いネタがあるぞ』

 端末に映し出された情報を見てオクサは、目を丸くする。

「本気ですか?」

 エースは、笑みを浮かべて言う。

『製作者の名前を見てみろ』

 オクサは、製作者の名前を確認して答える。

「確かにこれは、面白いですね」



「今、戻ったぞ」

 辰騎士団の基地にオリ達が、戻ってくる。

 二人は、畳と呼ばれる特別な敷物がしかれている、オクサの執務室に入る。

「ただいま帰還しました」

 ヒャクリが敬礼して言うとオクサは、朗らかな顔で言う。

「お帰り。実家はどうでしたか?」

 オリは、肩を竦めて言う。

「見合いさせられそうになったので慌てて帰ってきたよ」

 オクサは、普通に答える。

「そうですね、アポロス家は、竜人の中でも名家ですかね」

 気にした様子のないオクサを恨めしそうに見るオリに苦笑しながらヒャクリが言う。

「それでは、新しい旗艦購入の準備に移ります」

「それでしたら、もう購入済です」

 オクサの言葉に、何時もがおっとりしているヒャクリが淡々と言う。

「どういう事ですか? 副団長であり、経理を担当する、私に断りも無く、なぜそんな事を?」

 オリの激しい怒りとは、違う、冷たい怒りに、オクサは引き攣りながら答える。

「急がないと不味かったので。オリ、龍神機関搭載艦ですよ」

 はぐらかしに入るオクサだったが、嬉しそうな顔をするオリ。

「本当ですか!」

 眉を顰めるヒャクリ。

「あの金額では、龍神機関搭載艦が買える訳は、ありません。追加予算が下りたのですか?」

 オクサは、端末を弄り、通販サイトを開き見せる。

「これです。試しに通販サイトで探したら、龍神機関搭載艦が売りに出されていたのですよ。限定数一隻でしたが、間に合いました」

 それを見て固まる、オリとヒャクリ。

「なかなか良い買い物をしました」

 嬉しそうに言うオクサの襟首を掴みオリが怒鳴る。

「何考えてるの! これって詐欺に決まってるじゃない! 普通に考えて通販で龍神機関搭載艦が売ってる訳ないでしょうが!」

 オクサがヒャクリの方を向き、助けを求めようとしたが、雪山に降るブリザードの様な視線でヒャクリが問い詰める。

「旗艦無しでどうするのですか? ただでさえ我が騎士団は、船が少ないって言うのに。詳細を聞かせてもらいますよ」

 二人にオクサに対する問い詰めは、夜更けまで続いた。



「本当にエース相談役にも困ったものです」

 辰騎士団所有の、オンボロ連絡船に乗るヒャクリが溜息を吐くと隣に座るオリが深く頷く。

「あの暇竜が、暇だからって通販に嵌るのは、構わないが、オクサに余計な情報を渡しやがって」

「エース様の悪口はちょっと……」

 フォローするオクサをきつく睨むオリと冷やかに見るヒャクリ。

「団長も大変だねー」

 操船をしていた、まだ子供っぽさが抜けない角を持つニキビが顔の少女、スリーナ=イカロが暢気に言う。

「スリーナ、笑い事じゃないぞ、相手を捕まえてお金を取り戻さないと、使用年数ギリギリのオンボロ艦を旗艦にすることになるんだぞ!」

 オリの言葉にスリーナが笑顔で言う。

「古くても、あたしは、うちの船って好きですよ」

 大きな溜息を吐くオリと少し微笑みヒャクリが言う。

「そうですね、何時までも後ろ向きの事を言っていても仕方ありませんしね」

 そして、オクサ達は、帝都ゼロから距離的には、近いものの、任意の場所に短時間で移動できるドラゴンロードから離れている為、栄えてない星、ロンに到着する。

「団長、ここが問題の相手の落ち合い場所なのですね?」

 ヒャクリの言葉にオクサが頷く。

「そうだよ。それと、最初から敵意を前面に出さないで下さい。少なくとも今の段階では、相手が詐欺師って確証は、無いのですから」

 オリが拳を握り締めて言う。

「龍神機関搭載艦を通販で販売するなんて、詐欺以外のなんだって言うの!」

 ヒャクリが頷くがオクサが真剣な顔をして言う。

「そう思えても、証拠が無いから駄目ですよ。最低でも、相手が龍神機関搭載した戦艦をここに用意してないって証拠が出るまで」

「用意してる訳ない!」

 オリは、断言するが、オクサの怯まない視線に渋々、頷くオリ。

 そこに、スリーナよりも幼く見える少女が駆けてくる。

「お待たせしました、あちきが、マンカです。今回は、ヤマタノオロチの御買上ありがとうございます」

 頭を下げていたその少女、マンカは、頭を上げて、周りを見て首を傾げる。

「あのー随分少数ですが、今日お持ち帰りにならないんですか?」

 意外な言葉にオリとヒャクリが戸惑う中、オクサが朗らかに答える。

「こっちも予算が少なくてね、ドラゴンロードから遠いこの星に起動可能人数を連れてこられなかったのだよ。スペックが正しかったら補助動力で帝都まで飛べるはずですよね?」

 その言葉にマンカが深く頷く。

「そうですよね、ここは、定期船も無い田舎ですからね。龍神機関とは、いえ、精神波をエネルギーに変換するサイコストーン反応炉で十分なエネルギーを出せるだけの人数を連れてくるとなると、お金がかかりますよね。お互い、お金無いのって辛いですよね。あちきも本当だったらヤマタノオロチを売りたくなかったんですけど、売らないと研究費すら無い有様なんです。振り込んでもらったお金で、次の船の建設材料をなんとか揃えたって所で、研究費用は、これから地道に稼ぐつもりです」

「それは、大変ですね。稼ぐあては、有るのですか?」

 オクサが聞くとマンカは、複雑そうな顔をして言う。

「いくつかの研究成果を売り込む予定なんですが、正直、あちきがまだ十四だから信用が得られなくって困ってます」

 その言葉にスリーナが驚き駆け寄る。

「あたしと同じ年なんだ。てっきり年下だと思ってたよ」

「よく言われます」

 マンカは、笑顔で返す。

 そんなぽかぽか陽気の雰囲気をオリがぶち破る。

「船があるんだったら見せて見ろ! 話は、それからだ!」

 マンカは、笑顔で答える。

「そうですよね、新しい船は、早くみたいですよね。無駄な話をしてすいませんでした」

 あっさり頭を下げるマンカにすっかり勢いを殺されて、戸惑うオリであった。



「ここが、ブリッチです」

 説明するマンカに半ば呆然とするオリであった。

「本気で船がありやがった」

「凄い、ピカピカだ!」

 純粋に喜ぶスリーナを尻目にオクサが言う。

「確か、戦艦の大半を管理する、人工知能があるって書いてあったけど、紹介してくれるかい?」

 ブリッチの中央の立体映像発生装置が動き、一人の黒髪の巫女風の服を着た美少女が現れる。

『あたしが、ヤマタノオロチの管理をしている人工知能、クシナダです。貴方が新しい艦長ですか?』

 オクサが頷く。

「はい。よろしくお願いします。すいませんが、この船を基地まで移動したいのですが可能ですか?」

『ちょっとお待ち下さい』

 立体映像のクシナダは、何故か地図を広げてから頷き答える。

『この距離でしたら、現在、稼動中の補助動力で十分可能です』

 オクサが安堵の息を吐き言う。

「助かります。先程も言ったのですが、ここまで船を稼動させるのに必要な人手を連れてくる費用も安くないので」

「それでは、受け取りのサイン下さい」

 マンカが書類を差し出し、オクサが頷きサインしようとした時、ヒャクリが間に入り笑顔で言う。

「すいませんが、まだサインは、出来ません」

 首を傾げるマンカ。

「どうしてですか?」

 ヒャクリが契約書の再確認した後、言う。

「すいませんが、この船がそちらの提示したスペックを正しく満たしている事を確認するまでは、こちらとしても受け取りにサインは、書けません」

 マンカが不安げな顔をして言う。

「それって返品される可能性があるって事ですか?」

 ヒャクリが笑顔で答える。

「そうですね。スペックを満たしていなければその可能性もあります」

 マンカが涙目になる。

「困ります! もう振り込まれたお金は、使っちゃいました! 返品されてもお金返せません!」

 ようやく本調子に戻ったオリが言う。

「やっぱり見掛け倒しって事だな! つまりあたし達を騙したんだろう!」

 マンカは、首を横に振る。

「実際に龍神機関を本格起動した事がないので、あのスペックは、予測値なんです。通販のページにも明記しています。でも、自信はあったんです」

 ヒャクリは、手元の端末で、問題のページを確認して、マンカの言った事が明記されている事を確認してから、オクサを冷たい視線を向ける。

 オクサは、冷や汗をかきながら言う。

「本当にスペックを満たしている可能性もあるのですよね? まず使ってみてそれから返品するかどうかを判断したらどうですか?」

 その言葉にマンカが頷く。

「そうして下さい。もし、問題ありましたら、あちきが直します!」

 その言葉にヒャクリは、オクサの契約のミスもあるので頷くしかなかった。



 ヤマタノオロチが辰騎士団に納品されてから一週間が過ぎた後のオクサの執務室。

「結論から言えば、あのヤマタノオロチの値段はとても妥当な金額とは思えません」

 ヒャクリの言葉に聞いていたマンカが悲しそうな顔をする。

「でもでも、ネットで調べましたけど、あのクラスの戦艦の値段としては、普通の値段をつけた筈ですよ」

 ヒャクリが大きく溜息を吐いて言う。

「それが、間違いです。ネットに載っている船の価格で、あの船、ヤマタノオロチの値段を設定した事自体が問題です」

 マンカが今にも泣きそうな顔になる。

「副団長、そんなきつい事を言わなくてもいいじゃん」

 すっかり仲が良くなったスリーナが弁護をする。

「そんなに悪い船だとは、思えないがな」

 釈然としない顔をするオリにヒャクリが言う。

「逆です。あの船は、少なく見積もっても提示されていた金額の数十倍の金額がついてもおかしくない船です。これは、旗艦登録に来て貰った未騎士団の技術仕官が算出した数値です。その技術仕官が、何度もヤマタノオロチの借用を申請してきていましたから間違いないでしょう。そのうち団長の所にも正式に要請が来ると思います」

「旗艦を貸し出せる訳ないだろうが」

 オリの言葉にヒャクリが答える。

「代わりの船、それも龍神機関搭載艦の提供まで検討しているって話しです」

 困惑するオリを尻目にオクサが断言する。

「貸し出しは、行いません。ヤマタノオロチの機能に問題なければ、新しい旗艦にするだけです」

 ヒャクリが、そんなオクサを真剣な目で見て言う。

「団長は、最初からあの船があれ程の高スペックだと知っていたのですか?」

 オクサは、平然と答える。

「僕は、通販ページに書かれていたスペックを信じていただけですよ」

 ヒャクリは、その答えに納得できないって顔を少しするが、オクサが表情を変えないので小さく溜息を吐いて言う。

「受け取りにサインする事に問題は無いと言うのが私、辰騎士団、副団長の判断です」

 オクサは、続いてオリを見るとオリも真面目な顔をして言う。

「戦闘隊長としても、あの船の装備、特に戦闘機のスペックには、問題がない。それどころか、あれを返品や貸し出すなんて言ったら、辰騎士団を辞めて、そっちにいく」

 オクサが頷く。

「それでは、受け取りにサインするよ」

 マンカは、嬉しそうに受取書を出すが、それをヒャクリが遮る。

「待ってください」

 その行動にマンカが不安そうな顔をする。

「まだ何か問題は、ありますか?」

 ヒャクリがマンカの顔を見て言う。

「こちらには、ありません。しかし、先程言いましたが、あの金額は、とても妥当な金額では、ありません。少なくともあの金額で契約を完了するのは、問題です」

 その言葉にマンカは、少し考えた後、言う。

「元々、予測スペックですし、仕方ないと思いますけど、そういうのでしたら、実績評価で、結果が出たら追加料金を支払って貰うって言うのはどうですか? その間、あちきがヤマタノオロチに乗り込み、実働実績を収集して、次の船の参考にしますから、それでしたらお互いに損が無いと思いますけど」

 ヒャクリは、少し考えてから頷く。

「確かに、そちらが、実戦データが欲しいというのでしたら、こちらからも提供出来る物もありますね。ここは、サインし、追加料金の支払いについては、改めて書類を作りましょう」

 そして、受け取りにサインをした時、警報が鳴る。

『緊急事態発生、緊急事態発生。我が騎士団の、巡廻艦が攻撃を受けています。相手は、ドラゴンロードを破壊しようとした、テロリストの残党だと思われます』

 その報告にオリが舌打ちをする。

「申の奴等、残党狩りすらろくに出来ないのかよ!」

 オクサが立ち上がり、告げる。

「そんな事は、後です。至急、救援に向かいます」

 頷く一同。



 ヤマタノオロチの艦長席にオクサが座る。

 その横の席にヒャクリも座っている。

 クシナダの立体映像が身嗜みを整え終えて言う。

『出撃準備終了しました』

 オクサが頷く。

 その中、操縦席に座るスリーナがゲスト席に座るマンカに言う。

「あの立体映像の動きに意味があるの?」

 マンカが小さく溜息を吐いて言う。

「実家のライブラリーにあった、昔のアニメのデータをいつの間にかに見ていて、それを真似てるの。本人が気に入っているから直さなかったんだけど邪魔かな?」

「邪魔だ! とっとと削除しちまえ!」

 戦闘指揮官席に座るオリの言葉にクシナダが嫌そうな顔を立体映像として浮かべる。

 オクサが朗らかな顔をして言う。

「別に僕は、気にしませんから良いですよ」

 笑顔になるクシナダを見てからオクサが宣言する。

「辰騎士団、旗艦、ヤマタノオロチ出撃」

 そして、ヤマタノオロチが飛び立つ。



 大きな翼を持った竜、ワイバーンの姿を想像させる形態をしていたヤマタノオロチは、救援信号を送っていた今にも撃沈しそうな味方艦を捕捉する。

『味方艦確認、敵艦、十五。うち一隻に龍神機関の反応を感知しました』

 クシナダの望遠鏡を見る映像を出しながらの報告にヒャクリがオクサを見て言う。

「これほどの戦力を何処に隠していたのでしょうか?」

 オクサは、即答する。

「ドラゴンロードに対するテロ行動の直後、混乱した十二支騎士団の隙を突いて、一気に帝都を攻めるつもりで用意していた戦力ですね。ドラゴンロードに対するテロ行動とは、全くの別働隊。ある意味、本命はこっちだった筈です。それが、ドラゴンロードの破壊の失敗で目的を失いそれを、復讐の為に使うことにしたのでしょう。部下には申し訳ないですが、ここで発見できたのは、幸運です。ここで撃破します」

「了解、これより当艦は、第一種戦闘態勢に入ります。各自、緊急安全装置を装備して下さい」

 その言葉に答え、ブリッチクルーが、船が破壊された時に自動的展開して、装備者を護る、拳大の安全装置を胸に装備する。

母竜ボリュウモードに移行後、戦闘機発進、戦闘機の指揮は、戦闘隊長に一任します。第一優先は、僚艦の攻撃する敵戦闘機の排除。第二優先は、ヤマタノオロチの防衛です」

「了解。これ以上、あたしの仲間を傷つけさせない」

 オリがそう宣言して、戦闘時専用移動ゲートで、戦闘機に向かう。

「間に合ってくれ」

 オクサが祈るように呟く。



 少し、時間を戻り、辰騎士団の巡廻艦、ランドドラゴンツーブリッチ。

 指揮をとっていた翼を持った竜人の美青年、テンダ=アレロスが死の恐怖に怯える部下達を叱責する。

「お前達は、陛下にその命を捧げた騎士では、ないのか?」

 その言葉に、部下の一人が告げる。

「しかし、戦力差がありすぎます。ここは、ドラゴンロードに逃げ込む事を最優先にすべきでは、ないでしょうか?」

 テンダがその部下を鋭い視線で射抜く。

「そして奴等をロストするのだな?」

 その言葉に慌ててその部下が言う。

「第一報は送ってあります。きっと騎士団の警戒網に引っかかる筈です!」

 テンダは、その部下の答えを否定する。

「今までその存在を隠蔽していた奴等だ。高性能のステルスシステムがある筈。万が一にも警戒網を抜けられた場合、帝都に損害が出るのは、避けられない。ここで我々が逃走に見せかけて引きつける事で、時間を稼げば、宇宙の塵になろうとも、その死は、帝都を護る礎になるだろう」

 その言葉には、反論が帰ってこないが、騎士達の顔からは、死への怯えは、消えない。

 テンダは、笑顔を浮かべて言う。

「安心しろ、幸運にも攻撃兵器は、殆ど積み込んでないが分、防御に回せる出力が大きい。非常用の避難装置もある。相手戦艦の主砲の直撃を食らわない限り死なない筈だ。俺達は、旗艦が失っても死傷者を出さなかった辰騎士団だ」

 安堵の息を吐く部下達に指揮官席に座りテンダが小声で呟く。

「そんな処置をしたのは、この可能性を考慮したオクサの判断だったがな。相変わらず良い感をしている」

 苦笑してテンダがぼやく。

「仕官学校時代、身体テストでも学力テストでも何時も俺が勝っていたのに、いざ模擬戦となると最後に勝ってたのは、あいつだった。死ぬ前に将棋で一勝しておきたかった」

 テンダは、部下には、生き残る方法を見せていたが、自分だけは、最後の最後まで相手を引きつけるために、この席を離れるつもりは、無かった。

 その時、監視官が叫ぶ。

「急速接近する艦一。識別コード判別。辰騎士団、旗艦、ヤマタノオロチです」

 その言葉に、ブリッチクルーが歓喜の声をあげる中、テンダが言う。

「最大望遠でその姿を映せるか?」

 テンダは、これで助かるとは、楽観していなかった。

 新型旗艦が、高性能でも、一隻では、後方に居る敵艦に勝てないと判断している。

 テンダが、最後に新しい旗艦の姿を見ようと考えたのだ。

「新旗艦の映像でます」

 ブリッチに映し出された映像を見て、テンダが驚いた。

 彼が知るどの戦艦とも異なり、同時にその姿は、とても高貴に見えたからだ。

「アレロス副団長の祖先に似ていますね」

 部下の一人の言葉にテンダが頷く。

「確かに、俺の先祖、ワイバーンの姿に似ているな。これを最後に見れただけでも良かったな」

 その時、新型旗艦はその姿を変形していた。

 それは、先程までと大きく異なり、まるで八つの首を持つ竜の姿であった。

 困惑する騎士が呟く。

「戦艦があれ程変形するなんてどういうことでしょうか?」

 テンダも首を横に振る。

「俺にも解らん。しかし一つだけいえる。新しい旗艦は、今までの戦艦とは、異なる戦艦だと」



飛竜ヒリュウモードから母竜モードに移行を完了しました』

 自分の服も変化させたクシナダの言葉に、オクサが頷く。

「戦闘機発進。発進終了後、直ぐに闘竜トウリュウモードに移行し、遠距離からの攻撃で、敵艦を牽制しながら接近します」

「了解。アポロス戦闘隊長、緊急発進お願いします」

 ブリッチの画面にオリが映し出される。

『了解。ブルードラゴンワンからエイト先行発進し、至急ランドドラゴンツーに向かえ。次にレッドドラゴンワンからフォーとイエロードラゴンワンからフォー発進後、あたしのレッドドラゴンワンとツーがブルードラゴンのフォロー、スリーとフォーとイエロードラゴンワンからフォーは、中距離で待機、敵戦闘機を警戒しろ。最後にグリーンドラゴンワンからエイトが発進し、ヤマタノオロチを防衛しろ』

『了解、ブルードラゴンワン発進します』

 次々に、ヤマタノオロチの口にも見える場所からまるで航空戦闘機を思わせるシルエットの青い戦闘機、ブルードラゴンが発進する。

『レッドドラゴンワン、オリ=アポロス発進する!』

 先程の戦闘機に似ているが、多くの武装をした赤い戦闘機、レッドドラゴンと多くのミサイルを搭載した戦車を思わせる黄色い戦闘機、イエロードラゴンが発進する。

 最後に、球形のボディーにアームを持った緑の戦闘機、グリーンドラゴンが発進と同時にヤマタノオロチの周囲に展開する。

 それを確認し、ヒャクリが報告する。

「戦闘機の発進終了を確認。闘竜モードに移行して下さい」

 立体映像のクシナダが着替え始めると同時に、ヤマタノオロチのボディーが更に変形を開始する。

 先程までは、後ろに長い形態だったが、今度は、胴体にあたる部分が大きく膨らみ、短くなると同時に八つの首にあたる部分が、大きく広がる。

『母竜モードから闘竜モードに移行を完了しました』

 クシナダの答えに、オクサが命令する。

「副砲、ドラゴンブレスをランドドラゴンツーを囲う形に連射」

「了解、ドラゴンブレスワンからエイトの照準をセット至急。照準セット終了したドラゴンブレスから発射して下さい」

 ヒャクが細かい指示を各部門に通達する。

 それに答え、先程、戦闘機を発進させた首が動き、動きが止まった首の口から強力なエネルギー弾が次々に放たれる。



「旗艦、ヤマタノオロチからエネルギー弾の連射を確認」

 ランドドラゴンツーのオペレーターの報告にテンダが指示を出す。

「少しは、牽制になる、今のうちに距離をとるぞ」

 クルー達が慌てて動き続ける中、オペレーターが大声を報告する。

「三隻の敵艦にエネルギーシールドに着弾確認」

 少し驚いた顔をして、その様子見ながらテンダが言う。

「良い照準システム搭載してるな……」

 しかしその言葉は、途中で止まった。

 オペレーターが報告を続ける。

「着弾した敵艦に内部からの爆発を確認。戦闘不能になったと思われます」

「冗談だろう。この距離で相手のエネルギーシールドを貫通したと言うのか。通常の戦艦が放てる威力じゃないぞ。今まで見た戦艦のなかでそんな事が出来そうなのは、トラ騎士団の旗艦、ファイアータイガーくらいだぞ」

 そこにヤマタノオロチからの通信が入る。

『もう少しでそちらに到着します。すいませんがもう少し頑張って下さい』

 オクサの言葉に、テンダが半ば呆れた顔をして言う。

「しかし、とんでもない主砲を持つ旗艦を手に入れたな。もしかして龍神機関搭載艦か?」

 それに対して、オクサの隣のヒャクリが答える。

『すいませんが、アレロス副団長は、勘違いしています』

 苦手そうな顔をしながらテンダが言う。

「しかし、龍神機関搭載していないとあんな強力なエネルギー弾は撃てないと思うが?」

 ヒャクリが頷きながら答える。

『このヤマタノオロチに龍神機関を搭載しているのは、間違いありません。誤解されているのは、今の砲撃が主砲によるものだという事です』

 テンダが眉を顰めて言う。

「まさか、いまの一連の攻撃の為だけの特殊装備か?」

 再び首を横に振るヒャクリにテンダが首を傾げるとヒャクリが答える。

『今のは、ドラゴンブレスと呼ばれるこのヤマタノオロチの副砲です。主砲クサナギは、この位置からでは、威力が強すぎてランドドラゴンツーを巻き込む恐れがある為、使用出来ませんでした』

「こんな時に冗談は、止せ! あの威力で副砲なんて事は、あるか!」

 それに対してヒャクリが冷静に告げる。

『私が、この状況で冗談を言うと思いますか?』

 その一言にテンダが沈黙して信じられない物を見て言う。

「信じられない事実だ。そんな戦艦を何処で見つけたんだ?」

 オクサは、朗らかに言う。

『通販で買ったのですよ。それよりも先程も言ったとおり、ランドドラゴンツーがその位置では、敵に主砲を撃ちこめません。急いで射線から外れて下さい』

 テンダが、溜息を吐きながら言う。

「お前の冗談が笑えないのは、何時ものことだから気にしないが、そっちが高い砲撃能力を持っているのだったら、これ以上近付くな。この距離で打ち合いを行えば、少なくとも他の騎士団からの救援が来るまでは、大丈夫だろう」

 オクサが首を横に振る。

『それでは、ランドドラゴンツーを助けられません』

 テンダが頭を掻いてから言う。

「部下達の事は、気にするな。お前が搭載しておいた避難設備を使って脱出させる。それよりもあいつ等は、ほぼ限界まで戦闘機を搭載してきている。間違いなく帝都制圧の為のものだろうが、近距離戦になれば、戦闘機の数の差は、戦艦の最大攻撃力では、補えなくなるぞ」

『愚考ね! あたし達、辰騎士団の新戦闘機部隊、カラーズドラゴンは、無敵よ!』

 オリの言葉に疲れた顔をしてテンダが言う。

「また、オリ嬢ちゃんが暴走しているから、引っ込めさせろ。無駄に犠牲を出す必要は無いぞ」

「味方戦闘機八が、当艦に追尾攻撃している戦闘機と交戦状態に入りました」

 オペレーターの報告に舌打ちしてテンダが怒鳴る。

「相手の戦闘機は、下手したら五百を越すんだぞ、直ぐに後退して、旗艦の防衛に回せ! これは、副団長命令だ!」

『団長命令が優先よ! それにたった二十倍、この新型戦闘機の敵じゃないわ!』

 自信たっぷり答えるオリ。

 歯軋りをするテンダであったが、その戦闘風景を見ているうちに驚きの表情に変わる。

「どういうことだ、相手攻撃をエネルギーシールドに受けているのに、エネルギーシールドが過負荷で落ちない。戦闘機が搭載している動力容量を遥かに超えているぞ?」

『ヤマタノオロチ専用戦闘機には、小竜機関と呼ばれる、ヤマタノオロチの龍神機関で発生したエネルギーを受け取るシステムが組み込まれているのです。さすがに戦艦クラスまで行きませんが、戦闘機クラスでは、破格のエネルギーが使用できます』

 ヒャクリの答えにテンダがオクサをみて言う。

「基地に帰ったら話しがあるから時間をくれ」

『解っています。今は、射線から外れてください』

 オクサの命令を受けてテンダが指示を出し始める。

「了解。当艦は、これより全力で、旗艦と敵艦の射線から抜けだす。総員、加速に備えろ!」



「ランドドラゴンツーが、クサナギの影響範囲から抜けました」

 ヒャクリが事前のテスト結果との照合結果を報告するとオクサがマンカを見る。

「テストの時より威力があがる可能性は、ありますか?」

 実戦データを取っていたマンカが少し考えてから頷く。

「その可能性は、十分考えられますが、それでも、収束率が高いですから大丈夫だと思います」

 その答えに頷きオクサが言う。

「クサナギ発射準備開始して下さい。戦闘機に通達、百二十秒後に主砲クサナギを射撃するので、その射線から至急退避して下さいと」

 ヒャクリが頷き、オペレーター達と共同で、予想影響範囲と味方戦闘機の位置から適切な退避ルートを送る。

『龍神機関とクサナギを直結。エネルギー巡廻ループにエネルギーを送ります』

「戦闘機退避確認。エネルギー粒子、必要速度到達確認。いつでも撃てます」

 ヒャクリの報告にオクサが命ずる。

「照準、敵龍神機関搭載艦。クサナギ発射してください」

「照準、調整終了。クサナギ発射!」

 ヤマタノオロチの八つの首の中心に当る部分が開放されてそこから凄まじいエネルギー砲が発射された。



「どうなっている!」

 そうどなった男は、レイ帝国に反抗するテロ組織の幹部の一人であった。

 偉大なる指導者が、酉騎士団に捕獲された為、その報復行為として、帝都を攻撃し、その成果をもって新たな指導者と名乗ろうとしていた。

 その途中、憎き辰騎士団の船を発見したした為、攻撃をすると、惨めにも逃走を図ったので相手をいたぶって居た。

 しかし、やってきたヤマタノオロチのでたらめな性能に混乱していた。

「相手は、たった一隻だ! 接近して全戦闘機を投入して、撃沈しろ!」

 そう言う間も、一隻の味方艦が撃沈した。

 舌打ちするテロ組織幹部だったが、自分の艦が沈むとは、夢にも思わなかった。

 それだけの信用が自分の乗る戦艦には、あったのだ。

「最悪は、この艦だけでも逃げる。その際は、残り船は、相手戦艦の足止めをしろ」

 理不尽な命令に戸惑う部下達。

 副官が慌てて言う。

「ここは、相手のエネルギー弾を食らっても防げる当艦が盾となり、僚艦を相手戦艦に近づけるのが有効な戦略です」

 幹部の男が怒鳴る。

「何で私が、そんな危険な真似をせねばならないのだ! 私は、偉大なる指導者の地位を継ぐ者だぞ!」

 部下達の視線が冷たくなるのを幹部の男は、気付かない。

 そしてその時オペレーターが告げる。

「敵、戦艦からエネルギー弾が放射されました。当艦の直撃コースです」

 ざわめく部下達を幹部の男が鼻で笑う。

「この距離でこの龍神機関と搭載した戦艦のエネルギーシールドを破れるものか」

 しかし、その予想は、あっけなく裏切られた。

 ブリッチを大きな振動が襲う。

「どうした!」

 幹部の男の言葉にオペレーターは、絶望をその顔に浮かべて告げる。

「敵エネルギー弾直撃。誘爆が開始しています。当艦は、終わりです」

 幹部の男が信じられない表情で怒鳴る。

「何かの間違いだ! この戦艦が落ちる訳が無いのだ!」

 次の瞬間、誘爆がブリッチに達した。



「敵龍神機関搭載艦撃沈を確認しました」

 ヒャクリが報告するとオクサが言う。

「このまま接近を続けて下さい。ドラゴンブレスの照準は、敵戦艦から、逃亡予想ルートに変更。敵の逃亡を牽制します」

「了解。逃亡予想ルート算出後、照準調整を開始します」

 ヒャクリが次々にオペレーターに指示を出していく。

 オクサは、起死回生の一手として、ヤマタノオロチに特攻を仕掛けてきた敵戦闘機が、ランドドラゴンツーが安全な位置に移動後、遊撃に入ったオリを中心としたレッドドラゴンとイエロードラゴンに大半、残った戦闘機もグリーンドラゴンに撃沈されていくのを確認してから言う。

「敵に投降を呼びかけて下さい。皇帝陛下直属の十二支騎士団の一つ、辰騎士団騎士団長オクサ=アテナスが、正当な裁判を受ける権利を保障するとつけて」

「了解、広域周波数を使い、投降を呼びかけます」

 ヒャクリは、返答後、直ぐに投降を呼びかけた。



「新旗艦の初陣の完勝に乾杯!」

 オリが嬉しそうに騒ぐ。

 辰騎士団の基地では、今回の圧勝を祝して大きなパーティーが開かれていた。

 前回の手柄を横取りされた鬱憤の解消と新しい旗艦の物凄い性能に騎士団は、浮かれていた。

 その中、テンダは、視線だけでオクサを外に誘導する。

「もう少し後では、いけませんか?」

 オクサの言葉にテンダが真剣な目で言う。

「あの戦艦の性能は、異常だ。そんな戦艦をどうやって手に入れた?」

 オクサが表情を変えず答える。

「何度も言っていますが、通販で売っていたのですよ」

 テンダは、オクサを睨み言う。

「オリやヒャクリと同じと思うな。お前とは、士官学校時代からの付き合いだ、通販なんて信用できない物にお前が部下の命を預けたりしないのは、解ってる。裏に何がある!」

 オクサは、溜息を吐いて言う。

「通販で売っていたのは、確かですよ。それだけは、間違いありません。ただ、試験運用して駄目だった場合は、どこかに下取りして貰って別の戦艦を買おうと思っていました」

 眉を顰めるテンダ。

「何でそんな不確定要素がある戦艦を買った? 高性能の戦艦が欲しかったらお前だったらもっと効率の良い方法が有った筈だ」

 オクサは、肩を竦めて言う。

「あの戦艦が売りに出されている状況が不味かったのです。最悪でも問題ない事を確認する必要がありました」

「やっぱり裏の事情があったんだな。どこからの情報だ?」

 テンダの質問にオクサは、首を横に振る。

「製造者の家名が問題だったのですよ」

 その言葉に、テンダが探りの為にあったマンカの名前を思い出す。

「確か、キリナガレって妙な家名だったな」

 それを口に出した時、テンダの頬を冷や汗が流れる。

「あの娘は、お前と同じ純粋な人だったよな?」

 オクサが首を振る。

「本人に確認しました。竜人としての外見特徴を隠せるそうです」

 テンダが顔を引き攣らせながら言う。

「俺の勘違いかもしれないんだが、皇帝陛下の眠りにより延命している后の元の家名がキリナガレだった気がするんだが」

 頷くオクサ。

「間違いありません。一般では、あまり知られていませんが、騎士団の仕官候補の教育の中で教わりました。本人の遺伝子の検査結果も皇帝陛下の血を引いていることが明確に出ていました」

 テンダは、室内を見るとオリが、問題のマンカに絡んでいた。

 慌てて駆け寄ろうとするテンダを止めるオクサ。

「皇帝陛下は、世襲制を行わないと宣言しています。彼女に血に因る特権等はありませんから気にする必要は、ありません」

 テンダが少し混乱しながらも言う。

「だったらあの戦艦の性能は、どう説明するんだ」

 オクサが頬を掻きながら言う。

「エース様から教えていただいた機密情報ですが、キリナガレの人間は、異界に行く術を持っているそうです。本人は、隠しているつもりでしょうが、ヤマタノオロチに使われているシステムのいくつかは、異界の技術が使われています。そんな戦艦を通販で売られたままにしておいて問題ないと思いますか?」

 テンダが大きく溜息を吐く。

「詰り、俺達は、高度な異界の技術が存在し、あの戦艦に使われている事が発覚して、レイ帝国に混乱を呼ばないように、他の騎士団からも隠蔽するする必要があるって事だな?」

 頷くオクサ。

「未騎士団に少しずつ技術を流出して、この世界で開発された技術と誤認させる必要があるのです」

 疲れた表情をしてテンダが言う。

「事故に見せかけて破壊したら駄目か?」

 苦笑するオクサ。

「それも考えたのですが、テロ活動が活発になってきた今、あの戦力は、必要です」

 諦めきった顔をしてテンダが言う。

「そうだな、俺達には、帝国を護る義務がある。その為には、あの戦艦は、強力な助けになる。しかし、お前も本当に貧乏くじを引くのが好きだな。絶対わざと引いているだろう?」

 オクサは、何も答えず、パーティーに戻っていく。

 テンダは、後ろを向き、パーティー会場から見える位置に停留してあるヤマタノオロチを見る。

「そんなあいつに付き合う俺も貧乏くじを引くのが好きなんだな」

 苦笑しながらパーティー会場に戻って行った。

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