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人形の館  作者: 蒼井七海
終章
20/20

秘めた気持ち

 どこからか、賑やかな声が聞こえる。すごく近いようで、遠い。そんな、不思議な声だった。

(なんだろう……)

 ぼんやりとそんなことを考えていると、声がだんだんはっきりとしてくる。

「……。……き…………って」

(――?)

 だが、未だにちゃんと把握できなかった。そのためぼんやりしていると、突然、彼女の顔に冷たい物が降りかかってきた。

 彼女――ステラは、声にならない悲鳴をあげて飛び起きた。


「おおっ! やっと起きたかこの寝ぼすけ剣士サマは」


 ようやく覚醒してみると、なぜか目の前に大きなバケツを抱えた幼馴染がいた。今日の黒髪は、なぜか一段とさらさらである。ちゃんとしたシャンプーでも使ったのだろうか。

――じゃなくて!

「なんであんたが孤児院にいるの!?」

 跳ね起きたステラは、まず根本的な疑問を口にした。レクシオは、古ぼけたバケツをぶんぶんと振りまわしながら、相変わらず軽い口調で答えてくる。

「なんでって……。昨日の夜、この近くを通る用があったからついでに顔を出したら、なんかおばさんに誘われちまってさ。せっかくだからいつもの好意に甘えて外泊手続きもしてさ、泊まり込んだんだよ」

「げぇっ」

 彼と同じ屋根の下で寝泊まりするのは先の合宿だけで十分だ、と思っていたステラは、思わずそんな声を上げた。ちゃっかり目ざまし担当になってるし。そう思った瞬間、あれこれ文句がわいてくる。

「大体朝から何よ。これ、氷水じゃない!? 心臓止まったらどう責任とってくれるのよ!」

 だが、幼馴染はむかつくほど冷静で。

「えーっ。おまえが起きないってチビどもがうるさいからさー。それに、ステラって殺しても死ななそうだし」

「失礼ねー。あたしだって人間だから、心臓止まったら死ぬわよ」

 後で考えると少し身震いしたくなるようなセリフを、この時のステラは軽々しく口走ったものである。だが、意外にもレクシオは同意してくれた。

「そうだな。死ぬときはいさぎよく死んだ方が、人間らしくいられるかもしれない」

 どこか遠くを見るような目である。しばらく考えて、彼が遠まわしにミシェールのことを言っているのだと気付く。なんだかんだで、あの合宿からすでに一週間が経っていた。

「……どうしてるかなぁ」

 馬鹿馬鹿しいことを言った。分かっているが、言わずにはいられない。すると、相変わらずのレクシオが、腕組みをして断言する。

「今頃、仲良く遊んでるさ!」

 その台詞で、合宿のすべてを思いかえしてみた。今思えば、どれもこれも恐ろしいことだらけである。グループ活動とはいえ、よくあんなことをただの学生五人がやってのけたものだ。ちなみに、勝手に行った儀式については無事ばれていない模様だ。

 ふと、一日目の夜を思い出す。ステラにとってはあの日が一番怖かった。だが、同時に……

「あの時のレク、ちょっとかっこよかったんだけどなぁ」

「――何?」

 ようやく現実に戻ってきたらしいレクシオが、声を上げた。

 聞かれた! そう思ったステラは、さっと目を逸らした。

「な、な、なんでもないわよ!」

 きっと今、自分の顔はさぞかしいい赤色をしているんだろうな、と他人ごとのように思う彼女の横で、レクシオは首をかしげていた。

「なんでもいいが、早く下に行こうぜ。チビどもがやかましい」

 うん、と小さく返事をし、ステラはちらりとその背中を見た。

 あんな思いはできればしたくない。だけど、あんな幼馴染の姿を見られるのなら、もう少しだけ今回みたいなことがあってもいいかな……なんて、思ったりした。

 もちろんこの気持ちは、自分だけの秘密である。




Fin


………微妙な恋愛臭さを残して、とりあえずシリーズ第一弾完結です。今後の展開に期待。


 話を書こうと思った発端は多分、『ホラー風味、推理風味』と『うさぎのぬいぐるみ』を思い付いたところですね。そこから話が広がって、こんなものになりました。

 個人的にツボだったのが、ステラの豹変シーン。また、あんなの書けるといいです。あとは過去の話かな。


 そして予告。次回作『世界神へ挑む者』は、十一月くらいからボチボチ連載を始められたらいいなと思います。いきなりタイトルが大仰になりました、ご期待下さい♪

 それまではほかの小説をお楽しみください。最近全然進んでいませんが。


2012.10.9

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