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寸前に瘴気でさえぎられ、棒がうなりを上げた。が、ステラはそれを感じていないかのように怒鳴りつける。
「固い決意も度が過ぎればただの強情だ! おまえがあの頃、本当に望んでいたのはそんなものか? そんなくだらない、小さなものか? 腹ぁ割って本音をぶちまけてみろよ、吐き出してみろよ!! それとも何か、こんなことをして親友が喜ぶと、おまえは本気で思っているのか、どうなんだ!!」
彼女のあまりの豹変っぷりに度肝を抜かれたらしい。ミシェールは目を白黒させていた。だが、続く言葉は容赦がない。黒い瞳が、霊体を射抜いた。
「答えろ! ミシェール・ラインマイル!」
『どこでその名を』
ミシェールがうわごとのように呟く。だが、ステラは応じない。ただ棒を構え、彼女の答えを待った。強引かもしれないがこれはステラなりの説得だ。こちらが一方的に言い聞かせても意味はない。自分で答えを見つけてもらう。自分で自分の心と向き合ってもらう。そうでなければ、意味はない。
幼い少女の青い瞳が揺れるのを、確かに見た。
☆
――おまえがあの頃、本当に望んでいたのはそんなものか?
わたしが、望んでいたもの? あの頃、本当に、心から望んでいたもの……。何、なんだったんだろう。
――こんなことをして親友が喜ぶと、おまえは本気で思っているのか
そんなこと、思っていない。チェルシーは優しい子だった。こんなこと望むわけがない。それでも、わたしはこうするしかなかった。こうするしかなかったんだ。
――本音をぶちまけてみろよ、吐き出してみろよ!!
本音? わたしの、本音? わたし、本当はどう思っているの?
わたし、わたし、わたしは――
『ミシェール』
チェルシー。
『また、明日も遊ぼうね』
……ああ。
…………そうか。
とても、簡単な話じゃないか。
☆
『わたしは……』
急に瘴気が弱くなる。ステラは、静かな動作でミシェールを見た。彼女は小さく、しかしはっきりと言葉をつむいだ。
『ただ、チェルシーと楽しく過ごしたかったんだ。人形としてでもなく、お金持ちの子としてでもなく、ミシェールっていうただ一人の人間として』
答えが、出た。
それと同時に瘴気も消えた。この間のように波が引く感じではない。あまりにも、唐突だった。ステラは木の棒を下ろし、見る。そこにはいつものステラがいた。
「……分かってた」
呟くように言ってから、物語を読むように言う。我ながら随分と落ち着いた声だと思う。
「本当は、悲しかっただけなんだよね。ただチェルシーと遊びたいって思ってただけなのに、歪んだ女の人に魂を人形に入れられてしまって。また仲良くなったと思ったチェルシーに、目を背けられて。本当に、つらくて悲しかった。それだけ」
この瞬間、ミシェールの白い頬を何かが伝った気がした。そんなわけないのに――泣いているように、見えた。
黒い瞳を開いて、最後の問いをぶつける。
「あなたの、今の願い事は何かしら?」
ミシェールがすぐに答えてきた。迷いは、なかった。
『わたしを……ここから解放してください』
綺麗な声だなぁ、と、この時初めて思った。そして顔も、年相応の女の子のものだった。いや、それ以上に清らかに思える。
ステラは笑って、ただ応じた。
「専門家に任せなさい。もうすぐ、始まるわ」




