表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形の館  作者: 蒼井七海
第四章 魂の記憶
16/20

4

 少しずつ、視界に光が戻り始めていた。同時にさっきまで感じていた嘔吐感もぶり返してきたが……。

 うっすらと目を開けると、なぜか目に涙をためた幼馴染の姿が映る。

「レク?」

 彼女は、震える声で呼びかけてきた。


(まさかとは思うが、気絶してたのか? 感覚を共有した上に?)

 今ままでも何度か読み取りは行ってきたが、そんな前例はない。それほどまでに、この人形にこめられた魂の記憶が鮮明だということか。強い記憶を読み取って、その時の痛みや苦しみや温もりを共有したことならあるが、ここまではっきりとしたものはやはり今までになかった。

 とんでもないことをやらかした、と今更ながらに自覚しながら、レクシオは緩慢な動作で体を起こす。すると、横にいたステラが詰め寄らんばかりの勢いで言ってきた。

「だ、大丈夫!? 頭痛くない? ほかにも変なところない? いきなり気絶したもんだから、びっくりしたんだよ!!」

 どとうの勢いとはまさにこのことだ。さすがのレクシオも、これにはたじたじである。顔の前で手をぶんぶんと振りながら、叫んだ。

「た、多分大丈夫……というか一気にいろんなことを言うな!」

 そこで、ようやくステラの勢いが止まった。視線も動く。その先には、件のうさぎ人形がいた。さっきの過激な映像を見せたとは思えないほど、無機質にその場に佇んでいる。

 ぽつりと、声が問うてきた。

「何が見えたの?」

 一瞬何が言いたいのか分からなくて、へ、と間抜けな声を上げたが、すぐにその意味を汲み取って答えた。なるべく刺激しないよう、少しおどけて見せる。

「金持ち少女の、儚くも波乱万丈な一生だよ」

 一生、という言葉に反応してか、ステラが目を瞬いた。そこでようやくレクシオの仮説も完全に悟ったらしく、はっと口元を押さえている。レクシオはもう一度うさぎに目をやった。

 相も変わらずその場に転がっているだけだが、その表情が少しさびしげに見えたのは彼だけだろうか。いずれにせよ、あの中に入っている魂はかならず解き放ってやらねばならないだろう。たった一人の女の歪んだ愛情のせいであんな人形の中に閉じ込められたのだ。さびしかっただろう、つらかっただろう……。

(でも、それが今までおまえのやってきたことを正当化する理由にはならないんだ、ミシェール)

 どうしてこれまで、人形の館の噂が広がらなかったのかなんとなくわかる気がする。実際にここに訪れた人間がきっとこれまでに何人もいて、そいつらは全員ミシェールに殺された。理由は分からなくとも、そいつらが帰ってこないことを受けてあの中で死んだんだ、と残った者たちは解釈して、その噂を広めなくなった。この繰り返しだったのだろう。だからこそ、今までこうして真実が闇の中に葬り去られていたのだ。

 だが、もう無視してはいられない。彼女を安心させるためにも、犯した罪を清算してもらうためにも、ここで終わらせなければならない。

 決意を新たにしたレクシオは、呆然としていたステラに声をかけた。

「ジャック達に話しに行こう」


 部屋から出ると同時に、短い髪をいじくっていたナタリーの「おかえり」という言葉が聞こえる。その後にトニーから容赦のない疑問がぶつけられた。

「で、仮説は立証された?」

「ああ」

 レクシオはさらりと答える。それから全員を招き寄せ、見た物すべてを話した。もちろん、読み取りの術云々については黙ったままで。

 一通り話し終えてから一同の顔を見ると、全員が青ざめていた。人形に魂が入っているという仮説に気付いていたというナタリーでさえも、「うわー」と言ってこめかみを押さえている。

 そりゃま、図太さだけは自慢にならない自慢の俺が気絶するくらいだから、相当な話だろうな。心の中でぽつりと呟いた。きっとあれは、鮮明すぎる感覚に耐えるための自己防衛だったのだろうと思う。もう一度緑の目を四人に向けてから、再び話し出した。

「……ここで、さっき言ってた『魂を元に戻す術』ってのが関わってくるんだけど」

「お、何となくわかったぞ。ミシェールの魂を解放してやるということだな?」

 少し顔に生気が戻ったジャックに、レクシオはうなずいた。『元に戻す』ではなく『解放する』という単語を使ったあたり、相変わらず鋭い人だ。

 すると、傍で話を聞いていたトニーがポリポリと小鼻をかいた。

「あ~……でも、あれって結構大がかりな術だよな。やり方は知ってるし合同でやれば魔力的にも問題ないだろうけど、先生の許可なしでやっちゃっていいわけ?」

 魔導科では、授業や実習以外は始めに習う基礎的な術しか使ってはいけない、と固く言われているらしい。言うまでもないが、今回使おうとしている術は明らかに「基礎的」を脱しているものだ。もしばれれば、よくて出席停止、最悪の場合は退学にもなりえる。

 だが、決定権を持つ団長の言葉は実に気楽なものだった。

「ここにいる人が他言しなければ、それで済む話だろう?」

『おいおい、いいのかそれで』

 偶然に決まっているが、レクシオとトニーの声が重なった。その様子に軽くふきだした後、ナタリーが続ける。

「でも、問題は術の発動条件のひとつ――『相互の同意』よね。ミシェールは恐らくまだまだ殺す気満々だし、誰かがうまいこと丸めこんでくれないと、成功させるのは無理よ」

「そこ、根本的な問題じゃない」

 今更その話を出してきたナタリーに呆れたように、ステラが肩をすくめる。問題は誰がその、つまり丸めこむ役をやるかだが、意外といえば意外なことに、呆れたはずの本人が申し出てきた。


「じゃ、そこはあたしがやってもいい……かな?」


 反対意見は、出なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ