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ミシェールという名の少女は、元々は大企業の社長の娘だった。絹糸のような金色の髪に、美しい青の瞳、白い肌に整った顔立ちは、まさに容姿端麗という言葉で表せる姿であった。ただ、見た目はよくても非常にやんちゃで、親の言うことを聞かず飛び出してしまうことなどよくあることだった。
そして今日もまた、そういうわけで帝都まで足を運んでいた。ミシェールは勉強が嫌いだったから、父の「私が帰ってくるまでしっかり勉強しているんだよ」という言いつけを全く守らず、自宅から抜け出してきたのである。何度もこんなことをしているものだから、その腕前はプロの盗賊に匹敵するまでになった。
高い建物が立ち並び、高級感あふれる衣服をまとった人々が行き交う帝都の通りを歩きながら、ミシェールは呟く。
「さて、今日はどこをのぞいていこうかしら?」
お金なんて一銭も持っていないわけだが、別に何を買うつもりもないのでそれは良かった。いつもいつも、ただ気に入った店の中を適当に物色して帰るだけなのだから。
あきらかに田舎から出てきた若者のような落ち着かない態度でキョロキョロすると、彼女は一軒の店を見つけた。看板には帝国の公用語で『魔道具』と書かれている。要は、魔導術を発動する時に使うことのあるお札などを取り扱う店だった。
「よし、あそこにしよう!」
魔導術に興味があるわけではない。ただ、どんなところだろうと思っただけである。ミシェールは足取りも軽く魔道具屋に突入した。
シックなドアを開くと、陰湿な雰囲気がミシェールを出迎えた。まず、外観で想像していたよりずっとせまい。店内は明りがあっても薄暗く、図書館のように並べられた棚を数人が見て回っている。余程古いのか、木製の床は人が歩くたびにぎしぎしと軋んだ。
ほえ~……と間抜けな呟きをもらしていると、カウンターの奥から、
「いらっしゃい」
という低い声が聞こえ、ミシェールは思わず飛び上がった。さっとその方向を見るが、闇の中にゆらゆらと人影がうごめいているようにしか見えない。そういうものかとさっさと自分を納得させたミシェールが向かったのは一番右端の棚である。
そこに陳列されているのは、分厚い魔導書や水晶玉、細工の施された杯などである。いずれも、用途は不明だ。棚から古い床へと視線を落とし、はぁ、とため息をつく。目新しいものがあるのはいいことだが、どうもここは静かすぎて嫌だ。というか不気味だ。
そう思っていた時、ミシェールの背後から声がかかった
「あら。お嬢さん、ここに来るのは初めてかしら?」
「はい? ……はい」
振り返ると、そこには一人の女性がいた。あまりのきれいさに、びっくりした。切れ長の目と、真っすぐな黒髪が大人しそうな雰囲気をかたちづくっている。くわえて口元がこの上なく色っぽかった。ただ、服の方は白シャツにオレンジのチェック柄のエプロンという、いかにも主婦らしいものだ。何故こんな人が、こんな店に来ているんだろう。
そう思って首をかしげると、女の人に笑われた。
「お嬢ちゃん、人は見かけで判断しちゃだめよ。こう見えても私、すっごく優秀な魔導士なんだからね」
「え、ええ?」
突然の告白に、思わず声を上げるミシェール。すると女の人は、今度こそ声を上げて笑った。それから自分の目的を話してくれる。
「今日は、魔導術に使う札の買い足しに来たの。あれ、実は消耗品だからね。あなたは?」
突然尋ねられて、ミシェールはうつむいた。どう話そうか少し悩むが、結局はありのままを言葉にする。
「ちょっとだけ出来心で家を抜けだしてきたの。ここへ来たのはただのヒマつぶし」
すると女の人は、意外そうに目を瞬いて、そう、と言った。それから唇に手を当てて考え込むようなそぶりを見せると、次には明るい顔でミシェールにこう提案した。
「じゃあさ、ウチに遊びにこない? ちょうどあなたと同じくらいの娘がいるのよ」
「え………いいんですか」
今度はこっちが驚いて訊くと、女の人は「もちろん」と答えてウィンクした。
これが、チェルシーの母であるアナとの出逢いだった。
その後、ミシェールは帝都近くの山の奥にある、一軒の館の前に来た。茶色の屋根と白い壁というはっきりとした色合いが目を引く、豪奢な建物だ。
隣の女性をちらりと見る。自分を魔導士と言った彼女、実はお金持ちなんだろうか。その彼女は、ためらいもなく木のドアを開けた。
「あなた、チェルシー。帰ったわよ」
そう叫んだ時、真っすぐに伸びる廊下の奥から足音が聞こえた。ぱたぱたと忙しなくこちらに近づいてきて、やがてその主が姿を現す。肩口まである亜麻色の髪を揺らす少女だ。頭につけているピンク色のカチューシャがかわいらしい。少女はぱっと笑顔になり、言う。
「おかえりなさい、お母さん!」
それから、ミシェールに気付いたようだ。目を瞬く。
「あら? そちらの女の子はだあれ?」
「帝都で出会った子よ」
とても簡潔に、アナが説明した。ちょっとそれはないでしょう、と思ったがこの際黙っておく。なんだかんだで、少女の方も納得したようだし。
彼女はこちらを真っすぐに見て、挨拶をしてきた。
「あたしはチェルシー。よろしくね! あなたのお名前は?」
続けて、ミシェールももじもじしながら名前を言った。
ストックが尽きたので一日か二日、更新が止まるかもしれません。申し訳無い。
とにかくこれから頑張って書きます。




