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人形の館  作者: 蒼井七海
序章
1/20

女の子と人形のおはなし

 何よりも先に完結させてみせるぞ! と意気込みだけ十分のファンタジー。毎日投稿でお届けいたしやす。

 とある山奥に、小さな館がありました。そこには、一組の家族が住んでいました。チェルシーという女の子と、その両親です。

 チェルシーは好奇心旺盛で明るい性格の女の子でしたが、一方でとても病弱でした。本当は外で友達をいっぱい作って元気に遊びたいけれど、病気のせいで、いつもベッドで寝ていなければいけませんでした。チェルシーのベッドはとても大きいです。だけど、それがかえって彼女の寂しさをかきたてました。

 そんなある日、お母さんがチェルシーに言いました。

『チェルシーは、お友達がほしいのよね?』

 うん、と大きくうなずきました。するとお母さんは、笑って「わかったわ」と言いました。そして、チェルシーの前にうさぎのぬいぐるみを差し出しました。

『人間のお友達は用意してやれないけど、こういうお友達なら用意してあげられるわ』

 チェルシーは、とてもとても喜びました。


 それから毎日、お母さんにもらった『お友達』と一緒に過ごしました。だからといって生活が変わるわけではなく、いつもベッドの中だったけれど、それでもこのうさぎといると、不思議と心が安らぎました。チェルシーは、このうさぎが大好きになりました。

 そんなある日のことです。チェルシーがいつものようにうさぎを抱いてねむっていると、どこからか声がしました。

『あなたは……だぁれ?』

 おどろいて目を開けました。すると、また声が聞こえます。

『あなたは……だぁれ?』

 不思議なことに、声はうさぎのぬいぐるみの方から聞こえます。首をかしげながらも、チェルシーは答えました。

『私はチェルシーよ。あなたは、もしかして私が抱いているお人形さんなの?』

『そう……』

 その答えには、とても驚きました。ですがチェルシーは、同時に嬉しくもなりました。うさぎを優しく抱いてやり、訊きます。

『あなたには、名前があるの?』

『わたし、わたしは……ミシェール』

 ゆっくりと、うさぎ――ミシェールは答えます。チェルシーは微笑みました。

『そう。じゃあ、これからよろしくね。ミシェール』

 この時のうさぎの顔は嬉しそうでした。

 それから、チェルシーとミシェールは仲良くなりました。一方的にチェルシーがうさぎを好きになっていたあの頃とは違い、本当の友達のような関係になりました。ですが、チェルシーのお母さんとお父さんは、そのうさぎを気味悪がりました。ですが、うさぎをあげたのはお母さんだったので、むやみにとり上げることもできません。

 お母さんとお父さんがミシェールを嫌えば嫌うほど、チェルシーとミシェールは仲良くなっていきました。


 ある夜、チェルシーはミシェールにたずねました。

『私はね、この病気が治ったら本を書く人になりたいと思ってるの。ミシェールには、何か夢があるの?』

 ぬいぐるみにこんなことをきくのはおかしな話です。ですがチェルシーは、ミシェールがぬいぐるみだということなど、どうでもよくなっていました。

 しかしミシェールは答えません。不安になってチェルシーが呼びかけると、震える声でやっと答えてきました。

『わたしは、ここから出たい』

『――え?』

 思わず、目をいっぱいに開きました。この時、うさぎのぬいぐるみの様子は少しおかしかったです。いつもは黒い綺麗な瞳なのが、ぼんやりと赤く光っていたのですから。

 チェルシーが固まっていると、ミシェールは続けます。

『ここから出て、チェルシーの本当のお友達になりたい。お人形じゃ嫌だ。お人形じゃだめだ。お人形じゃ、チェルシーのお友達になることも新しいお友達を作ってあげることもできない』

 ミシェールはうわごとのようにそう繰り返します。今までこんなことはなかったのに、チェルシーは友達が不気味に思えて、目を閉じました。

 するとミシェールが、うらめしそうにこう言うのです。


『わたしのこと嫌いになっちゃったの? チェルシー』


 その次の日、館が火事になりました。なぜそんなことになったのかは分かりません。あまりにも突然すぎて、そこにいた人は誰も逃げられませんでした。何もないところから、突然ごうごうと音を立てて火がついたのですから、無理もありません。

 お父さんとお母さんは、すぐに死んでしまいました。チェルシーは口をきかないミシェールを抱きながら震えます。ですが、火と煙はすぐそばまで迫っていました。

『たすけて、たすけて…………!』

 叫びます。泣きながら叫びます。チェルシーとミシェール以外、ここには誰もいません。当然、その声は誰にも届きませんでした。ですが、一番近くで訊いていた友達が言います。


『無理よ』


 ミシェールでした。チェルシーが驚いてミシェールを見ると、彼女はこう言いました。

『助けるのは無理よ、チェルシー。なぜなら、あなたがわたしを嫌いになってしまったから。あなたの親と同じように、人形だからという理由でわたしを嫌いになってしまったから』

『……ちがうっ! 私はそんなつもりじゃ……』

 かすれた声で返します。しかし、ミシェールには届きませんでした。見ると、また目が赤く光っています。

『ちがわないわ。でも、それであなたを責めることはしないわ。わたしがあなたのお友達になれなかった、それだけのことなのだから。でも、安心しなさい、チェルシー』

 そう言うミシェールを見ているうちに、目の前がだんだんと暗くなっていきます。それでも友達の言葉は続きます。

『わたし、お人形のままでもあなたのために何かをしてみるわ。そうね……何がいいか………ら――――』


 そこで、チェルシーは気を失いました。それから二度と、目覚めることはありませんでした。



 目を閉じた女の子を見ます。ごうごうと燃え盛る館のなかで、うさぎのぬいぐるみ――ミシェールはようやく言いました。

『そうね。成り損ないのわたしのかわりに、たくさん人間のお友達を用意してあげるわ』

 ぬいぐるみの小さな目は、真っ赤に光っていました。


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