CHAPTER. 2【ゲームであった時の事】
嵐の前の静けさって感じだろうか。 【国別対抗戦】の予選開催日である本日は、多くのプ レイヤーがinはしているもの、 町は奇妙な静けさを出し ていた。
ギルドホールに籠り、作戦を練っているのだろうか? 町を歩くハーフエルフのアーチャーは辺りを見回してそう思って いた。
この時点では「彼」と言うべきハーフエルフは生産ギルド 「ハンマープレイス」のギルドホールに向かい、ギル マス「ドングリ」にメンテナンスを頼んでいた装備を受け取った。
『ありがとう』
彼の感謝の言葉にハーフリングの鍛冶職人は「気にすんなっ!こっちは商売だからな!」と笑いモー ションを入れなから答える。
『ドングリさんは予選には出ないのか?ウォーリアーとして は十分実力を持っているだろう?』
彼の言葉にドングリは答える。
「俺は鍛冶屋で商人だ!戦闘も大事だが予選に出る時 間はねーよ!まぁ応援くらいには行ってやる!」
ここはオンラインRPG【O-zone 】の世界。 戦闘目的のプレイヤーが大半だが全てでは無い。 少なくともドングリは生産職を楽しんでいるようだ。
『そうか…また今度頼む』顔文字も記号も何もない簡 素な受け答えだったのだが、ドングリはまた笑いモーショ ンを入れながら
「与一君は頑張れよ!俺の作った装備を使ってるんだ からな!宣伝も頼んだぞ!」と答える。 商人気質なのだろうか、彼はいつだって明るい。
【O -zone】6周年を記念して計画された国対国の交 流戦イベント【国別対抗戦ラグナロク】は各国のプレイヤー達に興奮を与えた。
まだ知らぬ国の強豪と戦える…6年も経つといくらコ ンテンツが充実していると言っても流石にマンネリもし始めるのだが、このイベントが生み出す空気は古 株、新規共に歓迎された。
そして武器をメンテナンスに出していた「彼」もまた 参戦を狙うプレイヤーの一人だった。
プレイヤー名「与一」
種族「ハーフエルフ」 職業「アーチャー」 level「99」
かつては強豪ギルドに所属していたが、今は個人ギルドでひっそりとソロプレイを楽しんでいた。 与一曰く「一人は気が楽だし、何より自由だ」との事だった。
レベルもカンストしている「彼」は、レベル上げをす る必要が無い。 その為ログインしては景色が綺麗な場所へ行ったり、大規模戦闘に一人で挑んだり…とまさにやりたいようにプレイしていた。
しかし、この度の【ラグナロク】はそんな彼も思わず 胸を熱くさせるようなイベントであった。 予選は狩猟クエスト「魔獣の晩餐」のクリアタイムで 選ばれるようで、個人ギルドに所属している彼にも出 場出来るチャンスはある。
(参加できるかはまぁ…わかんないけど、古株として ちゃんと空気だけでも感じてみないとな)
そんな事を考えながら彼は町を歩く。
「おーい!お前もやっぱ参加するのかー?」
遠くの方で、こちらに手を振るモーションが見える。 ゴツゴツした派手な鎧と大きな盾、昔からの知り合いである「ヒロアキ」その人だった。
『ヒロアキも参加するのか?』彼の性格上参加するとはわかっていたが、一応聞いてみる。
「もちろんだよー!」と笑いのモーションを入れなが ら彼は答え、続けて言う。 「アーチャー最強と名高い与一様が出るんじゃー、気合い入れねーとな!」
彼の言うアーチャー最強と言うのは称号の事だろう。 このゲームのアーチャーはレベルが上がってもアー チャーである。しかし難度の高いクエストや特殊クエスト 等をクリアすることにより、様々な補正を持つ称号が 与えられる。 与一は最上級称号「レジェンドボウ」を持った数少な いプレイヤーなのだ。
『多少補正はあるが、アーチャーはアーチャーだ。攻撃力はビッグマンに劣るし、敏捷もアニマヒューマンに劣る』 アーチャーと言う職業はあまり人気がないのが事実で ある。理由はいくつかあるが、ステータス関係が不人気の理由だ。
最長の射程は魅力的だが、種族としてのステータスは お世辞にも強いとは言えない。しかし彼はそんなハー フエルフが気に入っていた。
この世界において、アーチャーという職業は、「釣り師」もしく「運び屋」いという意味合いが強い。
「釣り師」…最長の射程を生かしmobに攻撃をして、 ヘイトを自分に向ける。 ある程度mobが集まった所で殲滅担当の仲間の元に 引っ張って行く。
フィールドエリアはmobがバラバラに湧く事が多い ので、効率を上げる為にアーチャーは敵を一点に集中 させるのだ。 これをやるのとやらないのとでは経験値のうまさが変わってくる。
「運び屋」…アーチャーとレンジャーにはパーティー メンバーの移動速度を上げる事が出来る「ムーブウィ ンド」と言うバフがある。 ダンジョン内の移動や大規模戦闘に効果があり、重宝されている。
この二つの特徴からアーチャーと言う職業はパー ティー中は敵のヘイトを一点に喰らい、大規模戦闘時 はパーティーメンバーの先頭を走り引っ張っていく役 割を持ち、攻撃を良く喰らう為に体力に多くステータ スを降ったプレイヤーが多い。
よって体力重視のアーチャーがほとんどである。
しかし与一は違っていた。 彼は遠距離攻撃力を重視し敏捷にポイントを多く降っ ている。防御力は紙だが、攻撃力はアーチャーとは思えない程高い。
よって彼は敵の殲滅を得意としており、最強のアー チャー等と言われている。
彼も昔は体力極の普通のアーチャーだったのだが、昔 所属していたギルドのマスター「ロキ」の一言で彼は ステータスを敏極に振り替えた。
(パーティー重視は助かるが、お前自身は楽しんでい るのか?)
彼の言葉は与一に響いた。 正直そんな事やっていて楽しいわけ無いのだ。 アーチャーとはそういう職業であり、敏極の紙キャラ なんて普通は要らない子である。 だから与一もそれに従っていただけであった。
ロキの一言が無ければ今の与一は存在しない。 彼は正直与一的にマンネリ気味だったこのゲームを、 効率を重視したアーチャーの役割を変えたのだ。
今だって感謝の気持ちはある。 しかし「ロキ」と言うプレイヤーは今ログインしてい ない。 【今】ではない。 もうずっとログインしていないのだ。
この世界はあくまでゲームの世界。 リアルあっての世界である。
どのような理由があるにせよ、本人がやるか、やらな いかのゲームであるため残された者に去っていく者を責める権利はない。
しかし与一の頭には彼の言った最後の言葉が残ってい る。
「また明日な!おやすみ!」 彼はそう言い残してログオフしていった。
ギルドがバラバラになった現在でも与一はロキ以外の者に従える事を嫌い。誰かを従える事も嫌った。
与一はロキを待ち続けているのだった。
「おーい」
「与一さーん?」
(全体)「与一様ぁぁぁぁぁ!」
全体チャットで叫ばれた時、与一は呼ばれている事に気が付く。
『うるさいぞ、変態ヒロアキ』素っ気なく、そして貶すように反応する。
「与一君ひでぇー!」ヒロアキは焦りのモーションを入れながら答えるが、なんだか嬉しそうだ。
ヒロアキとはこのゲームを始めた時からの古い友人だ。
一緒のギルドに入り、数多の戦場を共に駆け抜けた戦友である。
騒がしい性格なのだが仕事はしっかりする優秀なディフェンダーである。
『ディフェンダーじゃあタイムアタックはきついんじゃ無いのか?』
ヒロアキはパーティープレイ、大規模戦闘に重点を置いたプレイヤーであり、ステータスを体力に極振りをしている体力バカだ。
プレイヤーの間では「鉄の城」だなんて言われている。
「正直俺は辛いなぁー、通常火力はザルだから、ナイトソウルでどこまで瞬発的に火力が出せるか…だね」
ナイトソウルとは30秒の間近接攻撃力を10倍に上げるディフェンダーのスキルの1つである。
リキャストタイムが4分と長く、発動中は移動できない欠点と1度発動すると30秒解除出来ないデメリットがある。
『ナイトソウル…なー、あれは恐ろしいスキルだけど、ヒロアキ程度でも火力は出るのか?』小馬鹿にするつもりは無いが、他に言葉が見当たらないのでそう聞いてみる。
ヒロアキは怒る事もなく、しかし興奮気味に答える「程度って!相変わらず辛口だな!…俺が今あたえられる通常ダメージが780+属性で400くらいなんだが、それの10倍だからな!7800+2000くらいは出る!!」
相変わらずのチートスキル…まぁそれだけ制限があるスキルなので、使い所が中々難しい。
『それがディフェンダーの強み…だよなー、決めるのは至難の業だけど…ね』
大規模戦闘の中では攻守に活躍できるディフェンダーであるが、それはパーティープレイあっての物であり、ソロで結果を出せるプレイヤーは少ない。
「まぁグリッサレベルになると余裕だろうけどなぁー」
【グリッサ】とは大手ギルド【ネメシス】のギルドマスターである。
【グリッサ】はセラフィムガーデンのギルドマスター【ロキ】に対抗出来るスペックを持つ一人であり、最大のライバルと呼ばれていた。
大規模戦闘において両者の戦績は五分と五分。
ロキ自身もグリッサとぶつかるのは楽しいと呟いていた。
あの当時も、今現在においてもスペック、戦術面でロキと対等に戦えるのは彼だけだろうと与一は思う。
グリッサはセラフィムガーデンのメンバーの事も高く評価しており、ギルドが解散した時は「不甲斐ないあいつの分まで面倒見てやる。俺の所に来なっ!」なんて言っていた。
事実セラフィムガーデンメンバーの相当数がネメシスに移籍する事になる。
代表格であった与一やヒロアキ、今現在【ハチ公前傭兵団】のギルドマスターである【ワン公】は合流せず、各々で様々に活動しているが、グリッサ曰く「一番欲しい奴等が合流しねーとは!流石にあいつのギルド、一筋縄じゃあいかねーな」と笑っていた。
ロキがいなくなってからしばらく寂しそうにしていたグリッサであったが、元より強豪と言われていたアクアプラネットや、勢力を拡大したスレイプニル等との熱戦が彼を立ち直らせていったのであった。