其の者と黒き男
残酷な表現と流血表現が含まれています。
大丈夫な方のみご覧になって下さい。
あたしが王宮に来てから、今日でちょうど一ヶ月が経った。
日中は殆どの時間を図書室で過ごしているのだが、一向に元の世界へ帰る方法が見つからない。
こちらの生活に不便なことがあるわけではないのだが(むしろ魔法のおかげですごく便利)、残してきた家族達を思うと帰らないという選択肢はない。
きっと今頃、あたしの捜索願いとか出されていてあたしが消えたと証言しているであろうお父さんは白い目で見られたりしてるんだろうなぁ……
けど、やっぱり一番気になるのは……
かつて(と言っても一ヶ月前)愛し合っていた恋人を想いながら、手にしている本の頁をめくっていく。
"世界神話"と書いてある本には、あたしが知ってる神々の名前も多数出てきている。
ということは、こっちにもあたしの住んでいた世界と同じ神も存在しているということなのだろうか?
そんなことを考えつつ、ふむふむと頁をめくり進む。
「ミシュ……リ……アムス……?」
その名を読んだ瞬間、あたしの中に鋭い衝撃が走った。
前にも、どこかで聞いたような懐かしさを帯びた言葉に、自然と不審さをつのらせる。
聞いたことなんかないはずなのに、すごく身近な言葉のような気がしてならない。
「ミシュリアムスというのは、この世界の創造神の名前ですよ」
いきなり背後から聞こえた声に振り向くと、そこには黒い艶のある髪と深い青い目の青年がいた。
その顔はなんとも整っていて、白い肌の所為で紅い唇が妙に目立ち、妖艶さを醸し出していた。
にこり、と人の良さそうな微笑みをあたしに向けているので、自然とこちらも笑みを返す。
「創造神……?」
「この世界を作ったとされる神です。……まぁ、今のような状況にしたのも彼だと言われていますが」
そう話す青年は、笑みを浮かべているもののその瞳は氷のように冷たい輝きを放っていた。
ゾクリと背筋に冷たいものが走り、あたしの中で危険信号が鳴る。
よく分からないけど、この人とは関わってはいけない気がするのだ。
あたしは手にしていた本を本棚へと戻すと、青年に向かって会釈をする。
「あの……教えて下さってありがとうございました」
「いえ、気にしないでください」
青年はそう言って怪しげな笑みを浮かべると、先に図書室を出て行ってしまった。
自分の身体がカタカタと震えているのにも気付かず、あたしはただただ、青年の後姿を見送っていた。
少ししてから図書室を出て、王宮の外にある庭園へと向かう。
この世界はいつでも分厚い雲が空を覆っていて、晴れることはほぼ皆無だ。
いつもはせめて外の空気を吸おうと出る場所なのだが、どうしても落ち着かない気をどうにかしたくていつもより早足で廊下を歩いていく。
庭園に着いていつものベンチに座ると、やはり大きく脈打つ鼓動がとまらない。
胸に手を当て、荒い呼吸を整えようと深く深呼吸するが、一向に治まる気配がない。
次第に、物凄く嫌な予感が過り、それとともに悲しみのような怒りのようなとにかく不快な感情が湧き起こる。
頬に伝う涙に戸惑いながらも、服の胸元部分を握りしめて感情を抑制しようと試みるが、更に狂おしい程の感情が次々と溢れ出してくる。
と、そんな時、俯いたあたしの視線の先に人の影が出来る。
俯いていた顔をあげると、驚いたような顔をした団長さんが立っていた。
「……何かあったのか?」
「団長さ……」
負の感情でいっぱいいっぱいだった心に一気に安堵がなだれ込み、必死に押さえていた涙腺が崩壊してその場に泣き崩れたあたしを、団長さんがすかさず受け止めてくれる。
団長さんに縋り付くように泣きながら、あの青年との遭遇と今自分に起こっている異変を途切れ途切れに話していくと、次第に落ち着きを取り戻して我に返る。
「あ……なんか、ごめんなさい……」
そう言ってあたしが身を離すと、背中に回された手に力が入り、再び抱きしめられ、さすがに恥ずかしくなってきて居心地が悪くなる。
ベンチの前に座り込むようにして抱き合っているあたし達は、さぞ仲睦まじい恋人に見えるだろう。
「……あまり、無理はするな。泣きたい時は泣けばいいんだ」
そう言ってあたしの背中をぽんぽんと二回軽く叩くと、パッと身を離して立ち上がる。
団長さんの顔を見上げると、少し戸惑ったような視線と絡み、お互いにふい~と視線を逸らす。
と、そんな所へ一人の騎士が必死の形相で駆け寄ってくる。
「団長、大変です! キイ様のお部屋で妙な男が……」
その言葉にあたし達は顔を見合わせると、あたしの部屋へと走り出した。
もし、もしあたしの嫌な予感が当たっているなら相当ひどい事態が起こるかもしれない……!
今まで感じた事がないようなあんな黒い感情に満たされる程の事といったら……
その先を容易に想像すると、走る足を速めて部屋を目指した。
部屋の前には凄い数の騎士達が集まっているが、扉には結界が張られていて中に入れないらしい。
あたし達が顔を顰めてその状況に脱力していると、後ろから声がかかる。
「どけ、俺が開ける」
「レオンさん……!」
レオンさんは騎士達を押し退け扉の前に立つと、何かを呟きながら手を扉の前にかざした。
魔法陣が現れ高速で回転すると、固く閉ざされていた扉は跡形もなく消し去り慌てて部屋に入ると、目を疑う様な光景が映し出された。
「……っ!!」
部屋には血が飛び散り、既に数人の騎士達が息をしていない状態でいたるところに倒れ込んでいた。
剣を持った腕が半分千切れている者、鳩尾のあたりに大きな風穴が空いている者。
その状況はまさに地獄絵図で、その中心にはあの青年が立っていた。
振り返ったその顔には微笑みを湛えていて、その左手には今まさに首を締めあげられて涙を流している侍女姉のメィサの姿が。
「……っメィサを離して!」
「せっかく殺る前に顔を見に言ったのに……まさかあれだけの強い記憶を植え付けてあげたのにまた忘れてるなんてね」
青年は意味の分からない事を言いながらクスクスと笑いを漏らし、左手に力を込める。
それと共にメィサの呻き声が掠れ、意識を手放そうとしていた。
それをちらりと見遣ると、右手に長い銀製の剣を出現させる。
「や……やめて、お願い……」
「……キミはいつもそうやって人の命乞いをするんだね……こんな者達、キミには相応しくないっていうのに……」
微笑みを崩して顔を歪めると、剣を振りかざす。
そこにいた全員が、目を見開いて息を飲んだ。
「……ゃ……やめてえぇぇぇぇぇっ!!」
ガシャーン!!
喉が張り裂けるのではないかという程凄まじい声でキイが叫んだ瞬間、部屋中の窓ガラスが割れ、本棚の本が弾け飛び男の手にしていた剣までもが粉々に弾け散った。
誰もがその現象に驚き、男はメィサを床に放ってキイに視線を向けた。
無表情のまま、キイに歩み寄るので身体を動かそうとするが、男、そしてキイからのあまりの気圧に身体が全く動かせない。
「……キミはまた、僕を消そうとしているの?」
悲しげな、ともとれる表情で呟きながらキイに手を伸ばすが、溢れ出す膨大な力に手が弾かれる。
その衝撃に少し表情を歪めると、「また、近いうちに会いに来るね」と微笑み姿を消した。
その瞬間、糸がぷつりと切れたようにキイがその場に倒れ込んでしまい、辺りには不快な血生臭さと妙な静寂が残った。
読んで下さって有り難うございます!
んーなかなか長い文が書けません…(・д・`)
まぁ地道にがんばりますっ。
よろしかったら次話も読んでくださいね!