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千年の眠り―金色の花嫁―  作者: 天豆
第一章~東の国-イーシュア-編~
3/23

其の者、浮遊したる男と出会いたり。




「ところでお兄さんは?」


 散々泣き腫らした目で本日三杯目のスープを啜りながら、目の前の亜麻色の瞳に問い掛ける。

あたしと騎士団が遭遇してから約半日経過しているが、今だに彼の名前を聞いていないことに気が付いたのだ。


「あぁ、申し遅れた。私の名はウォルヴァス・ロビンソンだ。この騎士団の団長を勤めている」


 団長さんはそう言って再びスープを啜り始めた。

猫舌なのか、口に含む度に少し眉を顰める。


 しかしあれだね、かっこいい人は何をしても見栄えいいね。

異様な程その仕種を見つめるあたしに団長さんは怪訝な表情を見せる。


「なんだ?」


「いえ……」


 あたしがそう言ったのと同時に、天幕の外から礼儀正しい声が聞こえてきた。


「団長、少しお話があります」


「あぁ、レオンか。入れ」


 団長さんがスープを一気に飲み干してそう促すと、深刻そうに固い表情を張り付けたレオンさんが顔を出した。

そしてちらりとあたしに視線を向けると、より一層顔を険しくして団長さんに向き直った。


「団長、少し外で私の話をお聞き願えますか」


 その言葉に団長さんは少し間を置いて頷き、レオンさんと共に退室した。



 そのまま放置されて手持ち無沙汰なあたしは傍に置いてあった毛布に包まって、その場に横になる。

ホッと一息つくと、白い天井を見ながら様々なことに考えを巡らせてみる。


やっぱり、夢じゃないんだろうな……

にしてもタイミングでしょ。

結婚式よ?結婚式!

しかもあと一歩のところで……

あ〜〜トリップさえしなかったらきっとあたし、彼と幸せになってたんだろうなぁ……


 もう二度と会えないかもしれない想い人のことを想うと、止まったはずの涙がまた込み上げてきた。


「うぅ……っ」


 外にいる二人に気付かれまいと声を押し殺して涙を流していると、いつの間にかうとうとと夢の世界に引きずり込まれようとしていた。




「……?」


 ほぼ半開きとなったあたしのぼやけた視界に、ふわりと人の脚らしき物が写り込んだ。

横たわっているあたしには、やはり脚しか視界に入らないわけで。

その脚は当然のように地に着いておらず、未だふよふよとせわしなく揺れ動いるわけで。


 これは、あれですね。

えぇ、分かっています。

夢です。はい、これこそが。

そもそも人間が宙に浮いているなんてそんな馬鹿げたことが……や、まぁこの世界では起こるのかもしれませんが。

 まぁなんにせよ、これは夢です。


「ねぇ、」


「……」


 え?何か聞こえました?

あたしにはさっぱり……

気のせいでは?


「うっわー……君、睫毛長いねぇ〜」


 残念ながらこれはマスカラと言う物なんですねぇ〜(滝口順平風)

なんと、たったひと撫ででご自分の睫毛からさらに1.5倍も伸びてしまう優れ物なんです!(高田社長風)


「マスカラ? へぇ、そんな優れた物が君の世界にはあるんだねぇ」


 はい? "君の世界"?

ああ、これは夢の中の登場人物ですもんね。

そりゃ都合良いこと言うわけだ……


「あはは、可笑しいこと言う子だね〜。そんな君に素敵なお知らせがあるんだ?」


 素敵な……ですか。

それは是非ともお伺いしたいですね。


「これ、夢じゃないんだよね〜実は」




「……え!?」


 あたしが驚いて勢い良く起き上がると、長身の彼は(宙に浮きながらも)あたしと目線を合わせるように器用に屈んだ。


「……っ!」


 驚きますよ。

そりゃ驚くでしょうよ。

だってよ?目の前に、本当、鼻の先が付いちゃうんじゃないかってぐらい目の前に超絶美形な青年が。


 白い肌に載せられた形整ったパーツ達。

特に金色の瞳がその美しさをまさに1.5倍にしてるよね。

つーかあんたの方が睫毛長いよね。

あたしの1.5倍はね。

ついでに言うとその瞳と同じ色のちょっとくせ毛掛かったふわふわヘアーもよくお似合いです。

こう、ね。撫で繰り回したくなるよね。

うずうず……


「ちょ、何〜その手? 怖いよ……」


 知らず知らずのうちにワキワキと手をいかがわしく構えていたあたしに、青年は僅かに後退する。


 失礼だな、人を変態みたいに。


「……あの、君は?」


「僕ー? ルシファーだよ〜よろしくね?」


 にこりと悩殺スマイルをお見舞いされ、思わず垂れかけた鼻血を啜る。

 や、綺麗なんだけどさ……なんか…………馬鹿っぽくない?


「や、そうじゃなくて。何者? 何してんの? てか何で浮いてんの?」


「え〜そんなに一気に質問しないでよ〜。そんなに僕のこと知りたいの?」


「……」


 駄目だ。なんかわかんないけど駄目なタイプだ。

基本的に話が通じない人間は嫌いなんですよ、あたし。

まぁこの青年がもはや人間なのかという問題は敢えて置いておくとしようか。


「僕はねぇそうだなぁ……しいて言うなら、君のことをいつもすぐ傍から見てる者でーす」


 そう言ってぺこりと頭を下げるコレは、一体何なんだろうか。

この男こそ変態じゃないのだろうか?

堂々とストーカー発言したよね?今。




……ハッ!

いつもすぐ傍で…ってことは、あたし(と彼)のあんなシーンやこんなシーンも見てたってこと!?

や、でもこっちに来てからの話か……


「いや? そんなこともないけど……」


「や、もう良いです。聞きたくないです。」


「けど君の彼、見た目によらず激し……」

「ギャーーーーーッ!」


 そ……んなことを、堂々と……!

しかもやっぱ見てたのか!

最低だ!最低すぎる……!


「あ、ダメだよ〜そんな大声出したら……」


「おい! 大丈夫か!?」


 ルシファーが気の抜けた声であたしを咎めたと思うや否や、天幕の外から団長さんの焦ったような怒鳴り声が聞こえてきた。


「あ、ほらー気付かれちゃった。せっかく結界張って気付かれないようにしてたのに……」


 やらなんやらもごもごと文句を言いつつ、腰に手を当ててポリポリと頭を掻く。

それから「うーん……」と顎に手を添えながら暫く考えると、眉をハの字にして肩を竦めた。


「ま、仕方ないね。また来るよ〜」


「え、ちょ……!」


 あたしが手を伸ばした時には既にルシファーの姿は消えていて、それと同時に団長さんとレオンさん、その他騎士達がなだれ込んできた。


「おい、小娘! 貴様何故結界など張った!」


「えぇっあたし!?」


 あたしに凄い剣幕で問い詰めるレオンさんを片手で制すと、団長さんはあたしに向き直った。


「何があった?」


「何って言われましても……いきなり変な人が……美形で……撫で繰り回したい衝動が浮いてて……あれ?」


 言ってるうちに訳が分からなくなって意味不明なことを口走ってしまった。

怪訝そうな顔をしてこちらを見る二人に、へらっと曖昧な笑顔を向けてごまかす。


「侵入者か……」


「ウェシュアの国の者でしょうか……」


「そうだな。もしくは……」


 団長さんはそこで言葉を切り、あたしの方へ視線を向ける。

本当に穴が開くんじゃないかってぐらい、団長さんとレオンさんの視線が突き刺さる。



「キイ……といったな」


「? はい……」


「お前は……」


 またしても途中で言葉を切った団長さんは、そのまま顔を顰めて視線を下の方へ泳がす。

何かを、言い淀んでいるように。

その横でレオンさんが静かに待っている。

団長さんとは逆に、その言葉を今か今かと待っているようだ。

 そんな状況が数分続いた時、今まで難しい顔をしていた団長さんは目を閉じて首を振ると再びあたしに視線を向けた。


「いや、いい」


「ちょ、団長!?」


「いいからさっさと仕事に戻れ。ああ、俺は別の天幕で寝るからゆっくり休め」


 最後の方はあたしに向けて言いながら、団長はレオンさんを引きずって騎士達と共に出ていった。





 読んで下さって有り難うございます!

これからも執筆、地道に頑張っていきます(^^)

もし誤字脱字等、間違った所があればご指摘下さい(>_<)

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