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千年の眠り―金色の花嫁―  作者: 天豆
第一章~東の国-イーシュア-編~
17/23

其の者、帰還する。





「そう、じゃあキイは生きているんだね?」


「はい、少し遠くて分かり辛いですが、たしかにキイ様の気は感じられます」


 アースノルドにキイの生死を確認できたレイは思わずほっと溜息を漏らす。

最悪の場合も視野に入れていたので、まだ生きているというだけでも脱力するほどの安堵感を覚えていた。

それはウォルヴァスとレオンも同じで、そこにあったソファーに項垂れるようにして座り込み深い溜め息を漏らした。


 あとはキイを見つけ出せるかどうかが問題である。

いくらこの国内にいると言っても、このイーシュアは他の三国と比べても遥かに広い膨大な土地を誇っている。

見つけ出すことはほぼ不可能に近い。

しかし三人に諦めるなどという感情は全く芽生えていなかった。

むしろ、生きていると聞いて俄然やる気を湧きあがらせていた。





「ウォル、騎士団を各地に散らせて」


「ああ、分かっている」


「陛下、私も陛下のお傍を離れる事をお許し下さい」


「当たり前だよレオン。ライアン、君はどうするの?」


「私は下の者を動かして徹底的に情報収集にあたりましょう」


「頼りにしてるよ。さあ、なんとしても見つけ出すよ!」


「ほぅほぅ。で、誰を?」


「何を言って……キ、キイ!?」


 突如部屋に姿を現したあたしに、その場にいた全員が驚愕の表情でその姿を見つめる。

あたしは結局速さでグリフォンを選びここまで十分程で飛んできたんだけど、驚くことにあたし達の姿は街の人々からは全く見えて無かったみたい。

さすが神獣様様って感じだよね~。

 で、取り敢えず自分の部屋のバルコニーに降り立ってみたんだけど……まさかここに皆が集結してるとはね。

探しに行く手間が省けて良かった良かった。

それにまだ騎士団総動員とか大事になっていないみたいだし、本当に良かっ……


「キイ……今までどこにいたの?」


 そう低く静かな声で鋭い目つきのレイが言った瞬間、その場の空気が凍りついた。

言葉をもろに投げかけられたあたしを、全身をびりびりと電流が走った様な衝撃が襲った。

あまりの緊張に、身体を動かすことは疎か声を出すのも精一杯だ。

 

――――……レイが怒ってる。



「どれだけ心配したと思ってるの?」


「……ごめん、なさい……」


 て、なんであたしが謝ってんの?

あたしは攫われただけなのに……

とかいったら余計怒られそうだから素直に反省しとこう。うん。


 そう思った瞬間、ふいに身体を引き寄せられレイに強く抱きしめられた。

息も出来ないほど強く、優しく。

そしてレイは至極掠れた声で「良かった……」と、そう呟いた。


 その後あたしが攫われた日からほとんど一睡もしていないレイは、一度仮眠を取ると言って部屋を出て行った。

ふと、残った人達の中に見知らぬ顔を見つけた。

 今部屋にいるのは、あたし、団長さん、レオンさん、双子侍女にアル。

そして、ドアの横の壁にもたれかかってこちらに視線を送っている人物に目を向ける。

少しウェーブがかった綺麗なブロンドの髪にエメラルドのように妖美に輝くグリーンの瞳。

右目尻の下にある涙ボクロが絶妙な妖艶さを醸し出している。

身長はレオンさんと同じくらい高く、年齢は二十代半ばぐらいでやはりこの人も整った顔だ。

 本当に美形国家だなぁ……もしかしてこの世界の人は美形ばっかりなんだろうか?

うぅぅぅ、あたしも美形に生まれたかった……

 あたしが恨めしそうに男の人の顔を凝視していると、団長さんがああ、と声を漏らす。


「キイはあいつに会うのは初めてだったな。あいつはああ見えてこの国の宰相だ」


 そう団長さんが言うと、壁にもたれていた身体を起こして優雅な足取りであたしの元へと男の人が歩いてきた。

そして、慣れた手つきであたしの手を取り手の甲に口づけを落とした。


「初めまして、セス・ライアンと申します。ライアンとお呼び下さい」


「あ、ああ……えと、神塚喜癒と言います……キイと」


「キイ様、存じ上げておりますよ。陛下のお気に入りなだけあって随分と、その……可愛らしいですね?」


 そう言ってにこりと綺麗な作り笑いを貼り付けつつ、わざとらしくちらりとあたしの(貧相な)胸へ視線を移す。

こいつ……丁寧な言葉を使いながらも明らかにあたしのこと侮辱してる!!

なんて無礼な人なの……あたしは神の申し子なのよ! 頭が高いわっ!!

 と言いたい気分を無理やり押し込めつつ、負けじと極上の作り笑顔を顔に貼り付ける。


「まぁ、お口が良く回りますのね」


 うふふ、と優雅に口元に手を持っていく。

内心―――うるさいわね! 胸が無いって言いたいんでしょう!?

無さすぎて幼児体型ってか? まな板通り越してえぐれてるってか!?

そー思ってんならそー言いなさいよね回りくどい言い方して!!

……とは言わずその念を練り込んだ恨めしい視線を投げかける。

もちろん、極上の笑みを貼り付けて。

 すると、ライアンという男も同じように笑顔を貼り付け一言。


「本当の事を言ったまでですよ」



…………ブチィッ



「まぁ、それは光栄です。あなたも"女性のように"随分とお綺麗な顔をしてらっしゃいますのね。私、羨ましいかぎりです」



 暫し二人無言でにこにこと微笑み合う。

大体、なんで初対面の人間にあそこまで失礼なこと言えるの?信じられない!

そりゃああたしの胸はお世辞にも大きいとは言えないけどさ!

ていうかむしろ自分でも小さいと思うよ! 決してえぐれてはないけどね!!

 それになによ! 女顔だってわざわざ遠まわしに言ってやったのにあの勝ち誇った態度!

ええ、ええ、あんたの方があたしの数十倍は色っぽい顔してますよ!

けど褒めたつもりなんかさらさらないんだからね!!

男は男らしくてナンボよ!

あんたみたいなへタレお色気女顔の男よりも団長さんみたいな凛々しいイケメンの方がずっと素敵なんだからね!!


「え……」


「え?」


 あたしが心の中でライアンさんに悪態をついていると、突然あたしの隣で団長さんが声を上げた。

上げたと言うよりはつい漏らしてしまったかのようなか細い声だったんだけど、この静まり返った空間には妙に響いたのだ。

その上、団長さんは口元を大きな手で覆いながら困ったように視線を彷徨わせ、その顔はほんのり赤らんでいる。

 すると、さっきまで無言で笑みを貼り付けていたライアンさんが、くすりと上品に(失礼な)笑みを漏らした。


「失礼ですがキイ様。先程から心の声がご自身のお口からダダ漏れでございますよ」


「……!!」





――――死にたい……

今なら恥ずかしすぎて死ねると思う……







 小一時間ソファーの上で膝を抱えて羞恥に悶えていたあたしは、ようやく平常心を取り戻しつつあった。

双子侍女とアルは視線を落としながら部屋の入り口付近に控えていて、ライアンさんは向かいのソファーに足を組んで座っている。

そして団長さんはあたしから斜め左のソファー生地のアームチェアに気まずそうに腰を降ろしていて、反対側のアームチェアには何故かむすっとした表情のレオンさんが座っている。


「団長さん……今までにもあたし、口から漏れてたんですか……?」


「…………ああ、時々……」


「……そうですか」


 再び辺りに気まずい空気が流れ始めた時、ふいにライアンさんが手にしていたティーカップをカチャリと置いた。


「さて、キイ様もお立ち直りになってこられたようですし」



 そう言って極上の笑みを浮かべながらあたしに目を向け、ゆっくりと口を開いた。




「“神の申し子”とは、どういうことかお聞かせ願いましょうか」







「……」










……





 やっぱりそれも口に出してたのかーーーーーーっ!!

さすがにそんな国家機密レベルの重要な秘密をあっさり口に出してるなんて思わなかったわーーっ!!

あたしどんだけ口軽いのよ!?

もしかしてこっちに来る前から……!?

そういえばよく真弓(親友)に言ってないはずの秘密がばれてたりしてたような……

 ちらりとライアンさんの顔を覗うと、獲物を見る肉食動物……いや、百獣の王のような目つきで相変わらず笑みを湛えながらこちらを見ている。

下手な嘘ついてもごまかせないだろうなぁ……

なんかライアンさん以外の全員も食い入るようにこっち見てるし……仕方ないよね。


 深く溜息を吐くと、怪しいイケメン二人組に攫われたことも含めてあたしの身に起きた事、目にした事、聞いたことを洗いざらいその場にいた全員に話し始めた。

全てを話し終えると、その場にはさっきよりも重い静けさが満ちた。

 ここにいる人達は信用できるから話したことは間違いではないとは思うけど……ライアンさんは今一つ信用にかける。

たった今出会ったばかりの人間に安易に話すような内容じゃないよね……失敗したかな。

 まぁけどばれちゃいけないこともないのかな?

だって別に犯罪者ってわけじゃないもんね。

むしろ国民に広めるべき事実なんじゃあ……


「いや、それは駄目だ」


「え……?」


「この事を公にするわけにはいかない」


「や、あの……もしかして私、また口に……?」


 恐る恐る聞いたあたしに、団長さんはハッとして気まずそうにライアンさんに視線を移す。


「生憎ですがキイ様。私はこんなに重大な事をうっかり外に漏らすほど間抜けな人間ではございません。……貴女と違って、ね?」


 にこりと微笑んで言うライアンさんに、あたしはばつの悪い顔をして目を逸らした。


「……そ、それより団長さん。公にできないってどういうことですか?」


「ああ……キイが今話した事にもあるように、王宮の人間は千年前に神の申し子……要はお前を殺したという歴史がある」


 うーん……そんなリアルに言われたらちょっと落ち込むっていうか……。


「その王宮に神の申し子がいるなんていうことが広まれば確実に教会の人間は黙っていないだろう」


「教会……?」


「貴女……いえ、"神の申し子"を崇拝している教団のような連中です」


 今こいつあからさまに言い換えたな……

本当むかつく! いつかぎゃふんと言わせてやる!


「……簡単に言ったら私……いえ、"神の申し子"を奪い取りに来る、ということですね?ライアンさん」


 にこりと満面の笑みで言ったあたしに、ライアンさんが「その通りです」と同じくにっこりと微笑んだ。


「あいつらのことだから、奪い取るだけじゃなくお前の事を教会に監禁でも何でもして自らの手中に収めるだろうよ」


 忌々しそうに言ったレオンさんは、ふとあたしと目が合うと再びむ、と顔を顰めて顔を背けた。

……何怒ってるんだろう、あの人。


「まぁとにかく、キイ様の身を守りたいのならこの事は口外しないことですね」


「あ、でもレイには……」


「陛下には私からお伝えしておきます。貴女は少し休んだ方が良い」


 真面目な顔でそう言うと、ライアンさんは部屋にいた全員に目配せをし、部屋を出て行った。

部屋に一人になったあたしは、何か心細くなってきてそそくさとベッドに潜り込んだ。








読んで下さって有り難うございます!


なんか本当にいよいよ逆ハーレムになりつつありますね。

どうしましょう?笑

ま、なんとかなりますかね?


ではでは、また次話で(*^^*)/

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