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千年の眠り―金色の花嫁―  作者: 天豆
第一章~東の国-イーシュア-編~
13/23

其の者、旅に出る。





「起きろと言っているのだ小娘」


 えらく不機嫌な声と共にベッドから蹴落とされた。

何事かとむくりと身体を起こすと白髪の……ああ、ジークさんがこちらを見下ろしている。

むむ、と顔をしかめ、何故? と首を傾げると頭上から溜め息が聞こえた。

既にきっちりと昨日のように身なりを整えているジークさんが、表情を崩さすに口を開く。


「三度目だ」


「は……?」


「三度、起きろと言った。何故一度で起きれぬのだ?」


 三度で蹴落とすって……彼はいつも優しくキスして起こしてくれるのに……


「ほう……この俺にお前をキスで起こせと?」


「いえ……」


 しまった、また口に出ていたか……

ジークさんに睨まれつつそそくさと顔を洗い、身支度を整える。

顔はかっこいいんだけどなぁ~なんであんなにピリピリしてるんだろう?

もっとにこにこしてたら絶対レイよりもかっこいいのに……

カタブツは苦手だぁぁぁ。

 深い溜め息をつきながら、今日も固いパンを噛みちぎる。

これ…柔らかくならないかなぁ……

ほら、ハイジで出てきた白いパンみたいにさ!

柔らかくなればちょっとくらい気が晴れるのに……

 そう思って再びパンを噛みちぎると、ふわりと力も入れずにちぎれてしまった。

口の中で噛む触感も、もふもふと柔らかすぎるくらいに。


「……っ!?」


 声にならない驚きで目を見開くと、目の前に座っているジークさんが怪訝そうな表情をこちらに向ける。


「なんだ小娘」


「い、いえ……」


 そして再びパンにはむっと噛みつくと、やはり高級パンみたいにふわふわとろけるような柔らかさに。

どどど、どういうこと? もしかしてもしかすると、異世界トリップでよくある不思議な力を手に入れちゃったとか?

そういえば昨日から魔法みたいな事もできちゃったし……

もしかしてあたし……なんでもできちゃう!?


 口に出さないようにしながらそんな事を考えていると、ふとある考えが過る。

もしかしたら、この二人から逃げられるかも……?

……でも、王宮に戻ってどうするの?

誰があたしの帰りを待ってくれてるんだろう……

 会いたい、皆に……でも皆はどうだろう。

だってあたし、あんなにお世話になっておきながら働きもしないでお金も何も払わないで……

なんだ、あたしってただの厄介者じゃん……


 あ、やばい、なんか泣けてきた。

こっち来てからずっと我慢してた涙が今更になって?

厄介者のうえに変な奴らにどっかに売られるなんて最悪……

早く帰りたい。帰りたい帰りたい帰りたい!

こんなに願ってるのに何でこの願いは叶わないの!?

無駄にパンは柔らかくなるくせに!!

そもそもなんでこっちにきちゃったの……?

こんなことにさえならなかったらあたしはきっと今頃彼と……


「小娘、お前は何故泣いているのだ?」


「え……?」


 少し、ほんの少しだけ目を見開いたジークさんに言われ、ふと頬に触れてみるとあたしの指先に冷たい雫が触れた。

ぐっと堪えると、余計に止まらなくなって、喉の奥がぎゅうっと締め付けられて息が苦しくなる。

こっちに来てからずっと元気にポジティブにって頑張って来たけど…もうダメっぽい。


「……ふ……っぅ」


 手に持っていたパンをゆっくりとお皿に戻し、涙を拭ってずずっと鼻を啜る。

眉根をギュッと寄せて目元を隠すように手の甲を当てる。

ぎゅっと引き結んでいた口をゆっくりと開く。


「っ十分……」


「……何?」


「十分だけ……何も、言わないで下さい……っ」


 ずずっと再び鼻を啜り、感情に任せて涙を流す。

あたしの言葉にジークさんも赤髪のサクも何も言わなくなったので、部屋にはあたしの鼻をすする音と嗚咽とだけが響いていた。





「えっ歩いて行くの!? ここから西まで!?」


「そーだぜ~馬なんかねぇしよ」


「そっかぁ……まぁ走るよりはましだよね! 頑張る!!」


 あたし達がいた町はずれの小屋を出て歩いているうちに、なぜかサクと打ち解けていつの間にかタメ口になっていた。

けど、こんなに話しやすくてもあたしを売ろうとしている悪い奴なんだから!

絶対に油断しないんだからね!!

そんな事を考えていると、ふと隣からジークさんの視線を感じる。


「なんですか? ジークさん。」


「……俺には分からん。先程あれまでに泣き狂うておったのに何故ものの数分でここまで持ち直せるのかが」


「んー……悲しくない訳じゃないけど……いつまでも泣いてても自分の身は守れないですし」


 にこりと笑って言うと、少し驚いた顔をした後怪訝そうに目を細める。


「身を守る? 俺達はお前を売りに西へ向かうのだぞ? 何故そんな人間に無防備について行く」


 言動と行動が矛盾している。と言って呆れたように溜息を漏らし、視線を前に戻す。

そんなジークさんを横眼で見ながら、あたしは「んー……」と再び声を漏らす。


「まぁそれもそうなんですけどね。けど、いつまでもここにいるわけにはいかないし。あなた達からもそのうち逃げてみせますよ」


 くすっと微笑みながら言うと、ジークさんが隣でふ、と笑ったのを感じる。

この人、笑えるんだなぁ……顔見ときゃあよかった。


「俺達から逃げれるとでも?」


「ふふ、何が何でも逃げますよ。覚悟して下さいね?」


「ふ……勝手に逃げるがいいだろう。できるものなら、な」



 あーあ。なんだかややこしい人達と旅をする事になっちゃったなぁ……

まぁ、ここにいてもどーせ王宮には戻れないし……他の国に行ってみれば元の世界に戻る方法も見つかるかもしれないしね。

けど、やっぱり最後に皆の顔見たかったなぁ……。


 ふるっと首を振ると、少し距離が空いてしまった二人の元へと足を速めた。






「陛下、何故キイを探さないんですか!!」


「レイ、後宮の女共の言う事を真に受けるつもりか?」


「……」


 朝執務室に来てからずっと二人でレイを説得しているが、レイは一言も声を発しない。

ずっと組んだ手に顎を乗せ、一点を見つめている。

レオンと視線を絡め、お互いに溜息を吐いて執務室を出る。

少し歩いて空いている応接室に入り、ドカリと椅子に腰を降ろす。

レオンも少し離れたソファーに腰を降ろして背もたれに項垂れ口を開く。


「……昨夜あの後ずっと後宮で聞き出していたんだが……女共は口を割らなかった」


「……そうか、やはりな」


 レイはあんな状態だが、俺はキイは何も言わずに出ていくような事はしないと思う。

やはり後宮の女共の差金でどこぞの傭兵が雇われたか……

しかし、それならこの後宮に簡単に忍びこめるのは闇の白銀しかいない。

だがあの籠の中の鳥の群れがどうやって下界の傭兵などと知り合うのだ?

 くそっ……頭が働かん。もしかしたらキイは本当に国に帰ってしまったのかもしれない。

しかしもし傭兵に攫われているのならば一刻も早く助け出さねばおそらくキイの命は……





ーーーコンコン


「どうぞ」


「失礼します。陛下、やはり陛下の仰った通りでございました」


 そう言って大臣が一束の書類を差し出す。

それに軽く目を通して口の端を持ち上げる。


「……うん、決定的証拠になるね。相変わらず良い仕事するね?」


「いえ、陛下の命に従ったまでです」


 お互いにくすっと笑いを溢すと、勢いよく立ち上がって笑顔を消し去る。


「君は彼を連れて来て。僕は最後のチャンスを与えに行くから」


「は……では後宮に?」


「うん。……侯爵ごときが舐めた真似をしてくれるよ全く」


「ええ、全く。では、また後程……」








「ていうかさ、ワープとかできないの? ワープ」


 だらだらと歩きながらサクに問いかける。

するとサクだけでなく隣を黙々と歩いていたジークさんまでもが不審げな顔を向ける。


「……わーぷ? なんじゃそりゃ」


「あ……うーん……転移魔法? みたいなの」


「ああ、転移魔法? 無理無理。あれすんげー体力使うんだよなー」


「ふーん……」


 なんだ魔法出来るからって何でもできるわけじゃないんだね。

ま、これからどうするか決めるにはちょうど良い時間かもね。

て、いってもなかなか歩いた気がするんだけど気のせいかな。

さっきからずっとアヤシイ森の中歩いてんだけど。

なんかこの森に入ってから身体中がゾワゾワするんだけど気のせいかな……


「……今日は森が騒がしいな」


 言ってジークさんが険しい顔付きで辺りを見渡す。

あれ、やっぱりジークさんも感じるのかな?

さっきからすんごい……身体が、重……


「何をしている小娘」


 木に凭れて座り込んだあたしをジークさんが見下ろす。

この人……見下ろすの好きだなぁ。

普通は“大丈夫か?”って聞くものなんだけど……まぁこの人に限って有り得ないの分かってるから言わないけど。


「んー? おい、大丈夫かぁお前?」


 ジークさんの後ろからサクがひょいっと顔を出す。

ほら、やっぱり、ね?

普通はそうなんだって。普通は。

ていうかサクは普通の部類なのかな?

あーもうこの際なんでもいいや。

なんか頭が朦朧と……


「おい、おい? 小娘、」


 んあれ……ジークさんの顔がぼやけて……

その瞬間あたしの意識がプツリと途絶えた。






読んで下さって有り難うございます!


昨日お饅頭食べました\(´ワ`)/

まぁそれは置いといて、次話は少し黒めの彼が見れるかも…?

ではでは、次話もよろしくお願いします(^-^)/

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