紫煙を吐き出した後に。
夜中にふと目が覚めた。枕元には氷が溶けて色が薄くなっているウィスキーがあった。そして、ベッドの下には酔いつぶれた友人が床に突っ伏したまま寝息をたててる。起こさないように、ゆっくりと、そして静かにタバコへと手を伸ばす。口元の寂しさを紛らすだけ。だから火はつけない。煙を吸うなんてことをしたら色々紛らわすことになる。
「ん……どした」
足元から友人の声がした。眠気が含まれた声。そちらを向くと、彼がむくりと起き上がった。眠そうに眼をこすっている。
「わりぃ、起こしちまったか?」
「大丈夫……また……寝る……から」
そのまま彼はクッションに突っ伏して再び夢の世界に旅立った。
俺は彼女と別れた。声に出したら短い言葉なのに、こんなにも痛みを出してくる。友人はその情報を聞いて、直ぐ来てくれた。それに関しては本当に感謝している。お陰で、ある程度の精神的な助けにはなった。
別れた直後は鋭い痛みに苛まれ、この世の終わりのように感じられた。だが、今は多少落ち着いてはいる。もう俺は泣き叫ぶことはしない。そんな惨めな行動は起こしたくない。他人に見られたくない。プライドとかそこら辺の問題なのだろう。
泣きながら部屋の片隅で叫び、もがいて、夜を明かした。そうしたら、世界はこうなのかと認識した。最終的には世界との対峙は所詮一人。他人は助けはするが、歩いていくのは一人。そう分かった途端、世界は灰色に包まれた。世界は汚いが美しい。
箱に入っていたタバコを灰皿の中に放り込む。これは儀式だ。これ以上紛らすことをしないように。自分と向き合えるように。マッチをすり、放り込む。燃え移りもせず、タバコはただ焦げるだけ。盛大なものでなく、ただ、ちりちりと焦げていく。黒くなった物がいつまでも灰皿に残っていた。