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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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百合キスをすると推理力が上がる探偵

作者: 戸田ひさぎ
掲載日:2026/06/14

 山荘の一室で、融々(ゆゆ)は熟睡していた。山荘は林に囲まれており、辺り一面には昨日に降った雪が深く積もっている。雪を照らして輝かせている太陽は、朝日と言えるほど低い位置になく、現在時刻は十時を回っていた。


「融々さん! 起きてください! 大変っす! 起きてください! 融々さん!」


 何度も強くドアを叩く音と、自分の名前を呼ぶ大きな声で、融々はぼんやりと目を覚ます。ドアの外で融々を呼んでいるのは、一緒に宿泊していたリィリュカだ。融々は寝ぼけた眼で枕元に置いていた腕時計を手に取って時間を把握すると、昨夜リィリュカから「明日は九時に朝食に行きましょう」と言われていたことを思い出した。


「んー、ごめんごめん。着替えるからちょっと待っていてくれ」


 融々は白色のTシャツと灰色のスウェットパンツを身に着けていた。寝巻として常用しているもので、融々はこの服装では流石にだらしないと思った。また、寝癖のある髪も梳かしたかった。


「着替えてる場合じゃないっすよ! 人が死んでるんです! 殺人事件っす!」


「殺人事件だって!?」


 リィリュカの言葉に驚いた融々は、ハンガーにかけてあったカーディガンを手に取って、急いで部屋の扉を開ける。廊下には、遅いっすよとでも言いたげにリィリュカが腰に手を当てて立っていた。その足元には、山荘で飼っている三毛猫のミケがいて、ごろごろと喉を鳴らしながらリィリュカの足首に体を擦りつけている。


「おはようリィリュカ。猫ちゃんもおはよう。まったく、殺人事件ならもっと早く起こしたまえよ」


「融々さんが寝すぎなんですよ……。さあ、食堂に集まってますから、すぐに行きましょう」


 リィリュカの後ろに続いて、融々は階段を下りる。さらに後ろからは、ミケが小さい体でそろりそろりと器用に階段を下りている。


 融々とリィリュカが食堂へ入ると、中には男が二人いた。山荘の管理人である熊川と、宿泊客の宮本だ。リィリュカに連れて来られた融々を見て、「まさかあなたがあの有名な探偵だったとは驚いたよ」と熊川が言う。


 熊川の言う通り、融々は探偵であり、これまで数々の事件を解決してきた。誰もが知る名探偵というほどではないが、ときどきSNSで話題になっており、まとめサイトが存在する程度には名が知られている。


 死体を発見した熊川は、食堂にいたリィリュカと宮本にそのことを伝えた。そうしてリィリュカは「急いで連れを起こしてきます。彼女は探偵なので」と、融々を起こすに至ったのだ。


「まずは事件現場を見せてくれ……と言いたいところだけど、その前に自己紹介をしようか。こんな状況ではお互いを知らないと何かと不便だからな。私は融々。探偵をしている。休暇でこの山荘に泊まりに来ていて、今日は三日目だ」


 一番最後にやってきて、全く状況を知らない融々だったが、特に気にせず場を取り仕切って、端的な自己紹介をした。続くリィリュカは、「助手のリィリュカっす」とさらに短く自己紹介を終えた。


「宮本です。写真家です。この山にいる狐の写真を撮るために二週間くらい泊まってます」


 リィリュカの次に自己紹介をしたのは宮本だ。小太りで、眼鏡をかけている。融々は宮本を気立ての良さそうなおっさんだなと思った。


 残る熊川は、この山荘の管理人としてチェックインの際にそれぞれと挨拶を交わしているため、この場で改めて自己紹介はしなかった。筋肉質で髭面の、いかにも山男といった風貌だ。


「では、現場に行こう。第一発見者は?」


 融々の問いに、「俺だ」と手を挙げた熊川が先導して、四人は事件現場の部屋へと向かう。この山荘は、一階に食堂やお手洗いやお風呂といった共有スペースと管理人の部屋があり、二階が客室になっている。客室は東側と西側に四部屋ずつ、全部で八部屋あり、東側と西側へは別の階段で繋がっている。融々とリィリュカは東側の客室に泊まっており、下りてきた階段とは反対側の階段を上っていく。


「そういえば、警察は呼んでいないのかい?」


「呼んであるんだが、昨日の大雪で車じゃ山を登れないから時間がかかるらしい」


 階段を上りながら融々が質問をして、熊川が答える。融々は、この山荘まで歩いて登ったらどれくらいかかるだろうかと考えたが、この山荘へ来る際はリィリュカに運転を任せて助手席でずっと寝ていたので、車でどれくらいかかったのかも知らなかった。


 西側の階段を上ってすぐに、熊川は「この部屋だ」と言った。奥へ四部屋あるうちの最も手前の部屋だ。熊川は首から下げていた鍵で扉を開け、三人に中が見えるように少し横へ逸れた。


 部屋の中央で男が仰向けに死んでいる。この部屋に泊まっていた佐藤だ。がたいのいい熊川や宮本と異なり、華奢で小柄だ。後頭部から流れた血が床に小さく広がっており、その他に外傷は見えない。


 融々はずかずかと部屋へ入り、死体に触れずに様々な方向から眺め、死因は後頭部の打撲とそれによる失血であると考察した。事故の可能性も考えたが、転んで頭を打っただけではこんなに血は出ないだろうと判断した。


 そして、今度は部屋全体を見渡し始めた。殺害に使った鈍器などは見当たらない。それから五分くらい経ち、一通り確認し終わったのか、融々は入ってすぐのところで立っている三人の方へ振り向き、熊川へ話しかけた。


「発見したときのことを教えてくれ」


「ああ。佐藤さんからは九時に起こしてくれって頼まれてて──」


 熊川は死体を発見した経緯を説明した。今朝、熊川は食堂で朝食の準備をしていた。昨日の就寝前に頼まれていたので、九時になって佐藤を起こしに行ったが、部屋の外から何度か呼びかけても返事がなかった。合鍵を使って扉を開けると、佐藤が倒れていた。意識があるか確認したが、死んでいたので警察を呼んだ。部屋に鍵をかけて食堂に戻るとリィリュカと宮本がいたので、二人に状況を説明して今に至る。


「ということは、扉の鍵は閉まっていたということだね。窓の鍵も閉まっているけど、特に触っていないかい?」


「ああ」


「この部屋の鍵は、熊川さんが首にかけている合鍵(それ)と、客用(あれ)の他にあるかい?」


 そう言いながら、融々は枕元に置いてある鍵を顎で指す。


「この二つだけだ。いや、予備でもう一つあるが、金庫の中に保管してある」


「なるほど。つまり、この部屋は密室だった。そして、入れるのは鍵を持っている熊川さんだけだ」


「ああ。そうだな。でも俺は殺してない」


 融々は、殺したのは熊川ではないだろうと思っていた。仮に熊川が犯人だとしたら、鍵を開けておくことによって誰でも佐藤を殺せたという状況にするだろう。鍵を閉めると容疑者は鍵を持っている熊川に絞られてしまうからだ。


 考え込んでいる融々を見て、リィリュカが口を開いた。


「融々さん、百合キスしましょう」


 百合キスとは、女同士のキスのことだ。百合キスをすると、脳内にユリキスシトシンという神経伝達物質が分泌され、一時期に潜在的な能力を引き出すことができる。持続時間は、数時間から半日くらいだ。


 近年、ユリキスシトシンの研究は進んでおり、睡眠時に百合キスをされた場合や、ビデオ通話やVRで百合キスをした場合では、ユリキスシトシンの分泌が確認できていないため、ユリキスシトシンの分泌には、百合キスをしたという知覚と、物理的な口と口の接触の、両方が必要だろうと推測されている。


 百合キスによる能力の向上には個人差があり、誤差程度しか変わらない者もいれば、大幅に変わる者もいる。そして、融々は後者だった。融々はユリキスシトシンの分泌が非常に多く、百合キスによって推理力が劇的に向上する。そのため、融々は推理に行き詰まると、リィリュカと百合キスをすることで推理力を向上させて、事件を解決してきた。


 推理に行き詰まったときにリィリュカが百合キスを提案するのはいつものことだった。しかし、融々は「もう少し考えてみるよ」と断った。素の推理力が上がったからか、場数を踏んだからか、最近は百合キスをしなくても事件を解決できることが多くなっていたからだ。


「そういえば、あれは開くのかい?」


 そう言って、融々は高い天井を指差した。そこには天窓がついており、その周りは縁取られて凹んでいる。天窓はすべての客室についているため、融々の部屋にもあったのだが、開くものだという認識がなかったため、推理に組み込んでいなかった。


「開くっちゃ開くけど、斜めに少しだけだ。俺や宮本さんは抜けられないな。まあ、あなたや助手さんなら通れるだろう」


「鍵はついていないの?」


「ああ。鍵はない。滅多に開けないが、フック付きの長い棒で、あの輪っかに引っ掛けて押したり引いたりするんだ」


 融々は脳内で天窓から出るシミュレーションを行った。ベッドや机の上に乗っても、天窓の高さへは全く足りないだろう。高さのある脚立があれば、届きそうだ。脚立に上って天窓から屋根へ出て、手を伸ばして脚立を回収する。その場合、脚立はどこに隠蔽するだろうか……と思考しているうちに、ふと、思い至る。


「というか、リィリュカならジャンプしてあの天窓から出られるんじゃないか?」


「そうっすね。百合キスすればベッドからジャンプしてあそこまで跳べると思うっす」


 リィリュカも、百合キスによって能力が大きく向上する。リィリュカの場合、百合キスによって向上するのは運動能力だ。その能力は、短距離走や幅跳びや砲丸投げなどで、陸上世界記録を優に超えられるくらいだ。(しかし、ユリキスシトシンがドーピング検査に引っかかるため、公式の記録にはならない)


「でも、百合キスしてないから無理っすよ」


 続けたリィリュカの言葉に、融々も頷いた。融々は昨日リィリュカと百合キスをしていないし、熊川と宮本は男だから百合キスはできない。融々は、リィリュカに犯行は不可能だろうと判断した。


「熊川さん、この山荘に脚立はあるかい?」


「ああ、外の倉庫にあるよ」


「では、今から行こう。他に確認したいこともあるんだ」


 融々の提案で、四人は事件現場を離れて、山荘の外へと向かった。


「倉庫はどっちだい?」


「右だ」


「じゃあ左から行こう」


 山荘を出て倉庫とは逆の方向へ歩き出した融々を先頭にして、要領を得ないまま三人も歩き出した。ざくざくと積雪を踏みながら山荘の周りを歩く。


「一つ確認させてほしい。昨日は朝からずっと雪が降っていたけど、夕食後くらいには止んでいたよね?」


 融々が歩きながら地面に視線を向けて三人に訊ねると、それぞれ賛同した。


「見てくれ。これは昨日の夜に雪が降り止んでから、私が車に忘れ物を取りに行ったときの足跡だ。これが残っているということは、朝まで雪は降っていない」


 特に疑問のなさそうな三人を見て、融々は話し続ける。


「外部からの侵入者が佐藤さんを殺して立ち去ったという可能性も考えたんだけど、山荘の周りに足跡がなければ、犯人はこの四人の中の誰かということになるね」


 話しているうちに、山荘の周りを四分の三ほど歩き終え、倉庫が見えた。結局、山荘の周りに足跡はなかった。また、倉庫の周りにも足跡はなく、犯人は脚立を使っていないことが分かった。


「外部犯ではないことも分かったし、とりあえず中に戻ろうか。この格好だと寒くて仕方ないんだ」


 寝巻の上からカーディガンを羽織っているだけの融々は、雪山の寒さにこれ以上は耐えられそうになかった。


 山荘に入った四人は、もう一度、事件現場へと戻った。この中の誰かが佐藤さんを殺したのだという緊張感があり、嫌な沈黙が場を支配している。


 融々は推理する。佐藤を殺せるとしたら、合鍵を持っている熊川か、天窓から出られるリィリュカの、どちらかだ。しかし、リィリュカがジャンプをして天窓から出るには、百合キスをする必要がある。融々が寝ているときに百合キスをした可能性も考えたが、融々の部屋も鍵がかかっていたので入ることはできない。


 ぴりぴりとした空気の中、しばらく無言で考え続けていた融々だったが、突然「そういうことだったのか」と呟き、寂しそうな表情で声を発した。


「謎が解けたよ。犯人は、やっぱり君だったんだね。リィリュカ」


「ど、どういうことっすか?」


「方法はさっき言ったじゃないか。百合キスをして、天窓から出たんだろう」


「そんなわけないじゃないっすか。確かに百合キスをすれば運動能力が上がって天窓から出られますけど、さっき融々さんもあたしと百合キスしてないって説明したじゃないっすか。それに、熊川さんも宮本さんも男だから百合キスはできないっすよ」


「ああ、そうだ。だが、一人だけ忘れている。そう、被害者の佐藤さんだ。もし、佐藤さんが、女だったら?」


 融々の言葉に、リィリュカと熊川と宮本の三人は同時に息を呑んだ。佐藤は男にしては細身な体型をしており、女だったとしても不自然ではないだろうと思った。そして、融々は続ける。


「つまり、こういうことだ。佐藤さんは何か理由があって男装しているが、実は女だった。それに気づいたリィリュカは、佐藤さんを殺す前に百合キスをした。あるいは、殺した後に百合キスをしたのかもしれないが、どちらでも構わない。リィリュカは部屋の鍵と窓の鍵が閉まっていることを確認し、高まった運動能力によってジャンプしてあの天窓へ飛び付く。そうしたら屋根へ上って、後は自分の部屋の天窓から部屋へ戻ればいい。そうだろう?」


 驚いてわずかに固まった表情をしたリィリュカだったが、すぐに気を取り直して返答をする。


「佐藤さんが女なんて知らないっす。それに、だとしてもあたしが融々さん以外の人と百合キスするわけないじゃないっすか!」


「それは、どうしてだい?」


「そ、それは……あたし、融々さんのことが……♡」


「まあいい。リィリュカ、佐藤さんの股間を確認したまえ」


「え?」


「大事なことだ。佐藤さんが女でなければ成立しないトリックなのだから、確かめる必要があるだろう。こういうのは助手の仕事だ。ほら、早く見るんだ」


「嫌っすよ! ち、ちんちんあったらどうするんすか! あたしまだ生娘なんですよ! ちんちん見たらお嫁に行けなくなります! というか普通は犯人候補に確認させないっすよ!」


「私の推理が正しければ女だから大丈夫だ。それに、もしちんちんがついていても死体だからノーカンだ」


「嫌っす! 絶対に嫌っす!」


「見ないと分からないじゃないか」


「嫌っす! ちんちんだけは嫌っす!」


「女だから大丈夫だと言っているだろう!」


「絶対に男っす! というか女だったら私が犯人ってことになるじゃないっすか!」


 どんどんとヒートアップしていく融々とリィリュカの言い合いを見て、熊川と宮本は呆然としていた。


「二人とも落ち着け。それなら、管理人として俺が見よう。それで問題ないな?」


 しばらく続く二人のやりとりを見かねて、ようやく熊川が割り込んだ。リィリュカは内心で熊川は女の裸を見たいだけだろうと思ったが、却下すればまた自分に確認する係が回ってきてしまうことを察し、口にはしなかった。


 熊川は佐藤の死体に近付いて膝をつくと、佐藤のパンツのウエスト部分に指を入れて持ち上げ、中を確認した。


 そして、佐藤のパンツの中には──。


「お、男だ……」


 佐藤は男であった。融々とリィリュカの間に、気まずい空気が滞留する。リィリュカから、だから言ったじゃないかと言わんばかりのジト目で睨みつけられ、融々は目を泳がせた。


「はあ……もう! 融々さん! 自信満々の推理が間違ってたんだから、もう百合キスするっすよ!」


 リィリュカは有無を言わせないような圧をかけて、融々に怒鳴った。


「分かったよ……。百合キスをしよう。おいで、リィリュカ」


「はい……♡」


 百合キスを熊川と宮本に見られたくなかったので、二人は部屋を出た。


 山荘の冷たい廊下。


 雪の反射に少し目が眩む。


 融々とリィリュカ。


 二人の口が、ゆっくりと、重なる。


 そして、融々は絶望した。


「ああ、そういうことだったのか。いや、まだ信じられないが、これしか方法が思いつかない。でも、そうか」


 一息ついて、融々は言う。


「リィリュカ、君が殺したんだね」


「はい……」


「この山荘に、百合キスをできる相手は私以外にもう一人いた。いや、正確に言えば、一人という言い方はおかしいね」


「そうっす……」


「つまり、リィリュカは、ミケと百合キスをしたんだ」


 名前を呼ばれたことに気付いたのか、廊下の先から小さく鳴きながらミケが歩いて近寄ってくる。山荘で飼われている、三毛猫のミケだ。


「ごめんね。あたし、ミケにも迷惑かけちゃった」


 リィリュカはその場にしゃがみこんで、ミケの首をさらさらと撫でながら謝った。しかし、当のミケはそんなことも気にせずに気持ち良さそうに撫でられている。


「天窓から出た方法は、さっき言った通りだろう。鈍器はどこかに隠したのだろうと思っていたけど、そうじゃないね。鈍器は床そのものだ。頭を掴んで思い切り床に打ち付ければいい。運動能力が向上しているときのリィリュカになら楽にできるだろう」


「はい。その推理の通りっす……」


「しかし、動機が分からない。リィリュカ、どうして佐藤さんを殺したんだい?」


「それは……してくれないからっす……」


「なんて言ったんだい?」


「融々さんが百合キスしてくれないからっすよ! 前まで毎回毎回事件の度に百合キスしてくれたのに、最近は百合キスしなくても解決できるからって全然百合キスしてくれなくなったじゃないっすか! そんなの、あたしが必要ないないみたいじゃないっすか!」


「それは……」


「だから、殺したんです。百合キスをしないと解決できないくらいの事件を起こせば百合キスをしてもらえるのかなって思ったんです」


「リィリュカ……」


「あたし、融々さんのことが好きなんです」


 それは、告白だった。ついさっき罪の告白をしたときよりも、もっと切実な、愛の告白だった。


「すまなかった。そんな風に思ってくれてるなんて、知らなかったんだ」


「謝らないでください。融々さんは悪くないっす。あたしがもっと、素直になってればよかった」


 融々はビジネスパートナーとしてリィリュカのことを信用していた。ずっと探偵を続けられているのは、リィリュカがいてくれたからだ。だから、リィリュカに頼ってばかりでは良くないと思っていた。そのため、すぐに百合キスに頼らずに、自分だけで解決しようと思っていた。しかし、それは自己満足だった。リィリュカは、頼ってほしかった。必要とされたかったのだ。


 私たちは、すれ違っていた。


「融々さん、あたし、これからどうしたらいいっすかね……」


 自嘲的なリィリュカの言葉に、これからへの期待は込められていない。ミケが優しくリィリュカの手を舐める。


 融々は、これからのことを考えた。そのうち警察がやってくるだろう。この会話が部屋の中にいる熊川と宮本にも聞こえていたなら、リィリュカは警察に突き出される。あるいは、リィリュカは自首をするのかもしれない。


 こんな簡単なことは、推理力が向上していなくても推測できる。


 だから、きっと、私たちなら超えられる。


「リィリュカ、警察から逃げよう。私を背負って全力で走って山を下りてくれ」


 融々はリィリュカにキスをした。

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