第二十四話:慎み
––同日、正午。
マサエールが女衆を従えてラディクスの屋敷に近づいていく。だが、当然のごとく正面の扉は堅く閉ざされていた。
また普段は門の左右、二名の門番が立っているが、今日は四名に増員されている。さらに門の向こう、庭にも兵たちが多く待機させられて警戒しているのは気配からも明らかであった。
さて、門番たちはタートリアから、マサエールを追い返すよう伝えられている。
非常に困る。
民衆も見ている前で女を追い返すのか、女に武器を振るうのか。
「あ……」
声を出そうとして掠れた音が出た。
女たちに気圧されたのだ。彼女たちの得物は棒、マサエールのように長杖を持つ者もいれば、短杖を持つ者もいる。それに木剣、箒など。
冗談のようである。だが、彼女たちの正面に立つと、これは冗談で済むような事態ではないと改めて感じさせられるのだ。女たちを痛めつける心配をしている場合ではない。
門番の一人が地に棒をつき、力強い音を立てて問うた。
「何用か!」
「知れたこと。マサエール・ボレアリスが相当打ちに参りました」
マサエールは静かに言う。
「しゅ、主命によりここを通すわけにはいかぬ!」
門番はそう言って棒を構え、先端をマサエールに向けた。そして僅かに心細さを覚えた。普段は槍を持つ彼が、今日は棒を持たされているためであろうか。
マサエールは棒を構えることもなく返答する。
「ええ、どうぞ」
マサエールは踵を返した。とは言え、戻るのではない。屋敷の横手に進む。
えっ? という表情を門番は浮かべた。様子を見学していた民衆も、困惑の表情である。
女たちはぞろぞろマサエールの後に続く。年長者は無言で従うが、若者はよく分かっていないし、不安である。きょろきょろ互いを見て、こういうのを尋ねる担当になっているジュノーが尋ねた。
「ど、どちらに向かっているんですか?」
マサエールは屋敷の長い壁に沿って歩き、角を曲がったところで口を開いた。
「通用門から勝手口ですよ。女のための出入り口はそちらでしょう」
海を挟んだ大国の皇帝が住まう城において、正門は男しか通ることが許されないという。女たちは後宮と呼ばれる女の園に、裏門から出入りするのだ。
この国ではそこまで完全に分かれてはいない。それでも使用人や出入りの業者、女たちは通用門から敷地へと向かい、台所脇の勝手口から邸内に入るものとされる。
「後妻打ちといえども、慎み深く、脇から入るものですよ」
ほー、そのような作法が、と若い女たちは感心した。
さて、屋敷の横手へと回って、小さい門の前に立った。小さいとはいっても屋敷に対して小さいだけであって、金属で補強された板は堅牢である。そしてもちろんここも閉ざされていた。
侍女のオリザが前に出て戸を叩く。
「門を開きなさい」
扉の向こうから気配はすれど、返事はない。
「仕方ありませんね。そこをどきなさい」
マサエールはオリザに言う。
先に民衆は城壁であるといった。壁とは、護るためのものでもあるが、隠すものでもある。
人垣に、あるいは正面の喧騒に紛れて、マサエールが隠していたものがある。
「マサエール様。ご指定の棒、準備できましてございます」
そう男性から声がかかった。ボレアリス家の家令である。その背後にはぞろぞろと男たちがやってきていた。
彼らは皆で台車に吊るされた一本の巨大な棒を運んでいる。
いや、それを棒とは呼ぶまい。柱である。台車の意図は明らかであろう。破城槌である。
「殿方も呼んでいたのですか?」
ジュノーの疑問に、笑って答えたのは家令である。
「先方に出迎えるようお伝えしておいたのに、彼らはそれを怠っておりますからな」
つまり、門を閉ざしていることだ。
「それでマサエール様が入れないとなれば、この老骨の責任となってしまいます」
「やあ、これは困った」
「お手伝いせねば」
男たちは困ったと言いながら笑っている。
門が開かれていれば出番はなかったのだ。討ち入りの露払いに参加できて、楽しいと思うような連中ばかりなのである。
マサエールは言う。
「わたくしの面倒ごとに付き合わせ、手数をかけます」
「いえいえ、姫のために一働きできるとなれば光栄の極み」
「ありがとう。だけど姫はやめて」
彼らは再び笑う。だが、マサエールが右手の棒を振り上げれば、笑い声は直ちに止まった。彼らは柱に取り付く。
そしてマサエールは棒を閉ざされた扉に向けて振り下ろした。
「穿て」
「はっ!」
男衆が棒を抱えて扉に突撃する。扉に取り付くと大きく綱を引いて、柱を後方に振りかぶり、教会の鐘に鐘木を撞くようにして叩きつけた。硬いもの同士がぶつかる轟音に続き、扉の板が割れる破砕音、鋼のかんぬきがひしゃげる甲高い音が響いた。
だが、扉はまだ原型を留めている。
「もう一度」
「はっ!」
男たちは再び柱を扉に叩きつけ、再び轟音が響き、扉には大きな穴が空いた。男たちは扉に張り付いて割れた扉をひっぺがしていく。
そして遮るものがなくなった。
「ご苦労でした。では行って参ります」
「ご武運を」
家令はじめ、男たちが頭を下げてマサエールを見送る。
マサエールは頷きを返し、すたすたと門をくぐっていき、女たちもそれに続く。
隊列の後方にいたジュノーは、破壊された門をくぐりながら呟いた。
「これが慎み深さ……」
ξ˚⊿˚)ξ慎みって大事だよね(棒)





