第二十二話:報告
「はあっ!?」
屋敷にタートリアの声が響く。
その正面にて低頭している執事は、言葉を繰り返した。
「マサエール様が相当打ちにいらっしゃいますので、ご準備をとのことです」
「待ちなさいよ! わたしはカブルムの件は謝罪したわよ」
カブルムとはジュノーの腕をとった騎士のことである。タートリアとしてはそれに謝罪をしたのであり、なぜその上で殴りかかろうとしてくるのか意味不明な話であった。
だが、執事は顔を上げ、タートリアに視線を合わせて言った。
「その謝罪されたお言葉が、マサエール様はじめ、ボレアリス家の方々のお怒りに触れたのです」
「なんと野蛮な……!」
タートリア付きの侍女が嘆く。彼女もまたタートリアが領地から連れてきた者の一人だ。
執事はそちらにちらと視線をやってから言う。
「文のグッリッジから嫁がれた奥様にとって、武のラディクスは野蛮にうつりましょう。辺境の守護たるボレアリスであればなおのこと」
侍女は頷き、タートリアも口を開かんとしたが、執事はそれを遮るように言葉を続ける。
「ですが、この地に入られることを選ばれたのは奥方様ご自身です故、それを受け入れて頂かねばなりません」
「私に野蛮な者どもと交れと?」
「それも一つのあり方でしょう。あるいは野蛮と呼ぶ者たちをしっかり従えてみせることです。それが軍閥の長ということなのです」
無論、それはヨーリオムの仕事であり、グッリッジの姫に本来そんなことは求められていない。彼女に求められていたのは中央との橋渡しである。
ただ、それはラディクスがプレイナムの一門を破った後、彼女が王都でヨーリオムの隣に立つことで自然と為されることであった。
ヨーリオムの妻の座を、王都の他の貴族家に先んじて動くためなど理由はあるのかもしれない。だが、結果として彼女は北方に来てしまったのだ。であれば、ここでは王都でのやり方は通用しない、価値観が違うということをもっとしっかり認識すべきであった。
「………はぁっ」
タートリアは目眩でもしたかのようにふらりと椅子にくずおれるように座った。それは色気のある仕草であったが、執事はぴくりとも身体を動かさなかった。それでマサエールが加減してくれるわけではないためだ。
「門を閉じて立て籠れば追い返せないの?」
「ここはあくまでも館であり、籠城には向きませんので……」
若き日のヨーリオムが旅の途中、マサエールと出会って恋に落ちたためにボレアリスの領地から近いこの地に居を構えたのである。
つまり本来のラディクス家の本拠地はこの地ではない。よってここには城が建造されている訳ではないのだ。
ラディクス家の当主となったヨーリオムが住むために城と呼ばれることもあるし、それなりに防衛もできるが、あくまでも屋敷である。
「馬車で王都の方に逃げちゃえばいいんじゃない? グッリッジの屋敷まで行かなくても、街道沿いにはうちの派閥の家もあるわ」
「不可能ではないかもしれませんが、マサエール様が見張りを置いていないとは到底思えませんな」
「……どうしろっていうのよ!」
タートリアは扇を執事に向かって投げつけた。それは届かず彼の足元に落ちる。
執事は無言でそれを拾い上げると、タートリアの侍女に預けた。
「籠城にせよ逃亡にせよ、奥方様にそうせよと命じられれば我ら一同、従うより他ありません。ですが、民もこの件に注目しております。無様な振る舞いはなされませぬよう」
「わかるわよ! でも戦えるわけないじゃない!」
ラディクス家の女使用人たちは多少の武の心得がある者もいる。だが、ボレアリスの女たちほどではない。
そしてタートリアやその侍女たちは、それこそ扇より重いものなど持ったこともないという女たちだ。
討ち入りに抵抗できようはずもない。
「ねえ、非礼を打つと言われても、あまりにもこれでは一方的だわ。殿方たちはなんとかしてくださらないの?」
戦の最中なので、男たちの大半はここにはいない。だが当然、屋敷の留守を護る者を置かないはずもない。ラディクス家の騎士や兵士も残されているのだ。
「一般の兵はともかく、当家の騎士はその名誉にかけて、女性に、それもかつての女主人に武器を向けることはいたしません」
兵士を今から懐柔しようとしても難しいであろうなと執事は考える。マサエールは兵たちにも人気があったからだ。古参のものほど、それは顕著であろう。
タートリアは言い募る。
「じゃあ、わたしが連れてきた騎士や貴族令息たちはどうかしら?」
なるほど、それならタートリアに忠実であろう。彼女が命じれば女にも暴力を振るうのかもしれない。唾棄すべきことであるが。
さて、本来であれば後妻打ちとは女同士の争いである。
マサエールが棒を持って女衆を率いてやってくると、ボレアリスの家令は口上を述べたのである。
名誉ある戦とは同等の条件で勝つことだ。そう言われた以上、こちらもタートリアが木製の武器を持って女たちを率いて立ち向かうのが筋だが、本当にそうだろうか?
かの女傑はタートリアが男に身を護らせようとすると考えないだろうか?
「彼らがそれに従うというのでしたら構わないでしょう。ただ、刃ある武器を持たせることは決して無きようお願いいたします」
執事はそう告げた。彼もまた、マサエールのことを良く知っているのだった。
こうやって相手方のシーンとか入れるから四万字で終わらないの。分かる?
ξ˚⊿˚)ξメソメソ……





