第二十話:討ち入り前
ξ˚⊿˚)ξ連載再開です。
「おお……!」
年長の女たちは興奮を押し殺したような声を上げる。
「えっと……」
幼少の者たちは後妻打ちという言葉の意味を知らぬためか、困惑した様子だ。無理もない。後妻打ちなど、そう滅多にあるものではないのだから。
マサエールは語りだす。
「後妻打ちとは。あるいは相当打ちとも言いますが、先妻が、後妻のことを気に食わない場合に仕掛ける、女手のみによる討ち入りのことです」
「マサエール様。合っていますけど、その言い方だとこちらが悪者のような……」
侍女のオリザはそう声をかけるが、マサエールは首を横に振った。
「討ち入りを仕掛けるこちらが善だなどと思い上がる気もありませんわ。ただ、大義名分としては、後妻の非礼を先妻が正すというものになります」
「非礼……というと私の腕を掴まれたりしたことですか?」
ジュノーが自分の手首を持つような仕草をしながら尋ねる。マサエールは頷いた。
「無論、それも一つです。まずそもそもの非礼は、わたくしの離縁から十日と明けずにヨーリオム様と婚姻し、家に入り込んだことですけども」
通例、再婚には半年はあけるものである。女たちは怒りを込めて頷いた。
「ですが、ヨーリオム様はわたくしやボレアリス家を尊重すると、言葉や態度、金銭面などで示してくださいました。ですから、その時は良いとしたのです。その後の後妻やその一味の言動、例えばわたくしを貶めようと、ボレアリスを田舎者とそしろうと、ある程度は仕方ないと譲歩しましょう。ですが、超えてはいけない一線というものがあるのです」
マサエールはゆっくりと拳を振り上げ、そして勢い良く卓に叩きつけた。
女の繊手によるものとは思えぬほど、重く激しい音が響く。
「辺境の地を守り抜き! ラディクス家に古くから仕え! 共に戦場を駆けた一門の! その武を軽んじられて黙っていられますか!」
「いいえ!」
「否!」
女たちは口々にマサエールの叫びに同調した。
マサエールは声を落ち着かせて続ける。
「そう、断じて否です。これを看過したら武門の家ではありません。ヨーリオム様がボレアリスを尊重すると仰ったお言葉にも反します」
マサエールはそこで言葉を切り、小さく息をついた。
「ただ、本来ならその言葉で傷つけられたのは殿方の名誉です」
戦は男の仕事である。『ボレアリスの騎士より勇ましい』と言われたのは当然ながら男であって、女ではないのだ。
再びジュノーが尋ねる。
「ではお父様たちに報告して、それを正してもらうべきでしょうか?」
「傷つけられた名誉を雪ぐべきは、本来なら当人の仕事でしょう。ですがそれをするとどうなるでしょう?」
「えっと……」
女たちが考え始めたところで、卓を囲む彼女たちの外から、声がかけられた。
「夫であれば今の戦が終わった後に、軍を以てラディクス家に攻め込むでしょう。そしてヨーリオム殿はそれを阻まざるを得ませんね」
母であった。この家で最も上の立場にある女性である。女たちはそちらに向き直って膝を折る。
「はい、その通りです。お母様」
「マサエール、品のない行為は慎みますよう。聞こえていてよ」
そう言って近づき、卓に手を置いた。さきほど卓を叩いたことを言っているのである。
「申し訳ありません」
「ともあれ、貴女はそれを望まないのね」
「はい。両家の全面的な敵対は双方に利をもたらさぬでしょう」
マサエールは口には出さないが、こうも思った。ひょっとするとグッリッジ候は、あるいは中央の家々は策の一つとして、ラディクスとボレアリスを対立させることも狙っているのかもしれぬと。いわゆる離間の計である。
「無論、お父様たち、あるいはヨーリオム様にもこの件は伝えますが、事後の報告とします。戦も知らぬ女の戯言を、後妻の非礼として先妻が打った。名誉は雪がれ、そこで話は終わりです」
ジュノーたちはなるほどと頷く。
「……これは品がないでしょうか?」
マサエールは母に尋ねた。女が暴力に出ること、それは非常にはしたないとされるものだ。それも家庭内で卓を叩くなどということとは規模が違う。
だが母は鼻で笑った。
「品がないのは後妻の方でしょう」
「はい」
マサエールは笑みを浮かべる。その笑顔は美しく、だがそれは忍耐からの解放を、暴力を行使する悦びをはらんでいた。
「私は出ませんよ」
「もちろんです」
当主の妻まで出すわけにはいかないのである。離縁された女がやったこととしなくてはならないのだから。
母は、マサエールの紅の瞳をじっと覗き込み、そして一度目を逸らすと周囲の女たちの顔を見渡してから、再びマサエールに向き直って忠告する。
「やりすぎないように」
「はいっ!」
与えられた言葉は、怪我のないように、ですらなかった。
ξ˚⊿˚)ξ無論、数日休んだところで書き溜めなどできない。





