第十二話:再婚
女たちはしばし隣の者と言葉を交わし、そして口を閉じる。マサエールの言葉を待っているのだ。
マサエールはしばし黙考して尋ねた。
「ヨーリオム様とタートリア嬢が婚姻を結んでいると?」
「はい」
「結婚式や披露宴は行わなかったのですね」
「教会の司祭を城に招き、儀式のみは行っているようです」
「ふむ……」
マサエールは閉じた扇の先端を下唇に当てる。アイガーは気遣わしげにマサエールの名を呼んだ。
「マサエール様……」
「ヨーリオム様にとっては再婚にあたりますから、式を行わないということもありえるでしょう」
「ですが、それは……」
「そう、グッリッジ家の姫君が嫁ぐというのに、式も披露宴もなしということはあり得ません」
中央の歴史ある侯爵家の姫であり、彼女にとっては初婚なのだから。
マサエールは思考を確認するように言葉を紡ぐ。
「そもそもグッリッジがラディクスと縁づいたことを示す、それこそ披露する場なのですから……。ああ、それは改めて中央、王都かグッリッジの領地で行うつもりなのですね」
ラディクス家にとっても王国全体の軍閥を掌握したことを示し、中央の貴族や政界との繋がりを深める婚姻である。式は中央で行う必要があろう。
アイガーは問う。
「ではなぜその姫君は、こちらにいらしたのでしょう?」
「理由はいくつか考えられます。そのうちのどれかが正しいのかもしれませんし、どれも間違っているのかもしれません。現状ではなんとも言えませんね」
マサエールはポーラに視線をやった。
彼女は申し訳なさそうに肩をすぼめる。
「申し訳ありません。そこまでは調べが及ばず」
「良いのよ。まずは急ぎ一報を入れてくれたのでしょう? 感謝こそすれ、責めるいわれはないわ」
「ありがとうございます」
ポーラは頭を下げる。マサエール様のため、再度、急ぎ情報を集めに向かおうと決意していた。
マサエールは扇を僅かに開き、パチリと閉じた。手慰みのような、特に意味のない動きではある。だがその音は雄弁に語っていた。彼女が不快感を覚えていると。
「分からないことを考えても仕方ありません。しかし、これが好ましくない動きであることは間違いありません」
女たちのうち、年嵩の者たちは強く頷いたが、若いものは理解が及んでいないようである。
「あっ、あのっ! うかがってもよろしいでしょうか!」
そのうちの一人がそう言って手をあげた。カロシアである。先ほどもマサエールとインスラの結婚について尋ねて嗜められていた子であった。
今も再び隣の者に嗜められているが、マサエールはそれをとめる。
「身内の茶会なのだから構わないわ。ただ、カロシア。外での茶会で疑問があっても、それは覚えておいて後で母や付き人に尋ねるのですよ」
「はいっ!」
「それで、何かしら」
「そ、その。ヨーリオム様はマサエール様と離婚なされたのですよね。その姫君という方がラディクス家に入られたのは何が問題なのでしょうか?」
マサエールは頷いた。
「そのこと自体には貴女の言う通り、なんの問題もなくてよ」
「は、はい」
「問題なのは再婚するまでの期間が短すぎることなのです」
マサエールは説明する。
離婚してより後、半年の間。女は再婚してはならぬという慣例がある。これは法として定められているわけではないが、広く知られているものである。貴族においては特にそうであり、平民においても守られていることが多い。
なぜか。
仮に離婚してすぐに再婚し、子をなしたとしよう。その時、その子供が今の夫との子か、前夫との子か分からないためである。
特に王侯貴族の家においては継承権や相続などが絡んでくる。できれば一年、最低でも半年は再婚までに間をあけるべきとされていた。
マサエールは腹に手を当てる。
「ただ、これは子を孕む女についてだけの慣例です」
「では男のヨーリオム様はそれは当てはまらない?」
カロシアの疑問にマサエールは頷き、カロシアは混乱した。マサエールは逆に尋ねる。
「ねえ、カロシア。女にだけ再婚にそういう決まりごとあるのってどう思うかしら?」
「え……なんか不公平かなって」
カロシアは自信なさげにそう言ったが、女たちはうんうんと頷く。
「そうよね。でも、これがとっても大事なことなのはわかる?」
「それは、はい」
カロシアは、はっきりと頷いた。家を守り、継ぐことの重要性は幼なくともはっきり理解しているのである。
「女に不公平だけど、この決まりはとても大事。じゃあ、良い男ならどうすれば良いかしら?」
カロシアはしばしうんうんと考えて、答えを導いた。
「男も再婚まで半年あける……あっ!」
「そういうことです。今回、わたくしがラディクス家を離れて十日とたたずに、タートリア嬢がそこに入った。これが誰の発案でどういう意図があるのかわかりません。それでもこれはわたくしを、ひいてはボレアリス家を軽んじているということに他なりません」
マサエールは再び扇をパチリと鳴らした。
「つまり、舐められているのですわ」
ξ˚⊿˚)ξ後妻打ちへのプレリュード的なアレ。





