第十話:茶会
その後、オーディワール城の一室で行われたお茶会も和やかな雰囲気で始まったのである。女たちだけの気の置けない集まりだ。弟の嫁や一番下の姪など、マサエールにとってはほぼ初対面の者がいないわけではないが、それでもみな一族の者である。すぐに打ち解けたのであった。
当然会話の中心はマサエールである。長く家から離れていた長姉が戻ってきたのだから当然であろう。ただ、そうは言っても離婚したばかりであるヨーリオムについては話題にしづらい。
これでヨーリオムがダメな男であるなら、女たちがひたすら貶しあげるような展開もあっただろう。だが実際はそうと言い切れず、特にマサエールの気が彼に残っているのである。
よって話題はモンジューやインスラについてとなるのだった。
「マサエール様は卿についていかが思われますか?」
わずか数日で、ただ卿と言えばインスラのことをさすほどである。
「今日もこのお茶会の前に会いに行かれたと聞いてますよ」
女たちの質問に、マサエールは窓の外、庭にちらりと視線をやる。そよそよと風に木々が揺れる。その向こうに先ほどまでいた四阿があるはずだが、ここからは見えないし、インスラも当然もうそこにはいない。
マサエールは答えた。
「いかがねぇ……。客観的に評価して良い男になったとは思います。文化的で、女を立てるような所作はかつてのボレアリスであれば軟弱と言われたでしょうが」
うんうんと女たちは頷く。
「ですがただ軟弱な男を父や兄は騎士団の副長には据えませんでしょう」
「そうですよ、インスラ様すっごいお強いのですから!」
「先日の馬上槍試合なんて卿は正に鬼神の如き強さで!」
どうもずいぶんと活躍したらしい。歳若の娘たちがきゃっきゃと声をあげた。
その一方で、隣に座る兄嫁のアイガーがマサエールの腕をつんとつく。
「側から見てはどうでもよろしいのですよ。マサエール様から見ていかが?」
恋愛は客観ではなく主観でするものだと言っているのである。マサエールはしばし黙して手元のケーキにフォークを入れた。
「前提としてわたくしの愛はヨーリオム様に向いています。ですが……インスラに好意を向けられて嬉しいと思う感情もなくはありませんわ」
「まあ」
「まあまあ」
「まあまあまあ!」
女たちはきゃいきゃいと笑う。
嫌っている男から好意を向けられれば気持ち悪く、興味のない男から好意を向けられれば煩わしいものだ。マサエールがインスラに愛ではなくとも好意を感じていると言っているに等しい。
マサエールとしては複雑な感情ではある。それをどう表現したものか、これからどうすべきか悩み、それを表すように彼女の手元のケーキは口に運ばれることもなく何度もフォークで切られぐずぐずに崩れていった。
アイガーはそんなマサエールの手を押さえて言う。
「マサエール様、それはヨーリオム様への不実ではありませんし、インスラ殿への不誠実でもありませんよ」
「そうでしょうか……」
マサエールはフォークから手を離し、アイガーに視線を送る。
先日はあんなに燃えていた紅の瞳が、いまは儚く揺れているようにアイガーは感じた。それに驚きと庇護欲のようなものすら覚えつつ、アイガーは語る。
「そうですとも! そもそも離婚を切り出したのはヨーリオム様の方ではありませんか。マサエール様が素敵とおっしゃるヨーリオム様は、マサエール様が一人孤独に祈りを捧げるような余生を望まれているでしょうか?」
「いえ……」
アイガーは先日、マサエールが教会の門を叩くと言ったことを気にしているのである。義理の妹である彼女のことを、アイガーも好ましく思っているのだ。
「では一方のインスラ殿はどうでしょうか。彼もまたマサエール様がヨーリオム様を愛していらっしゃることをご存じの上でマサエール様を愛していらっしゃるのでは?」
「……気にしていないと。十年前から知っていると」
きゃあきゃあと女たちが騒ぐ。その一途さや騎士物語のような愛というのは彼女たちの琴線に触れたらしかった。そんななか歳若の親戚の一人から声をかけられる。カロシアという、まだデビュタント前の娘である。
「あっ、あの!」
「何かしら?」
「インスラ様はマサエール様のことずっとお好きなんですよね?」
きらきらと瞳を輝かせて尋ねられる。
「そうみたいね」
「ご……ご結婚とかはお考えなのですか?」
「ちょっとカロシア!」
際どい、というか行き過ぎた質問である。
実際、彼女は周囲の者たちにたしなめられているが、マサエールは気にしていないと片手を軽くあげて示した。
「気の早い話です。離婚されてすぐにどうこうという話ではありません」
「申し訳ありません!」
「いえ、構わなくてよ。ただ、そうですね……」
マサエールは卓上に視線を落とす。崩れたケーキが目に入り、いつの間にこんなことにと彼女は驚いた。
そっとメイドが近づいて、崩れたそれを下げて新しいものを置いていったのだった。
ξ˚⊿˚)ξケーキはスタッフ(メイド)が美味しくいただきました。





