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後妻、打つべし。  作者: ただのぎょー


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1/8

第一話:離婚

ξ˚⊿˚)ξ新作中編です!


4万字以内で完結させます! ……させます!


ストックはあるのでとりあえず毎日昼に投稿予定。今日は夕方にもう1話更新します。

 ラディクス家の当主ヨーリオムと、その妻マサエールは屋敷のサンルームで窓の外を眺めていた。

 季節は春。うららかな日差しの中、庭師が丹精込めて造った薔薇園は花の盛り、見頃であった。

 二人はしばし景色を堪能し、マサエールはヨーリオムのエスコートで席に着く。ヨーリオムはじっとマサエールを見つめ、おもむろに彼女の名を呼んだ。


「マサエール」

「なんでございましょう、旦那様」

「汝と離縁したいと考えている」


 暖かなはずの部屋の空気が凍った。

 壁際で紅茶の用意をしていたメイドの手から、カップが滑り落ちて割れた。


「申し訳ございません!」

「構わないわ。怪我のないように」


 マサエールはいっさい視線をそちらに向けずにそう言う。燃えるような赤い瞳はじっと夫に向けられていた。

 その様子ひとつとっても、彼女の胆力と、この発言を予期していたことが見てとれるであろう。

 夫が離縁を切り出すであろうことはわかっていた。だが心が痛まない訳ではない。マサエールはゆっくりと息を吐いて吸う。そうして心を落ち着けてから尋ねた。


「それはわたくしに何か不満あってのことでしょうか?」

「いや、それはない」

「愛が枯れましたか?」

「いや、我は今でも汝を愛しているぞ」


 そう、ヨーリオムとマサエールは、貴族社会においては珍しい恋愛結婚であった。

 今から十年近く前のこと。武門の名家、ラディクス家の長男として生を受けたヨーリオムは、若き日に心身を鍛えるため、そして見聞を広めるために王国の内外を旅していたのである。その旅の中で出会った地方豪族、ボレアリス家のマサエールと恋に落ちたのだ。

 王家の姫が降嫁したこともあるラディクス家の長男といえば、まごうことなき貴種である。それと辺境では力があるとはいえ、たかが一豪族であるボレリアス家の娘との婚姻となれば、双方の親類縁者はじめ反対も多かった。いや、反対ばかりであった。だが、それを押し切って二人は結ばれたのである。


「わたくしも貴方を愛していますわ。この十年間ずっと、貴方一人・・・・を」

「……うむ」


 ヨーリオムが目を逸らした。後ろめたさのあらわれであった。

 マサエールは紅の視線を逸らさない。


「殿方の愛と、女たちの愛が違うことはわかっております」


 つまり、男の愛は多情であり、女の愛は一途であるとマサエールは言っているのである。

 当然、倫理的にはそうではない。この国における婚姻制度は一夫一妻制であるし、教会もただ一人の伴侶を愛せよと言う。もちろん逆に、一途な男も多情な女も存在するが、この国、この時代における傾向としてはマサエールの言うことは真であろう。

 特に社会階級の問題として、貴種の当主は血統を継ぐことが求められ、さらに武門ともなれば、戦い手、つまり男児を多く作ることが期待されるのである。


「わたくしはあなたが妾のところなどに通うことに……、まあもちろん妻として文句は言いましたが」


 ヨーリオムは思わず頷いた。彼の妻も地方豪族という武家の娘であるがゆえか、苛烈な性質を有しているのだ。

 マサエールはじろりと夫を睨みなおしてから、過去を思い出すように視線を宙に彷徨わせる。


「それでも、妾通いそのものを禁じはしませんでしたし、ある程度は私生児を黙認してきました」

「ああ、感謝している」

「ですが妾を迎える、のではダメなのですね?」

「……そうだ」


 マサエールは扇を広げ、その下で嘆息した。


「グッリッジ家のタートリア」


 びくり、とヨーリオムの肩が揺れた。図星であった。


「可愛らしい、素敵なお嬢さまですわね?」


 マサエールは扇を閉じると、悲しげな顔をつくり、頬に手を置いた。


「わたくしも、もう二十五。容姿に翳りが出始めていますし」

「そんなことはない! 汝は……美しい」


 ヨーリオムは立ち上がり否定する。マサエールは頷いて感謝を示し、再び座るよう促した。


「ありがとう存じますわ。それでも、わたくしたちが結ばれた頃の歳の姫君には敵いませんのよ」


 マサエールがヨーリオムと出会ったのは花も恥じらう十五の頃。十九で結ばれ、それから六年の月日が経っているのだ。

 タートリア嬢は御歳十八歳、ヨーリオムが目移りするのも仕方ないとマサエールも思わないではない。

 だがヨーリオムは椅子に座りながら言う。


「そういう理由ではない。彼女のことを知っているというならわかるだろう」

「グッリッジ家、ということですわね」


 ヨーリオムは頷く。

 そう、若く美しいだけであれば、それこそ妾にすれば良いのだ。倫理的にはどうかと思うが、この時代における貴族の価値観としてはそうだ。そんなことで妻と離縁する必要などない。

 問題は彼女の家門にあった。


「グッリッジ侯爵家。かの家の姫ですか。それは妾にはできませんわね」


 そう、グッリッジはこの国の貴族の中でも侯爵家という最上位に近い地位にいる貴族なのである。ヨーリオムはそこの姫と結婚するために、マサエールに別れ話を持ちかけているのであった。

今日、私の別の連載であるところの

『チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!』

のコミカライズがすたーとしましたので、その告知も兼ねていたりします。

この作品とは毛色の違うコメディですが、ぜひご高覧いただければ幸いです。


リンクは下に貼っておきますー。

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i913987

『チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!』

― 新着の感想 ―
これまた名作の予感( ˘ω˘ )
うわなりうち、ですね~。 楽しみ♪ やれやれー、GOGO〜。
なまこさんが書くこういう強い女って大好きですわ!
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