4話
きっと作者に会えば何か変わると思っていた。
世界が180度ひっくり返って、他人にない作品が書けると思った。
小言を嫌った後輩に小言を吐いて――。
前よりもよそよそしくなった本屋の景色には反吐が出る。
結局振り出しだ。雲雀ヶ丘のような壮大でもない、小説なんてちっさい世界で俺はまた手足を振り回すんだ。
「私——逃げるわ。吟ちゃんと一緒に暮らす」
「……へー」
久しぶりに会った雲雀ヶ丘は先に進んでいるようだった。
それが正解かなんて分からない。ただ楽しそうだった。
喪失感だけが俺の体には詰まっていた。
こんなにも人と会って、何かに傷ついたのに、手元には何も残っていない……。
「……翻車魚」
これをどうこうする気分でもないし、渡す相手もいない。
俺は本棚にコイツを差し込み、パソコンの電源を付ける。
「……もう結果出てんだ」
以前送るはずだった新人賞のサイト。
もう既に入賞作品をデカデカと掲載していた。
片手に顎を乗せ、もう片手でページをスクロールする。負け犬だ。
そして――なろうばっかりだ。
キーボードに手を掛ける。
肺にある余りある空気を吐き出す。
何を書けばいいのか……。
最初の一文如きで何時間も悩むのは不毛だ。
だから、それでも、ただただ書くしかなかった。