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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

休暇から帰ってきたら部下が世界救ってた

作者: ゆー

お帰りなさい隊長。王国騎士団第17小隊所属の貴方の可愛い右腕ちゃんですよ。

趣味は料理とお裁縫。好きな人は隊長。将来の夢は隊長のお嫁さん。隊長、いつでも待って……え?今そういうのいらない?はい。


まあ落ち着いてくださいよ。何で王都がほぼ半壊しているのか、順を追ってお話しますから。

あ、上着ですかありがとうございます。私、血塗れのぼろぼろでだいぶセクシーなことになってますから、隊長の隊長がお話聞くどころじゃなくなってしまいますもんね。


はいはいお話します。お話しますから。げんこつは止めましょう。


…えーと、始まりは爽やかな朝でした。設定していた時計の鐘の音を3回程止めて夢心地に微睡んでいたその時、突然外から轟音が響いたんです。


おいおい一体何事ですか。また第4小隊の人が火力間違えて室内で上級魔法でもぶっ放したのかな?それとも、うちの陰険上司がいつまで経っても出勤しないかわい子ちゃんについにキレて拳で分からせに来たのかな?とか思いつつも、どうしてもベッドの魔力に抗えなくてもう5分程延長で寝たんです。


でも誰も来ない。何ならちょっと外が騒がしいな。

流石に不思議に思って、いや違う民を守るド高貴なる騎士団の一員として捨て置けないと思い、致し方なく外の様子を確かめたんてす。


すると何と言うことでしょう。


お空にね、浮いているんですよ。

超巨大な神々しい様なおぞましい様な、そんな絶妙なキモ可愛さを併せ持った神様っぽい像が。いやすいません訂正します。今思うと普通にキモかったです。


流石に流石に、私も状況を確かめに行きましたよ。

悲鳴飛び交う町中を掻き分け…るのも面倒くさかったので、屋根伝いに。


粗方の想像通り、町には魔物が蔓延っていました。

魔物…と言うか、何と言うんでしょうね、あれ。この時点ではまだ分かっていませんでしたが。


一人でに動く、空っぽの鎧。ツギハギだらけの歪なぬいぐるみもどき。それらが手に持った武器を振り回して人々を斬り刻んでいるんです。そこそこ恐怖な光景ですよね。私も一応乙女なので、ちょっと怖かったです。隊長、優しく慰めてください。何で乙女の顔を鷲掴んで遠ざけるんです?


…え?町の人達はちゃんと助けたのかって?


……………。


あっはっは。嫌だなぁ。隊長知ってるじゃないですかぁ。

私が死ぬ程この国嫌いだって♡


助けるわけないじゃないですか。


ん?何ですか娘ッ子。お姉さんは今、将来の旦那様と輝かしい未来について話し合って…え?何?お母さんを助けてくれてありがとう?ああ、そうですね。はいはいそんな何度も頭下げなくても分かりましたから。飴ちゃんあげるからお母さんの傍にいてあげなさい。ほら、しっしっ。何笑ってんだ小娘こら。


………。


はい、隊長の下に所属している以上、助けましたよ。

赤ん坊を抱いて逃げるお母さんはもちろん、子供を必死に守ろうと足掻くお父さんも。『自分を先に助けろ!』とか、『わしを誰だと思っとる!』とか、人の言葉を話す珍しいヒキガエルだって。喜んで助けましたとも。ただちょ〜っとうるさかったので、優しく黙らせて、後片付けは本日も逞しく生きている貧民街の方々にお任せしましたけども。


いやしかし、改めて見ていて思ったんですけど、本当この国の騎士団ってクソですよね。下層にろくに兵士いないんですよ。いるのは精々平民上がりの下っ端くらい。精鋭は皆、手柄を立てるべく貴族様の元へ一目散。下賤な民草のことなんて気にも止めやしない。ご立派ですよね。そんけーしちゃうなぁ。


え?貴族街の一角が焦土と化していた理由ですか?

いやいや、あれは私のせいではありませんよ。

『炎獄の覇王』?『魔王』?いや『ら王』?だったかな?とかいう人がやったんです。

そうそう聞いてください酷いんですよあの人!黒い炎の中で『何故か数百年分の封印が解けた!久々の人間界だ!ふはははは!』ってご機嫌に高笑いしていたからすれ違いざまにちゃんと会釈したのに、『舐めるな人間がぁ!!』とか言って急に怒り出して!

炎飛ばしてきたからびっくりして奪い取っちゃいましたよ!え?何をって、炎。


何かあの人唖然としていたんですけど、私も忙しい身だからいちいち構っていられなくて。

取り敢えず二度とわんぱく出来ない様に、身体の中の炎の魔力、底から根こそぎ奪い取ってやりました…んですけど、その時つい弾みでくしゃみしちゃって。


うっかり手を滑らせて、悪政で国民からめちゃくちゃ嫌われてる貴族様の屋敷にぶっぱしちゃったんです。


え?つまりお前のせいじゃないかって?いや何でですか。最初に炎出したの向こうじゃないですか。私は正当防衛であって悪くないじゃないですか。


…あ、じゃあこうしよ。うう…っ、隊長、ごめんなさい。私、必死に戦ったんです。でもあの人、私何かじゃちっとも歯が立たないくらい強くて……。炎も避けるのが精一杯で…。避けたら『お、これ屋敷に当たるなぁ?』とは思ったんですけど……。背に腹は代えられなくて……。いや私もう本当必死で。決死で。まっじで。


…え?もういいから次?よっしゃ。


んでその後ぉ、力を失って打ちひしがれるそいつぶちのめしてとりま神像目指してワンモア歩き出したんですけどぉ、近づくにつれて街の風景が何だかおかしなことになっていくんですよ。壁や柱、それらが明らかに長い年月をかけて朽ち果てた様というか。


更には草木がびっしりと生い茂って最早、森。まるで、そこだけが何百年後みたいな、そんな異様な光景でした。


流石にこんな森林に入ったら迷いかねないなぁめんどいなぁ、と思ったんですけど、そこで『あ、そうだ、ちょうどいい力あるじゃん』、と、さっきの、あの、…もう名前忘れたけど何か炎の人から譲って頂いた力で森を全て焼き払おうとしたんです。


そしたら今度は奥からもんのすごい勢いででっかい蛇の魔物が飛び出してきまして。

私の身体に巻き付いてきたと思ったらいきなり奥へと引き摺り込まれたんです。

強烈な締め付けにより私の出るとこ出てる身体の線が浮き出て大変艶めかしいことになる訳ですが隊長、どうです?え?何がって?いや、興奮しないんですか?しないかぁ。


まあ、締め付けのせいであちこちの骨ばっきばきになったんですけどね。


どうしました隊長。何故そんな急に興奮しているんですか?もしかして骨折フェチですか?仕方ないなぁ。小指くらいなら折らせてあげますけど…。

え?違う?怪我は大丈夫だったのかって?心配??……えっへへぇ……。いや、まあ?私、これでも一応魔王と刺し違えて世界を救った勇者と、その妻である賢者の子供ですし?一撃で消し飛ばされない限りはどうとでも回復できますかね。痛いは痛いですけど。つまり隊長、私を抱く時はいつだって新鮮な…何でそんなに可哀想なものを見る目で私を見るんですか?


まぁ、所詮平民である勇者と賢者を疎んだこの国の貴族様が、まさかの魔物と結託して罠に嵌めてくれたおかげで母も死にましたけど。改めて隊長、あの時は助けてくれてありがとうございました。母に縋り付いて泣きじゃくることしか出来なかった哀れな小娘を、ぺーぺーの若造だった隊長があの時事情を何も知らずに助けてくれたおかげで今、私はこうしてここにいます。


そして隊長はその時の功績で晴れて隊長に。若すぎるとかいう意味わからん理由でろくに人のいない窓際みたいな部隊に送られましたけど、隊長は隊長ですよ。おかげで私も上を脅…、気兼ねなく隊長の下につけましたし。私が入隊した時の目を丸くした隊長、可愛かったですよ。


そう言えば隊長、あれから身体の方は大丈夫ですか?


え?何の話かって?


だって隊長、あの時、母が封印する為に輸送していた魔王の残滓的なのその身に取り込んだじゃないですか。そのおかげで当時ろくに実戦経験の無かった隊長が貴族と手を結んだ魔王軍の残党である四天王をいともたやすく討てた訳ですし。私もどさくさ紛れに貴族達ぶっ飛ばしたかったんですけど、その前に四天王が『用済みだから』ってさっさと始末しちゃったんですよねー。おかげで、奴らの罪は結局うやむやにされたし。公になったらやばいからこの国ろくに調べやしねーし。本当、余計なことを。


?どうしました隊長。


…え?『魔王』?『何それ覚えてない』?『嘘だ』?


……………。




まあ、人生色々ありますよね。

大丈夫ですよ隊長。あの後、暴走しかけてうっかり魔王になりかけていましたけど、私が契約を施した事でどうにかこうにか繋ぎ止めましたので。あの場にいた者は皆死んだし、この事実を知る人は私以外誰もおりません。でも、あえて放置して国を滅ぼしてもよかったかもしれませんね。な〜んちゃって冗談ですよ。拳を下ろそう。


まあ、その代償として私が死んだら隊長も死ぬ様になっちゃったんですけどね。


うん?どうしました隊長。茫然自失としちゃって。

大丈夫ですって。私そう簡単に死にませんって。隊長が私から少しでも距離を置いたり見捨てたりクビにしたりしない限りは自殺もしませんて。ですので末永くよろしくお願いしますね。お願いしますね。


えー…と、何の話してましたっけ?あーそうそう、蛇ね。でっかい蛇。

串焼きにしました。以上。


で、ようやく、どうにかこうにか神像さんの下辺りまで駆けつけたんですけど、そこでまたあの魔物達が立ちはだかったんですよ。


そう、最初に現れた空っぽの鎧や、ぬいぐるみ共です。


そこで私、思い当たったんです。時間を跳躍したかの様な周囲の光景、そして魂が宿ったかの様な無機物達の正体に。


聞いたことありません?気が遠くなる様な年月を経て、いつしか物に意思が宿り、動き出す。遥か東の国で『付喪神』って言うらしいですね?


それでふと思い出したんですよ。

隊長、覚えてます?『ミツクモ教』。そうそう、昔から街にひっそりあったみたいですけど、最近になって、急速に名を広め始めたへんてこ宗教です。


信仰するのは『ミツクモ様』。名前以外は一切不明。私達はこれを三つ雲だとか何とか予想して、当然何の検討もつかずにお手上げでしたが、これは雲ではなく『付喪』。『身付喪』ってことだったんですね。

どういう教えなのか。答えは簡単。信者の皆さん、その身と魂を身付喪様に捧げましょう、ついでにお金は教団へ。ということです。


あ、気づきました?ミツクモさんち、ちょこちょこ信者の行方が分からなくなる事件が起きていましたよね?隊長もいつぞや捜査に駆り出されていたと思うんですけど。私は色々理由つけてサボりましたけど。

あれね、信心深い信者の方は教団のお偉方に案内された先で生きたままミツクモ様に取り込まれていたみたいですよ。その人達が望む望まないに関わらず。


神像をよくよく見るとですね、ちらほら見えるんですよ。苦しそうな顔とか、ひしゃげた手足とか。いやはや、おぞましいったらないですね。


まあ、入信したのはその人の意思でしょうし特に可哀想とかは無いんですけど…、でもまあ、気分の良いものでもないですよね。


ここまで言えば分かるかもしれませんが、神像が噂の『ミツクモ様』です。長い長い、気の遠くなる時を経て、意思の生まれた人造神。教団が生み出した妄執の産物。


ここで気になるのは、ぽっと出の教団にそれ程の歴史が果たして存在するのか。技術もろくに無い遥か昔でどうやってここまでの像を作り出したのか、って事なんですけど。


…………。



……、……。



……あの、隊長、別に深い意味は無いんですけど、覚えてます?私がタンスの裏とかに落ちちゃった物を拾う為によく使ってたショボい棒切れ。最近、どことなく黄ばんできたから捨てたんですけど。


『クロノスの聖角』って言うらしいです。


……あれ、限定的ではありますが、時を操る能力を秘めた魔具らしいです。


だから…つまり…、教団はあの魔具を使って教団本部周辺の時間を操作して、短時間で付喪神を宿らせることに成功したといいますか…。


い、いやぁ、実家にあったものを適当に持ってきただけだったんですけど、まさかですねぇ。まさかまさか、教祖様ともあろうお方がゴミ荒らしの様な真似をしてまでそんなものを拾うだなんてねぇ。


………ねぇ?


…隊長、何でくそでか溜息をこれ見よがしに吐くんです?私だって一応反省しておりますよ?燃えるゴミじゃなくて燃えないゴミの方だったなぁって。

だからこの国が嫌いでこのゴミカス国早く滅びねぇかなぁいっそ滅ぼしてやろうかなぁとか心で思っている私でも、隊長が生まれ育ったこの国を守る為に泥んこになって戦ったんじゃないですか。褒めてくださいよ。なでなでして。


え?もういいから次?んもう、つれないお人。でもそういうところが好き。


それでやっとこさ教団の本部までお邪魔しますしたのはいいんですけど、ここで出てきましたるは我らが騎士団の団長。あの人実は敬虔な信者だったらしいですよ。どっぷり浸かって貴族もいっぱい引き込んでたっぷりお金を横流ししていらしたらしいです。


これがただのクズだったら話は早かったんですけど、あの人はあの人で本当にあの偽物の神が争いだらけの醜い世界を救済しうる手段になると本気で信じていたようで。出来損ないの神擬き達がただ今絶賛、人を襲っているのに、その綺麗なお目々には何が見えているんでしょうね。


しかも、これがまた強いの何の。困りますよね。そういう立場の人って保身が全ての三下ってのが相場じゃないですか。何でガチの強者なんですか。ああいう真っ直ぐな人間って本当に面倒くさいですよね。つい油断して右目抉り取られてしまいましたよ。直で。


え?あるじゃないかって?まあ、死にかけたおかげで私の勇者と賢者の血が覚醒したみたいで。何かめっちゃすごい回復魔法覚えたんです。めっちゃすごいですよこれ。これによって私はくり抜かれた目ん玉ともがれた右足と穿たれた内臓治りました。傷痕一つ残っていません。安心してください隊長。貴方の愛する部下はぴちぴちですよ。


ん?私が生きているのなら団長はどうしたのかって?


…ああ、隊長、あの人尊敬していましたもんね。その気持ちをちょっとは私への愛情に変換してもいいと思うんですけど。

まあ言ってしまうと、教団のイカれた実験にとうに身を捧げていたみたいで、神に仕える選ばれた騎士になるべく聖なる血をその身に注がれていたみたいですよ。


聖なる血っていうか、ただの魔物の遺伝子なんですけど。


まあ当然、人間の身体がそんなものに耐えられる訳無いですよね。

気づけば、戦う中で人じゃなくなっていた団長の身体がだんだん崩れていきまして。それでも強靭な精神力だけで私に食らいついてくるその胆力だけは認めますけどね。魔法を詠唱する暇与えてくれないんでもう最後は拳と拳のぶつかり合いですよ。私一応、乙女のはずなんですが。


団長自身、己が長くないことは既に悟っていたみたいで。絶対に邪魔してくるであろう私と隊長さえ退けられれば後はもうどうでもいいって、それくらいの覚悟をしていたみたいです。


え?『俺も?』って?


そりゃそうですよ。だって隊長、窓際の際みたいな辺鄙な雑用部隊に飛ばされておきながらそれでも街の人の為に文句一つ言わずに汗水流して働いていたから皆からの人気めちゃくちゃ高いんですよ?可愛い部下を放っておいて休日すら鍛錬してる脳筋だから何だかんだそこら辺の騎士さん片手でのせるくらい剣の腕も立つし。今回の休暇だって、隊長を遠ざける為に仕組まれたものだったし。

…気付いてなかったんですか?私は気付いていたから上からの命令無視したのに?


ふ〜ん。


ふ〜〜〜ん。


じゃあ隊長。隊長が大変愚かにも敵の策略に嵌って呑気に温泉に浸かっている間に必死こいて頑張った部下に後で濃厚なご褒美くださいね。は?温泉卵?濃厚ってそういうことじゃねえだろ舐めてんのか。


はいではご褒美の確約を頂きましたところで話を戻しまして、団長さんはどうにかこうにか打ち倒したんですけど、もう文字通りボロボロの身体は私のめっちゃすごい回復魔法でもどうにもならないみたいで、ていうかぶっちゃけ自分専用みたいなところがあって、団長も『なんなんこいつ』みたい顔で私を見てなくもなかったですけど、謎に満足そうに消えていきましたよ。『どうか皆を救ってくれ』とか言い遺して。ははなにそれ。じゃあ最初からやるなよっていう。


…ああ、後これ、はい隊長。その自分勝手な団長さんの遺した聖剣です。隊長にくださるそうですよ。良かったですね。私の血と汗と肉がそのままの意味で染み込んだ聖剣です。もう私そのものと言い換えてもいいくらい。私の身体を隊長が道具みたいに乱暴に振り回すとか興奮しますよね。


…隊長?何か私よりも聖剣に愛おしい目向けてません?私そんな目で見られたこと無いんですけど。何で泣きそうなんですか?泣きたいのはこっちなんだが?

え?手にとった瞬間、団長の遺言が頭に入ってきた?うわ、あいつそういう事するんだ。私の隊長の中に入りこむとかまじあいつ…。後なんて託されるんじゃなかった。


…まあいいや。それでついに私は偽神様の足元に辿り着いた訳ですが、ついに登場しましたよ、ゴミ漁りこと教祖様。一体誰だったと思います?え〜気になる〜?なっちゃう〜?どうしょっかなぁ〜?あ、ごめ、ごめんなさい。話す。ちゃんと話すからぁ。あ〜んすてないでぇたいちょお〜う。『死にたい』んですか?


はい、良い子ですね。


で、出てきましたるはまさかのさいしょ〜。え、最初じゃなくて、宰相。この国の偉い人でございますよ。ええ、はい。我らが親愛なる上司のさらなる上司。トップ。

え?やばくない?って?まあそうですね。やばいですね。国が揺らいじゃうかも?


何かごちゃごちゃぺらぺら聞いてもいないことを話始めたからとりあえず挨拶代わりに首をはねたんですけど、やっぱり宰相も人間辞めてたみたいで。『少しは人の話を聞かんかい!!』って頭だけで理不尽にキレてきたんで私もついカッとなって下から偽神様の股間に重点的に魔法ぶち込んでやったんです。

見せたかったなぁ。股間だけぼろぼろの偽神様。めっちゃウケた。


宰相…じじいが言うには、『仮初の平和を確固たるものにするためには、絶対的な力による支配こそが必要不可欠』らしいですよ。そして、その絶対的な力が『神』、と。

それを聞いた時、私は思いましたね。『いや、真っ当な手段で軍拡せんのかーい』と。

教団信者は所詮ハリボテの威光に集った金と魂払いの良いお客様ってことですね。ああ神様、人々を救う為かと思いきや己の存在意義すら不確かとは。いとあわれ。股は割れ。


で。私がそこら辺の家屋(主に貴族の)を浮かせて作り出した足場に乗って上空で真っ向から対面したら、ここでまさかの偽神に宿った微かな意思が私の金的ファイアーにブチギレするという予想外すぎる事態が発生しまして。


上空で手当たり次第に暴れ出すという、無法を働き始めたんです。言うだけあって国一つ簡単に滅ぼせる程度の力はありましたし、これはまずいと思い、主に貴族達の屋敷が先に壊れる様に立ち位置を変えつつ、私も神と対峙しました。全ては正義の為に。この国の未来の為に。


貴族街が程よく半壊した頃を見計らって、私も温存していた力を半分くらい解放してめっちゃすごい攻撃魔法を放ちました。流石にこの私であろうと容易にコントロールできるものではなかったので、つい両親の事件に関わっていた貴族達の屋敷を消し飛ばしてしまいましたけど、致し方無かったんです。神はあまりに強大すぎたから。やったのは神だから。私のせいじゃないから。


己の胸にぽっかりと空いた風穴を見て、神は唖然としていましたよ。自分にここまでの手傷を負わせる者が存在するだなんて思ってもいなかったんでしょうね。

何百年も引きこもっていただけの石屑風情が何を自惚れているのか、と思わなくもなかったですけど、神も焦ってしまったんですかね?血迷ったのか、ここでまさかの、己を作り出した宰相を取り込んで、一つになったんです。

大きな像に乗り込んで自在に操るって何か心が躍りますけど、実際目の当たりにしたのはじじいが汚い悲鳴を上げながら楽しそうに石像にうじゅうじゅ飲み込まれていく光景だったんで鳥肌やばかったですね。石×爺の組み合わせなんて需要ある訳無いですもん。やっぱ時代は隊長×部下ですよね。ね!!


さて、じじいが乗り移った事で偽神は偽神 (じじい)となりました。


何が言いたいのか分かりますか?


そうですね。


カモですね。


実戦どころか戦いと縁が無かったじじいが何故か本体となった事で、神は超絶弱体化。

人を辞めたところで、ちょっと魔力があるところで、この私に敵うとでも。

思う存分手足をもいだり、あちこちに穴開けたり、ハゲさせたり、今までの鬱憤を晴らすつもりで存分にボーナスタイムを楽しみました。あれ程楽しかったのは上司のお金でお店で一番高いお酒をしこたま呑んでやった時以来です。


私が何かやばいゾーンに入り込んで悦に浸り始めた頃、今度はあいつ、追い詰められたからって、周りのものを人も物も関係なく、そして見境なく取り込み始めて。

ほら、あれです。隊長が『今帰ってきたんだけどこれ一体何事!?』って通信入れてきたあの時。流石にあれはマズかったですね。遊びすぎました。自爆でもされたら隣国くらいまで消し飛んでいましたから。下手に手を出せなかったんですけど…。


そう言えば、隊長あの時急に通信切れちゃいましたね。もしかして、あの偽神の近くにいたせいで吸収されちゃってたとか?あはは。


はは…。


…………。


………………。




え?




あ、も、もしかしてあの時急に偽神の動きが鈍くなったのって、隊長が内部から何かしてくれてたから、とか?


…中にいた?…付喪神と?…ガチってた?はあーそれはまた。休暇明けにすることじゃないですね。お疲れ様でーす。いやー隊長も割と人間辞めてますよね。


いやいや嘘ですごめんなさい、ありがとうございました。流石に関係の無い民達にまで被害が出るのは困りますからね。私はこの国の行く末を憂う志士なので。何故そんな目で私を見るんです?え?向こうを見ろ?わーきぞくさまのいえがぼろぼろだぁおのれかみさまめ。


そんなことは置いておいて、隊長の奮闘と私達二人の絆と愛の力のおかげで無事、神の征伐は相成りました。ご覧ください、私の背後にあるこの瓦礫の山がそのミツクモ様 (とじじい)だったものになります。私達は晴れて神殺しの騎士として歴史に名を残す訳ですね。

あ、勿論魔具はちゃんと取り戻しましたよ。もう誰にも悪用はさせません。…ところで隊長、隊長の小さい頃ってどんな…あ、嘘、嘘です。私欲で使ったりしません。すぐぶっ壊します。


あ、後のことは、嫌味な様で実は意外と忠義に溢れた我らが上司にお任せしましょうよ。ほら、ちょうど向こうから走ってきました。


…ん?


何かキレてる?


いや、あれは何かどころではなく果てしなくブチギレてますね。隊長、何か心当たりあります?


ん?隊長、何で私を拘束するんです?

情熱的なのは嬉しいですけど今はそういう時ではなくないですか?

え?『俺も責任をとる』?お?ついにプロポーズですか?隊長、ついについに私の気持ちが伝わったんですか?ありがとうございます。私も貴方が救ってくれたあの日からずっと隊長だけをお慕いしております。…大好きです。


じゃあ取り敢えず祝言あげましょうか。


へ?『離せ』?何を言っているんですか私は何もしていませんよ隊長がそんなに強く抱き締めてくるからじゃないですかあはははは。

じゃあ隊長、取り敢えず飛びますので振り落とされないでくださいね。


いざいざ、私達のハネムーンと洒落込みましょう。


と言うわけで親愛なる上司さん。私達は一ヶ月は帰らないので後片付けの方、宜しくお願いします。後これ、頼まれていました今回の事件に関わっていたお貴族様のリストと、繋がりを証明する文書。しっかりと落とし前つけさせてくださいね。私が帰ってきても何の裁きも無い様なら……分かりますね?

貴方が『この国の膿を出したい』と頭を下げて頼んできたから、勇者であり賢者を継ぐこの私が、家族を殺したこの国の為にわざわざ働いてあげたのです。筋は通してくださいね?何なら、貴方が舵を取ったらどうです?宰相の座空いたし。私は貴方は向いていると思いますよ。国を思う気持ちは本物ですし。母を丁重に弔ってくれましたし。


え?やり方が過激すぎる?膿どころか存亡の危機??

手段は問わないといったのは貴方です。偶然、私が魔具を捨てたら、偶然、教団がそれを拾って、偶然、宰相が頭のカルト教団を潰すことが出来た。それでいいじゃないですか。


そう、計画に関わっていた貴族の屋敷ばかりが都合よくぶっ壊れているのもぜーんぶ偶然。


私は隊長さえいれば、他は全てどうでもいいのだから。


じゃ、そう言う事で。






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