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【ヒューマンドラマ】

あなたはもうおしまいだ。

作者: 小雨川蛙

 あなたはもうおしまいだ。


 私は残酷にもそう思う。


「あの作品を知っているか? あんな子供だましの作品。何が面白いんだ」


 私をこの世界に導いたあなた。

 私に執筆の楽しさを教えてくれたあなた。


「レベルが低すぎる。作者も読者も」


 誰よりも尊敬していたあなた。

 今は見るに堪えない醜態を晒してる。



 あなたは優れた作家だった。

 それは誰もが認めるだろう。

 あなた自身にとっての誇りでもあったはずだ。


 だけど、ステージを変えてしまえばあなたはあり触れた存在だった。


 残酷にも私はそう切って捨てる。

 こればかりはどうしようもない現実だから。

 多くの人が必ずぶつかる壁だから。

 いや、壁にぶつからない者なんて存在しないのかもしれない。


「世間は見る目が無さすぎるんだ」


 あなたの声が痛々しく響く。

 見苦しく反響する。

 そして音はあなたを傷つける。

 誰よりも深く。


 立ち向かえなくなるまで。


 あなたの文から色が落ちた。

 あなたの文から音が消えた。

 あなたの文から世界が失せた。


「馬鹿らしくてやってられないよ」


 あなたはそう言いながらも文を書き続ける。


 とっくに腐りきっているのに、それを知っているのに。

 あなたはそれから目を背け続ける。


 そんな姿を見ると私はどうしても何も言えなくなる。

 どう声をかけて良いか分からなくなる。


 だから、私はあなたの前から姿を消した。

 きっと、あなたは私にも嫉妬すると確信したから。


 あらゆる連絡先を消した。

 さよならも言わずに。



 あなたと離れた後に失ったものは何もなかった。

 それが嬉しかった。


 あなたと離れた後に得た物は数え切れないほどあった。

 それがとても悲しかった。


「あなたはもうおしまいだ」


 離れてからようやく口に出した言葉は。

 白々しい涙となって、私の文を美しく汚した。


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― 新着の感想 ―
 これを物語の中に綴る事に少なからず抵抗感が生まれた事のある作者は多いと思いますが、とても実直に綴られていて親近感に共感すると共に自身を見つめ直さなければとも思わされました。  果たして私は…を、とて…
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