第7話 とんだ放蕩息子だった。
「検察官のエリックです。テイモン伯爵、お忙しいところ申し訳ございません。」
「ん、ああ。茶ぐらいでないのか?」
「いろいろと支障がございましてお出しできません。すみませんね。」
「まあ、いい。で?犯人は見つかったのか?」
「いえ。まだです。いろいろ事情を聴きだしているところです。」
「ふん。どうせあいつのことだ、容疑者は山のようにいるんだろう。とんだ放蕩息子だった。」
「ほう。伯爵はご存じだったので?」
「ん、ああ、あちこちで金がかかった。今回のマルデ侯爵との離婚でもがっつり賠償金を取られたしな。いやあ、結婚式に借金の取り立てが並んだときはもう…」
「大変でしたね。ところで、実の父親から見て、犯人は誰だと思いますか?」
「女だろう?」
「結婚式前に他に付き合っていた女とは別れさせたと、公爵夫人にお聞きしましたが?」
「ん、ああ、痴情のもつれってやつじゃないのか?他にもいたんだろう。」
「ほう。なかなかまめな方だったんですね。」
「・・・・・」
「心当たりの方はいらっしゃいますか?」
「そうだなあ、既婚者で、ずっと好きだった女がいたようだ。誰かまでは知らんがな。金がかかると言っていたから。あのバカ息子。」
へええ。
「話は少しそれますが、この度、側室に入られた姪御さんがご懐妊だそうで、おめでとうございます。国王陛下もお喜びの様で。」
「うんうん。そうなんだ。こんな時に何だが、慶事だな。姪御じゃないぞ、うちで養女にしてから出したからな。」
「そうでございましたね。これで伯爵家もより一層力を付けられますね。」
「そうだな。ふむ。」
こんな時、と言いながらも、嬉しそうだ。髭をもてあそびながらにやついている。これがまた男の子だったりしたら、面倒、あ、いや、めでたいね。
王子はすでに立太子しているので、勢力図が書き換わることはないことを祈るよ。
「それにしても、マーカスさんの派手な女性関係も、何かと伯爵家に利をもたらしていたようで。ね?」
「は?」
「政治に、女性を犠牲にするのはどうかとは思いますがね?」
「・・・・・」
「今回、マーカスさんが身を固めようとなさったのは、どちらの進言で?」
「・・・あの、公爵家のばあさんだろう?」
「へえ。もし知っていることを隠していたり、噓の証言をしたり致しますと、なにかとご自身に不利になりますが…」
「いや、本当だ。マーカスが、マーカス本人が婿入り先が見つかったから、と、そう言ってきて。正直、ホッとしたんだ。」
ふーーん。
「お相手のマルデ侯爵ご令嬢のことは以前からご存じで?」
「女だてらに爵位を継いだからな。知らないものはいないだろう。本人は社交には全く出てこなかったんじゃないだろうか?あれの妹、ってのはよく見かけたが、それこそ公爵家の世話で、どっかの子爵家の嫡男と婚約してたな?妹の結婚のほうが早いと世間体が悪いから、とかいう、つまんない事情だった。だから、急いでたんだろ?」