第2話 犯人はつかまったんですか?
「マーカスが殺された件でしょう?怖いですね?犯人は捕まったんですか?」
「いえ、まだですね。落ち着いてください、公爵夫人。」
いかにも公爵夫人然と現れた女性は、取調室のソファーに浅く腰掛けると、前のめりで話し出した。お出かけ用の気合の入ったドレスだ。
「あ、あら、ごめんなさい。私、びっくりしちゃって。だって、ついこの前にうちの姪っ子とあんなことがあったばっかりでしょう?私ったら、良かれと思ってとんでもない男を婿に取らせてしまうところでしたわ。本当に。いい男だったんですけどね。私も、うふふっ、あと30も若ければ騙されてもいい男っぷりでしたもの。でもねえ、性根が腐っておりましたのね?」
「あなたとマーカス氏とのご関係は?」
「あら、やだ、関係だなんて。とある方にご紹介いただきまして、24歳独身、背が高くていい男で、伯爵家3男。もてもてで自由に生きていらしたようですが、そろそろ身を固めたいそうだから、エーデリンデにどうか、って。ご紹介いただいた方の名は明かせませんが、ちゃんとした方ですわ。」
「そう。」
「エーデリンデはほら、もう23歳になってしまったでしょ?世間的には立派な売れ残りですわ。社交にも出ないし、執務室と農業試験場と耕地、それ以外には興味がないようで…心配致しておりましたの。これは急いで話をまとめてしまおうと思いまして。」
「それで、夫人が段取りしたんですね?」
「そうなんです!いつもならあの子、めんどくさがって話にもならないんですけど、叔母様の好きなようにしてくれて構わないから、と。もう、式場やらドレスやら参列客やら…自分の事のように楽しかったですわ。」
「そうですか。それで、マーカス氏の女性関係の清算のためにお金を使われたそうで?」
「んまああ、さすがに検察官殿ですわ。調査済みですのね?そうなんです、5人ぐらいいたみたいで、かなりのお金を使いましたが、それでうまくいくなら、と。」
「それで?貴女はマーカス氏を恨んでいた?プライドが傷つけられて?」
「いえ?貴族のボンボンが結婚前に女性と付き合うのはそんなに珍しいことではないでしょう?しかも複数。逆に一人だけ深い関係の方がいるほうが面倒だと思いますけど?」
この辺が不思議と高位貴族の婦人だよな。
ゴシップ好きのその辺のおばちゃんぽいけど。
「何ともならなかったけど、縁があって知り合った仲ですもの、早く犯人が見つかるといいですよね。」