第1話 私は殺していませんが?
「なんでここに呼ばれたのか、お判りですよね?マルデ侯爵?」
王城での取調室、と言っても、小さ目の応接室。いろいろと支障があるのでお茶は出ない。
ソファーにちょこんと座ったマルデ侯爵は、深いグリーンのワンピース。この国は女性でも爵位を継承できる。侯爵位を継いだのは3年前。調査書によると、かなりのやり手の様だ。
「いえ。さっぱり見当がつきませんが?」
「そうですか。3か月前にあなたが離縁した夫のマーカス氏、もちろんご存じですよね?」
「はあ、まあ。」
「一昨日、他殺体で見つかりまして、関係者に一通り事情をお聞きしているわけです。」
「まあ、そうでしたか。そんなことが…私はやっていませんよ?」
「まあ、大概の人はそうおっしゃいますがね。」
めんどくさそうにため息をついたマルデ侯は、心底めんどくさがっているようだ。
大体において、なんらかの関りがありそうな人は、挙動不審になったり、顔色が変わったり、あわてて人を呼ぼうとしたり…そんな感じでもない。
掛けている丸眼鏡をはずして、ハンカチで拭いている。
売れ残って焦ったご令嬢が、お見合で急いで結婚したらしい、という噂を聞いたが、噂とは違って可愛らしい顔立ちをしている。眼鏡越しには気が付かなかったが、綺麗な緑色の瞳をしている。
「検察官殿、質問を続けてください。」
度胸も据わっているみたいだな。まあ、侯爵家を継承しようというくらいなんだから当然か?
「では、まず、殺害されたマーカス氏との関係を教えてください。」
「元、夫です。1日限りでしたが。結婚式当日に離縁いたしまして、マーカスの生家の伯爵家と示談金の話し合いが終結したところです。」
「離婚の慰謝料の請求が?」
「いえ、こちらから結婚式の諸費用やその他もろもろ、賠償金として支払わせました。話を持ってきた叔母が、マーカスの女性関係の清算のために本人に手切れ金相当額を立て替え払いしていたことも発覚し、その分も上乗せしました。きっちり頂きました。」
「離婚の原因は婿殿の女性関係ですか?」
「ん…それもありますが、結婚式当日に参列者以上にマーカスの借金の取り立て業者が並びまして。結婚したらすぐにでも借金を払うと豪語していたらしいですね。」
「ご存じなかった?普通は調べますよね?」
「そうですね、失敗でしたね。無駄な時間を使ってしまいましたが、いい勉強になりました。叔母が、はりきって段取りしてくれていたので、つい、自分の仕事ばかりしておりました。丁度、小麦の刈り入れ時期に作業員の間で体調不良が相次ぎまして、いや、焦りました。」
「マルデ侯爵領は小麦の一大産地でしたね。」
「はい。今回のことで私も反省いたしました。色々任せられる片腕を育てておくべきだったな、と。」
「なるほど。それで…マーカス氏に恨みがあった?」
「この結婚に関してですか?反省はありますが、個人的に殺したくなるほどの恨みを抱くほどのお付き合いはありませんでしたので。」
「・・・・・」
面白い子だな。




