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ホーミーエラー・フラーは、オレンジ・グラスの草の根に落ち着いたイルカの脇に背をもたれさせ、地図を広げていた。
十六歳。華奢で小柄な体をして、髪は柔らかそうな黒。柔和な顔は、彼が草海では有名なあらゆる謀略の徒というカテゴリーに入る存在であることなど、微塵も感じさせない。袖と裾口の広い長衣を来て、ハーフパンツに、軍靴を穿いている。
旅が好きで古郷から出てきて二か月になっていた。
久しぶりのリーバイル地方は、オレンジ・ラックといわれるナノチップを実として垂れさせる背が五メートルはある、ジャイアント・ケルプのような草が、鬱蒼としていた。
そろそろ帰ろうかと思ったのは、彼の集落が属するリーバイルが本国から反逆の宣告を受けたからだった。
リーバイルには、自衛組織の雷鹿が存在している。とはいえ、彼らの数はそれほどでもなく、多分、王国首都で見た正規軍と対するにはあまりに貧弱だった。
何故、急にリーバイルが狙われたかといえば、新しく来た総督官が本国の共和国からきた徴税官を殺害してして、死体をわざわざ送り返してしまったからだ。
挙句、事実上の反逆者エバリートは、さっさと逃亡していた。
無責任極まりないが、リーバイル地方も全くの冤罪ともいえない事情がある。
陽が落ちかけてオレンジ・グラスの根本の道は薄暗くなってきた。同時に涼しくなったころ、ようやくホーミーエラーはリーバイル近くまでオレンジ・ラックの放つ電子をのんびりと泳ぐイルカの背で揺らぎながら到着した。
「待ってたぞ、コラァ!」
茎の茂る道の向こうに、顎までの短い髪をした、ジャージと腰の布を巻いたスカートは短く、太ももまで出している。肌はよく日に焼けて小麦色をしていた。体形はホーミーエラーと大した変わらず、さらに同じ十六歳である。シュージュ・ローダンという。
腰に長く太い鉈のようなものをぶら下げている。
「これで帰ってこなけりゃ、簀巻きで燻製機にいれられて、ついでに永久追放だったんだぞ!」
嫌に語気が強いが、表情は笑っていた。
「細いあんたが燻製とか、あまりに美味しそうで笑えないよ」
ホーミーエラーはラクダから降りて、口輪を握った。
「最後がみんな笑顔になるなら、人生の終わりはそれでもいいなぁ」
呑気にホーミーエラーは彼女の元に近づく。
「なんか大変そうだなぁ。ちょっと、お願いもあって帰ってきたんだが……」
「なに、こんな田舎の地方で、誰に何をお願い?」
「ちょっとね」
「なになに~あたしにも秘密なの!? 変わった、ホーミーは変わった!」
ホーミーエラーは困った様子で頭を掻いた。
「あー、なら言うから少し、落ち着きなよ」
「わかった」
とたん、口を閉じるシュージュだった。
「実は、オレンジ・ラックの中毒になっちゃった」
オレンジ・ラックはナノドラックの一種で、意識拡張の効果がある。だが、その依存性は高く、最後には身体が消滅する。
実はリーバルでも生産している、重要な資金源の一つだった。
だが、それを使うものは、集落から白眼視されて、最後は追放されるのが常だった。
「何してるの!? そんな状態でリーバルに入れるわけないじゃん!」
当然のように、シュージュは怒り心頭に怒鳴った。
「まぁ、付属物みたいのがあってね。ついつい使ってしまったんだよ」
少女の激情をのらりとかわし、彼はイルカに向かっていないほうの、右手を持ち上げてみせた。
掌の上に丸く長い鱗状の尻尾を引いて、金属にも似た物質でできた何かが、急に現れる。
「おいすー。オイラに用かい、ホーミーエラー?」
やけに軽い口調の声が球体から発せられた。
よく見ると、小さな点のような目と鼻孔、そして網に覆われた奥に口らしき亀裂がある。
「挨拶しておいてくれ、ラゲージ。この子は幼馴染で、シュージュ・ロータン」
ラゲージと呼ばれた球体状のものはホーミーエラーの手から離れると、シュージュの身体の周りを嗅ぐようにくるくると周ってから、少し離れたところで、ふむと呟いた。
「いい女じゃないか。もったいねぇ、早く自分のモノにしてしまいな、ホーミー」
「なっ!?」
シュージュは真っ赤に顔を染めて、ラゲージを睨む。
「気にするなよ、シュージュ。悪意はない。多分」
「そうだ。悪い意味で行ったわけじゃないぜ?」
調子よく、ラゲージはホーミーエラーの頭の上に乗っかる。
「で、それがオレンジ・ラックの副産物なの? 使うって何に?」
「……砲術」
嫌々そうな口調だった。
ホーミーエラーは、砲艇を操る砲術師だった。
砲艇は四十五口径の砲を一本、弾丸は五十発ほど持つ無人機だった。
艦隊指揮官はは砲艇を数十門から数百門使い、戦闘に必須の兵種の存在となっていた。
ただ、ホーミーエラーは自身が砲術を使うということに、露骨に嫌悪を隠そうとはしない。
彼は孤児でたまたま育ててもらった家庭が砲術家の家だったことから、砲術家として育てられたのだった。深くは語らないが、彼はその当時の話も嫌っていた。
噂では、日々、人殺しの生々しい教練のために、トラウマになったとのことだ。
現在はその家の主も過去の人となり、ホーミーエラーは自由の身だった。
おかげで引き取られていた家のことを忘れるために彼には旅癖が付き、ある日突然、集落の村から数週間から数か月、家を空けるようになっていた。
「んー、役に立つならもっけの幸いだけども、オレンジ・ラックの中毒はいただけないねぇ」
「それで、薬を絶ちに来たわけさ。薬師がいるだろう。そこで世話になるつもり」 「なるほど。まぁ、どうせ噂になってすぐばれると思うけど、内緒しといてあげるよ」
「ありがとう、シュー。恩に着るよ。今度なにかお礼するからね」
「いやいや、気持ちだけで結構ですとも」
シュージュは微笑んで見せた。
「じゃあ、村に帰ろうかね。どこ行ってきたか、お土産話、訊かせてね?」
「うん。色々あるよ。一番は、王女様が結婚寸前に失踪した話かな?」
「何それ、面白そう!」
目を輝かすシュージュに、今度はホーミーエラーが笑った。
リーバイルの反乱は年に一回はある行事といわれるほど、本国のサフラル共和国から、何度もどこかの国に繋がって決起している。
元々、流浪の民族で冬季に各地に散るが、オレンジ・グラスが生えだす時期にはリーバイルの土地に集まるのだ。
宗主国がサフラル共和国といっても、はるか昔からの条約があるからだが、収穫物のオレンジ・ラックが売れるならば、臆面のなくすぐにその国に属してしまう。
リーバイル族長のランカーヤー・リニックは言う。
「どこかに属してないと、オレンジ・ラックが違法だとか言って攻められる。それに比べれば、どこに仕えたっていいだろう。我々の生き残りの為だ」
今、彼らはリンターローゼ帝国の独立属領という立場を取っていた。
だが、事実はもう少し複雑だった。
オレンジ・グラスの実、オレンジ・ラックはナノ分子でつながり、高度な情報伝達を常に行っている。神聖視されて、ドラックとして使う人間は稀だった。
リーバイル地方全域はもとより、サフラル共和国、リンターローゼ帝国にも繋がっていた。 両都市はオレンジ・グラスの繁殖力が弱く、オレンジ・ラック生産の中心はリーバイル地方となる。
伝説上の古代帝国サイフォーラが電子状で現れるのは、三国の丁度中央付近である。
彼らはオレンジ・グラスがある限り、現実に存在する巨大な国として、君臨していた。
サフラル共和国も、リンターローゼ帝国も、サイフォーラに委任を受けているという大義名分の元に統治されていたのだった。
「何、オレンジ・ラック中毒だと!?」
旧友と再会し挨拶する途中で、ホーミーエラーが苦笑いしながら告白する。
だが、相手のフリーラフ・ゴートは静かに怒りをあらわにした。
「それで、サイフォーラの夢を見て帝国復興など考えていないだろうな!」
「ホーミーは、そんなアクティブじゃないよ、フリー」
シュージュが庇うように口を挟む。
フリーラフはホーミーエラーと同じ十六歳。長身の黒髪で瞳は黄色く、頭からナノ繊維でできた針金入りの布を、ゆったりとした民族衣装の上から身体中乱雑に巻いた姿をしていた。 彼は若輩ながら、雷鹿の指揮官になったばかりだった。理由は、前指揮官となっていたエバリートがとっとと去ったため、それまですっかり骨抜きにされるほどに教育という名の自由意志を尊重しだした中隊長クラスの幹部達が、意見を通しやすい若い上司を望んだからだった。
いわば傀儡化なのだった。
その事実を実感しているだけに、普段からフリーラフは顔色を窺って惚けた言動をしていたが、私生活では不機嫌丸出しだった。
オレンジ・グラスが根を張る岩窟の一つで、彼らは一緒になったのだ。
雷鹿の司令部であり、奥にはフーリラフの私室がある。
「あー、なんかサイフォーラであったみたいだけども……」
「ふざけるな。あんな妄想とも幻覚ともとれるものを、まともに相手してリーバイルの危機ののネタを増やされちゃ、たまったものじゃない!」
フリーラフは洞窟の隅に置いてある瓶から、中身の乳酒を杓ですくって、一気に飲み干した。
「ああ、それで帰って来たんだけどもさあ。どんな状況なのよ、今」
「……サフラルから、討伐軍がウチに向かって出発した。砲台戦艦が八隻、砲門八十。人員はサイロイドで七千人だ」
激情を交えたまま器用にも、いたって冷静に答える。
サイロイドとは、クローン技術で作った人間を情報化環境に適応させた、人工の兵士だった。
見た目は人間と変わらないが、他のサイロイドとも変わらない。最も赤い装甲服を着るのを義務付けられているので、そこまではいちいち確認する必要はないが。
あくまで彼らは兵士であるという証だった。
「確認しとくけど、雷鹿の数は?」
「砲台戦艦三隻で砲門が一隻十門で三十門と、兵員千人。ただし、こちらは全て人間だ。この兵力差でどうしろという!?一応、ランカーヤがリンターローゼに援軍を頼んでいるんだがな。聴け、笑うしかないぞ」
二口めを煽ったフリーラフはもう赤い目で、凄みのある笑顔になった。
「派遣される提督は、あのエバリートだよ!」
「エバリートの話は、ここに来るまでにシュージュから聞いてたよ。喰えない奴だねぇ」
ホーミーエラーは呑気に藤の椅子に座って、頬杖をついていた。
その表情は涼し気で、驚いた風も恐れた様子もなかった。
「一応、戦艦が六隻来るそうだ。間に合えばの話だがな」
「間に合わなかったら、最悪な状態になるなぁ」
フリーラフは、ホーミーエラーの考えを半分ほどしか理解していないにもかかわらず、納得して頷いた。
「そうだ。俺たちだけで何倍もの相手をしなければならない」
「そういうことじゃないんだけども……」
「なんだ?」
ホーミーエラーはこれ以上、友人を興奮させることをやめることにした。
「それより、頼んでおいたものはどうなった?」
「それなら、問題はないって。ホーミーが使えるのは潜行砲艇で二百門らしい」
代わりに安心させるような口調で、シュージュが言うとホーミーエラーは一瞬、間をおいてから頷いた。
フリーラフは、片頬を吊り上げた。
「砲では圧倒的に勝っているな」
「でもねー、あれって一回固定しちゃったら動けなくなるとか、砲艇は遊兵になりやすいからさー……」
シュージュは多少の懸念をフリーラフに吹き込んだ。
「そこは、ホーミーの腕の見せ所じゃないか」
「……なんだよ、その他力本願なのは。すっとぼけたふりしてたのが、本当に呆けたのか、フリー君」
「馬鹿にするなよ? 俺は伊達でこの地位にいる訳じゃないんだ」
「俺だって、好きで砲術やってる訳じゃないんだ」
「それはだめだろう」
「いろいろある」
「ないことにしてくれ、ホーミー」
「いや、譲れない」
「せめて、役に立て」
「頑張ってはみるけど、期待はするな、フリー」
「それは無理というもんだ。おまえだけが頼りなようなもんだからな。先頭に立って死ぬのは任せろ。後のリーバイルはおまえ次第だ」
真顔で訴えられ、ホーミーエラーはため息をつくしかない。
シュージュが二百門と吹いたが、本当は百門しかホーミーエラーには構築が出来なかった。
この事実は、最後まで黙っておくつもりだった。
「ところで、俺の家はどうなってる?」
急にホーミーエラーが話題を変えたが、フリーラフは気にも留めないで答える。
「おまえが出て行ったままだよ。どこかに行くとか、いつものことだろう。誰もぶっ壊したりはしない」
「それはありがたい。サフラルから来るとして、まだ三日は大丈夫だな。俺はそろそろ家に戻るよ」
ホーミーエラーは藤椅子から立ち上がって、乳酒の瓶のところまで歩いた。
そこにはフリーラフが立っていた。
「俺を驚かしてくれよ、ホーミー」
彼は杓で酒をすくうと、ホーミーエラーに差し出した。
「フリーの勇気と、俺の気まぐれに」
とぼけて言うと、ホーミーエラーはコップ状になった杓の先を手にして、一気に中身を喉に通した。
荷物を鞍に乗せたイルカを連れてホーミーエラーはシュージュと懐かしの我が家へ到着した。
「うわ、汚ったな!」
すっかり埃だらけで、蜘蛛の巣まで数か所に張ってある空間を前に、シュージュが声を上げた。。
だが、ホーミーエラーは気に止めることなく、荷物を部屋の隅に放ると、イルカを解放した。 中は、机にソファー、ベッドがあるだけで、そのくせにだだっ広い空間だった。
装飾品の類が何もなく、ただ、地図の山と鉛筆にコンパスだけが机に置かれている。
「……どした?」
シュージュがこちらを見ているホーミーエラーに言った。
だが、彼は無言でベッドに寝転ぶと、カビくさいブランケットを被って眠ろうとした。
「うっそ、信じられなっ! そんなに汚れてるのに、気にならないの?」
「砲艇なんて、使いたくない……寝る」
「起きなさいや、ホーミー!」
泣き言のように言う彼から、シュージュはブランケットをはぎ取って、数回叩くように、仰いだ。
カビと埃が一気に舞い、二人でしばらく咳き込んでしまった。
「なんだよ?」
「まだ、旅の話きいてなーい! 晩御飯もたべてなーい! 掃除もしてなーい! 起きてちょっと来なさーい!」
「へーへー……」
ホーミーエラーは寝るのを諦めて、ベッドから降りる。
「ご飯作るから、ちょっとウチにおいで、ホーミー」
シュージュの誘いに、彼は大人しく従った。
「家の掃除は明日手伝ってあげるから、今日はウチに泊まりなさい」
「はーい」
感情のこもっていない返事をする。
シュージュはもうちょっと喜んだり、期待したりしないものかと内心、残念に思う。
オレンジ・グラスが空に向かって伸びている中、空はすっかり真っ暗で、星粒がばら撒かれた夜空が、隙間から見える。
五十メートルも行かないところで、岩盤に明けた穴に着いた木材製の扉が見えた。
シュージュが開けると、爽やかな香りがした。
中はぬいぐるみがやや多いく本棚に、鏡台の辺りには化粧品が並び、掛けられた服が並んでいるという所を抜かせばだ、ホーミーエラーと大した変わらない素っ気ない内装だった。
「マトンのトマト煮があるの。今持ってくるから、座ってて」
言われて、ホーミーエラーは本棚から適当に一冊の本を手にすると、座布団に座った。
台所から香ばしい匂いが漂ってくる。
シュージュは自分の分と、乳酒を入れたツボにコップを、何回か行き来して用意した。
ラゲージが現れたために二人と一匹分になったが。
「さて、じゃあぁ、訊かせてよ、旅の話。さっき言ってた、王女がどうしたとか」
「ああ、あれね」
行儀悪く、すでに煮物にスプーンで大人しいラゲージにも食べさせていたホーミーエラーは、頷いた。
「ある村に自分はサイフォーラの王女だって主張する娘がいたんだよ。みんなは、それこそオレンジ・ラックのやり過ぎで中毒になったと言われていたんだけど……」
決して容姿の悪くない、いやむしろ傑出している彼女を可哀想がる声は多かった。
だが、オレンジ・グラスが茂り、サイフォーラが村に出現するようになると、娘に屈強な軍団のような王宮からの使者がきたのだ。
不敬を名乗った懲罰かと村人は、集まって様子を見ていたが、どうやらその丁寧な娘の扱いに違うらしいと気づいた。
そして、今まで姫を世話してもらった礼だと、電子コインで百万ビットを村に支払ったという。
しかし、ここから娘の態度が変わる。
彼女は王族の男と結婚するという事態になると、急に自分は王妃などではないと前言を撤回して、村に逃げ込んできた。
体面を傷つけられた一族の王子は、怒りに任せ村を全て焼き払い、娘は実体を失い王宮で摂取していたオレンジ・ラックのせいもあって、電子体となってしまい逃亡したという。
「まー、こんな感じかな」
終わるころにはご飯を食べ終わり、シュージュはソファの上ですでに寝息をたてていた。
ホーミーエラーは、邪魔しないように全てを話し終わっててから、ベッドのブランケットを彼女に掛けてやった。
「おやすみ」
言って部屋をラゲージを連れて出ると、乳酒が効いているので自分の家でそのまま寝た。
翌朝、あんなにスヤスヤと眠っていたシュージュが、ホーミーエラーを起こしに来た。
「朝だよー、太陽にオレンジ・グラスが巻かれる前に目覚めよかー!」
寝癖のついた髪で、ぼんやりと上半身だけ起こすと、ぼんやりと彼女を眺める。
「……おやよう」
「はい、おはよう」
満面の微笑みで、シュージュは応じた。
それをみてホーミーエラーは、もう一度寝てしまうのは罪悪感を感じるので、のそのそとベッドから降りて来る。
「ご飯用意してあるから食べたら、フリーラフのところに行こう」
「へーい」
彼女はバスケットに、羊肉とアボカドのサンドイッチを詰めて持ってきていた。
「でさあ、昨日の話は本当なの? お伽話みたいだったけど」
やはり、シュージュは聴いていたようだった。
「一部本当」
「一部ってなに?」
引っ掛かるように尋ねて来る。
「まあ、おとぎ話のように脚色はしてあるよ」
「へぇ。でも面白かったよ。ありがと」
二人はサンドイッチを食べながら喋っていた。
「あーーーー!」
ホーミーエラーはバスケットの中が空になると、両手を上げて仰向けに倒れた。
「どうしたん?」
「……砲艇なんか、指揮したくない」
「またそれか……」
ホーミーエラーの決まり文句のようなものだった。
悪魔の業火と、砲艇は呼ばれていた。
本体は電子体でサイフォーラが持つ戦力の一部で、特別に資質あるものだけが認められ、運用・指揮できる兵器だ。
禍々しい名前の由来はそれこそ、サイフォーラ帝国が話の中で村を焼いたように、無慈悲に国を一つ壊滅させるほどに破壊し尽くしてしまった逸話から来ていた。
当然、それを扱う者は恐れられ、忌避される。何しろ、天分のものなので、地上の破壊者としか、一般の人々に思われていない。彼らは悪魔の使者とも思われていた。
最悪、集落や町の天災は、砲術師によるものと噂がされて、住民の憎悪を買って根絶やしにされた例もある。
「今度の戦いには、ホーミーの力が必要だよ。フリーラフとリーバイルを助けて。そして、終わったら、全て捨てようよ。手伝うからさ。そして一緒に旅に行こう。あたし、見てみたいところ一杯あるんだ」
それを聞いて、ホーミーエラーは唸っただけだったが、明らかに気分は少し緩和されていた。
勢いよく起き上がり、息を吐く。
「で、サフラルから来る艦隊の指揮官って誰なの?」
ラリビファル・ルーラー中将は三十八歳。
中肉中背で、顎鬚を短く蓄えた男だった。どこかつかみ取れない雰囲気を持った男だった。
サフラル共和国の艦長から今回抜擢された提督で、その戦歴の華々しさによりも奇矯な人物と有名だった。
副官として、彼の指揮を真近で見ることになった十七歳のホルトミー・アウグ少尉は、提督室で四六時間に喋りっぱなしの彼に辟易しながら、噂は本当だと確信していた。
曰く、この際、リーバイル地方の岩を全て粉砕して、地方ごと埋立地にしていしまえ。曰く、オレンジ・グラスをさらに植えさせて、電子界とのバランスを崩して、向こうの世界に追いやってしまえ。
こんなことでまともに指揮ができるのかと、ホルトミーは醒めた様子で聞いていた。
平均の身体は古代彫刻のようにバランスが取れ、優れた容姿をしている彼は、今度の遠征でラリビファルの稚児の異名を取っていた。
実際はサフラル共和国内の急進派政治結社、蒼龍会に属している過激派だった。
だが普段無口で、感情を表に現さないで静かな物腰から、人々はそんな存在であるという印象は受けない。軍隊にいるのだが、何しろ本人の身体能力が低く、武術も戦術能力も低いために、目立たないのだ。
今日も、妖術師を大量に送り込んで、集落を混乱に陥れるとか訳の分からないことを言い出しているラリビファルに付きあっていたが、黙って頷くだけだった。
装甲戦艦は、喫水を甲板ぎりぎりまでオレンジ・グラスの茂る中に埋めて、三つの砲台が草の上に出ている姿となっている。
オレンジ・グラスの実が放出する電磁気に反発するようにできた艦は、草原の上を海のように滑って進むことが出来る。
艦長の副官が表れて、ラリビファルに作戦の打ち合わせのために士官室に来るように要請してきた。
「どれ、私の完璧な作戦を披露するところだな」
彼は勇んで青い制服のジャケットと軍刀をぶら下げると、ホルトミーを連れ、甲板を降りた。
途中の通路には白戦要因のサイロイドの兵士が長銃とカトラスを装備して、ひしめいていた。
狭いガンルームに入った二人を、数十名の視線が迎える。
「ようこそお越しくださいました、閣下」
艦長が挨拶する。
「これより各々に戦術命令を下す」
彼は初の提督として、一同に向かって口火を切った。
戦力は装甲戦艦八隻に兵員七千人。そして、砲艇が五十門。
リーバイルの雷鹿と比べて圧倒的戦力といえる。
戦術も何もない、ここまでくれば力押しで押しつぶすことが可能だった。
ラリビファルもそう思ったらしく、縦列陣を引き、そのまま雷鹿の戦力を無力化したあと、リーバイルを占領するつもりだ。砲艇は、一度発射態勢にはいると、動きが取れないために、リーバイル中心地への攻撃用に温存しておくことになった。
艦長たちはは、黙って提督の案を採用した。
意外と常識的なものだった。
ホルトミーは、艦長室での迷い事を披露しだしたらどうしようかと考えていたため、内心ほっとしていた。
帰り、提督室に戻る階段で、ラリビファルが呟いたのを、ホルトミーは聞き逃さなかった。
「まぁ、変に驚かすのは後で十分だ」
フリーラフは司令官室で気難しげに、机についていた。
ホーミーエラーとシュージュを呼んでから、無言で十分は経っていた。
その間、出頭してきた二人は無言で言葉を待ち続けていた。
ようやく、フリーラフは大きく息を吐いた。
「今度の戦いだが。ホントを言うとな」
彼は口を開いた。
「とてもじゃないが、勝てるとは思えない。それで、二択だ。絶望的に突撃するか、逃げるかのな」
「逃げだな」
ホーミーエラーが即答した。
その言葉に怒るどころか、フリーラフは頷いてみせた。
「ただ、その前に一つ試してみたいことがあるんだ」
ホーミーエラーが、今思い付いたかのように、ポツリと言葉にした。
その内容を聞いたとき、フリーラフとシュージュは意表を突かれた。
さすが、戦術的な才能をリーバイルの族長、ランカーヤーにだけはあると、フリーラフは納得した。
嫌な顔をしていたが、実は本人は、サフラルからの戦力を聞いていてからすでに計画を立てていた。
「早速、ウチの連中に指示を出す」
納得して、フリーラフはホーミーエラーの案を採用した。
雷鹿は索敵の活動を活発化させていた。
イルカに乗った雷鹿隊員たちが、数時間おきにサフラル艦隊の様子を報告してくる。
司令官室から出た二人は、朝の光がオレンジ・グラスの隙間から差し込んでいる集落を歩いた。
「大丈夫なの?」
シュージュが心配そうに顔を覗いてくる。
「なに、問題ないよ」
途中で、オレンジ・ラックの実を取って口にいれながら、自分の家に向かう。
「でも中毒の療養にきたんでしょ? また口にしたみたいだけど」
「仕方ないよ。今のリーバイルじゃ、どうにもならないんだから」
ホーミーエラーは苦笑していた。
「たしかにそうだけども……」
あまり納得したようではないが、シュージュは口を閉じた。
「それよりも、シューはまた先頭を切るつもり?」
「あったり前!」
元気よく、彼女は宣言した。
彼女の剣技はリーバイルでも圧倒的に一流だった。
「敵はあの、ラリビファルでしょ。首をとってくるよ」
「まぁ、あまり無茶するなよ」
無駄な言葉だとは思いつつ、ホーミーエラーは忠告だけはしておいた。
「へっへー」
満面の笑みを返すシュージュに、ホーミーエラーは不思議そうな様子でちらりと見ただけだった。
「まもなく、リーバイル地区に入ります」
ラリビファルは無電で訊くと、了解したと短く答えた。
「さて」
彼はホルトミーの見ている前で、各艦に命令を下した。
「先頭艦四隻は、このまま進路を取れ。後続の残り四隻は、先頭艦から離れ、二時方向に転柁」
作戦会議での単縦陣を覆す命令だった。
各艦長は、訝しげに思いながら、命令に従うしかなかった。
「閣下、どういうことです?」
ホルトミーは、蒼龍会に属しているため、上官に多少の無礼が出来た。
エリート過激派の蒼龍会は、サフラルの軍人で大将各の人間を二人ほど懐柔しているためだった。
「なに、戦いとは常に状況が変化するものなのだよ」
ラリビファルは何でもないことのように言い放った。
戦争の技術には自信のないホルトミーには、提督の意図は読めなかった。
「閣下、すさまじい煙です! リーバイル地区で、オレンジ・グラスを焼いているようです!」 その報告にも、ラリビファルは冷静だった。
「視界は?」
「約十メートル」
「戦闘配備に着け。終わったら、中に突入する」
サフラル艦隊は、一気に各乗務員の移動で騒がしくなった。
「後続艦は、我々が煙の中に入った、四十分後、進路を変更し、合流進路を取れ」
先頭の戦艦が五分後、煙の中に突入してゆく。
残り三隻もそれに続いた。
彼らは見た。
眼前に、高層ビルが乱立し、陽の光を浴びて輝いている風景を。
「これは……」
思わず声をだしたサイロイドの気持ちもわからなくもない。
報告を受けたラリビファルは、舌打ちした。
何が起こったかはすぐに分かった。
サイフォーラの街が、大気中に漂うオレンジラックの成分で、電子世界から具現化したのだ。
巨大な戦力と、宗主国としての存在として、今、ラリビファルは困難な位置にいることが分かった。
あらゆる建物から、警報が鳴る。
「退去せよ、然らずんば攻撃す」
次に来た警告で、やむを得ずラリビファルは、艦隊を停止させた。
「我々は、サイフォーラに危害を加える存在に非ず。願わくば、航行の自由を許可願いたい」
ラリビファルはサイフォーラに歎願の言葉を送った。
電子の都市とはいえ、組み込まれれば、情報として全ては存在することになる。
「不許可なり。これより、検閲す。諸君らはそのまま機関を停止しておくように」
「遠慮はいらない。もしも、艦が近づいてきたなら、容赦なく撃て」
苛立ったラリビファルは、戦闘用意の命令を与えた。
その時である。
各所から轟音が響いた。
空気を切る音が響き、四隻の屋根のような上甲板と砲台を残し、あとはオレンジ・グラスの下にもぐっている戦艦があっという間に、無数の榴弾による爆発に見舞われた。
明らかに質の違う黒色の爆炎が立ち上った。
「砲艇か!?」
ラリビファルは、急遽、戦艦を散会させた。
サイフォーラの警告などに従っている暇はない。
それぞれが、ビルの谷間に姿を隠すと、こんどは同じ形をした戦艦が、三隻、前方から接近してきた。
建物が邪魔で撃つに撃てないでいる
雷鹿の三隻は、中央の一隻を左に寄せた三日月陣で、バラバラになったサフラルの艦のウチ、先頭の旗艦を目指して近づいた。
「閣下、敵戦艦が接近中です!」
無電で、報告を受けたサイフォーラだが、艦の操作は艦長の仕事だ。
「急ぎ、他の艦を我らの近くに集結させよ」
だが、高層ビルが左右に立つ広い道路の中、沈降していたサイフォーラ座上の旗艦は、前後と右舷から、接触された。
白兵戦の命令が艦長から放たれる。
同時刻、一斉にリーバイル艦隊に乗っていた戦闘要員が、旗艦に乗り移ってきた。
その中に髪の毛をなびかせ、鉈を握ったシュージュの姿もある。
彼女は甲板に飛び出してきたサイロイドの一人を迷いなく獲物とし、ライフルを構えた相手にタナを振るった。
ライフルが真っ二つになり、首からぶら下がった格好にすると、すくい上げるような第二撃で、サイロイドの胸から顎を通り頭部を一刀に切断する。
すぐに彼女がいるところは、たまに銃声が聞こえるだけの大乱戦が行われた。
その中で走り込みながら、ハッチを破壊し、内部に侵入する。
三対一で反包囲に囲まれたサフラル艦上の白兵戦は、あっという間に、決着がついた。
提督室に飛び込んだシュージュは、空の部屋ですでに相手が逃げた後だと知らされた。
「どこに行った!?」
彼女の目標は、ラリビファルと決まっていた。
外に出ると銃声が響いたために、すぐに脇に身を隠す。
「降伏しなさいよ! もうこの艦はダメだよ!」
言うが、ライフルを撃ってきたサイロイドは、後ろから雷鹿のメンバーによって倒されていた。
「下にもいませんでした!」
一人が、ラリビファルの居場所を探してきたらしく、報告した。
「脱出したか……」
シュージュは外に上がると、すでに抵抗をあきらめた旗艦のサイロイドたちが中央に集められていた。
「二隻目、行くぞ」
返り血だらけになって、カトラスと拳銃を両手に持ったフリーラフは、勝利の雄たけびの代わりに叫んだ。
おうっ! という、血に飢えた大乗音が返ってきた。
ホーミーエラーは既に所定の位置に付かせた五十門の砲に射撃を命じていた。
残った三隻のウチ、一隻は砲艇の嵐のような弾丸に撃沈され、残った二隻も形ばかりとなって浮かんでいるのがやっとの状態だった。
わざわざ雷鹿の艦艇は白兵戦などという危険を冒さずとも、積んだ砲で弾丸を喰らわせて、撃沈する方を選んだ。
前方艦隊四隻を全滅させた雷鹿の士気は大いに上がり、残った四隻に既に勝った気すらしていた。
「冗談じゃない……」
ラリビファルは、短艇から別働させていた四隻のウチの一隻に座上艦を変えていた。
まだ、この部隊は、砲艇の攻撃を受けていなかった。
「敵、砲艇の位置を確認せよ。船底砲で、薙払え」
彼は命じると、すぐに次の行動に移った。
「サイフォーラへ、打電。こちらサフラル艦隊、命令はリーバイル地方の雷鹿艦隊の邪魔により、従うことが出来ない。救援を請う。至急、救援を請う」
サフラルの残った艦が、ホーミーエラーの岩だなに固定されていた砲艇は、次々に戦艦の大口径砲に狙いウチにされて破壊されていった。
だが、ホーミーエラーは慌てない。
退路と思しき航路には、すでに砲艇を設置済みだった。
あとは、ラリビファルの艦隊を追い込むだけである。
既に、その展開になってもおかしくはない状況だった。
だが、一向に残った四隻が撤退しないのを、ホーミーエラーは不思議に思いつつ、司令部近くで空を見上げていた。
「了解した、サフラル艦隊。我がサイフォーラは、貴軍に対して援軍を送る」
返事が来た時、ラリビファルは勝利を確信した。
浮遊する電子の海とかしたリーバイル地方上空のオレンジ・グラス畑の上に戦艦が六隻、現れた。
艦隊は、ビルの合間を抜けるようにして、雷鹿の艦隊に砲台を一斉に旋回させた。
残りのサフラル艦隊に向かっていた雷鹿艦隊の後方で単縦陣を作りながら。
T字になっているのを確認したラリビファルは、自身も側面を向けた列を作り、乙型の中に、雷鹿を閉じ込めた。
「ヤバイ! 総員、退避!」
慌てたフリーラフのこの言葉は、艦が逃げろという意味ではなく、艦から逃げろという意味に捉えられて短艇が次々と艦から脱出していった。
カラになった雷鹿の艦は、いいように砲撃の的になり、あっという間に撃沈されていった。
結局、退路へ配備したホーミーエラーの砲艇は、逆に味方の短艇を逃がすためのおとりの砲撃台と化した。
結果として、逃げ道がバレてしまったが、仕方がなかった。すでに補足されていたのだから。
「ランカーヤーだ。全員、聴け」
族長である女性の声が、リーバイル民全員の無線から聞こえてきた。
「我々はこれより、冬季に実施してきた移住をたった今から始めることにする。これは、敗北ではない。我々が生き残っている限り、リーバイルの民は滅びはしない。全員、命を惜しんで、身を隠せ」
言われた通り、彼らは、それぞれイルカなどを呼び寄せて、素早く散っていった。
ホーミーエラーだけは、悔し気に、砲台の傍に立って、サフラル艦隊と、自ら呼び出したサイフォーらの街を眺めていた。
「自滅かよ……」
それは後悔と自嘲を含んだ、絶望的な感情の発露として呟かれたものだった。
荷物を積んだイルカに乗ったシュージュが、滑るように、ホーミーエラーの目前に現れた。
「ホーミー、早く!」
「いや、俺はちょっと行くところがあるから……」
「何する気? まさか、自らサフラルに乗り込む気じゃないでしょうね!?」
考えが見透かされていた。
「そんな口先三寸でどうにかなるもんじゃないよ!」
「なら、別の手がある」
「あー、もーっ!」
シュージュは、ホーミーエラーの手を掴んんだまま、イルカに彼の股をくぐらせて背に乗せた。
「行くよ」
「頼む、シュー、あっちに向かってくれ」
ホーミーエラーが指さした方向は、サイフォーラの街で建物が密集しているところだった。
「どうするの、あんなところ行って」
「俺には、もうあそこしか行くところがない」
シュージュは改めて彼の視線の先を眺めた。
「わかった。でも、あたしも付き合う」
「……シュー」
「貴方はあたしが守ってあげなきゃ駄目なんだから。これは、ランカーヤーからの言付け。逆らっちゃ駄目だからね!」
ホーミーエラーは、大きくため息を吐いた。
「ランカーヤーがかい。それじゃあ、しかたがないな」
「でしょ?」
やっとシュージュは笑顔になった。
イルカが進もうとするが、急に平行に回転して止まった。
二人は何事かとおもって、見てみると一人の少女が、道を歩いていた。
その歩は、明らかに、彼らに向かって来ているのが様子からわかる。
フリルのついたシャツの上にボレロ、黒いフレアスカートで、髪は黒く長くウエーブ化がっており、そのうちなん房か、編みこんである。
年齢は二人と同じぐらいか。まだ幼さの残っているが整った十分魅力的な容貌をしていた。
とてもリーバイル地方に来る服装ではない。
残る答えは、サイフォーラの人間というしかなかった。
まだオレンジ・グラスは燃えていて、リーバイル地方はサイフォーラの街と、重なった風景をしている。
「ホーミーエラー・フラー?」
少女は近づいてくると、彼の名を呼んだ。
「……たしかに、俺はホーミーエラーだけど、どうして知っているの?」
彼は訝しげに訊いた。
「よかった。見つかった……」
倒れそうになりながら、彼女は弱弱しく微笑んだ。
ホーミーエラーは、イルカを傍に寄せて、彼女をもたれさせた。
「誰だ、君は? 俺に何の用がある?」
詰問調にならないように、できるだけ優しい声をだした。
「あたしの名前は、ミオルミーネ・アシュー。サイフォーラの者です」
ホーミーエラーの代わりに、シュージュが驚いてみせた。
だが、先に声を出したのは、ホーミーエラーだった。
「サイフォーラの人間が、どうして俺を探しているの?」
「あら、とぼけるのですか?」
ミオルミーネは意外だという風な顔で見上げてきた。
「まあ、いいですけど。貴方に助けてもらいたいのです。そして、イラージ様がお呼びです、ホーミーエラーさん」
「助け?」
挙句に出された名前は、サイフォーラの警備庁管轄下のある組織の局長の名前だった。
影狼。
それが、イラージという人間の組織の名前だった。
サイフォーラで、反政権派を次々に血祭に上げている悪名高き存在だった。
シュージュは、不思議な顔で二人を見渡していたが、何も言わなかった。
そして、ホーミーエラーはあえて言わなかったが、ラゲージの姿が見えないことに内心、ほっとしていた。