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第9話:アヤカシ堂の穏やかな時間、あるいは事件の始まり

 鳳仙神社――『アヤカシ堂』の社務所では、穏やかな時間が流れていた。

 静かな音楽がラジオから流れ、店長・天馬百合は湯呑でコーヒーを飲みながらゆったりと椅子に座って雑誌を読んでいる。ちなみにこの人は常に巫女服である。他に服持ってないんだろうか。

 妖怪の幼女、烏丸鈴はいつも持ち歩いている黒い竜のぬいぐるみをいじっている。破れやほつれがないか確認し、ぬいぐるみの腕を上げたりなどして一人でごっこ遊びをしているようだ。微笑ましい。

 そして俺、番場虎吉は……店長の肩を揉んでいる。

「てんちょー、俺もう休みたいんですけど……」

「まだ30分も経ってないぞ」

 店長は雑誌を読みながら俺の話に取り合ってくれない。

 以前、蜘蛛の呪いから助けてもらう条件に肩揉み三時間を要求され、それを否応なく飲んでしまったのが運の尽き。

 半妖となった俺は疲れに強い身体にはなっているのだが、肩揉みというのはどうしても腕が痛くなる。

「っていうか店長、そんなに肩凝ってないと思うんですけど……」

 店長の肩に食い込む俺の指。彼女の肩は存外柔らかい。ほとんど自分で肉体労働をしないし、姿勢もきれいなものなので肩がこる要素がないのだろう。

「女の肩を揉めて嬉しくないのか?」

「は?」

 店長の言葉がうまく理解できず、俺は素っ頓狂な声を上げる。

「……いや、なんでもない。しかし、タダほど高いものはない。条件を提示されただけ有り難いと思うんだな」

「はあ……」

 店長はときどき俺にはよくわからない難しいことを言う。

 そこへ、電話の呼出音が鳴る。

「鈴、出てくれ」

「はあい」

 竜のぬいぐるみを抱えたまま、鈴は受話器を取る。

「はい、鳳仙神社です……あ、こんにちは。……はい、店長に替わります」

 鈴は受話器を持って店長に歩み寄る。

「鬼怒川さんからお電話」

「鬼怒川さんが? なんだろう」

 店長は受話器を受け取り、愛想よく話し始める。

「お電話替わりました。……ああ、なるほど。すぐそちらへ向かいます」

 店長が電話機に受話器を置いてこちらを振り返ると、金色の目は鋭い光を放っていた。お仕事モードだ。

「虎吉、肩揉みはとりあえず保留だ。残り二時間と三十分は仕事後にとっておく。依頼が入った。先方に君をついでに紹介しておきたいからついてきてくれ」

「はあ、それはいいですけど」

 俺を紹介って、どういうことだろう。

 頭に疑問符を浮かべながら、出かける準備をする。

 学ランよし。武器として持ち歩いているネックレスも首にかけた。日焼け止めも簡単に塗っておく。

 ……この身体になってから、日を浴びて灰になることはないけれど、少し日焼けしやすくなった。吸血鬼の身体というものは、その強大な力とひきかえに案外不便である。

「準備はできたか? それでは、行こう」

店長は巫女服のまま、俺と鈴と共に社務所を出た。


〈続く〉

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