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第6話:アヤカシ堂の聖なる魔女

「オラァ!」

 虎吉が最後の壁を破壊した。穴をくぐり抜けると、ひときわ広い場所に出た。

「つ、疲れた……これもう普通に迷路をたどったほうが良かったのでは」

「それはそれで疲れるだろう。壁を一直線にぶち抜いたほうが時間短縮にもなる」

「あんたは御札で間接的に攻撃するだけだから楽ですよね……」

 涼しい顔をした百合を、虎吉は恨みがましく睨んだ。

「まあそんなことはどうでもいい。観念しろ牛!」

 百合はびしっと牛人間に指を突きつけた。

 ミノタウロスは身体を丸めて息も荒く威嚇した。

「ブルル……お前ら、アヤカシ堂だな?」

「あ、言葉を喋れるんだ」

 虎吉は少し感心したようだった。

「外国の妖怪にもアヤカシ堂が認知されてるとは、鼻が高いな」

 ふふん、と百合は満足そうに言った。

「アヤカシ堂の『黒猫』と戦いに来たんだ、当然だ」

 怪物は眉間にシワを寄せ、低くうなった。

「そういうお前はもしや『アヤカシ堂の聖なる魔女』だな。だがお前に用はない。黒猫はどこだ」

「黒猫様はいない、いても会わせない。なぜならお前はここで退治されるからだ」

「店長……それだと俺らが悪役みたいです……」

「ねえ虎吉、黒猫って?」

 香澄は虎吉の服の袖を引っ張った。

「アヤカシ堂の創設者だよ。黒猫っていうのはあだ名だが、本名は俺も知らない」

「ふーん」

「ふざけやがって、お前ら女子供に俺が負けるかァ!」

 ミノタウロスは忌々しげに怒鳴った。

「その女子供に攻撃されてここに逃げ込んだくせに」

「うるせえ!」

 百合が馬鹿にすると、牛人間は逆上して腕を振り上げた。

「ふん、単純馬鹿め」

 百合は御札を一枚空中に放り投げた。すると、御札の周囲に結界が発生し、ミノタウロスの豪腕を弾き返した。そこへ虎吉が素早く飛びかかり、棍棒で横っ面を叩きのめす。ミノタウロスは脳震盪を起こしたのか、床を震わせて倒れた。

「やった! すごいすごい!」

 香澄はすっかり興奮して、気絶した怪物に駆け寄り夢中でシャッターを切った。

「おい、何やってんだ。俺たちから離れるなって言ったろ」

 虎吉が呆れ顔で言う。

「平気平気。あんたたちも写して、町のヒーローにしてやるわよ」

 香澄は全く反省していない。

「いや、だから写真撮るなって――」

 言いかけたところで、虎吉は目を見開いた。

 香澄の背後で、ミノタウロスがむくりと起き上がっていたのだ。

「舐めやがってェ……! この小娘から叩き潰してやる!」

「香澄! あぶねえ!」

 ミノタウロスが巨大な腕を振り上げる。香澄は立ちすくんでその場から動けず、びくりと縮こまった。虎吉は香澄の前に立ちはだかり、両腕をクロスさせて怪物の一撃を受け止めた。

 重機を破壊する衝撃、普通の人間ならば両腕とも骨が粉砕され、その命も無事ではすまない威力である。

 香澄は恐る恐る顔を上げた。

 目の前に誰かが立っている。それが虎吉だと一瞬判別できなかったのは、先程まで短かった彼の髪が腰まで伸びていたせいである。肌も褐色になり、瞳は真紅に妖しい光を放っている。ミノタウロスの攻撃を受けてなお、彼は全くダメージを受けていないようだった。

「……お前、何者だ?」

 ミノタウロスが値踏みをするように虎吉を睨みつけた。

「アヤカシ堂の店員さ」

「お前、ただの人間ではないな? 妖怪の匂いがする」

 香澄は息を飲んだ。

「ああ、俺は半分吸血鬼――半妖だよ」

「半妖……?」

 幼馴染が人間ではなかった。

 香澄は状況についていけず呆然とした。


〈続く〉

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