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アヤカシ堂の聖なる魔女  作者: 永久保セツナ


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第56話:ウルフェンのアジトへ

 今でも当時のことを思い出すと身震いがする、と店長は言っていた。

 店長と黒猫さんが一緒にアヤカシ堂を切り盛りしていた頃、店長はウルフェンに攫われたことがあったらしい。

 当時のウルフェンはまだ人間だった。だが、頭がイカれていた――いわゆるマッドサイエンティストってやつだ。

 店長を麻酔無しで解剖してみたり、変な薬を投与してみたり――要は人体実験をされたのである。

「素晴らしい! 臓器を切除しても次の臓器が再生する! 素晴らしいですよ天馬さん! これで臓器売買を防ぎ臓器提供を待っている人たちを救える! あなたはまさに衆生を救う女神だ!」

 ウルフェン=リル=アルビノーはそう言って子供のようにきゃっきゃと笑うのである。

 毎日のように繰り返される苦痛と恐怖。あの店長が青ざめ怯えるほどなのだから想像に尽くしがたい。

 しかしその恐怖の日々は終わりを迎えた。黒猫さんが助けに来てくれたのだ。

 研究員は全員怪異対策課に逮捕され、共同研究者だったピクシーは幽子とクラウドを連れて逃亡した。

 店長をひどい目に遭わせたウルフェンは、黒猫さんの怒りを買い――妖怪化する呪いの魔弾でアヤカシとなった。

「もうお前は表の世界を歩けない。そんなに不老不死になりたいなら永遠に闇の世界をさまようがいい」

 黒猫さんは冷たい声でそう宣告したという。

 その後、当時のウルフェンの研究所は破壊されたというが――ウルフェンはアヤカシとなってもなお、ラボを変えて不老不死の研究を続けていた。

 そして、黒猫さんの話ではウルフェンの新しいラボの場所を突き止めるため、アヤカシ堂を出て旅をしていた、ということだったが――。

「返り討ちにされてアンデッドに改造されてしまったんだろうな」

 店長は幽霊列車の座席に座り、淡々と話した。意識的に感情を殺しているように見えた。

「それってつまり、黒猫さんより強くてヤバい奴ってことっすか、ウルフェン……」

「さてな……私を拘束して拷問に近い人体実験をしていた人間だった頃から相当ヤバい奴だったが、妖怪化してどれほどの力を得たのか……」

 俺は、対峙したウルフェンの姿を思い出す。

 狼の生首だけが浮いて、身体のないマント姿。そばに浮かぶエネルギー体の両手。得体が知れない。

「まあ、まずは黒猫様をなんとかしなくてはいけないな。あんなむごい姿にされてしまっては、もう人間には戻せない。せめて私の手で葬る」

 感情のない声。無表情。その裏に悲しみが隠れているのは俺にだってわかる。

 やがて列車は宝船駅に到着し、深夜の駅を出ると斬鬼たちが出迎えてくれた。

「よっ、無事に天馬を連れてこれたみたいだな」

「斬鬼、そっちはどうだ?」

「とりあえず知り合いは全員集めてきたぜ」

 綿麻さんに美濃さん、ピクシー、クラウド、幽子。竜宮海人と乙姫。チェシャ猫、増田穂村、鬼怒川夜鷹。イービルにルナール。メア率いる猫又族の精鋭までいた。

「メア、来てくれたのか」

「ふん、アンタのためなんだから泣いて感謝しなさいよね」

 ツンデレなのか何なのか。

「海人も、来てくれてありがとな」

「アヤカシ堂の一大事って聞いてさ。力になれるか分からないけど、協力はするよ」

「百合ちゃん、大丈夫か? すっかり顔色が悪いやないの」

「大丈夫……大丈夫だ」

 心配する幽子さんに、店長は力なく笑う。

「いや大丈夫なわけないやろ。これから恋人殺すっちゅう女が」

「恋人!?」

 クラウドとイービルがまっさきに反応した。

「こ、恋人じゃない、パートナーだ……」

 店長は否定するが、顔を赤らめているので惚れているのは明白であった。

「じゃあさっさとその黒猫とかいうやつブッ殺して、僕が店長さんの恋人にならなきゃね」

「お前ホント最低だな」

 好意を寄せていた相手をこれから殺さなければいけないというときに、イービルの発言は不用意過ぎる。妖怪に倫理観というものはないのか。

「なぜ俺まで駆り出されなければならないんだ。多分力不足だぞ俺は」

「怪異対策課も一応は動いておかないとマズイでしょう。どう考えても犯罪絡みなんですから」

 深夜ということで寝不足なのか、大きなあくびをする増田さんを咎めるように鬼怒川さんが説得する。

「チェシャ猫もいるということは、もうウルフェンのラボのありかもわかっているんだな?」

「もちろんだとも。対価はウルフェンを殺すこと、としようか。――奴は、子供も犠牲にしている」

「――!」

「僕は子供が好きなんだ。だから、奴の考えていることは分からないが絶対に許せない。必ず奴を殺処分しよう」

 チェシャ猫は珍しく怒っているようだった。

「では、ウルフェンのラボまで案内してくれ」

「ああ、行こう」

 そうして一行は、大人数で町を移動する。まるで百鬼夜行のようだ、と俺は思った。頭首は女神様だけど。

「番場くん、君に渡したいものがある」

 移動中、ピクシー博士が俺に話しかけた。

 渡されたのは、液体の入った小瓶。魔法薬のようだった。

「これは?」

「君の身体の吸血鬼成分を中和する薬。つまり、人間に戻れる薬だ」

「完成してたんですね!?」

 俺は驚きと歓喜の声を上げる。

「これだけは必ず持ち出さなくては、と思ってね。必死だったよ」

「……? どういう意味ですか?」

 なにか嫌な予感を感じながら、俺は訊ねる。

「僕らの棲んでいた稲荷神社が、何者かに焼かれた」

「!?」

「おそらくは逃亡した僕への、ウルフェンの報復だ。地下にあった研究所も焼けてしまった。持ち出せたのは、その薬だけだ」

「博士……俺のために他の研究を捨ててまで……」

 胸が締め付けられる思いだった。

「それだけ百合には恩があるってことさ。幽子とも仲良くしてくれているし……無人の稲荷神社を紹介してくれたのも彼女だった。番場くん、この戦いが終わったら、その薬をぜひ使ってくれ」

「……はい!」

 俺は薬を胸ポケットにしまう。

 チェシャ猫に連れられてたどり着いた場所は、宝船市の真ん中を通る大きな動脈となる道路、そこに鎮座する大きな神社だった。

「まさか、奴も神社を根城に!?」

 店長は驚愕した表情で言葉を詰まらせる。

「正確には神社の中に棲んでいるわけじゃなく、深夜の一定時間だけ神社の鳥居に異界ゲートを開いてそこから出入りしている。こんなにすぐ近くにあるのに、黒猫がなかなか気づかないわけだ」

 黒猫さんの何十年にも渡るウルフェンを探す旅は徒労だったというのか。いや、最終的には根城を見つけたから徒労ではなかったのか。

 しかし、ラボにたどり着いた黒猫さんは、結局ウルフェンに敗北した――。

「……行こう」

 店長は鳥居をくぐろうと歩を進める。俺たちも付き従うように歩調を合わせた。


〈続く〉

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